7 魔の森からの脱出、眠れない優。
「とは言え、こんなヤバい森に居座る必要もないし、さっさと抜け出すことにしよう」
メニュー画面を呼び出し、[ストレージ]を選択。ゲーム時代の相棒とも呼べる移動手段を探す。
「お、あったあった。魔改造シリーズ[自動二輪:SOAR]っと」
[ストレージ]の中で目的のアイコンに触れると、目の前に対象物が実体化する。鈍い輝きを放つ黒い車体に、溝の無い特徴的な車輪が2つ付いた二輪車だ。
ゲーム時代の移動手段というのは、基本的に徒歩だった。国から国へ渡る方法も、ファンタジー特有の転移系ポータルすら無かったため、列車や船等がメインだった。古参の魔法職の中には転移系魔法を扱う者もいたが、魔力を膨大に消費するため、実用的では無かった。魔物を狩りに行く目的で、移動に魔力を大量消費、戦闘時には役立たずなんて本末転倒だ。
それに、優は生産系のスキルしか興味が無かったため、魔法を極めた末に扱える転移系魔法など獲られるはずもない。だからこそ、移動手段を造ることにしたのだ。
その移動手段の一つが、このSOARだ。Soarと名付けたこの二輪車は、その名の通り路面を走ることはない。どこぞの耳無し猫型ロボットのように少しだけ浮いた状態で滑るように進む。多少路面が悪くても振動も無く、快適なスピードを保つことが出来る優れ物だ。
更に、走っている間は風系統の魔法が付与してある二輪車本体から障壁が張られ、スピードを出し過ぎても適度な風圧に軽減される。何かを跳ね飛ばしたとしても、ある程度の衝撃は無効化してしまうレベルの強度もある。
他にも何点か武装と呼べる代物が装置されているため、最早通常の自動二輪ではないことは確かだ。だからこそ、魔改造シリーズという名称が入っているわけだが。
「おお。ちゃんと出て来た。これなら森の外まで、なんとかなるだろ。……あとは、これとこれ。それに[マップ]機能をONに、と」
次に優は[ストレージ]からライダースーツとフルフェイスのヘルメットを選択し、メニューに映る自分のデフォルメされた姿に放り込む。
すると、一瞬で優自身の格好がそれらを装備した状態に変化する。やはりログの情報通り、そのあたりの仕様もゲーム時代と変わらないらしい。
そして、[機能]から[マップ]のON/OFF設定をONに切り替える。直ぐに視界右上に、半透明のウインドウが現れる。周辺エリアの俯瞰図が表示されており、敵性個体を赤・黄・緑・青の点で表している。赤から青へ向かう毎に脅威度が下がり、緑が『プレイヤーにとって、討伐対象として推奨される強さの個体』となっている。
「うへえ。結構魔物いるな……。確かマッドグリズリーって夜中の動く物に対して無差別に襲い掛かるんだったか? ということは、それよりも弱い魔物はなるべく動かないはずだよな。 なら、この動いている奴らは熊さん以上の魔物ってことか。……でも、青い点ばかりだなあ」
余りの魔物の多さに辟易してしまう優だったが、マップに表示されている点は全て青だった。脅威度は装備を含んだ状態で区分されるため、[太陽を僅かに再現す]や[SOAR]といった凶悪な武装で補正された情報となっている。勿論、素の優では全ての点が真っ赤に染まるのだが、考えないようにしているようだ。
「──よし。準備完了! 目標は夜が明ける前にこの森を脱出だ! いくぜおらあああああああ!!」
アクセルを全開まで踏み込み、フルスロットルで駆け出す。
周りにいる魔物を、手当たり次第に巻き込み消滅させながら。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「──お、やっとか。いやー、マップだと近くに見えたんだけど、中々時間かかったなあ」
森を抜けることが出来たときには、既に日は高く昇っていた。夜が明けるどころか昼前になってしまった。
途中、木が邪魔になれば圧し折り、魔物が居れば跳ね飛ばし、最短距離で王城とは反対側に出たつもりだったが、思いの外距離があったらしい。
「ああ、もうダメだ。安心したら、眠気が……。うう、SOAR仕舞って、これとこれ。あと服とか変更して……」
手慣れた動作で二輪車を[ストレージ]に片付け、新たに2つのアイテムを取り出す。
一つはミニチュアの家だ。名称は[携帯型亜空間ログハウス]。地面に放り投げると、たちまち原寸大のログハウスになる。二階建てで、延べ60坪程度の広さを持つ。ガス・電気・水道完備に露天風呂付きの至れり尽くせりな仕様なのは、優の趣味だ。
そして、もう一つは丸い円盤のような物。こちらは[透過結界陣]という名称で、結界を発生させるアイテムだ。通常、結界とは何らかの対象を防ぐ効果を持つ物だが、このアイテムは陣を設置した範囲を透過させる効力を持つ。
例えば優の周り半径5mを指定して発動すると、その範囲に足を踏み入れた瞬間、入った反対側に出てしまう。10mの間を通り抜けるのだ。そこに何も無いかのように。
この二つのアイテムを組み合わせることで、誰にも気付かれない移動型別荘として扱えるのだ。寝てる間に魔物に破壊されましたでは、困るからこその配慮と言える。
ライダースーツから、寝やすい格好に変更する。上下の白地に淡い紫の水玉模様のスウェットだ。ログハウスを放り投げ、原寸大にした後、[透過結界陣]をログハウスの前に、これまた放り投げる。直径30cm程の円盤である陣は、ある程度の所で空中に静止し、回転しながら巨大化していく。そして、ログハウスを包み込む程の大きさになったとき、地面に溶けるように沈んでいった。
優はそれを見届けることなく、ログハウスに入り寝室に直行した。眼鏡とヘアゴムを[ストレージ]に放り込み、ベッドへダイブする。
「ぶはっ。ひさしぶりのふかふかベッドだー。あー癒される……。取り敢えず惰眠を貪ろう。お風呂は起きてからで……ゆっくり、と…………」
簡素な部屋しか与えられていなかった、たった一週間ちょっとの王城生活だが、知らず知らずの内に元の世界とのギャップでストレスを溜め込んでいたらしい。それが今、緩やかに抜け出していき、瞼は重くなり、ゆっくりと閉じようとしたところで──
「────優っ!!」
「!! え、はい!!」
──カッ!!
一瞬、眩い光が発生したかと思うと、優の名前を叫びながら飛び込んで来た闖入者が現れる。
思わず返事をしてしまったが、どうやら優には未だ安眠する事が許されないらしい。




