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5 反逆疑惑、森の熊さん(亜種)。

ちょいグロ注意。

 

 ど う し て こ う な っ た ! !


 

「ユウ・モガミ。貴様には反逆の容疑がかけられている。貴様の首に付いたそれは[スキル封じの首輪]。もう、貴様の[洗脳]スキルは誰にも付与できまいて。兵士達よ、この者を[魔の森]へ連れて行け!!」

「「「ハッ!!」」」



 明くる日のこと、優はいつも通りの就寝時間で睡眠を開始したが、途中で部屋付きの使用人に叩き起こされた。その時には既に首に違和感があったが、そのまま両手を荒縄で拘束され王の前まで通されたと思うと、この台詞である。まるで意味が分からない。



(洗脳? なんだよそれ。俺にはそんなスキルはないし、寧ろそんな便利スキルがあるなら、とっくに自分からこんな城抜け出している)



 優がわかることは、洗脳スキルで反逆しようとしたと思われていることくらいだ。お陰様で[スキル封じの首輪]なんて大層な名前の物を付けられてしまった。



(名前からしてスキルが使えなくなるのだろうが……、元々使えるスキルなんてないんだよな)



 自分で思って、悲しくなる優。冷静に考察をしつつも、やはり少しテンパっているらしく、情緒不安定だ。



 兵士達に連れられ、王城の外へ。城下町とは反対側の門へ向かっているようだ。その遥か先に見えるのは、鬱蒼と生い茂る森だ。(くら)く深い印象を与えるその森は、[魔の森]と呼ばれ、魔物達が闊歩する闇の領域(ダークテリトリー)だ。


 魔物というのは、自然物に対して魔力による悪影響が起きたときに発生する災害という扱いの物だ。悪影響というよりも暴走と言った方が正解かもしれない。魔力によって自我を失い、破壊衝動に突き動かされる、正にモンスターとなってしまう。


 なら、魔力とはなんなのかというと、魔法を使う力という考え方で間違ってはいない。ただし、魔法を使うために使うエネルギーという意味だ。魔法に使わなければ、方向性のないただのエネルギーということになる。これが、物質に対し様々な影響を与える物とされ、目下研究中らしい。



 閑話休題(それはさておき)



 そんな危険物が住む森林に、どうやら優は置き去りにされるようだ。



(あ、これ詰んでますわ)



 森に入ると、兵士達は白い瓶を取り出し、その中身を振り撒いた。



(あれは、書庫で見た記憶がある。魔物除けの聖水だったかな。教会で入手出来るけど、確かかなり高額って言っていたと思うが……)



 魔物除けの聖水が効果の有るものとして考えると、本当にこの森は魔物が出現し、ああいったアイテムが必要だということが理解できる。優は背中に冷たい物が流し込まれた感覚を覚えた。

 生まれて初めて、命の危険が迫っているのだと。



「団長! 所定の位置に到達致しました! 周囲に魔物の気配はありません!」

「よし、ならば早々に撤収しよう。こんな危険な場所に長居する理由はない。……チッ」



 優が一度も見たことのない団長と呼ばれた彼は、舌打ちと同時に座り込んだ優に向けて、腰に携えた剣を振り向きざまに振り抜いた──



──斬──



「……ふん。何処へでも行くが良い。五体満足だったとしても、抗えない絶望があるということを噛み締めながら、な」



 どうやら彼は、優の腕を拘束していた縄を断ち切るために剣を抜いたようだ。その理由は、優の身体が自由であったとしても意味がないという絶望を味合わせるため。


 ──とはいえ、失禁しながら気を失ってしまった優には、聞こえていない話だが。



「気絶したか。丁度良い、撤収だ」

「「「ハッ!!」」」



 城へ戻る際に、道を攪乱する手間が省けたと少し口元が緩む団長等第一騎士団数名は、真っ直ぐ王城へ帰還していった。


 気絶した、優を残して。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「嗚呼、何が悲しくて危険地帯で自分のお下の世話をしなけりゃならんのか……」



 気が付くと一人森に取り残されていた優は、湿ったズボンを近くに流れていた川で洗っていた。

 乾かす方法もないので、そのまま冷たいズボンを履き直し歩き出すことにした。



(魔物が出たらアウトなのは確かだけど、死にたくない。なんとか逃げる手段を考えておかないと。というか、寝て直ぐに起こされた弊害か、かなり眠い。野営とかしたことないぞ)



 次々に上がる問題点。どう考えても先が無い。詰んでいる。しかし、どうにか突破口をこじ開けたい。



(……まずは、この森から抜け出さないことには始まらないな、うん)



 現実逃避気味に考えを強引に纏め上げ、行動を開始する。


 こういう場合、無理に移動すると後悔することが多数だが、今はじっとしていても死に近付くだけだ。後に死ぬか、先に死ぬかの違いかもしれないが、少しでも長生きがしたいという生存本能に無意識的に従ったのかもしれない。





──それが、彼の者を呼びつける要因になることも知らずに。





 カサリ。と葉の擦れるような音を聞き取ったのは幸運だった。更に、反射的にその音に恐怖を感じ転がったのは奇跡に近い。二度目はない。



「──GRUUOOOOOAAAAAA!!!!」



 苛立ちと口惜しげな咆哮が、通り過ぎた3m程の巨体から響く。自然と其方(そちら)に視線が向く。


 熊。優はそう判断した。


 額に15cm程度の鋭利な角が三本付いている。その時点で彼が知る熊とは別物であることがわかるのに、彼は気付くことすら出来ないほど一種の恐慌状態に陥っていた。


 優は知らない。その熊と判断した生物は森の中で生きる魔物として、上位に存在するモノだと。それは、夜に動くエモノを察知し狙い定めるという、優の行動が裏目に出る特性を持ったモノだと。



「──あ……うぁ」



 ──一度目は避けることが出来た。でもこの後は?

 ──あの丸太のような腕を振り抜かれたら?

 ──あの大きな口で噛みつかれたら?

 ──俺の身長の倍くらいある体格で体当たりでもされたら?



 そんな考えが浮かんでは消え、結果動くことも出来ず。


 出来たことは喉から震える声とも呼べぬ音を鳴らすだけ。


 だからこそ、それは必然だった。


 突然、優の視界が斜めに傾いた。


 身体も、何故か支えきれずに右横に倒れ伏す。



「──あ、れ? なんで────あ」



 倒れた原因を探るべく、足元に視線を投げると、先程まであった右足が──無くなっていた。


 少し離れた場所には自分の右足が膝ごと転がっている。


 そして、遅れて、襲う、痛みが──。



「あ──あああああぁぁあ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛っ!!!!」



 涙と鼻水で顔はボロボロ、悲鳴は喉を引き裂きかねない勢いで。立ち上がれない身体を引きずり、既に存在意義の無くなった打ち捨てられる右足に手を伸ばす──が。



 ぐしゃり。



 右足を一瞬で削ぎ落とした犯人である熊の魔物は、ゴミのようにそれを踏み潰した。


 その丸太のような前脚を挙げれば、そこには原型を留めていない優の右足。


 そして、次はお前だと言わんばかりの。



「GRUUAAAAAAA!!」



 咆哮と、獰猛な笑みを優に向けた。



「ああ!! ぅ、うああっ!!」



 痛みと恐怖でパニックになった優は、既に言葉を発することすら出来ない。効果もないのに腕を大きく振り始めた。それこそ、子供ががむしゃらに喧嘩をするように。


 そんなときだった。



──チリリリンッ♪──



 軽快な鈴の連続音と共に、どこかで見たようなウインドウが優の前に表示される。


 しかし、優はそれの内容を見る余裕は無い。目の前の熊の魔物が固まっているのにも気付かない。まるで、()()()()()()()()()かのように。


 そんな優が振り回していた腕が、ウインドウのある一部に当たる。そこに触れると、更にウインドウが現れる。書かれている内容はこうだ。



『オートパイロット状態に移行しますか? YES or NO』



 またもや闇雲にウインドウに触れる優。


 そうして、彼の意識は闇に落ちていく。“YES”に触れた腕を最後に。

 


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