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終わりから始めましょう ー女伯爵は事後処理中ー  作者: 月のしずく
第3章 亡命と開戦 編
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そして賽は投げられる

更新が遅くてすみません。

やっと王子編です・・第一王子の奮闘と第二王子の懺悔を書いていければと思います。

シルヴィアが知らない彼等の一面を読んでいただければ幸いです。

嘗てここまでの紙の塊を見た事はなかった。

引き継ぎも兼ねた書類を処理していく中で、とんでもない事が起きていた事だけはわかる。

それらは、ほとんどが、第二執務室からの報告書によってなんとか企画段階で阻止出来ているのだが、いくつかは流石に逃れてこちらまで上がってくる。


「これは?」


「・・・御子様の肖像画を・・・護符かなにかに仕立てるんだとか」


「それは、効能があるのかな?」


「確証はありませんが、既に数千枚を作成済みでして・・・その処理する事もその経費がかかるとかで何よりももう数十枚を貴族の一部が転売しております。」


「そうか・・・だからか」


僕の手元に上がるものの多くはこういうどこか一癖も二癖もあるものばかりだ。


「処理にかかる経費を算出しておけ、それによっては民に流布する。見目はいいのだから・・・」


そう続ける。いやそれ以外にフォローできなかった。

本当にくだらない事ばかり・・僕はなんのためにこんなことをしているのかと、手元にある数々の陳情書と報告書を手にしてはため息が募る。


「この国は、もうダメだったのかな」


あの奇病が蔓延する前から。

そう思えてくる・・・・隣国から戻ってきた大臣たちは、まともな働きをしてくれるものは皆真っ青な顔をして現状を受け入れ、奮闘してくれてる。


「王子・・・そういう弱音をあの方は一度たりとも言いませんでしたよ。」


ジェインがそう言って僕の前に紅茶を差し出した。最近じゃお前の紅茶しか飲んでない気がする。

なにせ侍女が淹れる紅茶よりも気遣いが上手いのだ。

その時々で淹れ方を変えてくれていると気付いたのはつい最近だった。


「そうか・・・本当に強いなシルヴィアは」


「そうですね。神官庁や第二王子陣営からくる書類なんて全て破り捨てればいいのに、彼女は一度たりともそうしませんでした。・・もしかしたらこの国を救うヒントがあるかもしれないからと言って・・・時には彼等が出してきた案を自身で訂正してこれなら出来るかもとかいいながら楽しげに仕事を進めていらっしゃいました。」


「うん・・・僕には難しいなぁ」


シルヴィアってすごい・・・。僕だってここ最近あまりの内容に読むのを断念しそうになるものだってあるのに。


「ハークライト様を守るために王妃様と陛下が必死に探した人材でしたからね」


そうしみじみ言うジェインに僕はただただため息を吐く事になった。

この国は、既に二つの勢力によって二分しそうになっていた。均等に力を持つようにバランスを取ってきたのが王家だ。

そしてそんな風になってしまったのはもう僕の生まれるずっと前の事・・母が嫁ぐ前からだという。

そして母は、命を懸けて二人の後継者を生まなくてはならなかった。

彼女が5年の間に跡継ぎを2人以上産まなければ、側室を必ず王宮に迎える事になっていたのだ。

でも彼女は思いの外早く子を授かる。魔法力を持つ子をだ。

そして彼女は、必死になっていた・・・魔法師の血を持つ自身が生めるのは二人までだと知っていたから。


魔法師が子を産める確率が低いという統計は、昔から出ていた。だからこそ王家は魔法力を取るかそれとも確実な跡継ぎを取るかで揺れていた。

結局側室に魔法力を受け継ぐものを娶っても身ごもる事がなかったという状況が続いたこの国は、彼女を王妃として迎える際にとても渋ったのだがそれをごり押しで通した父は、大臣や旧制家のものに条件を出したのだ。

王子が生まれた時に魔法力があれば、王妃主導、魔法力のない子が生まれれば旧制家の主導にて教育を施すというものだ。


だが生まれたのは二人ともが魔法師の力を持つ子だった。

奇跡的な事態であったが、旧制家のものたちにとって次代の王を自身達の傀儡に育てる事が出来ないのだ。

父は、元は第3王子であったが先代の王がある日突然に王位を継承するのは父だとそう遺言を残し死んでしまったので中立の立場を貫く事が出来ていた。


彼等にとっては、自身の権力と地位を守るためには何がなんでも手に入れたい権利だった。


そして母は、苦渋の決断を下す事になった。

第二王子の養育の権利を全て旧制家に渡したのだ。

彼は犠牲になったと、そういう事になる。


「あれが・・あぁ、育ったのは俺のせいだ」


「・・・何かあるたびに甘やかしてたのは確かですね」


「すまん・・・」


「あなたが甘やかすから、その分厳しく接していたバーミリオン伯には懐きませんでしたもんねぇ」


そういう事になった。

王家にとって弟は、どうしても負い目を感じる存在になりつつあったのだ。

甘やかされて育てられつつあったハークライトを真っ向から否定し、厳しく接し・・まともにしようと日々努力していたのはバーミリオン伯とそしてその娘であるシルヴィアなのだ。


「まぁ、その結果傀儡とはならなかったハークライト様にバーミリオン伯を遠ざけさせるように誘導したのは、ある意味間違いでしたねぇ」


バーミリオン伯は、娘を差し出したのだ。

王家を救うためにと・・・そう言っていた。そして兄王子に劣等感を持つような言葉をずっとハークライトに告げて、誘導しシルヴィアを婚約者につけた。


「あれを殺さずいられるなら・・そう思って手放したのに」


「・・まるっきり裏目でしたねぇ・・」


出された紅茶が既に冷えてきた。湯気のあがらないそれを一息に飲み干せば、思い出すのは、先日あった弟の情けない姿だった。


「あれがモノになるまで何れほどかかるか」


「いっそのこと殺して差し上げたら楽なぐらいですが・・まぁ、バーミリオン伯が呼んだジキル子爵が可哀想で可哀想で・・」


「まぁ、ハークライトをよくコントロールして貰っているなぁ」


「あのままでいいんですか?」


シルヴィアが呼んでくれたの隣国では有名な宗教研究者だ。ジキル子爵としては、自身の研究の糧にするために来たと言ってくれたが、本当は嘘だとも思う。


「いいよ・・これからの事は、あいつが決めて動く事になる。僕は僕でやらないと」


「ですが・・レムソンとのことは全て彼女に任せるつもりで?」


「まぁ、そうなると思う。・・・でもレムソンは、彼女には勝てない。彼女は・・シルヴィアはバーミリオン女伯爵だ」


「でも、もしも」


「もしもなんてないよ。僕はね、彼女の願いを叶えないといけないんだ」


「フォースへの亡命ですか?」


「あぁ」


国内の事は、既に2年前から動き出しているし、それなり準備は整えていた。


「彼女を信じてる。・・僕にはやらないといけない事があるんだ」


「わかりました・・レムソンの事は彼女に任せるのですね?」


「あぁ、俺は彼女の望みを叶えるためにやるべきことをやるさ」


2週間後、僕は彼女へと別れを告げたのだ。








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