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4 変わらない能力値、変わりそうな状況。

 

 あれから、一週間。


 王城での訓練生活は無難に続いていた。


 今のところ、奴隷のように強制労働させられることもなく、それぞれの自主性に則った生活を送ることが出来ている。


 睡眠・食事の時間はある程度固定されているものの、他は王城の敷地内であれば自由に行動出来ている。


 訓練施設で能力の向上を目指しても良し、教育担当者や書庫から知識を得ても良し、部屋で閉じこもっているも良し。


 あくまで、表面上はそういった形になっているといっていいはずだ。勿論、一番最後の引き籠もり勢に相当する連中に対して、良い感情を持たない人がいるのは当たり前のことなのだが。


 現に、優が訓練している時でさえ、そういった感情は滲み出ている。



「……ふむ。ユウ殿。貴殿は辛くないのか? 一部の勇者様は力があるというのに部屋から出ようとしない者もいるではないか。力が無い貴殿こそ、じっとしていた方が安全だとは考えなかったのかね?」

「はは、手厳しい、ですね。……辛いに、決まってるじゃ……ないですか」

「ならば、何故?」

「僕は、力がない。だから、選択肢を、増やさなければ、なら、ない」

「選択肢?」

「いざという時、力が無ければ、何も掴み取ることは、出来ない。けれど、力があれば、力が無くとも経験があれば、手が届くかもしれない。そんなとき、後悔したくは、ありませんから」

「……惜しいな。何故君のような者へ祝福が無かったのか。我が国は無駄飯食らいを養う余裕等無いはずなのだがな」

「そんな、つれないこと、言わないで下さいよ。『戦い』とは無縁の世界から人を誘拐しておいて、戦えないから用無しだなんて酷いです」

「む。確かにその通りだ。──さて、減らず口が聞けるほど息も整ってきたのだ。続きをするか?」

「勿論。よろしくお願いしますっ!!」



 訓練は、独学も可能だが正規の兵士に教えを請うことも出来る。優も独学で訓練が出来る程専門的な知識は持ち合わせていなかったため、一般兵クラスの人に教えを請い訓練を行っていたのだが、それを偶々見止めた第二騎士団長様であるフェイエル・クローニからのご指名で、今では乱取り稽古もどきの訓練をしてもらっている。


 ただし、此方から攻撃出来るはずもなく、避け続けるだけのため周りから見れば無様でしかないようで。



「おいおいおい、またやってるぞアイツ」

「恥ずかしくないのかねー。どうせすぐ死ぬのに生き恥晒して」



 酷い言われようだ。


 クラスメートにはこんな感じでボロクソに言われている。しかし、誰も表立っては言わない。


 少し前に、目の前のフェイエル第二騎士団長様が一喝したからだ。この人は人間的に出来た人のようで、真面目に訓練している人間に非難を向けることが許せなかったらしい。


 だからこそ、力がある者が何もしないという引きこもり勢には良い感情を持てないのだろう。

 騎士団関係者はほぼこのパターンだ。力を持つ者には責任を、という考え方が根強いらしい。


 さて、この訓練だが、実際に優の能力は低いため、華麗に躱すことなど出来ないので、全身を使って転げ回ったりするしかない。無様でないとは自身でも言い難いのは確かだった。


 そんな訓練を続ける上で、一つ、気掛かりな点が浮き彫りになってきていた。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 名前:最上 優

 年齢:18

 性別:男

 心:10

 技:10

 体:10

 スキル:[継承]

 称号:[巻き込まれた者]



「……誰だよ。ステータスは訓練次第で伸びるとか言った奴は」



 自室で思わず頭を抱えてしまう優。


 それもそのはず。スタート時点で周りとの能力差が有った。それが全く縮まる所か、開く一方なのだ。

 今、勇者である皇は能力値が全て軽く500を超えている。他のクラスメートも訓練や勉強をしている者に関して、能力が向上していない者など存在しない。


 ()()()()()



「これは、俺自身に問題があるのか? しかし、原因が全くわからない」



 書庫で調べても不明。知識関係の教育担当からも回答は無い。


 騎士団でもそういった例は過去に見たことがないとのこと。


 能力の推移が一切無い事例など一般人でも有り得ないと言われれば、どれだけ自分が異常がわかってしまう。



「少なくとも、一般市民としてなら生きていけるのだろうか。商人とかなら、直接能力値は関わってこないだろうし。あ、でもスキルの関係があるのか。それに、市民権とか得られるのか? いや、そもそもそういったものがあるのかどうかさえ……」



 一度思考が逸れると、中々戻すことが出来ない優。

 時間は、刻一刻と迫っていることも知らずに。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 一週間前の、柚が優の部屋に訪れた日。



「……チッ。なんであんな奴の所に紫咲さんが? しかも、あんな表情見たことがない。何故笑みを浮かべてるんだ……?」



 優の部屋から出て来た微笑みを携えた柚を、曲がり角で偶然覗き見てしまったクラスメートがいた。

 彼は、自分よりも下に見ていた優に、柚との、少なくとも自分よりも深い関わりを見てしまったことで嫉妬心を抑えることが出来なかった。



「──そうか。こんな世界だもんな。アイツ、いつの間に[洗脳]なんて下衆(ゲス)なスキル覚えたんだ? クソッ!」



 行き過ぎた嫉妬心は、疑心暗鬼を生み出し、何の根拠もない考えに到達した。ファンタジー世界ということが拍車をかける。それを本当の事のように周りに語る彼。


 これが、引き金。



「紫咲さんだけじゃなく、皇君や天上院君、美咲さんも洗脳しているらしい」

「だから、よく一緒にいるのか。なんか裏があると思ったんだよなー」

「あと、第二騎士団長との訓練とかさ」

「ああ、あれね。あんなゴミにばっかり付き合ってるのも、それが理由ね」



 今では、ここまで広がった悪評。



 優は知らない。既に彼が想像していた『王城追い出されパターン』の既定路線に載っていることに。

 

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