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Interlude3 柚・茜の想い、城からの脱出。


「柚ー? ゆーずー? もーしもーし!」

「……ん、茜?」

「んもー、駄目だよ? 部屋、ちゃんと戸締まりしなきゃ。何があるかわかんないんだからね?」



 クラスメートからの情報を聞いた後、優が此処から居なくなったことは自身に原因があったことを知り、ショックを受けた柚。

 ひとしきり自室で泣き喚いた後に、どうやら寝てしまったらしい。部屋のカギも閉めずに。

 寝たからといって、精神的な疲れは全く取れていないが。



「それで? いきなり走っていくからびっくりしたんだよ? ちゃんとわかったこと、話してよね!」

「……ん。わかった」



 自身のため、一緒になって手がかりを探してくれた友人の質問には答えなくてはならないと、僅かばかりの義務感で理論武装する。でなければ、羞恥心で逃げ出したくなってしまう。



「……優は、私のせいで、城を追われたんだと、思う」

「……続けて」

「一週間くらい前。私、優の部屋に行ったの。今後の方針として、優の意見が聞きたくて。それに、優は自衛する手段がなかった。だから、護りたくて。でも、それがいけなかった。私、自分の力を、過信してた。皆とは違う、眼を持ったから、大丈夫だって。優にも、大丈夫って。いったのにぃ……」

「あーもう、よしよし。泣ーかーなーいーのー」



 堪えきれず、溢れ出す涙に、たまらず言葉が途切れる柚。それを見た茜は頭を撫でつつ慰める。

 柚のスキル[千里眼]は見ようとすればなんだって見ることの出来る力だと、茜は考えていた。特に想いが強ければ強いほど、その力の精度は上昇する物だと。

 柚も同じ様に考えていたのだろう。だから、周囲を文字通り『見て』判断した。


 まさか、その眼を掻い潜る者がクラスメートにいるとも知らず。



「[気配遮断]」

「っ」

「さっき、柚が走り去るときに口から漏れてたよ? ま、私も彼から直接聞いたけどさ。隠密、っていうの? そういうのに向いたスキルだよねぇ。効果は『他の感知系スキルの対象から外れる。ただし、スキルの熟練度依存』。同じ熟練度なら、感知系スキルに対して絶対的なアドバンテージがあるんだもの」



 茜が、思い当たるスキル名を呟くと、柚はピクリと身体を震わせた。

 クラスメートの彼が持っていたスキルは、柚の千里眼の範囲から外れる効果があった。だから、あの時、柚が確認した部屋の周囲で発見することが出来なかった。

 しかし、そんな理由で彼女が納得出来るはずもない。



「……さっき、彼を問い詰めたとき、見えた。あの日、偶然にも彼は[気配遮断]を朝から使って、私の後を付けていたみたい。私は、自分のために、[千里眼]を使うことが苦手。私が見られている可能性なんて、考えもしなかった。それは、私の落ち度。そのせいで優は、消えた。私が、会いに行ったせいなの」

「それで、柚は後悔しているのかい?」

「……」

「無言は肯定と捉えるよ? それは、最上くんがいないことで汚名返上する機会が無いからかな? だとしたらそれは、大きな間違いだよー」

「どういう、こと?」



「最上くんは、死んでいない可能性がある。なら、追いかけちゃおうよ!」



「え?」

「さっきの彼を問い質したらね? 魔の森って所に追放されたって言ってたんだよ。まだ生きているなら柚のスキルで追い付けるんじゃないかな? 不安なら私も着いて行ってあげる」

「……どうして、そこまで?」



 柚から見た茜は頼りになる。だからこそ、着いて来て貰うのは心強い。だが、茜には何のメリットもないはずだ。単純に不思議に思ったことをぶつけてみた。


 すると、茜は一瞬ぽかんとした表情を浮かべたと思うと、お腹を抱えながら笑い。



「アハハっ! 柚が困ってるんだもん、当たり前じゃん!! 私のこと、どう思ってるかしらないけど輝や彰とかの男友達より、柚のが大事なんだからね? ……それにね、こんな状況だから白状しちゃうけど、私も最上くんには興味があったんだ。柚には悪いと思ってたんだけどね」



 ごめんね、と付け加えて笑う茜は嘘を吐いているようには見えなかった。



「……そう。でも、謝る必要は、ないよ? 優は、魅力的、だから」

「ふふふ。柚以外で、その評価は聞いたこと無いけどね。……よし、なら決まり! さっさと最上くんを助けに行こう!!」

「……おー」

 





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 その日の昼食時。

 何やら連絡があると、少し早めの時間に集まった食堂で、それは起きた。



「皆、食事中にすまない。耳だけ傾けてくれ。突然だが、最上 優がこの城を去った」



 不意に立ち上がった輝が、そんなことを言い出したのだ。



「いつまでも、伸びない能力に嫌気が差したのだろうな。夜間の監視を掻い潜り、逃走したらしい。城下では指名手配されている。だが皆、心配しないで欲しい。彼は自分の判断で此処を離れたんだ。責任のある立場なのにな。だから、指名手配のような不名誉なことになった。……僕達はそんな無責任なことはしない。そうだろう? 皆で、魔王を、魔族を倒そう!!」



 クラスメートの反応は様々だが、優が居なくなった事に対して心配する者はほぼ居なかった。

 安堵する者、清々した顔の者、あくどい笑みを浮かべる者。

 それらは、いつも通り輝に賛同し、これからも彼に協力していこうと、更に決心を固める。


 そんな現状に我慢できない者が、いることも知らずに。



 ──ガタン。



 派手な音を立てて椅子から立ち上がったのは一人の少女。



「……」



 無言で輝を睨み付ける柚だった。



「ど、どうしたんだよ柚。何かあったのか? ああ、最上の奴の話なんてしたから気分が悪くなったのか? なら、早く休めるところへ行こうぜ、な?」



 柚の近くに座っていた彰が、有らぬ方向の心配をしながら、手っ取り早く休める自室に行くため肩を抱こうとしたその時。



「──『私に触れるな』」

「っぐあ!!」



 バチンッ!! と一瞬火花が散り、肩に触れようとした彰の手が弾かれる。見た目に伴う痛みが走った彰は小さく呻き声を発した。



「っ! な、なにすんだよ! 柚!!」

「……やめて。私に、触らないで」

「なんでだよ!!」


「私は、優のことが、好き」


「……はあ?」

「だから、貴方に、触られたく、ないの。優なら、いいけど。貴方は、イヤ」

「……んだよ」

「?」



 遂に自分の想いを言葉にした柚。それに対して彰は小さく呻く。聞こえなかった柚は不思議そうに首を傾げるも、気にせず茜の方に向かって歩いていく。



「……茜。もういい。私、優のところに、行く」

「そっか、わかった。いやー、折を見て夜にでもひっそりと出て行こうと思ってたのに、柚は割と堪え性のない子だったんだね!」

「私、自分のことなら、気は長い方だと、思う」

「あー、成る程。恋する乙女が好きな男を貶されちゃ話にならないか。御馳走様です」

「他人事、みたいに、言える立場?」

「わ、私はほら。まだ、気になるってだけだし?」

「でも、怒ってるよね。少し」

「柚には、敵わないなあ……」



 一見して、いつも通りニコニコしている茜の表情から、そういった感情が読み取れるのは柚くらいだろう。茜の中では、話題の彼も候補に付け足されているのだが。


 その言葉を聞いた、幼なじみである輝の驚いた顔がその証拠だろう。



「あ、茜? 一体何の話をしているんだ? 何かあったのか?」

「ああ、気にしないで。こっちの話だから」



 輝から声をかけるも、一度視線を投げ返されたが、素気なく話を終わらせてしまう茜。


 直ぐに柚に視線を戻し、話を進めていく。



「それじゃあ、さっさと行こうか。最上くんも心配だし。決行が夜じゃなくてお昼前になったのは良いことだと思うよ、うん」

「……ん、優、心配。早く行く」

「それじゃ、準備よろしく! こっちは私に任せてね?」

「りょ。──『私は、彼の居場所を求める』」



 胸の前で手を組み、祈るように眼を閉じながら呟く柚。

 彼女はスキルを使うとき、言葉として事象を紡ぐようにしている。そうすることで、より具体的にイメージを固定出来る感覚があるからだ。よっぽどスキル名を言うより、成功率・応用率が高かった。


 彼女が優の居場所を探っている間に、何があっても良いように茜は周囲を見渡した。


 殆どの者が話について行けない中、輝は茜に詰め寄った。



「茜。どういうことか説明してくれないか? まだ、洗脳を受けているのか?」

「……ああ。その馬鹿げた噂、本気で信じてたんだ。下らないね!」

「だから、どういうことなんだ!!」

「おお、怖。そっちこそどうしたのさ? か弱い女生徒を怒鳴りつけるなんて、輝らしくないじゃん? そんなに余裕がないの?」

「……っ。すまない、冷静じゃなかった。兎に角、説明して欲しいんだ。あと、柚を止めてくれ」

「え、嫌だよ? そんなことしたら私も出て行けなくなるじゃない」

「なん……だって?」



 今度こそ、驚愕といった表情が凍り付く輝。茜は、ニコニコしたまま続けて言い放つ。



「正直に言うとね。ほとほと愛想が尽きたのさ、君達にはね。私だって、今をときめく女子高生なんだよ? 気になる男子の一人や二人、居ても可笑しくないでしょ? そんな相手をボロクソにこき下ろし続けられちゃ、我慢の限界も来るよねぇ?」

「ま、まさか……茜、まで?」

「なんだ。少しは気付いてたんだ。それなら話、早いでしょ? 今は君達より最上くんと柚が大事。ただそれだけだよ」

「そんな……だって君は、僕のことが……」

「え? 別に何とも思っちゃいないよ? 良い友人(虫除け)にはなると思ってたけど」



「ふ、ふざけんなああああああああ!!!」



 好き放題、普段から思っていることを口にした茜の言葉が引き金となったのかはわからないが、先程まで呻いていた彰が面を上げ、全力で突っ込んできた。どうやら、茜を殴ろうとしているらしい。



「わわ! あんなので殴られたら死んじゃうよ!! 『輝、助けてよ!』」

「! 茜!! 危ない!!!」



「『聖拳』!!!」

「『聖剣』!!!」



 同じ音で発声されたと同時に、光り輝く拳と剣が交錯し、お互いが弾き飛ばされる。



「ッチ!! おい、輝! 邪魔すんじゃねえよ!!!」

「何をやっているんだ、彰!! 今のが当たっていたら二人がどうなっていたと思っているんだ!!」

「うっせえ!! 俺の物にならない女なんて死ねばいいんだよ!!」

「なんだと!?」

「大体、なんでお前も茜を護ってるんだよ!! その女もアイツの所へ行こうとしてるんだぞ!? 寧ろソイツを止めねえと!!

「……た、確かにそうだ。いや、だが君のはやりすぎだ!!」

「くそ!! この分からず屋がぁ!!」



 そのまま、二人は剣と拳でぶつかり合っていく。彰は兎も角、輝は自分の行動に迷いがあるまま身体が勝手に動いていく。



「いやー。ほんとに便利だよねぇ。私のスキル。条件が少し難しいけど、使い勝手はいいよね!!」



 茜に発現したスキルは[神言]。


 [神言(人)]:条件下で、言葉にしたことを実現するスキル。相手が自分に好意(信心等)を向けていて、かつ、実現可能なこと。端的な内容になればなるほど、効果は強くなる。


 [神言(物)]:条件下で、言葉にしたことを実現するスキル。対象物に対して、物理的に実現可能なこと。端的な内容になればなるほど、効果は強くなる。



 彼女のアイドル性がそのままスキルになってしまったかのような物だった。

 学生生活をする上で、彼女に向ける好意は崇拝に近いものまであった。ファンクラブがある一般学生は普通とは言い難いだろう。

 そんな者達は、確かに茜の言葉通りに動くこともあった。彰や輝のような、付き合いの長い者達も彼女の願いは無碍にしない。



「……ほんと、私にぴったりなんだよねぇ」



 改めて、自分のスキルとして明文化されてしまうと、お前は悪女だと突き付けられたらような気がして少し憂鬱な気持ちになってしまうのはご愛嬌、といったところだろうか。



「……見つけた。茜、行こう?」

「あ、そう? それじゃ、お願いね?」

「ん。でも、その前に、一つだけ。『防げ』」



 どうやら、優の居場所を[千里眼]で突き止めたようだ。彼女の様子を見るに、慌てるような状況でもないことがわかる。

 柚は、何をするのかと思えば、彰と輝が剣と拳を合わせる瞬間を見計らって、その隙間に障壁を展開した。



「おわっ!?」

「っな!!」



 バチンッ! と、これまた火花と共に弾かれた二人は揃って柚の方を向いた。


 そんな二人に、彼女達はこう言い放った。



「……さよなら。二度とその顔を見せないで」

「わ、厳しいね。なら私も一言だけ。──愉しい喜劇を今までありがとうね? 馬鹿共(ピエロさん)♪」



「『何れも私の道を阻むこと(あた)わず。届いて!!』」



 言いたいことだけ言い切って、[遠距離転移]を使用する柚。当然座標は[千里眼]で見つけた優の場所だ。


 光に包まれる二人に、突撃して来る彰と輝の姿を最後に視界に入れ、彼女達二人はこの城から姿を消すのだった。

 


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