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異世界でドラゴン専属の料理人やってます  作者: 雨後の筍
勇者にはなれなかったけど、ドラゴンとは契約できました
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異世界に招かれて

もしよろしかったら、続きの方も目を通してくださると嬉しいです!

 気づいたら、ネット小説のように、一瞬で知らない場所にいた。


 何を言っているのかわからないと思うけど、僕自身がよく理解できていない。

 というか、他の4人もよく理解できていないと思う。

 理解してたら怖い。



「いやー、みんな無事みたいなことだけはよかったんじゃないかな」



 それ以外の事に目をつむれば、ね。


 なんとか明るい話題を提供しようとする僕に、みんなは明らかにほっとしたようだ。

 一番最初に平常運転に戻ったのは、小嵐くんだ。



「確かに。この状況で誰か欠けてたら洒落(しゃれ)になんねぇかんな」


「ホント、ホント。さすがの俺でもこのシチュエーションは未経験だわ」


「むしろ僕は、実体験でこんな不思議に出会えるとは思っていなかったけどな」



 続いて、赤葉くん、藤原くん。

 男4人がいつも通りの会話を始めたのを見て、掛井(かけい)さんも安心したみたいだ。

 くすり、と顔をほころばせた。


 きょろきょろとあたりを見回す余裕もできたようで。



「で、結局ここはどこなんだろう? えっと、周りの人たちに話しかけてみる?」



 見回したまではよかったけど、困ってしまったらしい。

 こてん、と首を傾げるその様は可愛らしいのだけれど、ちょっと逆効果じゃないかなーって。


 僕たちが話し始めたのを見て、壁際の人たちはさっきまでよりも語調を強めて、会話をしている。


 多分、警戒されているんだろうなってことはわかる。

 この状況に置かれてから、ずっと刺すような視線を感じるし。

 玉座っぽいところに座っている人まで含めて、友好的な気配を微塵(みじん)も感じないから。


 向こうも、僕らをどうするか戸惑ってるみたいだ。


 ……でも、このままじゃ話が進まない気もする。いつまでも見世物になっているのも、正直つらいし。


 それにまずいことに、小嵐くんがうずうずし始めている。彼が好奇心を爆発させたら大抵面倒くさいことになるんだ。

 相談しないのは申し訳ないけど、僕が動くしかない!


 ええい、ままよ!

 あとは野となれ山となれ!



「あのー、すいません! ここがどこだか教えていただけませんか!?」



 先手必勝! 小嵐くんよりも、掛井さんよりも先に大声を上げることに成功した。


 瞬間。



「ワーーーーーーーー!!!」


「ウェーーーーーーー!!!」



 壁際にいた鎧を着た人たちが腰の剣を抜いて襲いかかってきた!


 いや、うん、まぁ、そうなるよね。薄々察してたよ。


 きっと魔法とかあるんだよね、ここ。知らない言葉で大声あげたらそりゃ不審に思うよね。知らない魔法使われたら困るもんね。

 だから、あんまり動かないで声だけあげたのに! なるべく怪しくないように振る舞ったのに! こんなの理不尽だ!


 もちろん、そんな僕の魂の叫びは口には出ないわけで。

 迫りくる鎧の大群を、諦めきった目で見るしかできないわけで。


 なんで、知らない場所に飛ばされて、王国の兵士たちにいきなり襲われてるんだろ。

 これも全部、今日の星座占いの結果が(かんば)しくなかったからに違いない。

 射手座に生まれたことを後悔しながら死ぬとか、斬新すぎるでしょ。


 あ、顔が半笑いになってる気がする。

 笑ってるのは膝だけじゃないんだね!


 神よ、どうして僕を見捨てるのですか。



「控えよ!」



 そんな死の恐怖に怯えた、情けない顔をしていた僕は救われた。

 あまりにも渋い、鶴の一声だった。

 威厳あふれるその救いの声は、玉座らしき方から聞こえてきた。


 中空を見つめてガタガタ震えているしかなかった僕は、そこで少し周りを冷静に見ることができるようになったのだ。


 自分が原因でみんな殺されてしまうんだって、早とちりして絶望した僕を殴ってやりたくなった。

 みんなは、剣を持った大人が襲いかかってきているっていうのに、自分のやるべきことをやっていた。


 掛井さんは絶望して震え始めた僕を守るためか、僕を抱きしめて周りの兵士たちを睨んでいる。


 赤葉くんは僕たちを庇うようにカッコつけて立ってるし、小嵐くんは冬でも腕まくりをかかさないその腕の筋肉を見せつけて威嚇(いかく)している。


 藤原くんもスタイリッシュに辞書を構えて……いや、その辞書どこから出したの!?

 明らかにポッケに入らないよねそのサイズ!?


 んん、もっと冷静になろう。辞書なんてもう、この場にいたっては些細(ささい)な事だ。

後で絶対問い詰めるけど。

 そんなことよりよっぽど大事なことがあるのだ。


 気づかないうちに膝をついていた僕の頭は、掛井さんの胸と腕とに包まれている。


 え、何この状況。

 全く予期しない役得なんだけど。暖かいし柔らかいし、なんだかすごくいい匂いがする。


 そういえば、朝の挨拶をした時に今日は香水をつけてみたって言ってた気がする。

 甘い、でも、落ち着く香りだ。ずっとこの胸の中に抱きしめられていたら、どれだけ幸せだろう。


 周りを見るために頭をぐりぐりと動かしたのがくすぐったかったのかな。

 んぅ、と色っぽい声を漏らして頬を染めても、僕の頭を手放そうとしない。


 怯えてる僕をすぐさま抱きしめてくれるなんて、しかも抱きしめ続けてくれるなんて。

 掛井さんはどれだけ優しいのだろうか。


 女神か聖母あたりの生まれ変わりじゃない?

 母性の塊だ。いろいろな意味で。



「勇者とその一行よ。唐突に喚び出しておいての非礼を詫びよう。だが、貴君らが我々に害なす存在かどうか見極めなければならなかったのだ。こちらの事情も理解してくれると助かる」



 幸せに包まれている僕を置いてきぼりに、状況が動き始める。あの偉そうな喋り方をする偉そうな人は、やっぱり偉い人だったらしい。

 多分、国王様だろう。



「そして同時に、貴君らがこの世界に適応するのを待ってもいた。言葉も通じているだろう? 無事、適応できたようで何よりだ」



 僕たちに襲いかかる寸前で剣を収めた兵士の方々は、何か怪しいことをしないかとこちらをじろじろと見ている。


 何人かは、僕が埋もれて形を変えている双球をガン見している気がするが、この色っぽい掛井さんを見てしまったらそれも仕方ない気はする。


 そのうちの一人に羨ましかろう、とニヤけ顔を向けたら、嫉妬と殺意をプレゼントされた。

 物騒極まりない。



「さて、勇者一行よ。貴君らはおそらく事情が把握できていないだろう。よって、このバルドガル国の王たる私が直々に説明しよう」



 どうやら、どうしてこんなことになったのかが説明されるらしい。もう、理不尽な命の危機はしばらくないといいな。

 勇者一行とかいういやーなワードは無視していきたいところだ。無茶な注文なんだろうけど。


 これは掛井さんに甘えざるをえない。彼女も縋りつかれて満更じゃないのか、よしよし、と言いながら頭を撫でてくれる。

 あなたが、僕の母になってくれるかもしれない女性なのか。


 ああ、また嫉妬と殺意が増えていく……。


 ん? なんで僕は嫉妬だの殺意だのを、当たり前のように認識しているんだ? 僕はいたって平凡な高校生のはずなのに?



「今回、貴君らを喚び出したのは、この国を含めた人間の住む領域が(いちじる)しい速度で侵略されつつあるからだ。5年ほど前の話だが、先代の魔族の王が逝去(せいきょ)し、代替わりを果たした」



 それは大変だ。

 でもそんなことよりも、この感覚の変化のほうが気になって仕方ない。



「その結果、新しく王の座についた魔族は強欲でな。人間と魔族の間にあった協定をすべて一方的に破棄したかと思うと、唐突に侵略行為に手を染めたのだ」



 殺意ならまだわかる。多分、元の世界で向けられてもわかったと思う。あれは、とても気持ちが悪いものだ。


 でも、なんで嫉妬を向けられたことがわかった? 1人目は顔を見たけど、その後向けられた嫉妬は、振り返りもしなかったのに誰からのものかわかった……。


 いったい、僕の身に何が起きている?


 考えてみれば、壁際まで結構な距離がある。普通この距離で、彼らのささやき声なんて拾えるものだろうか?


 そういえば、玉座に座っている王様の目からも感情を読み取れた。王族という、感情すらも手玉に取るはずの政治のトップから容易く?


 違和感が僕を支配する。僕の知覚は、こんなに鋭敏(えいびん)じゃなかったはずだ。

 もしかして、本当にもしかすると、これが異世界転移によくある、なんらかの能力の獲得なのか?



「我々人間も必死に抵抗してはいるが、そろそろ限界が見えてきた。そこで、幾つかの国で合同で触媒を集め、秘術とされる勇者召喚の儀式を執り行った」



 だとするならば、僕だけじゃないはずだ。

 さっき藤原くんは辞書を持っていた。取り出せるはずのない辞書を持っていたってことは、つまりそういうことだろう。


 勇者一行と呼ばれる僕たちには、不思議な力が宿っている。おそらく、この世界の人たちのそれより強力なものが。



「代表としてバルドガル国が選ばれたのは非常に名誉なことである。しかし、選ばれた理由はここが魔族との戦線から遠く、勇者を召喚してから前線に送るまでの時間を稼ぎやすいからというだけの理由だ。我が国は未だ豊かだが、一年後にはどうなっているかわからん」



 僕が結論に辿り着いたのと同時、王様は頭を下げた。

 周りの兵士たちがどよめくが、王様は頭を上げようとしない。



「勇者一行よ。一方的な喚び出し誠に申し訳ないが、どうか、我々人間を救ってはくれないだろうか。もう、貴君らだけが頼りなのだ」



 一国の、しかも話を鵜呑みにすれば世界でも有数のはずの国家の王様が、謝罪とともに頭を下げている。

 それだけ、この世界の情勢は詰んでいるということだ。


 強力な力のあてがあるとはいえ、たった5人の高校生にその命運を預けるくらいに。


 その態度はあまりに真摯(しんし)だった。


 こちらを子どもと見下しもしない。どう見てもずぶの素人なのに、きっとなんとかできると信じている。

 この世界の人間の代表が、僕たち5人だけを頼りにしていた。




 それはきっと、特別な能力を手に入れた僕にも、重すぎる期待に違いなかった。


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