整理整頓は記憶から。
《聖なる巫女に花束をー 恋は光の道しるべ》
懐かしい思い出が脳内を支配する。
こんなべったべたなタイトルの恋愛ゲームを手にしたのはお気に入りの声優さんが盛りだくさんだったのと、シナリオ担当の人が好きなラノベ作家さんだったからだ。
内容は、要約すれば、どんな薬も魔法も効かない奇病により世界が滅亡の危機に陥っていた時、異世界から救世主を召還しその子の力で世界を救おうというようなものだ。
攻略対象は5人、第一王子と第二王子、現神官長の子息に敵対していた令嬢の弟あとは王子付の隠密。
隠れキャラで騎士団の騎士団長の息子がツンデレキャラだった。
そんな彼女の恋敵として第二王子の婚約者である私。
なんで?
シナリオが少しずつズレている・・・まず私には確かに弟がいる。だが現在私の弟は10歳の子供だ。そんな子をどうやって恋愛対象にするのよ。
そして外務大臣を務めていた父は、その奇病により既に5年以上前に亡くなってしまっていて、光の巫女様を陥れようとするようなそんな大それた企てを計画するなんてできない。
死んだ人間に何が出来るのだ。
苛立ちを感じるこの微妙なズレ、しかもこの私が第二王子へ盲目的に好意を抱いているなんてない。断じてない。
4つも下の第二王子が彼女いや私の婚約者になったのは7歳の頃。
王子たちの遊び相手として城へ上がっていた私を彼が気に入り、そのまま何の相談もなくいつの間にか婚約者となっていた。
4つも下の男の子、しかも昔は私にいたずらを仕掛けてきてそれを叱った事しか記憶にない相手だったらしい。
そんな相手を婚約者にと言われても戸惑うしかなかったのに、十代に入り、婚約者としての立ち居振る舞いを学び、王太子妃としての教育と受ける事になったある日、私を前に彼は言い放ったのだ。
“お前を選べば、兄上に勝てるって大臣が言ったから”と・・・忘れられない12歳の誕生日の夜だった。
「どうしましょう・・・・」
薬のおかげでまだ声がつぶれてしまっている。息だけは何とか出来るようになったが、このまま毒殺されるのを大人しく受け入れればいいのだろうか・・・やばいこの非現実感が半端ない状況なのに、この体の持ち主であったシルヴィアに同情する事で同調し始めている気がする。
現在この国は危機に瀕している。病床に臥したままの王と王妃、留学という名目で隣国へ避難中の第一王子。
何も考えず、国庫を空にする勢いで奉仕という救済を推し進めるバカ元婚約者。
光の巫女様のおかげで現在回復に向かっている王と王妃が再びこの国を治めてくれるまでにはもうこの国は地図上から消えている可能性まであるのだ。
どうか私が居ない間に、財務を司るジルベット大臣があのバカを抑え込んでくれていればいいのだが、多分無理だろう。
なんだろうか、元々事務関係特に経理を担当していた事もあった私にとって、この体と脳が記憶している情報がヤバい事だけはわかる。
ゲーム内では恋敵で悪女だったシルヴィア・バーミリオンは本当は国を救おうと必死なだけの可哀想な女の子となっていた。
転生ってさ、チートだと思うけど・・・ここまで内容がズレててもチートなの?
しかも既にゲームは、終盤どころじゃない。終了後だ。
ゲームの内容は覚えている。
王子が古代の魔術を駆使して異世界より召喚した光の巫女こと、天童あかり。
彼女は幼い頃から特別な力を持っていて、その歌声には瘴気を浄化する力が備わっているという設定だ。
第二王子が彼女と共に奇病の原因である瘴気を浄化する旅に出るという王道ストーリー、旅の途中で密かに国に戻り自国の危機を救うために奔走する第一王子に出会ったり、王子たちを守るために命を懸ける隠密が事故で巫女と一夜を共にしたり、光の巫女として彼女を見届ける役目を持った神官長の息子が旅の同行中に不慮の事故で怪我をして、それを献身的に助けようと努力したり。
盛りだくさんのイベントを終了して、最終的には瘴気の大元であった古代の遺跡に辿りつく。瘴気を出していた遺跡は異世界とこの世界を繋ぐ扉でこれを壊せば、古代魔術は二度と使えず巫女は元の世界に帰れなくなる。
彼女は、それでもこの国の人の為にと自分の世界に帰ることを諦め、この世界で生きていくことを決意する。そして攻略した相手と共に生きて行く、めでたしめでたし。
ザ・王道。
でも声優はもう私の好みどストライク。
シナリオが気に入っていた作者さんだったけど、内容は王道過ぎて期待していたものと違ってたけど・・それでもやりきったのは、声優さんのおかげだった。
ついでだけど、恋敵であるシルヴィア・バーミリンは、この光の巫女に嫉妬して様々な裏工作をするというキャラだった。外務大臣である父の力を利用して、他国からも邪魔をする・・ちょっと面倒なラスボスちゃんだった。
さて、これからどう動くか、それが問題だった。