異世界エージェント組織、またの名をギルド−3
今回でギルド編終了。
ステータスなどの説明回ですので、最悪読み飛ばしてもなんとか。
次からはついに冒険に!
高橋三郎/サーブ=ハイブリッジ
種族:異世界人 性別:男 年齢:16
位階:F レベル:1
ステータス
HP:16
MP:10
攻撃力:5
守備力:6
持久力:18
敏捷性:37
器用度:21
知性:28
魔力親和性:193
運勢:4
APP:11
FA:1
スキル:〈狩人〉(複合スキル、〈鷹の目〉、〈梟の耳〉、〈気配〉、〈山菜名人〉)、〈一匹狼〉
能力:【迷える子羊】、【異界適応】、【女難】
一部のステータスが飛び抜けて高いような気がするのだが、この【異界適応】という能力と関係があるのだろうか。魔力との親和性ってなんだかよくわかんないけど。
だが、なんなの残り2つの能力。誰が迷える子羊で、女難体質だって言うんだ!
神なんて僕はもう信じないし、ちょっと掛井さんに見捨てられただけで女難とは失礼な!
能力ってのは先天的なものだってことは、僕は今までこんな体質を隠し持っていました、ってことか? もう少しまともな能力が欲しかった。
どう見てもマイナスの効果しかないでしょ、こいつら。
つらい。
そりゃ、こんなステータス見せられて、勇者です! とはどうやったってならないよね。他人の見たことないから勝手に基準決めてるけど。
でもさ、数値が200に近いステータスだってあるのに、攻撃力たったの5とかゴミでしょ。
狩人って言われても納得のステータスだよ。射手座だし。
「確認は終わったか?」
返事もせず無視する格好になってしまったが、ギルドマスターはあまり気にした様子はない。
「〈スキル〉は後から獲得していくことができる。概ね、技術を極めていく過程でスキルとして発現する。一定以上の技術を持ったと世界に認められれば、スキルが手に入るというわけだ」
なるほどな。だが、僕の〈狩人〉は召喚と同時に付与されたスキルだ。なにか特別なスキルなのだろう。複合スキルとか後ろについてるし、効果が複数あるのかもしれない。
「そして、【能力】は先天的に持っている体質を、スキルと同じように効果が発揮されるように純粋化したものだ。多いところでは【頑健】なんかがあるな。守備力が高くなりやすく、巌のように育つ能力だ」
ふむ、それは、僕の女難は今までは本来の効果を発揮しておらず、これから巻き込まれていくという解釈でよろしいでしょうか?
女難……女難ってなに? ハーレム主人公みたいなもの? 美人局とかじゃないといいなぁ。
「そして、それぞれの例外に、〈先天スキル〉と【異能】がある。サーブくん含め召喚された者たちが持っているのはこの先天スキルであり、生まれ持った技術だ。元の世界ではどうだったか知らんが、こちらの世界で生まれていれば神童扱いだっただろうな」
まじか。
そりゃ、生まれてきた時からスキル持ちならすごいよな。努力しなくても技術持ってるわけだし、それに対応した感覚だって鋭いから、他のことにも応用が効く。
実はこちらの世界のほうが、僕たちって生きやすいのでは?
「もうひとつの異能は、後天的に種族が変わったり、何らかの要因で体質が変化したと判断された時に発現することがある。詳しいことは未だ解明されていない、この世界の不思議のひとつだな。どれも強力だということだけがわかっている」
で、異能はよくわかっていない、と。
発現できれば心強いのだろうけど、条件がわからないんじゃだめだな。リスクを犯してまで手に入れるべきなのか、判断がつかない。
手に入れられたらラッキー程度に思っておこう。
「あとはステータスについても解説しておくか?」
ギルドマスターはこちらの表情を読む。いやに親切だ。この国には人格者しかいないのだろうか?
出自も不明な、大して力もなさそうな小僧にこんな手間をかけるなんて、トップの人間がこれなら、ギルドというのはとてもしっかりとした組織なのだろう。
「その顔だと、何も聞いていないのだろう。冒険者になったからには、ギルドがしっかりと責任を持つ。例え、王が使い潰すことを望んでいたとしてもな。ギルドにはギルドの掟がある」
あ、いい人どころじゃない。すごい、いい人の間違いだった。
そうか、これがギルドマスターか。
めちゃくちゃかっこいい。
メガネをくいっとあげながらそういうこと言うのやめてほしい。うっかり惚れちゃいそう。
あとあの王様は、やっぱり裏でそういうことしようとしてたのか。許さん。
「む、その顔はやめろ。当たり前のことをしているだけだ。感謝はされても、崇拝されるいわれはない」
「すいません。どうにも、今の僕は人の優しさに弱いようで」
陶酔しているのがバレてしまったようだ。
謝れば、ギルドマスターは物臭そうに僕の頭を撫でた。
「わふっ」
「まだ年若いのだろう。苦労するとは思うが、ギルドの方でも助力は惜しまない。気にせず頼れ。君は、まごうことなきこの世界の英雄候補の1人なのだ」
英雄候補とは言ったものの、彼はあまりそれを歓迎していないようだった。
そりゃそうだ。ただの少年にしか見えない初心者冒険者の、どこを見たら英雄の卵だと思えるのか。
彼は、肩書ではない、ありのままの僕を見てくれた。
それだけで心が落ち着くのがわかる。
そんなギルドマスターの依頼だ。新米とはいえ冒険者として、精一杯の努力をしよう。
まずはその前にステータスについて聞かないとだけど。
「ありがとうございます。少し、落ち着きました。続きをお願いします」
「よし、少しはまともな顔になったな。では、ステータスについて説明しよう。ステータスはいくつかの基本情報と、12個の数値で表される。基本情報については、本人の名前や種族などのパーソナルデータが書かれているはずだ」
これは見たまんまだな。
「そこに書かれているレベルというのは、本人の強さを簡易的に示したものだ。基本的にこのレベルが高ければ高いほど強い。そして、位階というのは、魔法系のレベルに近いものだと判明しているな。レベルと違ってどうやったら上がるのかは不明だが、魔法を使っていればそのうち上がることだけは確かだ」
ふむふむ、レベルはそのままの意味か。
ただ、位階というのが気になる。これは、何の位階を表したものなのだろうか。
もとの世界でも魔術とかには位階が存在したけれど、それと同じだとするならば、これは魂の位階か、はたまた魔法使いとしての位階か。
あまり詳しく解明されていないみたいだし、強くなるにはここらへんに着目していくのがいいかもしれないな。
「そして、下にある12の数値。これが個人の具体的なスペックを表しているな。ほとんどは自分のステータスを見ればわかると思うが、わかりづらいところで魔法の威力は知性を、魔力への抵抗などは魔力親和性の値を参照されているというのが通説だ。どの値も、レベルアップやトレーニングなどで伸ばすことができる」
なるほど。魔力親和性が高いということは、そのまま魔法に強いとイコールなのか。
この値がどんなものかはわからないが、序盤の敵の魔法くらいなら無視できそうな値だ。
もしかしたら、使うときにも何かメリットがあるかもしれないし、これ頼りで生きていこう。
スキルが狩人だろうが無視だ無視。
なにせ、先天スキルは持っているだけで得できるんだから、他の要素に活路を求めていくべきだろう。
レンジャー・スカウト技能を持ったウィザードは強いぞ、絶対。
「ステータスを見ていて不思議に思ったことがあると思う。スキルや能力は個々人で違うので自分で探ってもらうことになるが、よくわからない数値が2個あるはずだ」
「あ、それ思いました。このAPPっていうのとFAですよね?」
「そのとおりだ。これら2つは他のステータスと違って、基本的には変化しない。APPは人の魅力を表した値だと言われている。これが高ければ高いほど顔が整っていることが多い。人間種の上限は18だ」
それはそれは嫌なステータスだ。だって、自分の外見が数値で表されてしまうんだろう?
これが低いというだけで人生がつらくなりそうだ。
幸いなことに平均以上には見られるようでよかった。本当によかった。
「そして、肝心のFAなのだが、これが何を指すのかは全くわかっていない」
「え、わかっていないんですか?」
「そうだ。この値は、英雄と呼ばれるような人間や、教会の聖職者、王族などで特異な傾向を示すが、実際のところ何を指しているかは不明だ。一説によると、神の寵愛の度合いを表したものとも言われている」
神の寵愛。
え、勇者のお供として呼ばれたのに、寵愛1なの?
この世界の神様、人間のこと嫌いすぎじゃない? それとも、勇者と別行動を取る僕を嫌悪してるとかなのだろうか。
なんにせよ、この世界で生きていくにあたってつらい事実だ。
正直、かなりへこむ。
「さて、説明はこのくらいか」
どうやら、初心者講習はもう終わりのようだ。
「受付の方に依頼を受けた旨は回しておく。表に馬車が用意してあるから、それに乗ってマンドラゴラの採集地へと行くがいい。くれぐれも命を大事にな」
「はい、色々と教えていただきありがとうございました。この御恩を返せるように、精一杯採集してきますね!」
気を取り直して、僕はギルドマスターにお礼を言う。知りたかった情報がだいたい手に入った。
あとは、魔物の生態とか、経験で理解していくべきものが多い。
チュートリアルはここまでだ。
僕の冒険はここからはじまる!
ギルドマスターに見送られながら場所へと乗り込んだ僕は、意気揚々と採集地へと向かっていった。
その先に、あんな悲劇が待ち受けているとは、全く考えもせず……。