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異世界でドラゴン専属の料理人やってます  作者: 雨後の筍
勇者にはなれなかったけど、ドラゴンとは契約できました
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異世界エージェント組織、またの名をギルド−1

ギルド編? 冒険前の準備回とも。

よろしかったら次話もどうぞ!

 王様はたしかに悪魔だったが、畜生ではなかったようだ。


 あれから、僕は王宮の外まで案内がてら、この世界について説明してくれると言って出てきた兵士さんに付き従っていた。


 僕が兵士さんに案内され、王宮を出ようとしたときのことだ。


 後ろから走ってきた別の兵士が、背負い袋を差し出してきたのだ。

 中には、いくらかの干物のようなものと、果物。革袋のようなものが1つ、布の小袋が2つに、鞘に入ったナイフが入っていた。


 革袋は揺らしてみるとちゃぷちゃぷと音がしたので、おそらく水か酒でも入っているのだろう。

 布袋はそれぞれ中身が違っていて、軽いほうが金貨、重いほうが銅貨と銀貨のようだった。


 兵士さんに確認を取ると、銅貨10枚で1銀貨、銀貨10枚で1金貨らしい。

 本物の金か銀かは定かではないが、覚えやすいことはよいことだ。


 兵士さんに礼を言って、僕はあてどもなく街へと繰り出した。


 街はさすがの賑わいで、飯時なのか、飯屋のおっさん同士が派手に客引き合戦を繰り広げている。

 それを、串焼き片手にやんやと騒ぎ立てる青年もいれば、どの店で昼食を取るか迷っている紳士もいる。

 近くには屋台もいくつか出ており、想像したまんまの異世界の街並みがそこには広がっていた。



「侵略されつつあるとはいえ、後方の国の王都なら、これくらい栄えてて当然だよな」



 聞かせる相手もいない独り言は、からっ風に吹かれて何処かへと消えてしまう。

 それが無性に悲しくて、いつも隣りにいたはずの彼女たちの姿を、女々しくも思い出してしまう。


 近づいてきた少女に、このお兄ちゃん大丈夫かな? という純真な目を向けられて心がえぐられたので、曖昧(あいまい)に笑い返して頭を撫でてあげた。

 笑顔で去っていったその後ろ姿に、少しだけ元気をもらう。



「んー、弁解のひとつでもすればよかったのかな。でも、王様は僕を追い出すつもりでいた。きっと、あそこでスキル名を言ったところで、何も変わらなかったよな」



 でも、僕たちが築き上げた信頼は、あの程度の(ささや)きで崩れるほどのものだったのだろうか?


 ……この世界には、スキルが存在する。


 今となって考えてみれば、僕たちは王様が何のスキルを持っているか知らなかった。なにせ、自分のスキルがどんな効果を持っているのかすら、把握できていなかったんだから。

 そんな僕たちを相手取って、王様はどれだけやりやすかったのだろう。


 きっと、この世界で政治に関われる存在ってのは、そういうことに有利なスキルを持っていて当然なのだろう。

 だって、そうじゃなきゃ説明がつかない。王様が、〈煽動(せんどう)〉のスキルでも使ったに違いない。


 そう考えると、とても自然に受け入れられた。



「ま、受け入れられたからって覆水(ふくすい)盆に返らず。後の祭りさ、ははは」



 全く笑えない。


 さて、いつまでも落ち込んでいるだけではいられない。

 落ち込むのは、あとで落ち着いた時にとっておこう。

 なにせ、少しばかりのお情けは貰ったが、これで過ごせるのなんて精々一週間くらいでしかないのだ。


 生きるために、仕事を見つける必要がある。


 幸い、王宮を出る前に、兵から身の振り方について丁寧に解説を受けた。


 人間は、ギルドというシステムに所属して、魔族と戦っているらしい。

 正確には徴兵された人々以外の、俗に言う冒険者と呼ばれる人々が、ギルドに所属しているらしい。


 なので、勇者と一緒に召喚されたということは、強い能力を持っているはずだから冒険者になるべきだと勧められた。


 まぁ、召喚してまで手に入れた人材を、ただで手放したくなかったのだろう。ギルドで冒険者にさせれば、間接的に人間のために戦わせることができるわけだし。


 もうケチをつける元気もない僕は、おすすめに従うつもりだ。


 ギルドの話のついでに、王様も非情ではなく、大を救うことを考えるならば、僕を切り捨てざるをえなかった。

 そんなことを耳にタコができるほど聞かされたが、わかっていないわけじゃない。


 ただ、それが僕からほとんどすべてを奪い取っていく方法だっただけだ。


 僕は、この世界で何を頼りに立てばいいのだろう。

 僕を支えてくれていたはずの彼女たちは、もう僕を見限った。



「生きてれば、何か見えてくるかな。幸い、ここには僕を見下す人はいないし、もしかしたらこれでよかったのかもね」



 生きる希望が見つかったわけじゃないけど、別に今すぐ死にたいわけでもない。

 きっと、この傷も時間が癒やしてくれる。

 そう信じて生きていくのが、今は一番なように思えた。


 考え事をしながら歩くと時の経つのは早いもので、気づけば僕は教えられた道順通りにバルドガル・ギルドへと到着した。


 道中は騒がしく活気に溢れていた。

 これほど栄えている国が、1年後にはなくなっているかもしれない。

 確かにそう言われれば、どれだけ人間が追い詰められているのかが想像しやすいし、勇者にでも頼りたくなる気持ちもわかる。


 だが、なぜ僕たちだったのだろうか。他の人たちではいけなかったのだろうか。

 よくない考え方だとは思うが、実際に当事者になってみるとやっぱり憤りが強いのだ。



「娯楽作品は娯楽作品。誰も主人公になんてなりたがらないよ」



 今から冒険者ギルドに入ろうとしているやつが言うセリフじゃないな、とは自省した。


 ギルドの中は思っていたのと違って、別に酒場のようになっているわけじゃなかった。

 隣にそれっぽい建物があったから、きっとそちらが酒場なり集会所なのだろう。

 こちらは純粋に、事務カウンターといろいろな掲示板があるばかりだ。


 カウンターで受付嬢に絡むチンピラ冒険者。

 掲示板を見て依頼を探しているのだろう3人組のパーティ。

 おそらく仲間募集の紙を掲げている屈強な大男。


 まぁ、概ね想像から外れない光景ではある。


 冒険者とギルドのシステムについては実は詳しく聞いていない。ギルドに行けばわかると言われたからだ。


 その分の説明を省いても、ざっと国の説明と市場の相場なんかは教えてくれたから、あの兵士さんはいい人だったのだろう。

 初対面の、しかも異世界から召喚されたなんて怪しい肩書の相手に、あそこまで親切にしてくれたのは今思うととても希少なことだったのではと思える。


 だが、今は彼の親切さを思い出すときではなく、彼から聞いた今後の身の振り方を実践すべきときだ。


 なるべく自信満々に歩き、空いているカウンターの受付嬢さんに声をかける。


 珍妙(ちんみょう)な格好をした少年が堂々と歩いてくるのだ。受付嬢さんだけでなく、周りの冒険者たちもこちらを注目する。

 注目を集めるのは一長一短だが、顔をつなぎやすくなるという点ではこれ以上はないだろう。



「すいません。冒険者になりに来たのですが、どうすればいいですか?」


「あ、はい。冒険者志望の方ですね? では、こちらにお名前をお書きくださいますか? もし文字が書けないようでしたら、代筆いたしますが」



 うん、知ってた。


 確かに言葉は日本語に変換されて聞こえるんだけど、実は文字がよくわかっていない。

 ここまで来る間に見た看板も、絵が横に描いてないと何の店か全然わからなかった。

 絵が描いてあってもわからない店のほうが多かったけど。さすが異世界。


 そのうち文字覚えなきゃな。



「あー、代筆お願いできますか? 僕の名前はですね……」


「はい、代筆ですね。お名前をどうぞ?」



 受付嬢さんが途中で言いよどんだ僕の顔を、変なものでも見るようにしている。

 一瞬、高橋三郎と名乗ろうと思ってやめた。

 彼女たちに見捨てられた時点で、その名前はこの世界では何の意味もなくなったからだ。



「うん、僕の名前はサーブ。サーブ=ハイブリッジです」



 だから、僕のこの世界での新しい人生は、ここからはじまる。


 僕の新しい名前はサーブ。王様がタカハシサブローと呼んでいたから、違うもじり方をしてみた。

 名字はそのまま英語だ。タカハシの響きそのままでなければ、どうやったって僕とはわからないはずだ。


 ちょっとした意趣返(いしゅがえ)し。

 王様はきっと僕の動向を追おうとする。

 だから、わからなくしてやろう。それくらいはしても許されるだろうことをされたから。


 早く旅に出て、この国とは全然関係のないところに行きたいものだ。



「はい、サーブ=ハイブリッジさん、記入が終わりましたよ。こちらのカードをお持ちください」



 そう言って手渡されたのは、僕の名前と思われるものと何かの記号、何かを書き込むための空欄が6つほど書かれた材質不明のカードだった。


 裏面はシンプルに紋章が1つ描いてあるっきりだ。多分、ギルドの紋章だろう。扉とかにも描いてあったし。



「ではサーブさん。ご存知かもしれませんが、冒険者について説明させていただきますね。冒険者とは、各国の常備軍とは違い、ギルドに持ち込まれた依頼をこなしていく方々のことを指します。主に戦闘職の方が多いので軍と比較させていただいていますが、採集専門の方もいらっしゃいますし、大工仕事や錬金術を生業にする冒険者さんもいらっしゃいます」



 それはちょっと意外だった。

 冒険者と言ったら、みんなバリバリに剣を振って魔法を使って魔物を退治して、というイメージだったのだが。


 そうか、戦わなくても冒険者としては生きていけるのか。

 もちろん専門の技術はいるのだろうけれど、肩の荷が下りた気持ちだ。



「サーブさんがどんな冒険者になるかは自由ですが、規則が幾つかありますので、そちらだけは厳守でお願いします。破った場合、重大なペナルティが与えられることがありますからね」



 表情を厳しくして、メッとやってくれる受付嬢さんはきっとモテモテだと思います。



「規則については、あちらに張り出してありますのでご自身で確認をお願いします。規則さえ守っていただければ、あとは自由に依頼を受けてくださって結構です。ただし、あまり身の丈に合わない依頼を受けて、事故死したりしないでくださいね? 規則上なかなか起こり得ないはずなのですが、このギルドだけでも年数件は確実に報告される死因ですので」



 なるほど、簡潔な説明だ。自分の命は自己責任でなんとかしろという圧力を感じる。

 もとが貧弱な男子高校生たる僕に慢心する要素はないが、気をつけておくことにしよう。



「ありがとうございました。これから頑張っていきます」



 受付嬢さんに礼を言い、(くだん)のギルド規則を見ることにする。


 冒険者たちは、ただの新人だとわかってからは自分たちの用事に戻っている。誰かしら声をかけてくることを期待していたのだが、やはり僕に話しかけてくれる奇特な人物はそういないようだ。


 さて、肝心の規則だが、あまり難しいことは書いていない……のだろう。

 条項も5つしかないし、横に絵が描いてあるのでなんとなくわかるのだ。


 読み取った感じでは、


・獲物の横取りをしないこと


・依頼以外で冒険者同士で争わないこと


・達成してきた依頼の履歴はギルドで管理しているので、実力に見合わない依頼はなるべく受けないこと


・依頼達成よりも自分の命を優先すること


・ギルドを介さない依頼は、受けたのが冒険者であってもギルドは関与しないこと


 多分だが、こんな感じだと思う。


 とてもわかりやすい。

 これならば文字を読めない人でも、すぐに冒険者になれるだろう。


 とは言っても、依頼掲示板らしきものは文字が読めないとどうにもならないのだが、どうすればいいのだろうか。


 すべてを自分でやらせるというのは、とても冒険者らしくてワクワクする気持ちもある。

 でも、依頼を受けられない冒険者というのはただの穀潰(ごくつぶ)しなのでは……?


 仕方ない、さっき別れを告げたばかりで気まずいが、受付嬢さんに聞くしかないだろう。



「度々すいません、依頼ってどうやって受ければいいんでしょうか?」


「あ、気づかれましたか? 文字の読み書きができない方には、受付嬢が直接依頼をお渡しするんです。履歴もありますし、依頼掲示板で探すよりもあなたにぴったりの依頼を選べると思いますよ」



 うん、とてもわかりやすく、簡略化されたシステムだ。

 ファストフード店もびっくりのマニュアル化と言わざるをえない。


 それを冒険者本人が気づくまで言わないあたりに、この世界なりの厳しさは感じるが。


 多分、そんなことにすら気づけないと、冒険者として生き残ることはできないのだろう。

 冒険者になるための最初のテストのようなものなのだろう。

 文字が読めるほどに教育を受けているならば、必要のない行程なのだろうけど。



「というわけで、私のおすすめはこれ! 初心者冒険者御用達の、薬屋さんへの薬草の納品ですね。近くの森の少しだけ奥まったところにある薬草を、規定数持って返ってくるだけの簡単なお仕事です。薬草の見本はこちらになりますので、これを参考に採集をお願いします!」



 そう言って、カウンターの下からよっこらせ、と何かの草の束を取り出す受付嬢さん。

 

 なるほど、最初は薬草採集から始まる。それは、ある種伝統でもあるのだろう。


 薬草採集に始まり、ドラゴンの討伐で終わる。

 これぞ冒険者といった感じだ。


 まぁ、あまりにも孤独な人生を送ってきたものだから、オタク趣味をちょっとこじらせて、そういうのには一定の理解はある。


 というより、憧れがある。ただ、憧れているだけでいたかっただけだ。

 薬草採集くらいならいいけど、ドラゴンとか無理。目の前で大口開けられたら、錯乱(さくらん)すること間違いなしだと思う。

 もやしでひ弱な根暗男子が、どんなに頑張ったところでたかがしれている。


 そう、自虐しながら薬草採集の依頼を受けようとしたその時だ。



「少し待ってくれ。そこの彼には直々に依頼が来ている」


「え? 僕に直々の、依頼?」



 待ったをかける人物が現れた。

 ゆったりとしたローブをまとい、メガネを掛けたいかにも魔法使いです、といった見た目の男だ。これで魔法を使えなかったら詐欺である。


 まだこの国に訪れて1時間とちょっとの僕に、直々の依頼がくるはずなんて……。



「言わなくてもわかるとは思うが、さる高貴な方からだ。下手な偽名程度でごまかせると思わないほうがいい」



 はい、すいませんでした。

 偽名程度で国王の目をかいくぐれるわけないよね、その国の中で。




 これも全部、射手座のせいなんだ。

 血液型占いとか見ておけばよかったかなぁ。


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