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異世界でドラゴン専属の料理人やってます  作者: 雨後の筍
勇者にはなれなかったけど、ドラゴンとは契約できました
25/39

【荒喰の契約】

こんばんわ!

本日の夜更新です!


戦闘合間の息抜きですね。

 僕は走っていた。

 洞窟から先に飛び立っていった、サンドラの向かった方向はわかっている。


 決着がついてしまう前に、まだ間に合ううちに介入しなきゃいけない。


 僕が手に入れた力がどんなものかもわからない。

 でも、きっとなんとかできるって自信だけは湧いてくる。


 だから、走らなきゃ。

 あの闘いを止めるんだ!



「さっきから森がざわめいてる。鳥たちもすごい勢いで飛び立っていったし、すごい爆発も見えたね。お願いだから、お互いに無事でいてよ……重傷とか洒落になんないかんね!」



 闘っている場所はそんなに遠くない。

 2人の足が速いとは言っても、5分じゃできることは限られている。

 ましてや、その貴重な時間を僕なんかに割いたんだから、余裕があるわけない。


 僕が走ってもすぐつきそうなところで、争っている。

 きっと罠なんかもなく、正々堂々とだ。


 あの2人には手こずりそうだってサンドラも言ってたし、最初は様子見してくれていることを願おうかな。

 じゃないと、勝敗は明らかなわけだし。



「なんで負けるってわかってて挑んじゃうかな。勝算がないのに戦うなんて、馬鹿のすることでしょ」



 心は熱く、それでいて頭は冷静に。

 今の僕のコンディションは絶好調だった。

 やっぱり、色々と吹っ切れたのが響いているのかもね。


 今なら、なんだってできそうな気がした。

 無敵かもしれないと思っていた。


 そう、調子よく走っていたら、なんか向こうの方から大洪水が襲ってきていたとしても!



「いやいやいや、意味わからないから! なにがどうなったらそんな洪水が起きるわけ!?」



 まぁ、普通に考えたら、どうにかなるの領域を超えちゃってるよね。

 川はあったけど、どんなに増水したってこの規模にはならないでしょ。

 多分、どっちかの魔法なんだろうけど、僕にまで被害が来るようなことしないでほしい。


 というよりこれ、洞窟にいたら溺死してたんじゃない!?

 この勢いなら絶対そうなってたよね!?

 僕まで巻き込むな!


 一瞬のうちに濁流はもうすぐそこまで迫ってきている。

 逃げることはできない。



「ええい! 手に入れたばかりでよくわからないけど喰らえ! 僕の【異能】を!」



 仕方なし、ぶっつけ本番である。

 こんなのに巻き込まれたら、あちこちの木々にぶつかって死んでしまう!

 その前に溺死するかも!



「そんなことになってたまるか! 【魔界の植物】の力を見るがいい!」



 僕が意識した瞬間、手にした魔導書が光り輝く。

 毒々しいまでに濃く漏れる緑の光。

 生命力を嫌というほど感じさせるその光は、地面へと降り注ぎ木の芽の発芽を促す。


 そして、自然界にありえざる速度で成長する。


 次の瞬間、目の前にまで迫った濁流は、猛烈に成長した木々と蔦に阻まれ、その横を流れていった。


 僕は腰をぬかしてそれを見上げていたが、ふと思った。

 この世界の植物もたくましいけど、なんかもっとすごいのがあるもんだなぁ、と。



「えー、いや、えー。もしかして異世界に飽き足らず魔界的なのが本当にあるの?」



 目の前に召喚された巨木は、水を吸ってどんどん成長している。

 僕がいるところには全く水を通さないから、とても優秀だ。



「いや、そうじゃなくて、あれ? 思ったよりも遥かにすごいぞ? 確かに防いでくれ! って思いながら使ったけど、本当になんとかしてくれちゃうのか」



 びっくりした。

 それと同時に、安堵した。


 この力があれば、本当に闘いを止められるかもしれない。

 なにせ、あんな大洪水すら退けてみせたのだ。

 この樹なら、サンドラがぶつかったって倒れないだろう。


 そう思ったからかなぁ。


 なにか、大きなものが樹にぶつかった音がした。


 巨木がバキバキと、少しずつ音を立て始めたのが聞こえる。

 少しずつ、こちらに(かし)いできているのを視認してしまう。


 なんだ?

 どんな質量のものがぶつかったらこうなるんだ?

 もしかして、これ僕ヤバイんじゃ?


 感覚が鋭いのも困りものだね。

 なにせ、絶望を最初に認識するのは、鋭敏な感知能力持ちだと相場が決まっているのだから。



「ってそんなことはどうでもいいよ! と、とりあえず樹の陰から出れば……! 水の勢いも弱まってるし! な、なんとかなってくれ!」



 僕はヒーコラ言うしかない。

 いやだって、安心だね! って言った直後に倒れるやつがある?

 こんなんじゃ僕は先行きが不安だよ!


 濁流に呑まれたらお先真っ暗だけどね!

 はっはっは。

 笑えない。


 そんなこんなで、なんとか樹の陰から飛び出せた。

 水は足元を流れる程度まで減っていて、足を取られそうにはなるけど、安全圏内だ。

 樹が倒れるまでもう少しかかりそうだし、何がぶつかったのか今のうちに確認しておこう。



「大岩でも流されてきたのかな? 流木がまとまってぶつかったとか?」


「正解は我だ。残念だったな、サーブ」



 なるほど、ドラゴンだったのか。

 これは一本取られたな。



「ってサンドラ!? あんな勢いで衝突して大丈夫!?」


「あー、平気ではあるが、少し痛むか。まったく、こんな隠し玉を持っているとは思わなかった。思い切り真正面から喰らってしまったぞ」



 思いっきりぶつかったはずなのに、彼女の声は元気そうだった。

 というより、なにかの大技だったらしいさっきのを喰らって喜んでいた。


 あーやっぱりドラゴンは闘うの大好きなんだなぁ、って思ったよね。


 そして樹が倒れてきて、声だけじゃなくその姿が見えてきて、驚愕した。


 体中が焼け(ただ)れ、煙を上げている。

 背中から樹にぶつかったのか、翼も片方変な方向に向いてしまっている。

 鱗もボロボロと剥がれ落ち、あのつややかな夜瑠璃玉の美しさも失われてしまっていた。


 有り体に言って、死に体だった。



「サンドラ!? 酷い怪我じゃないか! なにがあったの!?」


「ん? なに、あいつらの奥の手を喰らっただけよ。ちょいと濁流で身動きを取れなくして、雷の最上級魔法を叩き込まれただけだ」


「いやいやいや、重傷でしょ! いくらドラゴンが頑丈だからって、どう見たって今にも死んじゃいそうだよ!?」


「馬鹿め、この程度で誰が死ぬものか。ちょいと全身やけどしただけよ。舐めときゃ治る」


「それは冗談が過ぎない!? まぁ、見た目よりは元気そうだけど……本当に死なない? 大丈夫?」



 僕が慌てているのを見て、サンドラはどこか嬉しそうだ。

 誰かに心配してもらえるというのが珍しいのかもしれない。

 でも、そうやって笑うサンドラが無理しているようにしか見えなくて、僕は余計心配になるのだ。


 あんまり、無茶しないでほしい。

 契約だって結んだじゃないか。

 なのに、自分勝手に逝ってしまうなんて、そんなことは許されない。


 そんなのは、契約違反だろう?



「大丈……む? ほう、安心しろ。我が死ぬことは絶対になさそうだ。そのまま、願え。我が死ぬことがないように、と」



 サンドラが何を言いたいのかはよくわからない。

 でも、僕には回復魔法も医療の心得もない。

 できることは、ただ願うことだけだった。



「右手の甲に痣、か。確かに伝え聞いたとおり。だが、ここまでの力を発揮するとは知らなんだ。これはサーブがすごいのか、はたまた我との契約だからか」



 サンドラが何かを言っている。

 でも、集中し切った僕には朧気にしか聞こえてこない。


 いい気分だ。

 なにか大きなものに身を任せているよう。

 夢を見ているのかもしれない。


 目の前でサンドラが元気になっていく。

 傷が癒え、翼がはためき、鱗が生え変わる。

 前より一層しっとりと、しかしつややかに輝く鱗は夜瑠璃玉。


 なんだろう。

 なんだかよくわからないけど、サンドラが笑ってる。

 口を動かしているけど、何も聞こえてこない。


 僕はどうしてしまったんだろうか。

 いい気分だ。

 なにか大きなものに身を任せているよう。



「サーブ、おい! サーブ! そろそろ戻ってこい! サーブ!」



 夢を……?


 サンドラが叫んでいる。

 んん?

 いつの間にか寝ちゃってたのか?


 傷ついたサンドラの前で願いを込め始めた辺りからの記憶がない。


 でも、目の前のサンドラの体には傷一つない。


 夢か?

 どっちが?

 何が起きたんだ?



「混乱しているようだな。まぁ、あとで説明してやる。とりあえず、お前は大人しくしていろよ。我は、少しばかりやつらを痛めつけねばならん」


「?  いや、そうじゃなくて、行っちゃだめだって! 僕は君たちの闘いを止めに来たわけ!」


「む? 何故だ?」



 状況はよくわからないけど、この首をかしげるドラゴンを止めなきゃいけないことは覚えてる。


 というより、あんな怪我を負うような闘いはやめてほしい。

 ん? あんな怪我したのに、もう全回復したの?

 あぁ、頭がこんがらがってきた。



「ああ、そういうことか。なるほど、安心しろ。もうあんな下手はうたん」



 それもそうだけど、それだけじゃなくってさぁ。



「それに、あいつらの心配をしているのだろう? 問題ない。もともと殺す気はないし、あいつらもそう簡単に死ぬたまでもないさ」


「え?」


「ちょっと不意を突かれたが、本当はさっさと小突いて終わらせるつもりだったんだ。痛い目を見れば、あいつらも学ぶだろう。なにせまだひよっ子だからな!」



 そう言ってガッハッハと笑うサンドラ。

 ちょっと豪快すぎない?


 っていうか、最初からそのつもりだった?

 ほえ?



「それじゃあ、僕の心配は無駄だったってこと? え、骨折り損のくたびれ儲け?」


「まぁ、そうかもしれない」



 それを聞いて、どっと疲れた。

 結果的にはよかったんだけど、脱力感が半端ない。

 つまり、空回った?



「ふぅ……よかった。けど、そういうことなら先に言ってくれればよかったのに」


「そんなタイミングがどこにあった。いや、その、な? これから闘いに行こうというのに、先に手加減すると宣言していくのは、少しバツが悪くてな」


「眼を泳がせてる。誠意が足りない。今夜は料理なし」


「そ、それは話が違くないか!? こう、うまいこと終わらせてくるから、美味しい料理で迎えるとか、な?」


「ま、結末次第かな」



 慌てるサンドラはやっぱり愛らしい。

 無慈悲なドラゴンではないのだ。

 冗談だってわかる、優しいドラゴンなのだ。


 だから、彼女だけを送り出しても、きっと悪いことにならないと信じられる。

 僕は強くなろうと思ったけど、やっぱり料理をつくってあげるほうが向いてるかな。




 必死に弁解するサンドラに、僕は笑顔を浮かべて囁いたのだった。


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