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異世界でドラゴン専属の料理人やってます  作者: 雨後の筍
勇者にはなれなかったけど、ドラゴンとは契約できました
9/39

採集クエストにドラゴンはつきもの−2

こんばんわ。

今回から毎日投稿でいかせていただこうと思います!

よろしくお願いします!

 実際は鍋すら手元にないのだから、一時間ではなにもできないのだけど。



「なにをしているんだ? それが、美味しい肉の食べ方に関係あるのか?」



 ドラゴンさんは僕の手元に興味津々だ。


 口周りがいつまでも赤いのは物騒だから、川で洗って来てほしい。

 ついでに、その川に僕も連れて行ってほしいという願いを、ドラゴンさんは容易く受け入れた。


 ご丁寧にも僕の(えり)を噛んで、宙ぶらりんにして連れて行かれたのは勘弁してほしかったけど。

 せっかく血を洗いに行くのに、どうして僕はこんな血塗られた服を着なければいけないのだろう。


 不幸だ。


 辿り着いた水場で、ひとまずドラゴンさんに顔を洗ってもらった後、僕は鍋作りを始めた。


 幸いなことに、僕には〈狩人〉という素晴らしいスキルがあった。


 これは、意識してスキルを知ろうとして初めてわかったことなのだが、〈狩人〉は僕が想定していた以上に、汎用性が高いスキルだった。

 汎用性が高いというレベルではない。これひとつあれば、生きていくのに苦労しないスキルと言ってもいい。


 王様から餞別(せんべつ)にもらった短剣を、まるで熟練者のように扱うことができた。

 おかげで、木工は初挑戦なのだが、木製の手斧を容易く作ることができた。〈狩人〉として、器用度に補正がかかっていたりしたのだろうか。


 そして、木斧を組み上げたと同時に、謎の効果音が頭のなかに鳴り響く。

 薄々察しつつもステータスを開けば、そこにはデカデカとレベルアップの文字。


レベルアップ!


高橋三郎/サーブ=ハイブリッジ

種族:異世界人   性別:男   年齢:16

位階:F   レベル:1→2


ステータス

体力:16→19

魔力:10→38


攻撃力:5→6

守備力:6→7

持久力:18→49

敏捷性:37→53

器用度:21→66

知性:28→71

魔力親和性:193→402

運勢:4→7

APP:11

CUL:1


〈スキル〉:〈狩人〉(複合スキル、〈鷹の目〉、〈梟の耳〉、〈気配〉、〈山菜名人〉、〈木工〉、〈短剣術〉、〈重刃術〉)、〈一匹狼〉、〈創作者LV1〉


【能力】:【迷える子羊】、【異界適応】、【女難】、【女神の寵愛】



 クラフト技能持ちが生産したら、レベルアップはお約束だよね

 ステータスが軒並み上昇し、新たなスキルも獲得できた。

 たった、少しばかりのスキル頼りの工作で、これだ。


 なんて楽ちんなのだろうか。この世界では、相手だけでなく自分も理不尽スペック持ちということだろうか。


 ま、さすがは選ばれし勇者のお供? それに見合うだけの能力はあってくれてよかったよ。


 なんか1つだけ不安を煽ってくる伸び方をしたステータスもあるけど、伸びて悪いことはないでしょう。

 そう信じたい。


 新たに増えた能力については、ノーコメントで。

 なに? 女神様は僕をおちょくってあざ笑ってるの!? 僕は道化師じゃないんだよ!



「さて、次はこの木斧で本格的に木を切っていくよ。鍋を作ろうと思ったら、この木斧みたいに枝からじゃ無理だからね」


「ふむ、鍋というのは面倒なものだな。確か、魔道士や錬金術師が使うものだったと記憶しているが、肉を素材にどんなことをするのか。楽しみだ」



 ドラゴンさんは、人間がせっせと働いているのを見るのが気に入ったようだ。

 お腹が空いていたのではなかったのだろうか? いや、別に食欲がないなら無理しないでくれてかまわないんだよ。本当に。



「これから僕がするのは料理さ。魔法でも錬金術でもない。でも、それに匹敵する素晴らしい変化を約束するよ」



 ちなみに、僕が崩れた言葉を使っているのは、かしこまって話しかけたら不愉快だったらしく、(かじ)られかけたからだ。


 なんて理不尽なんだ。パワハラで訴えれば絶対に勝てると思う。


 まぁそんな一幕は置いておいて、木斧によって樹を一本切り倒そうとしている。

 僕が2人いても囲いきれないくらいに大きな樹だ。

 おかげで時間はかかるのだが、どうやら僕は斧の扱いも得意らしい。


 〈狩人〉の中には〈短剣術〉とか〈重刃術〉が入ってたから、それで習熟度がかさましされてるんだろう。


 初心者でも真芯を捉えて、カコーンと切れ込みを入れていくのは想像以上に楽しい。

 こんな簡単に武器を使えるようになるなんて、スキルってのはすごいと改めて感心した。


 この世界はなんでも僕の想定を超えていく。

 人の想像の限りを超えていく異世界。素晴らしい世界だ。


 どれくらい素晴らしいかというと。


 僕がちんたら樹を伐ってるのに飽きたのか、ただ無造作に爪を振るっただけで、樹を中程から吹き飛ばすのを見せられたりする。


 あの太さの樹を勢いもつけずに切断するとは、あの爪はどれだけ鋭いのだろうか。

 触れただけで骨まで豆腐のように斬ってしまいそうだ。

 くわばらくわばら。



「おい、いい加減腹が減ってきたぞ。料理とやらはまだか。鍋すらもできていないではないか」


「はは、もうちょっとだけ待ってもらえると助かるかな。そうだ。その間にどこかその辺で腹ごしらえしてきたらどうかな? 料理は手間がかかるから、お腹を膨らますには足りない量しか作れないと思う」


「むぅ、注文の多いやつだ。だが、人間の料理というものはこの世の至上の美食だとも聞いたことがある。特に、自分の母が作った料理をもう一度食わないことには死ねない、と駄々をこねる勇士は腐るほど見てきた」



 おや、料理については完全に無知かと思っていたけれど、風のうわさだったり、人間たちから聞くこともあったようだ。

 その勇士を腐るほど食べてきました、と自己紹介しているようなもので、恐ろしさで鳥肌が収まらなくなったけどね!



「ああ、おふくろの味ってやつだね。生きる中で一番思い出深い料理だ。そりゃ、死の間際に食べたくなるのも当然だね」



 それでも、平静を保ちきった僕を褒めてほしい。

 〈精神力〉が働いたのだろうか。なんとなく、スキルが発動しているかどうかがわかるようになってきた。


 〈狩人〉がいくつのスキルを内包しているのかはわからない。でも、多分字面通りのスキルなんだろう。

 木を切り、加工し、森のなかで生活する。刃物の扱いに長け、獲物を狩猟するための各種技術に精通する。もちろん、感覚は森の中で暮らせるように極限まで研ぎ澄まされる。


 きっと、これはそういうスキルだ。持ち主として漠然(ばくぜん)と感じ取れる。


 ドラゴンさんに出会ったことで、死の恐怖からスキルの掌握(しょうあく)が一歩進んだのかもしれない。【異界適応】の助けもあったかもね。


 どちらにせよ、僕は加速度的に強くなっていける。

 このスキルを使いこなせれば、きっと僕にできないことはほとんど無くなる。


 そう、料理ですらも、このスキルの前では大した敵ではない。



「思ったよりもっ、木をくり抜くのって大変だなっ。よっと、これで大体終わったか? あとは形を整えたら完成か」



 よっぽど、この重労働のほうが困るくらいにね。


 だって、僕が2人でも抱え込めないんだよ? そんな大きさの幹をくり抜いていくのが、どれだけの手間を要するか。

 ぶっちゃけ舐めてた。鍋職人はもっと褒められていい。


 いや、本物の鍋職人は木じゃなくて金属で作るんだろうけど。


 とりあえず、整形などは後回しで鍋に水を汲み入れる。使うのは王様から貰った革袋だ。

 中に入っていたのは驚くべきことに酒だったが、あいにくと僕は未成年なので、一口舐めただけでしっかりと口をつけることはしなかった。


 未成年飲酒、ダメ絶対。


 でも、おそらくは上等な果実酒だろうとは思った。アルコールの風味はあったけれど、子どもの僕でもあっさりと飲めてしまいそうな味わいだったのだ。


 だから、今回はそれを料理酒として使わせてもらう。

 何の肉を使うのかは全く決めていないが、酒で煮込めば肉はより柔らかくジューシーになる。


 生の肉とどちらが風味があるのかと聞かれれば未知数だが、ドラゴンさんの味覚にも通じるものを作り上げる必要があるのだから、妥協はできない。



「ねぇ、ドラゴンさん。僕の肉より、その辺にいる魔物の肉のほうが美味しいんじゃない?」


「それはどうだろうな。人間は魔法力を溜め込むし、感情もたっぷりと蓄積(ちくせき)する。肉の旨味だけではないのだ。滋味(じみ)あふれる肉とでも言おうか」



 このドラゴンさん地味に博学だよね。滋味(じみ)あふれるとか普通使わないよ。



「あら、そう。じゃあさ、とりあえず一匹だけ魔物を料理してみる。で、それを食べて、もっと料理を味わいたいと思ったら僕を食べない、とかどう? これを受けてもらえないなら、僕はもう諦めてここで食べられることにするよ」



 提案を投げかければ、グルルゥ、と息を吐き出して悩み始めるドラゴンさん。

 料理と人間の肉は、拮抗するほどにはどちらも魅力的らしい。

 ふんす、と鼻から炎をちらつかせたドラゴンさんは、どちらを選ぶか決めたようである。



「仕方あるまい。人間の肉は食べようと思えばいつでも手に入る。だが、料理はとても珍しいものだろう。なにせ、料理ができると話す人間には初めて出会った」



 えっ。この世界の冒険者ってそんなに料理音痴多いの?


 あ、もしかしたら、ドラゴンさんを討伐して名を上げようと派遣されたどっかの兵隊ばっかと会ってたから、料理できない人間が大多数だと思いこんでるのかも。

 一人で生きていかなきゃいけない冒険者や、普通の女の人たちは、程度の差こそあれども料理ができるのが当たり前だろう。


 これは使える。


 料理人という存在の希少さを刻みつけられれば、僕はこの場を切り抜けることができるだろう。

 そして、ドラゴンさんは次なる料理を求めて旅立っていく、という寸法だ。

 完璧と言わざるをえない。やはり天才じゃったか。


 さて、善は急げ。急がば回ってたら出遅れる。

 僕の有用性をアピールだ!



「そりゃ、料理ができるってだけで女の人から引っ張りだこだからね。料理ができるかどうかは、生命線ですよ生命線。希少なスキルはそうやって活かしていかないと」



 ただしイケメンに限る、なんだけどね。


 僕がどんなに料理できたって、変な目で見られるだけだろうよ。

 こっちの世界ではどうか知らないけど、前の世界ではそうだったし。



「料理を味わったら、ドラゴンさんもその凄さが実際にわかるよ。聞いてるよりも上をいくはずだからね」



 ゴクリ、と生唾を飲み込んだ音が辺りに響き渡る。こういう細かいところからもう、スケールが違うんだよな。


 口の端からよだれを垂らしたドラゴンさんの顔は緩みきっている。

 キリッとしていれば威厳もあるけれど、ここまで緩んでしまえばただの可愛いトカゲちゃんだ。

 この可愛い生き物に餌付けするのは楽しいに違いない。


 お腹減ったみたいだし、ちょっとお使いに行ってもらおうか。



「というわけだから、何かの魔物を一匹連れてきてくれると助かるな。僕が狩ってもいいけど、料理の準備に専念したほうが効率がいいからね」


「あい、わかった。さきほど食ったイノシシの親でいいだろう。あれの肉は旨かった。あれ以上の満足感を得られる料理か。気になって仕方ない。早めに作れよ」



 早口になったドラゴンさんは、僕の言うことを素直に聞き入れて猪狩りへと出かけていった。ついでに腹ごしらえもしてくるだろう。


 絶対強者だからと驕らず、きちんと音を消しながら歩いて森の木々の間を抜けていくその姿は、生粋の狩る側の存在だ。

 ドラゴンさんも、僕と同じ生まれつきの狩人なのだろう。


 料理の対価に、色々なコツを聞いてみてもいいかもしれない。ドラゴンさんはかなり寛容(かんよう)だ。細かいことに頓着(とんちゃく)しないとも言う。


 多分、料理したんだから狩りの技術を教えるのが筋だ、とか言ったら平気で受け入れてくれそう。

 うん、あとで頼んでみよう。


 とりあえずは、この水と酒しか入っていない鍋をどういう風に進化させていくか、それが問題だ。



「イノシシの肉ってことは、ワイン煮ともそこまで相性悪くないよな。なら、方向性としてはそっちに寄せよう。必要な素材は……うん、なんとなくわかる。まったく、〈狩人〉さまさまだよ」



 ギルドの素材倉庫に寄れたこと、〈山菜名人〉の効果で野草や植物に関する見識が高まっていること、この森独自の植生で、いろいろな植物が入り乱れていること。

 そして、とっさに手に入れてしまった本が非情に役立ったこと。


 これで、ほとんどの材料に支障はないだろう。


 さてそうなると、問題となるのはやはり、塩だ。

 こればかりはどうしようもない。うちの万能サバイバルスキルたる〈狩人〉くんも、沈黙しか返してくれない。


 甘みの多い果実を使って誤魔化すか? いや、塩があるかないかで甘さの引き立ちも違う。

 味付けに妥協しないならば、この無理難題をクリアしなければならない。



「むぅ、塩の代わりになりそうなものって言ったらなにがあるっけ?」



 スイカ。違うそれは塩をかける方だ。


 ん、そういえば、どこかで肉の脂を多く使えば濃い味が出せると聞いた覚えがある。

 あれは中華料理の紹介だったかな? 確かに中華の味の濃さは塩では説明できない。


 これは我ながらついているぞ。このタイミングで思い出せたのは運が良かったとしか言いようがない!


 まぁ、運勢は今日も低いままなんですが。



「とりあえず、使いそうな食材を集めよう。急がないと日も暮れ始めてって、えぇ!? もう日が落ち始めてる!? じゃあ今日は野宿ってこと!? 何の用意もなく? 隣にはドラゴンが寝るだろうに、野宿?」



 それはどんな状況だ。

 いや、今更すぎる。考えてる暇があったら行動だ。


 肉は生に近くてもいいだろうから、あまり煮込まなくていいことだけが救いか?


 ソースを作って味を刷り込んでいくのがいいだろう。ソースと一緒に食べるだけでだいぶ印象も変わるだろうし。

 そのためにも、果汁の多い、自然な甘さを持った野菜類を見つけなくては。




 今、自然との過酷な戦いが始まる……!


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