表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

6 タイトル回収。

 

「一つ。部位破損:右脚を確認。対応に移ります」



 気を失ったはずの優は、意識の無いまま喋り出す。更に初めて見るはずのウインドウを手慣れた様子で操作する。


 先程まで襲っていた恐怖心は完全に(なり)を潜め、異常なまでの無機質な瞳で淡々と処理を進めようとしていた。



「アイテムストレージから[Rank(ランク)7(セブン).ポーション]を使用します」



 言葉と同時にウインドウの操作を一時中断すると、何もない空間から透き通った赤色の液が入った、無色透明な瓶が出現した。


 優はそれを掴むと、瓶の蓋を外し中身を右脚の切断面にぶちまけた。そんなワンアクションだが、効果は劇的だった。脚の切断面から肉と骨が隆起し、一瞬で元通りの脚が生えてきた。元世界の常識では異常な光景であるのにも関わらず、優の表情は微動だにしない。まるでそれが、当たり前の事のような反応だ。



「部位破損:右脚の回復を確認。2つ、脅威対象を確認。対象:Rank3(スリー).マッドグリズリーと判断。対象の処理に移ります。アイテムストレージから[太陽を僅かに再現す]分類:手首輪(リストバンド)を装備します」



 熊の魔物──マッドグリズリーというらしい──を処理するという発言と裏腹に、ウインドウを操作した後に出現したのは黒い手首輪だ。赤い幾何学模様が描き込まれている。それが、優の手首に収まる。同時に、操作していたウインドウが消え、停止していた時間が動き出す。



「……GRRUUuu──AAAAAA!!!」



 マッドグリズリーは自分の時間が止められていたことなど気付くことすらない。先程と同じように優が全く知覚出来ないスピードで、今度は彼の首を叩き落とす。


 否、落とそうとした。



「──────!!」



 しかし、それは声無き悲鳴と共に一瞬で蒸発したマッドグリズリーには行うことが出来なかった。


 優の手前2mまで迫った瞬間に、優を光輝く球体状の()()が覆い隠した。正面からその膜に衝突したマッドグリズリーにとっては、突然目の前に壁が現れたように見えただろう。その表面に触れた途端、意識どころか命まで失うとは、最期まで思うことなく。



「──脅威対象の処理を確認。3つ、素材の回収を開始。対象が消滅しているため、今回は素材の回収は不可と判断します。是を以て、オートパイロットを終了します」



 最後まで、淡々と処理に徹した優はそう呟くと電源が切れたかのように膝から崩れ落ち、地に伏せた。完全に気を失っているようだった。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「……ん、んん」



 目を、覚ます。

 意識が徐々に覚醒していくにつれ、あの熊を思い出す。



「──ひっ!! う、うわんぐっ!?」



 先程までの恐怖心から、小さく息を呑み大きな悲鳴を上げそうになったすんでのところで、自らの両手で口を塞ぐ。当たり前だ。こんな魔物の蔓延る森で大きな物音を立てるなど自殺行為である。とはいえ、優がされたことを鑑みれば、声を出さないように出来たのは大金星だろう。



「……すー、はぁー……。落ち着け、平常心だ。今の状況を自分で台無しにするわけにはいかないよな。……それで、何が起こったんだ?」



 優は、パニックにならないよう一つずつ思い返してみる。しかし、熊に右脚を削ぎ落とされてからの記憶は朧気だ。どう足掻いても、出てこない。



「夢オチ……じゃないよなあ。現に右脚はあるけど、ズボンは切り落とされた脚の記憶と一致している部分で無くなってるし。……うっぷ」



 努めて冷静にしても、記憶に残る嫌悪感に吐き気を催す。だからこそ、右脚を失ったのは事実だと確信出来ているというのも皮肉な物だが。


 そこで、手首に違和感があることに気付いた。しっかりと継ぎ目なく輪として成立している手首輪を見て、どうやって嵌めたのか不思議で仕方が無い。手首にぴったりと嵌まっているこの輪に対して、どう見ても手の方が大きいため、そこを通すことも出来ないはずだ。


 ……しかし、この手首輪。どこかで見たような気がしている。なんだろうと無意識的に手を触れるとピッ、と小気味良い音と共に小さなウインドウが表示された。




 名前:太陽を僅かに再現す

 分類:手首輪(リストバンド)

 装備位置:手首

 概要:敵性対象に対し、自動障壁を展開する手首輪を魔改造したもの。太陽の表層部分であるコロナに近しい状態の障壁を自動展開する。効果範囲は自身の周囲半径2m。意図的に操作する際は、太陽風(もど)きを発生させ、非常に高温のプラズマによる攻撃が可能となる。

 プレイヤーメイド:サイジョウ




「──これ、は」



 この装備の名前、説明。そして最後の[プレイヤーメイド:サイジョウ]という一文。



「は、ははは。いや、まさかそんなわけ無いよな。……でも、モノは試しというし……」



 地面に座り込んだままの姿勢だった優は、おもむろに立ち上がり()()()()()()()()()()()()()()()


 すると、チリリリンッとステータスボードを開く音に近しい音色が響いたと思うと、これまたそれに似通ったウインドウが表示された。


 しかし、そこに書かれた内容はステータスボードとは異なる物だった。装備、ストレージ、所持スキル、機能、設定、ログアウトという6つの単語。その横には優のデフォルメされたような絵が描かれており、首や手首等に[スキル封じの首輪(呪)]とか[太陽を僅かに再現す]とか書かれたアイコンから矢印が向けられている。


 優は半ばダメ元でも試さずにはいられなかった、他の文字列に比べると若干()()がかった[ログアウト]に触れてみた。



「……何も起こらない、か」



 ダメ元とわかっていても、落胆の色は拭えない。

 これさえ機能すれば元の世界に帰ることも出来たかもしれないのだから。


 しかし、このウインドウや装備名、サイジョウという名前で完全に記憶と一致してしまった。これは──。



「[Under(アンダー) World(ワールド)]だよな。クソゲーと名高い。にもかかわらず、俺がのめり込んだ手間のかかるオンラインゲーム」



 中学生になった頃から今尚続けているVRMMORPG。『貴方の手でもう一つの世界を生きてみませんか?』という謳い文句に因んだ、自由度の高いゲームだ。発売当初多大な注目を集め、ゲーマーなら誰しもが一度はプレイしたことのあるゲームとなっている程だ。


 しかし、延べ人数は多くても現在のプレイヤーはかなり少ないことになっている。一度は触れたとしても、継続しているプレイヤーは稀なゲームなのだ。


 プレイヤーを選ぶ問題は、仕様(システム)にある。

 まず、このゲームにはレベルがない。ただひたすらにスキルになりそうなものを反復していくことで、スキルが芽生え、熟練度が上がっていくだけだ。個人の能力は全てプレイヤースキルに依存する。


 この時点で、大多数の人間が脱落する。他のゲームのように能力値を上昇させ、力が強くなったり、すばやさが上がったりする事はない。そのため、現実の反射神経や器用さ等の要素がそのままフィードバックされるのだ。


 次に、メニュー画面の仕様。メニューを開くと、周りの時間が停止する。オフラインゲームであれば有りがちな仕様だが、オンラインゲームに取り入れたのは本作が最初で最後だ。


 この仕様の悪影響は、プレイヤーがいればいるほど回線が重くなり、ラグが増えていくといった点だった。最早、不具合の域にあると世論は言うが、運営は仕様の一点張り。


 そして最後に。スキルの習得及び熟練度の上昇の難易度が高いという点。


 例えば、情報共有サイトにスキルの仕様と一覧が載っていたとする。[スキル:剣術]としよう。


 しかし、プレイヤー自身は知っていたとしても、ゲームのイベント上で[スキル:剣術]を知り得なければフラグが回収出来ていないこととなり、どれだけ剣を振っても習得は出来ない。


 また、フラグを回収したとしてもスキルを習得するまでの時間はリアルタイムで一週間程、つまり24h(時間)×7日で168hかかってしまうという気の長い設定となっている。


 某まとめサイトの言葉でこのゲームを表すならば、『クソゲー乙』とまで言わしめるレベルだった。


 余程の凝り性で、気の長い人じゃなければ耐えられないと言われたこの[Under World]。実は優のお気に入りゲームだった。


 彼が目を付けたのは[自由度]。運営の公式ページにも記載があるのだが、『ゲーム上に存在する全ての物がプレイヤー自身から生み出すことが出来ます』という点に尽きた。


 [サイジョウ]と名付けた彼のキャラクターは、気の遠くなる単純作業の後、五年という月日を捧げた結果だが、生産系のスキルを片っ端から熟練度をカンストさせていた。


 お陰で高校三年生になってからはゲーム上のアイテムは課金アイテムも含めて作成し尽くし、遂にはオリジナルのレシピを製作し好き放題このゲームを楽しんでいた。


 正直、この異世界に来たときに一番凹んだのは、このゲームを二度とプレイ出来ないのではないかという点だった。折角、人生の約三分の一の余暇を使って、やっとの思いで好き放題するまでに至った物だ。流石に凹む。



 それが、もしかしたら今、現実になったと思うと、やはりテンションは否応なく上がる。



「───いやいやまてまて。そうだ。ステータスボードを忘れていた。あのゲームには能力値等存在しなかったし、あんな表示画面もなかった。……そうだ。あれがあったか……」



 思い出した物をウインドウから選ぶ。[設定]の中から、[ログ表示]を押す。



『ログ表示の設定を切り替えますか? ON or OFF ※現在の設定はOFFです』



 迷わずONを押す。すると、新たにウインドウが表示される。この設定は今までのゲーム上の行動履歴を確認するための物だ。


 一番新しい一文は『マッドグリズリーを倒した』となっている。ゲーム時と同じくウインドウをスライドして過去ログを確認していく。そして、一番過去の物を発見すると──。



『[Under World Reality ─ポラトリア─]へようこそ!』

『[スキル:継承]の発動条件『異世界への移動の際、類似の神域規則における能力を所持』を確認。[スキル:継承]を発動します』

『類似の神域規則を持つ[Under World]より、システム・アイテム・スキルを継承しました!』



「[ポラトリア]に[神域規則]……?」



 わからない単語があったため、ログ表示ウインドウのその文字列に触れるとヘルプウインドウが追加で出現する。便利な物だ。




 Under World Reality ─ポラトリア─:Under Worldの原典。この世界の情報が零れ落ち、とある世界の地球という惑星に生きる人類がVRMMORPGとして創作したものがUnder World。


 神域規則:世界を創った神の規則。世界の根幹となる原則であり、世界毎で異なる物。詳細は不明。




「なるほど、ということはつまり……?」



 ・異世界召喚に巻き込まれたが、その異世界とは自分がプレイしていたゲームの元となる世界。

 ・ゲームの原典となる世界だったため、異世界召喚時に付与された[スキル:継承]が発動し、ゲーム上のシステム,アイテム,スキルが適用された。

 ・メリットは、スキルやアイテム等をゲームと同じ様に使えること。

 ・デメリットは、ゲームのシステムを引き継いでいるため、能力値上昇の可能性が0ということ。


「……よし。これなら、なんとかなるどころか楽しく生きて行けそうだ」


 デメリットは挙げてみたが、正直メリットが大きすぎて顧みる必要すらないだろう。能力値が上がらない状況で、ゲームの世界でも一度も死んだことはない。この世界がゲームよりも厳しい物であればアレだがマッドグリズリーの脅威度がRank3なのもゲーム時代から変わっていないところを見るに、装備を整えておけば問題は無さそうだ。命を懸ける恐怖感や、命を奪うことに対する忌避感はなんとかしなければならないかもしれないが。



「ふむふむ。とりあえず、状況は把握できた。現状をラノベのタイトル風に表すならばそれは──


 巻き込まれた召喚の先は、マイナーゲームの舞台でした。


 ──ってか?」

 


 こうして優はスタートラインに立つ。これからの自由な世界に思いを馳せながら。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ