断罪の果て
短くてすみません。公正が終わらなかったので・・・。
とにかくあげたくて上げただけなので、もしかしたら少し続きを入れるかもしれません。
その日、この国ではあまりにも静かなる変革が行われていた。
数百にも上る不正経理の証拠。経理だけじゃない不正取引の証拠さえある。
禁じている筈の魔法石の密輸入の証拠はもう既に司法に渡してあった。
これを見つけ出す事、そしてその裏付けを彼女は自か身の仕事の合間に行っていたのだ。
これを使えばここにいる半数の人間をどうにでも出来る筈だ。
それでもそれをしなかったのは、彼女が彼女たる故だろうかそれとも何か考えがあったのか、もしかしたら彼女自身が何かを起こす気だったのだろう・・だがもう知ることができない。
それでももう、慈悲など与えてはいられない。
それぞれに当てはまる証拠を突きつけて見れば、帰ってくる言葉はほとんどが同じ答え“私は知りませんでした”だった。
「あなた方は知らないというのですか?代理人が全てやったと?」
「・・・」
「はい・・我々も知らなかったのです・・」
「申し訳ございません」
「陛下・・・どうか信じて下さい。我々は民を思って涙を呑んで国を出ました。」
口ぐちに言い訳と謝罪を述べる者・・・数十人を僕はただただ見つめていた。
「っ・・・陛下・・・彼らに自身の領を出る許しを与えたのは陛下です。」
真っ先にそう声を上げたのはハーネスだった。
「財政が困窮したから税収を勝手に水増ししたり、勝手な関税を領土内に強いているのを陛下が許したと?」
確かにあの奇病がこの国を襲った後、国王である父は、ある程度の地位を持つものに対して領地を離れることを許していた。
だが国外に出る際には必ず信用のおける人間を後見として残す事を条件にあげていた。
信用という曖昧なものを基準にしたのは、自身の家臣たちの自主性というより彼等の中の良心を信じたからだ。
「そうだ。あなた方が自身の領地を代理人を立てて離れていたことは既に我々も承知している。だが・・このでたらめな内容の経理と不正処理をこちらに提出してそれを許せなど虫が良すぎるでしょう。なにより陛下があなた方を守ろうとして許した法案を利用し私利私欲を満たした事を何故に国が背負う事があるのです?」
「ですから代理を任せた者が民のために判断して我々の了解を得ずに勝手に行った事です。我々の責任ではありません。それに彼等にはそれ相応の処罰を受けさせております。損害については、そこに記した通りで決して不正という訳では」
「それを是としていいと本当にお思いですか?グラーズ侯」
ハーネスだけではダメだとグラーズ侯までが異を唱えようとした。
反論するものの言を全て跳ね返し彼らの個人の私欲によって食い荒らされたものを王もそして僕も黙認なんてしない。
「ルクス、少し待ちなさい。」
白熱しそうになった場を戻したのは父のいやこの国の王の声だった。
「民のためを思ってのことだった。そう心から誓えるかい?グラーズ」
十数年以上この国の王として立って来た父の言葉を無碍に出来る程、グラーズ侯は、身の程知らずではない。
「・・・はっはい」
「皆もかい?」
そう言って、僕が凶弾した人間達へと視線を向けた。その視線を受けた者はあるものはその目を下げ、ある者は、わずかにそれでも頷いた。
静寂がしばらく場を制した。コレが異常事態であるとそれを知っているものは、ここの半数以上の人間が理解していた。
「このまま・・・私を最後の王とすることもいい。」
「陛下っ!なにをおっしゃいますか!」
「そんな事・・」
「私が最後の王となるなら、貴殿らに残された道は少ないよ。忘れないでもらいたい・・君たちにその地位を与えたのは私だという事を」
「陛下っ!我々は別になにもっ」
「陛下!?」
「国庫は国に大事が起きた時、私達ではなく民が自身を救えるように蓄えた物、民自身が残してきたものだ。その管理をするのが私だよ。国を支えて民を愛する事を私は生涯に仕えるとそう考えていた。だがね・・・ここにあるモノを私は許す事はできないよ・・・」
そう言って手で指し立ち上がった彼は、一人の前に進み出た。
「このまま国を二分にする事もだ。」
旧制家の筆頭である男・・コーネリウス・バウンド公爵の前に。
先代の王の姉を母に持つこの男こそあの子を殺そうとした男でありこの国に戦火を呼び寄せた張本人だ。
ジェインの調査によってそれは明らかになった。
「王よ・・・あなたは何を言いたいのか?」
「そのままだよ。この国の未来のために私に出来る事を全てしたい。そのために・・私はもうあなたをそしてあなたの掲げる理念を否定するよ」
「そうか・・・では決めたという事でいいか?」
「いや、でももうあなたの思惑をそのままに黙認はしませんよ」
惚けた顔をして朗らかに応じるこの男の事を僕はあまり知らない。
そしてなにを陛下が決めたというのだろうか。僕の知らない事が多過ぎる。
政治的な意味で彼は駒には使えない。それぐらいの意識でしかなかった。
彼は、けして自身の手を汚す事はなかったからだ。
しっぽもそれこそ影さえも見せなかった彼が今回の・・・シルヴィアの殺害未遂についてだけは随分と雑な手を使ったのだ。
「なんの事か良く分かりませんが、陛下。私は貴方を心より尊敬申し上げております」
「それが本心であればよかったのに・・・・従兄弟殿。私は、あなたの選民主義を否定します。魔法師も治療師もまた平等であるべきだ」
旧制家の家と新興制家との違いは、その血筋に魔法師の血を持つ者を入れるか入れないかが大きな差である。
魔法力というモノを持つもの持たざる者の差。
それは未知のものを他が持つ事を恐れる事に繋がるのだ。
「いつ私が選民などとそんな無粋なことを言いましたか?先日のあなたの復帰祝いの席であなたに何かを告げたバカがいたのでしょうが・・私は決してその」
「もう、いいではないですか。旧制家と新興と二つに分かれた国を保つ事が私にはあまりに荷が勝ち過ぎていたのだ。あなたもそして・・私も既にここで一度舞台を降りるべきでしょう」
「どういう」
「バウンド公爵・・・貴公を国家反逆罪で拘束する。」




