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眷属たちの宴 7

*この主人公は優希です。本当です。


 閉ざされていた部屋の入口が開いた時、そこには傷だらけの優希が立っていた。


「ジーク……さん……っ!?」


 西願寺は、優希の姿に不安になるが、その後ろの光景に思考が吹き飛んだ。

 最後に見た部屋の中は、宝箱が一つ置いてあった、何の変哲もない部屋だったが、新たに記憶に更新されたのは、血と死体が入り混じった部屋だった。そして、倒れているブラッディオーガに紛れて、別の死体が転がっている。


「……え……ウソ……いやぁああああ!?!?!!」


 膝から崩れ落ち、視界からの情報が脳に達したとき、西願寺は泣き叫ぶ。その涙にどれほどの思いがあるのか、その悲鳴にどれだけの感情がこもっているのか、優希はわからない。


「……ごめん……俺だけじゃどうにも出来なかった……」


 呼吸をするかのように嘘をつく。涙が出ずとも悲しそうな表情を浮かべ、痛みはなくとも、痛そうに体を押さえる。今の優希は嘘の権化だ。数分間響いた悲痛の叫びは、ダンジョン内のモンスターを呼び寄せる。

 優希は囁くように一言「ごめん」とだけ言い、西願寺の首に素早い且強い手刀を繰り出す。西願寺は、魂が吸われるように、優希の肩にめがけて倒れた。


「……いくぞ」

 

 優希は西願寺を持ち上げ、モンスターを蹴り飛ばしながら走った。

 西願寺は気を失っており、優希は全力で戦う。すると、そこに立ちふさがるようにモンスターが出てきた。そのモンスターは優希が探していたモンスターだ。


(出てくるの遅ぇよ……)


 それは、優希が初めて本当の恐怖を味わった相手である。

 始まりの町で、優希を殺そうと襲い掛かってきた、カンガルー型モンスター“ファイティングカンガルー”だ。なぜこいつを探していたか? それは、優希が恐怖を知っているからだ。一番計画の流れをイメージしやすく、そして、反撃の相手でもあってちょうどよかった。

 

「グゥルルルル!!」


 ファイティングカンガルーは戦闘態勢になる。あの時、竜崎でさえも避けることすらできなかった一撃を優希に放った。しかし、優希は最小の動きでそれをかわす。あの時は、放つ瞬間と放った後しか見えなかったが、今では放つ瞬間の癖や仕草、放っているときの軌道、放った後に戻す動きまで、スローモーションのように見える。


 これが、優希が恐れていたもの。今となっては赤子の手をひねるようにあしらうことができる。

 本来なる食らうはずのない攻撃。しかし、優希はかわすのを途端にやめた。


「俺は今、気分がいい。一発だけ殴らせてやるよ。最後の一発と思ってちゃんと当てろよ」


 優希は立ち止まって自分の左頬を前に出す。すると、ファイティングカンガルーはこの言葉を理解したかのように、軽くステップを刻みながら近づき、優希の顔面、左頬に強烈なパンチを叩き込む。普通なら首が吹っ飛んでもおかしくない攻撃だが、優希はビクともしない。口から血が少し垂れているが、優希はそのまま狂気迫った表情で、


「今までのお返しだ!」


 優希が放った拳は、ファイティングカンガルーのお腹に叩き込まれる。そして、その部分が削り取られたかのように体に穴が開き、血を背中から吹き出しながら倒れた。優希の手は赤黒い血が付着し、殴った際に飛んできた血飛沫は優希の白い髪を赤に染め上げた。もうどちらがモンスターか分からない。優希は、再び西願寺を担ぐと、そのまま何もなかったかのように歩き出した。

 メアリーはその光景を見て、満ち満ちた笑みで後ろをついていく。



 そして、優希たちがダンジョンを出たとき、あたりは真っ暗だった。




 ********************




 優希たちは宿舎に戻った。古家たちが過ごしていた宿舎だ。その部屋、西願寺が借りていた部屋に西願寺を運び、ベッドに寝かせる。西願寺はいまだに眠っているままだ。その方が良い。優希もメアリーと落ち着いて話したいからだ。彼女が目を覚ました時、収まっていた悲痛の叫びが、また朝まで続くだろう。そうなればおちおち話もしていられない。

 優希は、二階にある西願寺の部屋から出て、宿舎の一階ロビーにあるカフェで、メアリーと話していた。


「お前、はめやがったな……」


「何のことだ?」


「あの部屋……お前、罠はないって言ってたけど、気付いてたんだろ。だから、自分は入らなかった」


 優希が、目の端でメアリーを見たとき、その表情は何かを試しているようだった。そして、足取りは部屋の前で止まっていた。その時に察したのだ。彼女は嘘をついていると。


「しかし、なんであの娘は助けたんだ?」


 優希がそれに気づいた時、真っ先に西願寺を部屋からだし、自分は残った。優希が残った理由は、メアリーが嘘をつき、優希が足を踏み入れたとき、止めなかったことで、その場に出てくる敵は優希よりは弱いと判断できた。なら、優希は残る必要があった。古家たちが死ぬ前に正体を明かす必要があり、そのためには優希が中に残るほかに手段はない。それは、メアリーにもわかっている。その後、自ら体に傷をつけ、いかにも自分を守るだけで精一杯という風に見せるのも。だが、メアリーが気になっているのはそこではない。西願寺を助けたことだ。その行動に、メアリーは腑に落ちていない。


「それは……西願寺は一度だけ、助けてくれようとしたことがあるからだ」


「ほぅ、つまり、彼女は標的ではないんだな」


「前にも言ったろ? 微妙だなって。結局裏でいろいろされたのか、それ以上は関わらなかったし、結果的に虐めに拍車がかかっただけだ。だから、助けたのも最初で最後。それに……」


「それに?」


「彼女は家事全般できる。生かしておいて損はないだろ」


「利用できる奴は利用するってことだな」


「あぁ」


 メアリーは確かめたかったのだろう。優希に復讐を行う気があるのか。今回の件でそれは証明された。優希があの部屋から出てきた時、メアリーの満足そうな顔がその証だ。


 優希とメアリーがそんな話をしていると、二階、西願寺の部屋の方から叫び声が聞こえだした。周りの人も反応し、変な空気が流れ始めた頃、優希たちもその場から、西願寺の元に向かった。



 部屋の前に来た優希は、すぐにドアを開けることはなく、一呼吸ついて表情を作る。そして、優希の指がドアノブに引っかかり、下に下げられたとき、わずかに悲鳴が落ち着いた。優希が中に入って視認した彼女の表情は、涙が滝のように溢れ、目は赤くなり、顔はしわくちゃになっていた。一瞬叫びが収まった時、彼女は何を考えたのだろうか。まさか、古家たちが戻ってくるとでも思ったのだろうか。

 それはない。古家たちは優希の目の前で、何もできず、何もすがりつけず、無残で無慈悲に死んでいった。その死体はもうないだろう。去り際に入り口が閉まっていくのが見えたからだ。あの部屋自体もう存在しているか分からない。つまり、古家たちは遺体すら回収されることはなく、記憶の産物となったのだ。


「君を連れて出るのが精一杯だった……彼女たちはもう……」 


 暗い表情、作った顔。優希から発せられるのは、聞いたいるだけでは励ましている風に聞こえる嘘の数々。メアリーは、思わず笑ってしまいそうになるが、それは絶対に表情に出さない。


 その後も、西願寺は泣いた。泣き続けた。声がかれるまで、止まらない涙が枯れるまで、気付けば朝になっていた。優希はそんな彼女のそばにいた。優希の服は西願寺の涙で濡れている。そして、憔悴しきった西願寺は優希の膝の上で眠ってしまった。嗚咽し、悲嘆で悲痛な叫びは優希の心に何をもたらしたのか。否、何ももたらさなかった。優希にとっては、その声は、通りすがりに聞こえてくる会話同様、周りの音の一部でしかなかった。そして、優希は西願寺を再びベッドに寝かされると、優希はそっと部屋から出た。そこには、空気を読んだのかメアリーが外に出ていた。


「つらいか?」


 優希の表情は、暗くなっていたからか、メアリーが聞く。そして、優希が下向いていた顔を上げると、


「つらいな……ウソをつき続けるのも」


 優希はもしかしたら、感情のほとんどが死んでしまったかもしれない。彼女と契約したときに、憐憫、悲愁といった感情が優希から感じなくなっていた。

 上げた顔には、つらさ、悲しみなどみじんも感じない、興味がそがれたかのように無表情だった。

  



 ――そして、次の日


 優希が目を覚ますと、そこにはいつもの朝だ。そう、朝も泣き叫んでいると思っていたがために、普通の朝が逆に違和感を感じさせる。優希は西願寺の様子を確かめようと、部屋を覗いてみた。扉を開け、あちらもこちらに気付いたのか振り返る。いたって普通の流れだ……彼女が着替え中でなければ。


「きゃぁあああ!?」



「……どうしたんだ?」


 優希の頬に、赤い紅葉型の跡ができており、メアリーは状況を察しながらも聞いてくる。

 そして、何故か西願寺は申し訳なさそうに、


「ごめんなさい。ジークさんの怪我もまだ癒えてないのに」


 優希は、体に包帯を巻いている。もう傷は治っているが、さすがに一晩で傷が完治するのはおかしいので、怪しまれないためにも包帯を巻いていた。

 優希は、そんなことよりも不思議に思っていることがある。まだ赤い目に涙の後はしっかり残っている西願寺が、一晩で立ち直ったのだ。仲間の死という壁を超えた。これは、西願寺の強さかはわからない。しかし、そう仕向けたのはメアリーだった。メアリーの弁解ではあれは予想外だったとしていたが、それでも罪悪感というものがあったのかもしれない。


「メアリーが言ってました。神の落とし物(ディバインドロップ)には、死んだ人をよみがえらせるものがあると……なら、いつまでも下向いてはいられません! 早くみんなを助けないと」


 嘘か誠か知らないが、そんな物どのみちろくなものではないだろう。しかし、彼女はすがるしかなかった。これはあくまでもきっかけだ。だから、優希もあえて嘘かどうかはメアリーに聞かなかった。

 西願寺の目は覚悟と強い意志が宿っていた。

 西願寺はその日、ギルドを脱退し、優希たちについていくことにした。もちろん、優希たちは拒まない。最初からそのつもりだったから。


 出立の準備を終え、優希たちはロビーで地図を話し合っていた。


「で、次はどこに向かう?」


「そうだな……まずはここ、水の都、アクアリウム」


「馬車で6時間って言ったところですね」


「今からなら、休憩込みで夕方には着く。ならちょうどいいだろ。西願寺、馬車の手配しといてもらえるか?」


「皐月……」


「ん?」


「これから一緒行動するんです。西願寺ではなく皐月と読んでください」


 顔を赤らめながら言う。優希も彼女の意見を尊重することにした。


「わかった。皐月、馬車の手配を頼む」


「はい!」


 嬉しそうに駆け出した彼女を、優希は後姿を見る。彼女は思ってもいないだろう。優希が古家たちを殺したようなものだと――

  


 復讐の復習


皐月  「初めてですね、ジークさんとこのコーナーするの」

優希  「そうだな。今日は神の落とし物(ディバインドロップ)だ。今のところ登場してるのは一つ。えっと、あいつら……」

皐月  「シンとセンですね。あの人たちが持っていた二本の短剣、お互いがお互いのコントローラーになってて、自由自在に操れる武器」

優希  「あぁ、神の落とし物(ディバインドロップ)は、扱えれば眷属以外でも戦うことができるが、武器に選ばれなければ力は発揮しないらしい」

皐月  「その辺、メアリーは使いこなしていてすごいですよね」

優希  (まぁ、あいつは一応元女神だから……)

皐月  「そういえば、あの短剣の名前はなんて言うんですか?」

優希  「わからない。俺の鑑定職の練度ではさすがにあのレベルの武器鑑定はちょっと……」

皐月  「あぁ、ジークさんの練度って眷属見習いレベルですからね」

優希  (こいつ、たまに毒吐くよな)

皐月  「私も、手に入れれば戦闘の役に立つのかな」

優希  「皐月の場合、魔導士だから戦闘よりサポートしてくれた方がありがたいんでが……」

皐月  「そうですか! なら、一生懸命ご奉仕させてもらいますね!」

優希  (ご奉仕とは違う気がするけど……ま、いっか)

皐月  「では、今日はこの辺で次回もミ・テ・ネ☆(ゝω・)vキャピ」

優希  (あ、皐月もするんだ……)

優希  「ちなみに、俺たちちょっとの間出番ないよ」

皐月  「そんな!?」


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