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終わりから始めましょう ー女伯爵は事後処理中ー  作者: 月のしずく
第2章 フォース国編
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庭園前の宣戦布告

たった2ヶ月、だがその2ヶ月の間に起きた全ては、この国にとってとても大きな損害をもたらしていた。


「どうして・・・こんな事に」


ここ2週間以上で把握した現状は、信じられない事ばかりだった。

第二執務室がやっと人間が入れるような空間を得たのはレムソンとの会談を控えたその日の朝の事だった。


「お嬢様・・もうそろそろ、」


レムソンへの使者が先日戻ってきた。

だが彼等は、とある文書ともに戻ってきていたのだ。


「そうね・・・行きましょう」


レムソンとの会談という名の駆け引きの場へ。


「お嬢様、ご安心ください。もしもの時は」


「やめて、マリー。私の指示なしには動かないで」


何でも出来る頼れる侍女は、実はかなりの過保護なのだ。そして彼女にはとある秘密がある。


「あら、ちょっとお薬で言う事を聞いてもらうだけです。誰も殺しはしません。」


そうなんでもない事のように告げる彼女を睨めば、しょうがないですねとため息を吐かれた。

それはこっちのセリフである。

この国、いやこの世界随一の薬師を輩出する一族の出である彼女が何故バーミリオン家に仕える事になったのか私は知らない。

でも父と彼女の一族の間に特別なやり取りがあったのとそう聞いているだけ。


ただ国家間での交渉の現場で薬とは・・。


「レムソンとの会談を終えたら、一度領へ戻る?」


あなただけでも。と続く言葉は、飲み込む事になった。

遠い向こう、中庭の一角に人だかりが見えたからだ。会談場所まで後少しなのに。

そちらに目を凝らせば、その中心にはここ数日お名前だけは目にした方が居た。


「アカリ様っ!!」


なんでこんな時に、こんな場所に。

しかもレムソンの使者としてやって来たグルベス公爵と会っているんですかっ!!

冷や汗どころではない。焦燥に任せて走り出しそうになる体をなんとか抑えて、私は中庭に急いだ。


何とか、数十秒後には、中庭中央の東屋に着いた私は、二つの意識がこもった瞳たちに見つめられた。


一つは、明らかな悪意。

もう一つは、明らかな安堵。


完璧な所作と共に、目の前の人物への牽制も込めて最高の淑女の礼を。

指先まで細部まで意識をして。


「あぁ、君は確かバーミリオン伯爵だったね、ほう・・随分と雰囲気が変わったな・・なかなか似合っているよ。」


今日のためだけに用意したこのドレスは、現在レムソンで流行している型のものだ。


「お久しぶりですわ、そしてお褒めの言葉ありがとうございますわ、今日のために用意しましたの。グルベス様」


急な展開だ、なによりも彼のななめ後ろに見えるアカリ様の様子がおかしい。今はとにかく・・彼をアカリ様から遠ざけなければならない。


「まだ会談まではお時間がありますが」


「ああ、すまないね。私もこの素晴らしい庭園を一度見て回りたかったんだ。そこで案内を我らが救いの御子であるアカリ様に頼もうと」


思ってたんだが、なかなか許可が出なくてね、一応は彼女の後見人には許しを得て来たんだがねと笑う。


よくもぬけぬけと・・・。


彼女の後見である神官長は既にその地位を辞する事が決まっていた。現在彼にアカリ様の実際の後見は任されていないのだ。


「そうですか・・・庭園でしたら、僭越ながら私がご案内いたしますわ。アカリ様・・申し訳ございませんが王妃様がお話があると」


ウソだ。

だが、ここで公爵という地位よりも上となられば王家のみとなるので致し方がない。

王妃様ならどうにか、アカリ様を匿ってくれる筈。


「ああ、待ってくれ。今回の会談。アカリ様にもぜひにご同席をしていただきたいんだが」


「・・えっ」


グルベス公爵の言葉に声を上げたのは、アカリ様だった。

それはそうだろう、いままでアカリ様にご出席していただいた公的場はこんな国と国との思惑など皆無に等しいものばかり。

彼女がなるべく平穏であれるようにずっと気を付けていたのだ。


「グルベス公爵閣下、随分急な申し出ですわね?」


「いやいや。私はそのつもりで来たんだ。此度のこの会談、アカリ様にも同席して頂いた方がいいと思っている」


「えっ・・ででも・・その私は」


アカリ様は口ごもってしまったが、ここで何か言われるよりはいい。とにかく今はこの場をどうにかしなければ。


「申し訳ございません、アカリ様には本日治療院を回って頂くことになってます、その後、ハークライト様と共に・・新しく新設された神殿へと向かわれる予定でして、」


遠回しにそう彼の提案を却下する。


「そうか、まぁ・・・今日でなくとも明日も明後日もある。その内の一度でいい、彼女との時間がほしい」


言い方を考えろっこの色ボケじじぃがっ・・・。


「・・貴国の王にそう伝えてもらえるかな?」


苛立ちをそのまま表には出せない。彼は隣国の公爵家、その当主であり、前王の王弟だ。


「・・・わかりました。出来るだけご要望に沿えるように取り計らいましょう」


「えええ・・っそそれは・・」


アカリ様の明らかな拒絶の声。それを視線だけで止めて、私は微笑と共に彼に告げる。


「もちろん、私も同席させていただきますが、それでもよろしいですよね?」


「うん?・・・・まぁ、構わんよ。ラピスの名を持つ君となら有意義な時間になりそうだ」


随分と余裕じゃない、フォースとは違ってレムソンには伝手がないとでも思われてるのかしら・・。

微笑と共に私は彼に宣戦布告をする。


「アカリ様は、私達(・・)の大事な御子様ですので、返答にはお時間を戴きますわ。」


「・・・ほう」


さて、これからが勝負です。





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