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救済の狼煙 1

*この物語の主人公は優希であることを忘れないようお願いします。



 小鳥の囀りと太陽の光が、逢沢あいざわ かおるを夢の世界から現実へと連れ戻す。

 そして、体を起こし、ストレートショートの髪を荒らすように掻きながら窓の外を見る。道には人が行き交い、元気に走り回る子供たちに今日の力を得る。

 

 時は少し遡り、優希が聖域に飛ばされている間の話だ。


 薫は洗面所にて冷たい水で顔を洗い、神経を刺激して意識を完全に覚醒させる。そして、速やかに着替えを始める。白シャツに青い薄ジャケット、黒ズボンにきれいなブーツ。背中には鍛え抜かれた剣を纏う。そして、今日の自分に気合いを入れるように頬を叩き、ドアの取っ手に指をかける。しかし、薫がその指を下に下げる前に、取っ手の方がひとりでに動く。薫はその一瞬に驚きを覚えながら徐々に開かれるドアの先を覗くように顔を前に出すと、


「……おはよう」


「な、は、きゃあ!?」


「なんで!?」


 薫の反対側、通路からドアを開けたのは、上垣うえがき 茅原ちはら。元の世界では薫の隣に住んでいるストレートセミロングの幼馴染だ。茅原も薫と同じように中を覗こうとしたため、自然と顔を近づけてしまい、体温が急激に上がったかのように顔を赤らめると、薫に理不尽なビンタを叩き込んだ。

 その物音と会話を、下の広間で朝食を取りながら聞いていた追村おいむら 和樹かずき田村たむら ひまり、椎名しいな あおいは何事もなかったかのように聞き流す。彼らには日常の一部ということだ。 



 一段一段味わうようにゆっくりと降りてくる薫を、下で食事していた三人は見る。顔に残った紅葉マークを押さえる薫と、罪悪感と恥ずかしさで表情に困る茅原に、三人は純粋な笑いを二人に与えた。

 このパーティでは、これはルーティーンのようだ。


 この世界に召喚されてから3カ月。薫は着実に練度を上げていった。彼らはギルドに入っていないが、ダンジョンや護衛依頼の達成内容にいろいろなギルドから声をかけられてはいる。しかし、それは薫だけだ。薫は仲間を選び、いまだギルドには入っていない。

 モンスターとの戦いで、薫の練度は200にもなっていた。これは異常な成長速度だ。他のメンバーも50は超えているが、薫だけは完全に異質。才能というものが適応されない練度上げにおいて、彼は帝国中に名が知れ渡った。これが、彼だけ誘いが来る理由。


 今日も、いつものようにダンジョンに足を踏み入れる。

 今までは剣士である薫が戦闘の中心だったが、他メンバーの練度上げのため、最近は戦いが謙虚になっている。

 


「おつかれ~」


「お疲れさ~ん」


「おつかれさまでした」


「今日も疲れた」


「……そうだね」


 一通り戦闘を終え、薫たちは料理屋にて、慰労会および反省会をしていた。

 店に入るとき、薫の容姿に他の女性客が反応を示し、茅原の機嫌が少し悪い。


 このパーティは職業で言えばバランスが取れている。

 薫の親友であり、部活でも有名なコンビである追村おいむら 和樹かずきは槍兵だ。スポーツ刈り、活発な性格、勉強は苦手だが、運動においては薫より上を言っているほどだ。身長の伸びに悩んでいる。

 田村たむら ひまりは弓兵だ。ショートボブ、少しジト目で小柄な彼女は、どうにも周りはほっとけないみたいだ。普段は少しおっとりしているが、集中力はこのパーティ内では誰よりもある。

 椎名しいな あおいは獣使だ。艶やかな髪は腰あたりまで伸び、眼鏡をかけているが、外せば美人なんじゃとクラスでは囁かれていた。冷静沈着で周りを見る分析眼はパーティでも非常に役に立っている。少し妄想癖でリミッターが外れると、薫でも少し対応に困るほどだ。

 そして、薫の幼馴染の上垣うえがき 茅原ちはらは魔導士だ。少し人の意見に流されやすい部分もあるが、言うときは言う性格だ。感情が表に出やすく、隠しているつもりだが、薫にそれなりの思いを抱いているのはパーティメンバーに普通にバレている。それで気づかない薫も薫だが。


 このパーティは、基本的に必要な職業が集まり、そんな彼らを裏で支えている人物がいる。それは、


「遅れたすまん」


「遅いぞ海斗」


 藤枝ふじえだ 海斗かいと。クラスで最も頭が良く、少しだらしない格好だが眼鏡が良く似合う男だ。職業が易者の彼は戦闘において薫たちの役に立てることはないが、情報関連においては薫たちを支えている。情報屋のような活動をしており、その筋では生きのいい新人として有名だ。


 海斗は、薫だけに聞こえるよう小声で話す。


「薫……この場で言うのもなんだが、ちょっといいか」


「それ、今言う必要あるのか?」


「実は、とある方が君を紹介してほしいと言われてな」


「とある方?」


 海斗は眼鏡を光らせる。その姿に少しだが緊張感が漂っていた。

 薫は思わず、ごくりと生唾を飲む。


「名前くらいは聞いたことはあるだろう。シルヴェール帝国の近衛騎士団、騎士王ウィリアム・アスラーン……」


「帝国の英雄がなんで僕が?」


「言っておくが、お前、結構有名だぞ」


「マジで?」


「マジだ」


 薫の自分に対する意識の薄さは、少し不安になるほどだ。




 ********************




 翌日、薫はいつもより早く起き、みんなにバレないように宿を出る。

 まだ、風が冷たい朝に、薫は海斗とともに帝国の中心、帝都の中にある立派な城に向かった。

 薫たちが滞在している宿は、帝都から割と近いので、馬車で40分といったところだ。海斗が手配した、割と豪華な馬車に薫は乗る。中の椅子は見た目を裏切らないほど柔らかく、朝が弱い薫は、その乗り心地に意識を持っていかれそうになる。なので、40分かかる道が、薫には数分に感じた。


「近くで見るとほんとに大きい……」


 薫はその立派な城を見上げる。歴史を感じる見た目と、帝国の力を表すかのように大きく聳え立つ城。白の門までの一流の庭師が施した庭園は気品というものを薫に教えた。

 薫は眠っててみていないが、ここに来るまでの帝都内も、他と違って別次元に感じるほど豪華だ。貴族や官僚といった人物しかいることのできない空間は、眷属でもよほど有名でないと、中を拝むことすらできない。 


 そして、2人が場所を降りると、そこには使用人が待っていた。初めて見るメイドというものに、薫は少しテンションが上がり、この場に茅原がいないことに海斗はホッとする。

 

「お待ちしておりました。アイザワ カオル様とフジエダ カイト様ですね。ウィリアム様専属の使用人のメリィと申します。何かありましたら気軽にお声かけください」


 そういって、スカートをふわりとさせながら踵を返して歩き出す。見た目はとても若いのに、姿勢、表情、話し方などから、実は高齢? と思わせるほどだった。

 薫と海斗は、そんなメリィについていく。廊下から見える広間では、おそらく騎士団の人たちが、木刀を手に訓練していた。そして、さらに奥に進むと、建物が変わったかのように思えた。先ほどまで木板の材料に古びた鉄の取っ手だった扉は、赤く塗装され、金色の取っ手が付けられており、少し重厚感のある扉に変わった。城の材料同様の石の廊下は、レッドカーペットが敷かれ、所々台座に花が飾られたりしており、いかにも偉い方がいそうな雰囲気を醸し出していた。

 そんな廊下を歩いていると、前を歩いていたメイド、メリィが立ち止まり振り返った。


「こちらがウィリアム様の部屋になります。お話が終わりましたらお迎えに参りますので、こちらのベルを鳴らし下さい」 


 メリィは横にある扉に体ごと向け、三回ノックする。


「ウィリアム様。アイザワ カオル様とフジエダ カイト様をお連れしました」


「通せ」


 扉越しに聞こえてきたのは意外にも若い声だ。メリィは両手でしっかりと取っ手を握り、両開きである扉を押して開ける。そして、半歩中に入ると、入り口を妨げないように端により、中に誘導するように指をそろえて手を向ける。薫と海斗は緊張しながらも中に入って行った。

 驚いたことにそこにいたのは、20前半と思われる男だった。近衛騎士団の長で騎士王と言われていたため、結構な年と思っていた薫は、扉越しに聞こえた声で違和感を感じ、中に入ってその違和感を認識した。


「やあ、待ってたよ」


 窓の外を眺め、後姿しか見えなかったウィリアムは振り返って、その姿を薫に見せる。ブロンドの髪に火翠色の瞳、鋭い目つきだが、その中に温かみを感じる優しい眼差し。広間で訓練していた騎士たちと同じ騎士服だが、彼が着るとすごみが増していた。腰には圧倒的威圧感と絶対的安心感を感じる剣を携えている。 薫は思わず海斗の方を見ると、海斗は片膝をついてお辞儀していた。薫も出遅れながら海斗と同じ体勢になる。

 

「ウィリアム様、彼が話していた逢沢 薫であります」


 畏まった海斗に、ウィリアムはすべてを許すような優しい笑顔で言う。


「頭を上げてくれ。君にお願いしたのは僕なんだから」


 ウィリアムの一言に、海斗は床についていた膝を離す。薫は海斗の真似をするしかなく、ゆっくりと立ち上がる。


「会いたかったよ。僕はウィリアム・アスラーン。シルヴェール帝国近衛騎士団団長兼皇帝陛下専属護衛をしている」


 ウィリアムと薫の間にある立派な机をさけながら近づき、握手を求めるよう手を出す。

 薫は緊張しながら差し出された手を両手で握り、


「こ、こちらこそ、お初にお目にかかります。僕……私はアイザワ カオルというものです」


 明らかに緊張しているのが分かるため、思わずウィリアムは笑ってしまう。その反応に薫も拙い笑顔で返す。

 海斗も普段見ない薫に、後ろで顔を隠して笑っていた。

 


 復讐の復習


薫   「僕がこのコーナーやるのもどうかと思うけど……」

茅原  「せっかくの出番を台無しにする気? あんたは黙って仕事してればいいの」

薫   「ブラック企業か!?」

茅原  「はい、じゃあ今日は今後出番も多くなる近衛騎士団についてよ」

薫   「近衛騎士団は帝都に本拠地があって、帝国内でも20、大陸全土を含めたら100は超える拠点があるんだよな」

茅原  「もともと、戦争での活躍がメインだったんだけど、大陸制覇を果たした今では主に治安維持と魔物討伐に力を入れてるみたい」

薫   「それで、今でも近衛騎士団か。団長のウィリアムさんも大変だな」

茅原  「そのウィリアム・アスラーンって人、噂では結構イケメンらしいんだけどどうなの?」

薫   「あぁ、かなりイケメンだった。あれは彼女とかに困らないよな。羨ましい」

茅原  「羨ましいって、あんたのこと好きな人もいるかもしれないじゃん」

薫   「誰だよそれ、彼女なしに変な期待を持たせるなよ」

茅原  (バカ……)

薫   「まぁそれはともかく、近衛騎士団とは何かと関わることは多そうだから仲良くしないとな」

茅原  「そうよね……じゃあそろそろお開きしましょうか」

薫   「何その前置きみたいな言い方?」

茅原  「なんか、このコーナーには決まった終わり方があるみたい」

薫   「決まった終わり方?」

茅原  「じゃ次回もミ・テ・ネ☆(ゝω・)vキャピ……うぅ」

薫   (恥ずかしいならやるなよ……)

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