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終わりから始めましょう ー女伯爵は事後処理中ー  作者: 月のしずく
第2章 フォース国編
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言の葉を操るもの

庭園をぬけ、会談の場である広間へと場所を移し、しばらくは互いに笑顔で牽制しあった。

円卓の上には、多数の書類。互いの秘書官たちは私達の会話を一言一句残さず記録している。

そして私の隣には、レムソンとの外交を担当していたフェルメス家当主が真っ青の顔色で座っていた。


最初の話題は、そう重要ではない互いの交易についてだった。


「来期のレンドリンゴ、麦、麦酒、ブドウの関税緩和についてですが」


「その話なら、君の後ろに居る大使殿にも伝えたのだがね・・とてもじゃないが無理だね」


そうバッサリと切り捨てる。

そりゃそうだろう、彼等にとって我が国との貿易の内、主な収入源となる代表作物なのだから。


「無理と言われましても・・・こちらもこの金額のままでは、とても」


その後の言葉は決して続けない。こういう場で公的文書としては残したくないからだ。


「こちらとしては、経済支援の一つとしてお願いしたかったのですけどね?」


「ほう・・・確かに条約項目の一つには当てはまるかもしれないが、これは別だと私は思うんだがね・・・それに私には貴国はとても支援を必要とは思えんよ?」


そう彼はほほ笑む。

約28年前に協定を結んだレムソンと我が国では不可侵条約ともう一つ、協和条約なるものが2国の間に存在した。

その協和条約の項目の中には、互いに何らかの事情で国が傾こうとした時に、支援をするというものがあった。だがこれにはいくつかの条件が必要だった。


「そうでしょうか?」


「あぁ、実際既に瘴気による奇病は、御子様のおかげで終息に向かっているとそこの大使殿に聞いたよ」


「えぇ、ありがたい事に・・・ですが」


大使殿という言葉が意味するのは、多分間違いなく神官長の息子だろう。

本来の我が国との正式な外交の窓口であるフェムレス家当主は、私の横で引き攣った笑みを浮かべていた。

彼がどんな風に御子様について語ったのかは、私自身も紙面上でしか知らない。


神官長の息子、ダールトン・ミカエルは、現在私の後ろに控えている。

旅の仲間の一人として御子・・いやアカリ様の事をどうレムソン国どう説明したのか、そこにどれだけの主観が多大に含まれていたかも知っている。


「それに、君が言う支援には、大事な条件があったはずだがね」


その支援の条件は互いの王家が婚姻関係を結ぶというものだった。


「そ・・それは」


「大変申し訳ないが、我がレムソンは、2月程前に貴国との縁談を断らせてもらったよ」


そう言いながら、彼は私に一枚の紙を差し出した。


「これがその正式な書類だ」


パサッと勢いよく置かれたそれには、確かにレムソン王の王印が押され、その下にも幾度か見た事のある筆跡で彼の王の名がつづられていた。


「・・・そのようですわね」


「まぁ、こちらとしても残念に思うよ。だがこちらも此度の事で色々と考えさせてもらった。それに私のかわいいお姫様のためには貴国の王子は少し役不足だな」


随分じゃないか。この色ボケじじい。

机の下に組んだままの手に力が籠った。冷静になれと静かに息を吐く。


「君もそう思うだろう?フォースの輝石姫・・・」


態々私のもう一つの呼び名をここで使うのか。

そう私は社交の場でラピス以外に『フォースの輝石』という名も持っていた。フォースとジュヴェール国の交渉は私が全て握っているという根も葉もないくだらない噂が元凶だ。


「・・・私は、ジュヴェールの・・バーミリオン家当主であることをお忘れですか?」


いくら前王の王弟と言えど、公式の会談の場で随分と失礼なもの言いだった。

私自身がバーミリオン伯爵家の当主であると忘れているのだろうか、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべるこの男は。

そんな彼を諌めようとする横の秘書官が真っ青だ。


「おう・・そうだったね、まぁ、君も本当なら()で在った筈だがね」


「「公爵っ!」」


互いの秘書官の悲鳴に近い静止の声と私の周囲が殺気立つのはほぼ同時だった。

()の意味・・それはジュヴェールの第二王子の元婚約者であり、フォース国の宰相の姪である私に対する形容には随分と嫌味に過ぎるものだった。


「運命とは何とも面白いね」


「・・・そうでしょうか?」


静かに、私はそう返した。


「そうさ」


彼の態度は変わらず、私・・いや私の周囲を挑発する。


「さて、この書類には、確かに王家となっている・・そうだね?」


「えぇ」


何が言いたい?

私が婚約を破棄された事を暗に指して、それから何を求める?

あなたの狙いはなに?


「我がレムソンの支援、その条件に新に書き加えたい条件がある・・・。」


男はニヤリと嫌な笑みと共に一枚の紙を私へと差し出した。

先ほどの紙と同じ上質なそれには金の箔押しが施されていた、そっとそれを受け取る。


「・・・随分と強引ですね、公爵・・・」


そこに記された内容は、要約すればこうだ。


光の御子でるアカリ・テンドウをレムソン国の公爵家に嫁がせてはどうかというものだ。

そしてその見返りに10年間の経済支援と復興支援の両方を取り付けると・・・人身御供さながらだ。


「そうかな?・・まぁ、此度私がわざわざこの国に出向いた理由がこれなんだよ。」


そりゃあ、瘴気の根源を断ったとはいえ未だに瘴気の浄化も終わらないこの国にリスクをおして使者としてやって来たのだから、なにか目的があるのは予想がついていた。


「この下にある記述は?」


「あぁ、誤解しないでもらいたいんだがね。」


恭しく書かれた文書の後ろ、そこに記された内容はとても許容できないものであった・・・何が誤解だっ。


「上記の内容により得た全ての利益は我が国が所有する?・・随分ですね。彼女は、ものでも利益を生む道具でもありませんが、しかも・・私に貴国との交渉を?」


そして一番最後に書かれた一文。


――― 此度の件は、全て貴国のバーミリオン伯爵を通し、交渉をさせていただきたい。その証として既にフォース国に密書を送り、許可を得ている―――


そうなっていた。

なぜここで、フォースが出てくるのだろうか、しかも密書などと公文に記す理由はなんだ。


「あぁ、輝石に戻る日が来たという事だね」


言葉の意味は解らない。

いやわからない訳ではない・・・ラピスラズリ、その青い石は決して宝石の中で輝石という分類にはない。

光を浴びてもダイヤやルビー、サファイヤなどに比べればその輝きは劣るものだ。

それでも・・・幸運を呼ぶ石と呼ばれるその二つ名を嬉しく思っていたのに。


「・・・公爵・・・あなたは、何を・・・」


思いもよらない事態に私は、言葉を呑みこむ事になった。







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