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終わりから始めましょう ー女伯爵は事後処理中ー  作者: 月のしずく
第2章 フォース国編
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王妃の謝罪

お久しぶりです。

なかなか更新できなくてすみません。どうぞこれからもよろしくお願いします。

王妃の間

この国で二番目に高貴なその部屋は、私にとって暖かな思い出の溢れる場所でもあった。


その調度品は全て歴代の王妃が王に送られたもので誂えられている、幼い頃・・私にここを明け渡す日が楽しみと微笑んだ女性が目の前に居た。



中央のカウチに座る彼女たちは、穏やかに微笑ながら私を迎える。

本当は、こんな事をしたくない。

でも、そうしなければならない。


私がバーミリン伯爵である限り、それはもう覆られない事だから。


「あら、随分早かったのね、シルヴィア?・・いえバーミリオン伯」


呼び名を変えられる。

王妃様が私の表情を見て事態の深刻さを察してくれたようだ。


「なにかあったのね。・・・」


「はい。王妃様・・・少々お時間を戴いてもよろしいでしょうか?」


「えぇ、構わないわ。人払いを」


傍にいる給仕たちを下がらせてくれる彼女に感謝して、私はそっとカウチ前に進み出る。


これから話す事は、病み上がりのこの方にどれだけの負担になってしまうだろうか。一瞬の躊躇をそれでもと自分を奮い立たせる。

ドレスの裾をそっと持ち、臣下の礼を取る。

ここを訪れた理由を述べる私を止めたのは、柔らかな響きを持ちながらも人を従わせる力を持つ声だった。


「此度のレムソンとの会談・・・私の力が」


「まずは、座りなさい。」


臣下の礼をする私を前に彼女の声が、そうかけられる。


「いえ」


「座りなさい、バーミリオン伯。あなたが膝を折るのは陛下だけでいい」


「王妃さま・・・」


「まず、此度の会談、ご苦労でした。・・・陛下よりも先に私の元に来た理由を話しなさい。急を要するのでしょう。」


「はい」


流石と言える状況判断。病に伏していたとはいえ彼女は、一国の王妃であり長年『王』を支え続けた方なのだ。


御子様の座るカウチに、私もまた腰かける。

キョトンと私と王妃様のやり取りを見ていた御子様が私の様子を伺うように見る。


これから伝える事になる内容を思うとその視線が痛い。


「まずは、本日の会談について、ご報告があります。」


数分に渡る私の言葉に、目の前の王妃様は、顔色を蒼白に変化させながらも気丈にただただ静かに聞いてくださった。


ーーーー



「・・・わかったわ、それで・・あなたがここに来た理由を話して」


王妃様は、置かれたままの紅茶を一口飲んで、私をそっと見つめた。


給仕が用意してくれていた紅茶もすっかり冷めきってしまった。

だが彼女は、その冷え切った紅茶で心を落ち着けたようだ。


「レムソンの要求を・・・一度吞んでいただけませんか?」


「・・・えっ」


私の言葉にいち早く反応したのは、やはり御子様だった。

ふんわりとした微笑を浮かべる事が多い彼女だが、今は、今まで見た事ないほど脅えたような表情を浮かべていらした。


「それは・・・アカリ様をあの公爵にいえ、レムソン国へ嫁がせるという事かしら?」


「・・いえ、・・・ですが、私も全力を尽くします。・・・それでももしもの時は、そうなってしまうかもしれません。」


「待って!待ってくださいっ!シルヴィアさんっ」


そう必死に訴えるアカリ様に私はそっと視線を映した。


「はい。」


「私、いやですっ・・・私・・その、公爵様に嫁ぐなんて」


そうだろう、自身の親よりも年上の相手、一応見目は良いとだけフォローするが、あの残念な思考しか持たない相手だと流石に可哀想だとも思う。


「わたし・・・その・・・」


彼女が言いよどんだのは、ハークライト様を愛していると言いたかったのではないだろうか。

だが、今この時に配慮する余裕などなかった。


「アカリ様、シルヴィアの話をもう少し聞いて下さいな。・・であなたがそうまでしてやりたい事はなに?」


「はい・・・とある人物を探したいのです。」


「人物?」


「はい」


そう、私の記憶(チート)が正しいならば、あの紋章を持ち、今回のこのくだらない茶番劇の一端を担った立ち合い人・・その男を探し出したいのだ。


「・・・リンゴの花の家紋は、古来より神事を司る四家がずっと受け継いでいます。」


「そうね」


「王妃様はご存じと思います。レムソンの国境に面する領を持つエルヴァン家を」


「もちろん・・あの家は、元々ダールトン家と・・あなたもしかして」


「はい。」


私の考えを読んだらしい王妃様は、やっと固くこわばった表情を変え、彼女らしい柔らかな笑みを浮かべた。


「そう・・・わかったわ、時が必要なのも、そのために私をそして御子様をどうしても協力させたい訳もね。・・ならば、これを」


そう言って彼女は、耳元を飾る王家の紋章入りのイヤリングを私に渡した。


「王妃様・・」


「使いなさい。」


その見た目に反して、とても重いそのイヤリングを私は、ありがたく受け取った。


「ありがとうございます。・・必ず、ご期待に沿える働きをしてみせます」


「いいのよ・・・こんな事じゃ償えない程、あなたには、色々と任せてしまって・・・・」


「えっ・・」


「ごめんなさい。・・・今まで、本当に」


唐突に謝罪を口にする目の前の人に私は、ただ茫然とした。

そして静かに頭を下げる人に私は、何を言ったらいいのかわからなくなった。



「あ・・あの」


「王妃様・・今は、もう過ぎたことです。」


彼女の言葉は私にとってどこか遠くに感じた。

なによりも今は、その時ではないのだ。


「・・・・そうね・・・で、あなたが求める時間は?」


「欲を言えば2週間程・・・いえどうしても1週間いただきたいのです。」


王妃様がくれた()を使えば、もう少し短くて済むかもしれないが、もしも私のチートに狂いがあれば、この作戦は、とてもじゃないが達成できない。


そして

手にあるイヤリングは、切り札だった。


「2週間ね、いいでしょう。・・・御子様、申し訳ありませんがお力をお借りしたいの、よろしいかしら?」


語尾が?なのに、それは有無を言わせぬ、覇気が込められていた。


「は・・はい」


「・・・バーミリオン、此度の件が片付いたら、もう一度正式にあなたに謝罪をさせて・・・これはこの国の王妃としての誇りに関わる事だから・・・」


そう告げた彼女が、次の瞬間には、パンッパンッ!!と2度手の平を叩いた。

その音を合図に、一瞬で私達の目の前に現れたのは、侍女姿でありながら、明らかに纏う雰囲気が違う女性たちだった。


「御呼びですか?」


十数人の中の一人がそう言って王妃様の前に跪く。

侍女の取る作法ではありえない、だが美しいその完璧なまでの所作。


「えぇ、(わたくし)の護衛の任を解きます。そしてこれより2週間の間、あなた方の主は彼女です。よろしいわね?」


「かしこまりました。」


そう返した彼女が立ちあがり、今度は、私の前に跪いた。


「どうぞよろしくお願いします。バーミリオン様」


その場の十数人が一同に私に礼をする。


「え・・・はい。こちらこそ」


あまりの事に驚きながら、私は手にあるイヤリングを握り締めた。

そう、これが彼女からの贈り物。


「我等、『剣』どうぞお役立てください」


王妃専属騎士。


彼女たちこそジュヴェール国最強の女騎士。


『剣』























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