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Interlude2 茜の協力、真因は何?

 

「……茜!」

「ふえっ!? 何々、どーしたの!? 何があったの!?」

「助けて」

「──大丈夫。先ずは状況を教えて。ね?」



 朝食のお誘いに来た茜に、助けを求めることにした柚。

 柚の本音を知る彼女は、元気で明るいムードメーカーな一面が印象的だ。しかし、彼女も彼女で隠れた一面もあるのだ。優れた観察力と判断力。有事の際、此処一番での勝負強さ。どれをとっても柚には頼りになる存在として写っていた。


 そんな彼女に、今朝から優の存在が掴めなくなったことを伝える。これから、どうするべきかを一緒に考えてもらうことにした。



「──ふーん。最上くんがねぇ? ……柚、厳しいことを含みで言うけどいい?」

「……ん」

「可能性の話として、落ち着いて聞いてね? ──最上くんは既に死んでいるかもしれない」

「っ!!」



 言葉にしたものを耳にしたとき、無意識的に考えから排除していたものと直面させられ、思わず涙がほろほろと零れ出す。

 そんな柚を見てか、茜は大いに慌てふためいた。



「わわわっ!! ちょっ、ちょっと待って柚! 飽くまでも可能性の話だよ? 落ち着いてよ~!!」

「……んん、ごめん。続き、お願い」

「わ、わかった。ええと、さっきのは最悪中の最悪ね? 私の本命はこっちなんだけど、単純に距離の問題じゃないかなあ?」

「……え? 距離?」

「うん、距離。柚の能力で試してないのってそれくらいかなって。既に亡くなっている人を追ったことないのは当たり前だし、遠距離にあるものは知らないから見ようとする必要もないしね」

「……成る程」



 早合点してしまったが、茜の言うことは尤もだった。遠い場所は、柚にとって『見ようとする必要がない場所』だ。亡くなっている人に対してというのは、言わずもがな、この世界で知人のそうなっている人がいないからだ。



「兎に角、私がオススメするのは事実を知ることかな。柚の能力は『真実を知る』ことで確実性が増すと思うんだよ。だから、確認しようよ」

「……わかった。頑張る」

「ようし! それじゃ、朝ご飯ついでに聞き込み開始といきましょう!!」

「りょ!」






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






「ええ? 最上?? 知らねーなあ」

「朝からいない? そうなのか?」

「それより、二人ともこれから暇だったりしない?」

「あ、忙しい。そりゃ失礼しました」


「モガミ様……ですか? さて、今朝は未だ食堂には来ていないようですな」

「訓練所には顔を出してなかったぞ」

「書庫にもいなかったねー」


「……外れ、ばっかり」

「ものの見事に空振りだねぇ。柚じゃなくても気落ちするよ、これは」



 朝食中の輝や彰を含めたクラスメートに聞いてみるも、優の消息を知る者は居らず、あまつさえ柚達の予定を埋めようとしてきたが、急いでいたこともありばっさりと袖にした。

 他にも、食堂にいる従者や訓練所の兵士、王城書庫の司書さん等、思い当たる人に確認したが、成果は0だった。



「しっかし、最上くんの扱いは今に始まったことじゃないんだけど、非道いよねぇ。今のところ、心配した素振りを見せた人すら見かけないよ」

「……どうしよ、茜。私、ゆ、優に何かあったら……」

「こらこら、ここ、私達二人だけじゃないんだから。呼び方素に戻ってるよ? あーもう、最上くんめ。柚がこんなに心配してるのに、いつもみたいにぬべっとしてたらとっちめてやるんだから!」

「……」



「──あ、あのさ。二人とも、今時間ある? 少し話したいことがあるんだけど」



 訓練所の隅にあるベンチで座りながら話している二人の元に、一人の男子生徒が声をかけてきた。茜の記憶では、彼は柚に気があるクラスメートの一人だったはずだ。

 またお誘いかと辟易しながらも、期待を持たせないような対応をしようとしたが、続く彼の言葉に声を思わず飲み込んだ。



「アイツを探しているみたいだけど、もう此処にはいないよ。だから安心してよ。紫咲さん達を()()してた下衆はもういないんだ。二人は、自由なんだよ?」



 ──今、彼はなんと言った?



 感極まったように、微笑みを浮かべながら一筋の涙を流す彼の様子を見て、背筋に嫌な感覚が流れる茜。思わずいつも通りの笑顔まで歪めてしまうところだった。


 しかし、どう返答しようか。彼は何らかの情報を知っているのは間違いない。

 だが、彼の様子から、あまり刺激するのも良くない気がする。オブラートに包んだ表現で、彼の興味を引きつつ望みの回答を得るためには──と、そこまで考えた所で。



「──洗脳って、何?」



 ボソッと、小さく呟かれたソレは、彼と茜の耳朶を打った瞬間、彼女の途轍もない怒気を孕んでいることを知らせた。それこそ、茜の思考を中断させるくらいには。


 そのまま柚は彼に歩み寄ったかと思うと、襟口を掴み締め上げる。

 身長差があるため持ち上がることはないが、彼からしてみれば下から睨み上げる視線には堪えるものがあるだろう。柚に好意を持っているなら尚更だ。



「誰が、誰を洗脳している、って?」

「ぐっ……うぅ……」

「あー、柚。ストップ。そのままじゃ、彼。話すことも出来ないから」

「……。『障壁を展開することを望む』」

「あらあら」



 茜が声をかけると、襟口を掴んでいた手を離し、尻餅を付いたところで、[結界]スキルによる障壁を彼の周囲に展開した。これで、彼は柚がスキルを解除するか、展開された障壁を何とかして突破しなければ逃げ出すことが出来なくなった訳だ。



「──それで? 君は何を知っているのかな? 正直に言わないと、どうなるかわからないよ?」



 勿論、私じゃなくて、柚がね? と、茜が付け加えて指し示す方向には、凍てつくような視線を彼に投げつける柚が。いつもの感情表現が下手な彼女が、ここまで感情を発露させるのは優に関わることくらいしか見たことがない。


 そんな彼女のことを知らずに、洗脳と言い切る彼は、一体彼女の何を知っているというのだろうか。──そして、優のことも。



「な、なんだよ!! 確かに今まで紫咲さんや美咲さんがアイツに話しかけていたのは知ってるけど、あれは同情とか憐れみからだろ!? クラスでイジメられているアイツが、ただ可哀想って思ってただけなんだろ!? だったらコッチに来てからも関わるなんておかしいじゃないか!! あの日(・・・)、紫咲さんはどう考えても、学校に居るときよりも嬉しそうな表情だった! あの時だろ? 紫咲さんがアイツに[洗脳]スキルをかけられたのはっ!!」

「あの日? ねえ、柚。彼の言うことに心当たりは──」



 現状を受け入れられず許容量限界(キャパオーバー)を起こしたのか、考えが纏まらずにも持論をぶちまけた彼。そこに、気になるワードがあったため、茜は思い当たることはないか柚に確認しようと視線を投げかけた。


 が、そこに居たのは先程までとは打って変わって青褪めた顔をした柚だった。


 まるで、何かに怯えるように、少し震えながら、彼に問いかける。



「……こ、答えて。あの日っていうのは、一週間前くらいの、こと?」

「だ、だったらなんだよ。紫咲さんがアイツの部屋から出てきたとこだよ!」

「……っ!! なんで!? なんで、貴方が彼処(あそこ)にいるの!? 私は、ちゃんと、この『眼』で見たのに!! ねえ、答えてよ!!」



 いつもの黒目から、煌びやかな金色に輝く瞳に切り替えた彼女の慟哭が響く。[千里眼]を発動中、彼女の瞳の色が変わる。感情に突き動かされ、無意識的に発動してしまったのだろう。


 だから、彼が行ったことを、自発的に、知ってしまった。

 千里眼による、未来視の亜種。過去を見る力によって。



「……なに、それ。[スキル:気配遮断]……? なら、優がいなくなったのは、私の──」

「柚!!」

「……ッ!!」



 バリン、と何かが割れるような音がしたかと思うと、彼と茜に背を向け一目散に走り出した柚。

 前者は障壁を解除し、割れ去った音だ。これで、柚は彼に聞きたいことは無くなったのだろう。

 ただ、あの顔面の蒼白ぶりはフォローが必要だろう。あのままでは何をしでかすか、わかったものじゃない。


 だが、茜にはまだやることがある。それを終えたら直ぐに彼女を追おう。



「あ、君。もう自由だよ。障壁はないからね!」

「あ、ありがとう」

「? 何のお礼かな。私はね、親友の心を傷付けられてまで、良い顔が保てるほど、人間出来ちゃいないんだよね!!」

「──え?」



「だから、二つ程ね。『二度とスキルを使うな』、『知っていることを洗いざらい吐け』」



 笑う茜の顔は、普段よりも口に弧を描いていた。


 その後、彼は優について知っていることを全て茜に話し、スキルを使うことが出来なくなった。


 茜に指示された記憶は、全く残さずに。

 


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