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ドラゴンショッピング−3

こんばんわ!

ゴールデンウィーク最後の投稿です!


ただのサンドラ可愛い回!

 あれから、すっかり冷めてしまったリス肉を、2人で笑いながら食べた。

 油が固まってきて、ぎとついていたけど、それでも料理は美味しかった。


 女将さんは呆れていたけど、涙を流す僕を見て、何を思ったのかさっぱりとした果実の絞り汁をごちそうしてくれた。

 お代はいらないよ、と背中越しに語るその抱擁力は、きっと僕が目指すべき境地なのだろう。


 料理を振る舞う前に、人としてできていること。

 それは、料理人に限らず他の職人にも言えることだけど、何より大事なことなんだろうなって思えた。



「ふふ、サーブは()いな。自分以外の料理で喜ばれたのが、そんなに嫌だったのか」


「そうだよ。嫌だったんだ。でも、もういいや。いつか、これより美味しい料理ばっかご馳走(ちそう)できるようになるよ。今すぐには無理だから、気長にね?」


「無理はしなくていい。お前のペースでやればいい。もともと、そういう契約だったろうに」



 焦る必要などどこにもないぞ、と呟きながら、おかわりしたパンを口に運ぶサンドラ。

 どうやら、今まで食べてきたものと全く違うからか、いたくパンがお気に召したようだ。



「そうかもしれないけど、普通の人があんな契約結んだら、自分の無力さを嘆くもんだよ」


「むしろ、大概の人間は喜び勇んで好き放題始めると思うが? 人は弱いからこそ、強い後ろ盾を得た時、調子に乗るものだと思っていたのだが」


「うーん、それは、否定出来ないかな。たしかに自分勝手に生きる人のほうが多そうだ……。認めちゃうのも癪なんだけどな」


「仕方あるまい。種としての欠点は、どうにもなるものでもあるまい。それに、我にふさわしい料理人になる、というお前の願いもかなり勝手なことではないか?」



 ニヤニヤしながらパンを頬張るサンドラはご機嫌だ。

 美味しいものを食べて、僕をいじめて、とても愉快らしい。

 頭のツインテールをぴこぴこと跳ねさせて笑っている。



「痛いところを突かれたな……。そうなんだよねぇ。僕って今、ただサンドラと旅する人なんだよね。別にそれが悪いってことじゃなくてむしろ嬉しいくらいなんだけど、人間サイドに立って魔族と戦ってるわけじゃないから。対立どころか仲良くなっちゃってるし、完全に裏切り者だよなぁ」



 言われてみれば、大分自分勝手な選択だ。

 仕方なかった面もあるが、それでもニョルドルと出会ったときにも、罪悪感なく人間社会とはもう関係ないのだと言ってしまった。


 僕は、人間とかドラゴンとか魔族とか、そういうことじゃないところで生きていくことを決めたんだ。

 最初は流されたかもしれないけど、サンドラが肯定してくれる僕は、明確にそれを目指している。


 昨日の晩御飯はとっても楽しくて、みんながずっと笑顔だった。

 たったありあわせの料理ひとつでみんなが笑えるのに、どうして争いたがるのか。


 そんな愚かなことに、首を突っ込むだけ非効率的だ。

 僕は、勇者の傍には立てない。


 でも、そこからこぼれ落ちた人々を見捨てることができるほど、人間やめてもいない。

 どっちつかずで優柔不断だけど、それが僕なんだって、今なら自信を持って言える。


 自分のいやらしい本性くらい昔から知ってた。

 つらいことを諦めて、楽な方へ逃げて、誰かが助け出してくれるのを待って。

 でも、そんな僕を認めてくれる人がいるなら、僕はそれだけでいいんだ。


 諦めてもいいんだって、逃げてもいいんだって、助けてあげるから失敗してもいいんだって、そう言ってくれる人がいることがどれだけ僕の救いになるか。


 掛井さんは僕を連れ出してくれた。

 でも、彼女は僕に夢を見せただけだ。

 結局それも、淡い夢でしかなかったし。


 あの娘も僕を救うことはなかった。

 透明な瞳で、僕を見ているだけで楽しそうだった。

 きっと、僕が苦悩している方が、彼女には好ましく見えたのだろう。


 その点、サンドラは優しすぎる。

 がんばれとも言わない。

 好きにしろと言う。


 でも、がんばれば、がんばったなと言ってくれるし、好きにしたって、笑いながらついてきてくれるのだ。

 ドラゴン故の余裕なんだろうけど、完全にダメ人間製造機だ。



「まぁ、我の契約者というだけで、まず両軍から追われるだろうな。それに、サーブは人間側の勇者召喚に巻き込まれて、この世界に来たのだろう? 人間側の追手は特に多いはずだ」


 召喚されるような戦力を、彼らがみすみす手放すわけ無いだろう。

 の割には、バルドガルの王様は僕を謀殺する気満々だった気がするけど。

 

 あれは、一体何だったのか。

 ギルドマスターへの信頼度をあげるための小細工?

 それとも、反抗的な僕に首輪をつけたかったのか。


 今となっては関係ないことだけど、サンドラに出会えずに冒険者を続けていたら、僕はどうなっていたのだろうか。

 考えたくもない。


 きっと、勇者パーティが活躍する裏で、その道程を(なら)すだけの黒子として死んでいっただろう。

 王様が望んでいたのは、そういうことのはずだから。



「逆に魔族って勇者召喚の儀式には気づいてるのかな? サンドラはどう思う?」


「んあ? 気づかないような間抜けだったら、とっくの昔に人間側が勝っているだろうよ。あいつらは魔力との親和性が軒並み高いんだ。感知能力に特化したやつなら、遠く離れた王都で使われた訓練用の魔法だって感じ取るさ」


「それは、うん。なんとなく人間側が勝てない理由がわかったよ。魔法でそれだけ差があって、身体能力も負けてるんでしょ? 別に頭が悪い訳でもないし、純粋にスペック負けしてるじゃん」


「その分、人数が少ないという欠点はあるな。魔族は強いがゆえに子が生まれにくい。長命なこともあって、文化も凝り固まっている、らしい」



 文化、と口にした瞬間だけ目が泳ぐのがサンドラらしい。

 長生きして知識は多いのだろうけど、実際は聞きかじったものばかりで、確かめたことはないのだろう。


 多分、想像がつかないけど、サンドラは引きこもりドラゴンだったのだろうと思う。

 普通のドラゴンがどれくらい他の生き物と交流するのか知らないから、勝手な想像にすぎないんだけど。


 引きこもりだろうと世間知らずだろうと、別にかまわないんだけどね。

 2人で一緒に知らない世界を旅できるって、とっても素敵なことだと思うし。



「まとめれば、欠点は互いにあるが、戦いという意味においてはこと魔族のほうが有利だ。ドラゴン狩りに来るのは人間のほうが多いんだがな……なぜあやつらは、我に勝てると確信してやってくるのだろうか? 人間とはやはり不思議な生き物だ」



 ニョルドルだって見た瞬間に、負けるって確信したって言ってたよね。

 魔族と違って危機管理能力がないのか、指揮されたら鼓舞されちゃうのか、どっちにしろ現実を見るより夢を見るのが得意なことに変わりはない。


 手痛いブーメランだね!



「さて、話の続きはまた今度でよかろ。まだ我のこともサーブのこともバレようがない。追手がかかるにしてもしばらくの暇はある。というわけで、のんびり旅をしようじゃないか」



 おかわりしたパンまですべてぺろりとたいらげたサンドラは、腹をぽんぽんと叩くと立ち上がった。

 挑発的な不敵な笑みは、未知の世界への好奇心で、煌めいている。


 彼女は楽しむことの達人なのだろう。

 その方法がわからなかっただけで、道を示してもらえれば誰よりも輝かしい。



「さぁ、まずは買い物だ! 買い物というのは興味深いな。我はそんなことをするのを初めて見る。奪わずに物を手に入れるというのは、実に新鮮だ」


「盛り上がっているところ悪いんだけど、ここのお会計と部屋を取るのが先ね? 買い物はそのあとで」


「わかっている! しょっぴんぐ? の時間が楽しみだな!」



 ぴょんぴょん飛び跳ねると、その濃紺の髪の毛も一緒にぴょんぴょんと跳ね回る。

 その割にワンピースとショールは不自然なほどに体から離れないから、どこか神秘的だ。


 なお揺れない部位もあるが、彼女的にはそこんところどう思っているのだろう。

 僕が聞くのは自殺行為なのだけど。



「女将さーん! お勘定! あと、部屋を1部屋お願いします!」


「あいよ! たーんと食べてくれてありがとね! 可愛い食べっぷりだったから、おかわりの分はいいよ! だから、今後ともうちの店をよろしくね!」



 あらら、こいつは商売上手だ。

 こう言われたら、断るほうが無礼にあたる。

 これは、いい宿屋にあたってしまった。



「あと、これから買い物に行くんだろう? つけといてあげるから、夜に宿代と一緒に払っておくれ。その鍋の中身を換金してからのほうがいいだろ?」



 しかも、気の利かせ方が上手すぎる……。

 鍋の中身だって、ほとんど匂いが漏れてないはずなのに気づくなんて、流石と言わざるをえない。



「ご厚意痛み入ります。というより、便りっぱなしで申し訳ない。この街にいる間はずっとお世話になりますね」


「はは、そうしな! うちの客には精一杯のもてなしをしなきゃね! あたしも客もどっちも満足! みんな気分良くしてたほうがいいに決まってるさね!」


「本当にその通りです! では、あとでまた戻ってきますから部屋の方よろしくお願いします」


「あいよ。いってらっしゃい!」



 そんな熟練の女将さんに見送られて、僕たちは街へと繰り出す。

 サンドラは待ちきれないで先に通りに出て、きょろきょろとあたりを見回していたけど。


 目立つんだから、あまりひとりで歩きまわらないでほしい。

 見た目は12〜3歳にしか見えないんだから、(さら)われたって知らないぞ。


 主に(さら)った相手がどうなるかについてなんて。




 そんなくだらないことを考えながら、はぐれないように手を繋いで、僕たちは歩き出す。

 少年と少女の二人旅なんて、それをカモにするのは宿屋だけじゃないのにね。


次回からは毎日1更新に戻らせていただこうかと思っています。


ゴールデンウィーク9日間、毎日2更新を続けてまいりましたが、さすがに普通の日にこのペースは無理があるとの判断です。


続けられそうなら、続けるつもりだったのですが、ゴールデンウィークですら結構ギリギリでしたので、残念ながら断念。


というわけで、明日からは平常通りの毎日投稿に戻ります。

時間の方は毎日夜9時に定時で投稿しようと思っているのですが、ご意見等ありましたら感想かメッセージでお伝え下さい。


今後とも、拙作をよろしくお願いいたしますm(_ _)m

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