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救済の狼煙 5

昨日は更新を休んでしまいすいませんでした。一時間くらいの仮眠のつもりが、目が覚めたときには朝でした。日々の疲れは恐いですね~




 薫はその笑顔に全身の毛が逆立つ。

 狩人の目、血の臭い、暗い空間に乱れ切った精神。五感から得られる情報すべてが、薫の心を揺さぶり追い込む。

 薫はその少年に再度問う。唯一の情報源の彼にすがるしかなかったのだ。


「答えろ……答えてくれ、お前がやったのか? ここは……どこだ……」


 徐々に声に力強さが無くなる。ただひたすら笑っている彼に不安感が募る。

 そして、目の前に居る白髪の少年は、上がった口角を元に戻し、口を開いた。


「弱い……まだ早い……」


 悪夢のような世界で、初めて聞いた自分以外の声。嬉しいはずなのに全然相応の表情ができない。

 

「まだ早いって……何のことだ?」

 

「まだ浅い……まだ若い……まだ足りない……」


 薫の質問に、その少年は意味不明な返答をする。

 ただでさえ不安定な心の薫は、順序というものが頭になかった。


「答えろ! 一体ここはどこだ!」


 胸倉を掴み、薫は自分のもとに引き寄せる。薫はわかってないだろう。その血走った眼は普段の薫の表情とはかけ離れていた。

 少年は服を鷲掴みする薫の腕を掴み力を込めた。薫は腕からくる重圧に思わず手を放して後ろに下がる。薫の腕には、くっきりと赤い手の跡が残っていた。


「ここは……未来の世界だ」


「未来の……世界?」


 突然のしっかりとした返答。薫はそのまま返すしか出来なかった。

 そんな薫に少年は続ける。


「その言い方は変か……言い換えよう。ここはこれから体験するであろう疑似世界だ」


「これが、疑似の世界?」


 薫は、腕についた手の跡に触れる。しっとりとした感覚。これが現実でないことにホッとするが、外部からの情報が、少年の言葉自体が嘘のように薫に呼びかける。

 薫は、高ぶった感情を少しづつだが押さえていく。


「お前は誰だ?」


「言っただろう……ここはこれから体験する世界だと……」


「つまり、お前がみんなを……あんな目にあわすんだな」


 薫は、背中の剣を抜く。怒り、恨み、悲しみなどが薫に剣を抜かせた。

 その剣をまっすぐ少年に向け勢いよく突き刺す。少年は、血を吐くが表情は変わらず、何事もないかのように話し始めた。


「無駄だ……この世界は現実じゃない……今俺を刺したところで、運命は変えられない」


 薫は諦めるかの如く、剣を手放す。力が抜け落ちていくように、柄から指が離れていく。


「これは試練だ……お前に出来るのか? この未来を受け止める覚悟を……仲間の死を受け入れる勇気を……」


 少年は、自分に刺さった剣を掴み、ゆっくりと抜きながら薫に問う。

 薫は一呼吸つく。その一呼吸の間に薫は状況を整理する。まだ心臓の音は大きい。茅原たちの死体が瞼の裏で鮮明に再生される。

 

「僕は……この未来を否定する!」


 力強い返答。覚悟が見られる鋭くも優しい眼光。握りしめられた拳は、勇気をその身で表現しているようだ。ただ、その覚悟と勇気は少年が問うたものではない。


「仲間を……みんなを守る覚悟を決めた。それを成し遂げるための勇気も、この試練を以て手に入れる」


 少年はその返答に笑みを浮かべながら返す。その笑みは先ほどまでの狂気的なものではなく、楽しむような純粋な笑い。


「……おもしろい」


 暗かった空間が、悪夢のような世界が途端に変わった。

 この世の終わりかのような真っ暗な空は、澄み切った青空に変わり、冷気のように霧が蔓延していた地面は、風を視覚から感じることができる草原に、そして――


「待ってたよ」


 先ほどまで、白髪の少年が立っていたところには、純白のワンピースを着た少女がいた。そのワンピースと同じように真っ白なティーテーブル。二つの椅子の片方にその少女は座っている。見た目は薫よりも幼い。12歳ほどだろうか。


「君は一体……ここは……僕はさっきまで」


 突然の変化に薫は戸惑う。しかし、そこにあったのは確かな安心だった。


「アテネはアテネだよ。そんなところに立ってないで座りなよ」


 少女はその小さな手で手招きする。

 薫は、そのジェスチャーに従って椅子に腰を掛ける。少女は届かない足を振り、テーブルに肘をついて手に顎を乗せている。純粋無垢な笑顔は、薫の緊張をほぐす。


「で、ここはどこなのかな?」


「ここ? ここは……上?」


「なんで疑問形? まぁいいや、君……アテネちゃんだっけ? これから僕はどうすればいいのかな?」


 薫は状況が分からない以上、質問しか出来なかった。試練はどうなったのかも気になる。


「君はアテネと話すといいよ」


「話す? 何を? 試練はどうなったの?」


「君はアテネに招待されたんだよ。あれ? 聞いてない? ゴリラみたいなおっさんが認めた人じゃないの?」


(ゴリラって……まさかウルドさん!?)


「ウルドさんになら認められたんだけど……」


「そうそう」


 アテネは、顔を縦に振りながら薫を指さした。

 

「君はアテネの興味を引いたのよ。これがここへの招待券。そして、試練は合格ってこと。昔、君と同じ答えを出したゴリラもいるの。運命を変えるのは大変だけど、それに逆らう姿は見てて面白いの」


 少女は笑顔で言う。白髪少年の最後の笑顔は、彼女がしていたのかもしれないと薫は思った。

 

「で、ここからは取引なの」


「取引?」


「君は運命に抗うため、何を差し出すの?」


「それって、契約術なのかな?」


「知ってるなら話は早いの。で、そうするの?」


 薫はゆっくりと立ち上がる。少女は高さの変わる薫の顔を見つめる。


「僕は何も売ることは出来ない。運命を変えるのは前提条件だ。僕は眷属として、この世界を救う必要がある。僕の中にある大きなものは、仲間と守るため、世界を救うためどれも手放すわけにはいかない」


「君……欲張りなの。でも、それもいいかもね」


 少女も椅子から腰を上げ、机を迂回しながら薫に近づく。


「本当に必要になったら心からアテネを呼ぶといいの。その時はまた会ってあげる」


 アテネは薫の右手の甲に模様のようなものを指でなぞり、笑顔を向けた。

 薫は手のこそばゆい感覚と、少女の純粋な笑顔に包まれながら、意識が遠のくのを感じた。




 ********************




「……るくん……大丈夫かい!? カオル君!」


 薄い意識の中で、薫は必死な呼びかけを感じ取った。

 そして、瞼を震わせながらゆっくりと目を開くと、そこは元の世界、地下室の中だった。


「戻って……きたのか」


「試練はどうなった?」


 薫の意識が完全に戻った時、ウルドが薫の肩を掴みながら聞く。呼びかけていたのがウルドだと認識した薫は何があったのかを話した。


「そうか……試練は突破できたんだな」


「突破した……んですかね?」


「あぁ、その紋章が証だ」


 ウルドは薫の右手を指さした。薫はその指先に視線を向けると、確かに自分の右手の甲には模様がある。青の模様はアテネがなぞっていたものと酷似していた。


「その紋章は、力であり、アテネへの招待券でもある」


「これが……そういえば、ウルドさんも試練を突破したんですか?」


 ウルドは自分の右手を見て答える。ウルドの右手にも薫と同じ紋章があった。


「一度は突破し、そのまま……」


「そのまま?」


「私の試練は失った家族の記憶だった。私はそれを受け入れたものの、契約術を必要とはしなかった。そんな私に興味が薄れたのだろうか、今では彼女へ会すべきか判断する試験官ということで、彼女と契約した」


「どうしてそこまで……」


「神と会ったものは、契約をしなければ、口封じのために命を支払わされる。会うことへの代金として」 

 

 ウルドは曇った表情で薫に話す。


「その印は、アテネが貸し付けた呪縛だ。それがある限り、君は彼女に心臓を握られているようなものだ。解除するには契約しなければならない」


 試練は招待券を得るための抽選、その抽選に参加するにも代金がいる。それが命か大切な何かと薫は認識した。


「なら、彼女を退屈させないように、精一杯抗ってみますよ。運命って奴に」


 薫の表情は、試練を受ける前よりもはっきりした目標ができたことをウルドの目に分かる程、変わっていた。 




 ********************




 薫が戻った時、全員が心配そうにこちらを見た。薫はそれに笑顔とピースサインで返す。


「やりました!」


 薫の返答に、その場の全員は歓喜の声を出す。その晩、紅の猫(ロートキャッツ)では、ちょっとした祝賀会が行われた。



 そして、一通り大騒ぎしたのち、ウルドを含め全員が眠りについたころ、薫は一日を思い返しながら外を散歩する。気分が軽くなり、夜の風が普段より気持ちよく感じ、月星も綺麗に見えた。

 薫がギルドに戻った時、熟睡しているメンバーの中で起きている少女が一人。


「薫……今日は疲れたね」


 茅原は、半開きの目で言う。まだ意識は薄いが、その言葉は明らかに薫に向けていた。


「茅原……絶対に守るから。姫も、みんなも、茅原も」


「がんば……ってね……」


 薫の決意が茅原に届いたかはわからない。けれど、再び眠りについた茅原の表情はどこかしら嬉しそうだった。


「絶対に守る」


 薫はいびきと吐息がわずかに聞こえる静かな夜のギルドで一人、自分に言い聞かせるように覚悟の意思を述べて、拳をぐっと握りしめた。



 

 復讐の復習


マリン  「ねぇ、試練ってどんなの?」

カーリー 「あんた、そんな恐ろしいこと聞く? 私初登場なんだけど」

マリン  「ねぇねぇどんなの?」

カーリー 「そんな目を輝かせても……試練っていうのは、過去に深い傷があるならそれを乗り越えること、未来が残酷ならそれを受け入れる決意が合格条件よ。両方ない人は試練そのものを受けられないわ」

マリン  「答えが分かっててなんで突破できなかったの?」

カーリー 「あんたみたいに気楽な人にはわからないでしょうね」

マリン  「ちょっとそれ酷くない!? 私だっていろいろ考えてるよ!!」

カーリー 「例えば?」

マリン  「た、例え? え~と……今日の晩御飯とか?」

カーリー 「はぁ~~~~~」

マリン  「深いため息つかないで! で、その試練を突破するとどうなるの?」

カーリー 「練度は確実に跳ね上がるわ。あと、人によっては特別な力を得られるみたい」

マリン  「何それ!? 私もやってみたい!」

カーリー 「だから、あんたは無理なの。性格的に」

マリン  「いいもん。マスターに掛け合ってみるから」

カーリー 「はいはい頑張って。(無理だろうけど……)」

マリン  「じゃ、そろそろいこっか」

カーリー 「そうね、じゃあ次回も……」

マリン カーリー 「「ミ・テ・ネ☆(ゝω・)vキャピ」」


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