二つの約束。
大変長い間、放置してしまってすみません。
急に職場が変わって、引っ越しが決まり、周囲がとんでもない状況でした。
今回はまた短いですが、これからもどうぞよろしくお願いします。
緊張に強張る声と体。目の前には驚きの表情を浮かべる王子様。
彼の目に移る自分がどんな姿なのかは、先ほど散々確認して知っている。
明るいライムグリーンとシフォン、白いレースで縁どられたそれを着る事を勧めたのは、マリーだった。
そして彼女は私2つの注意をした。
「ルクス様・・」
一歩前に歩みを進める。ただ一歩、されど一歩だ。
「私を心配してくださった事、本当に嬉しいんです。・・でも、今、私がこの城に居る事がどれだけの意味を持つのか、うぬぼれもなくどれだけ大事か知っています。」
「・・・シルヴィ・・」
「ここで私がセレネスに戻る事で、伯爵家が王家を見限ったとそう邪推するものもでてくるかもしれません。」
私がもしもの時のために用意しておいた、最後の一手が今になってとんでもないキラーカードとなってきている。
「そうだね、でも」
「私のすべき事をやらせてください、それとも・・・私はもう、必要ではありませんか?」
そのまま彼の座る執務机に手を置いて、彼を覗き込む。
「・・・・い・・・いや」
「では、・・ここに居させてください。ルクス様・・」
小首をかしげるように、そう懇願して、彼の瞳をじーっと見つめる。
ここで決してしてはいけないのは、私から視線を逸らす事。
そうマリーは教えてくれた。
彼の瞳の中に移る自分も見つめていると数秒の沈黙が部屋を支配して、その後彼の首ががくりとうなだれた。
「・・・君が居ると・・・僕が困る」
そう嘆かれた言葉にショックを受けた。
私が城に居る事が、そんなにも彼に迷惑をかける事になっているのかと・・。
「・・・もうしわけ」
「どうしても甘えてしまうから・・」
「えっ?」
「君に甘えてしまう自分を自覚して、情けなくて・・これ以上かっこ悪いとこなんて見せたくないんだ」
子供のような理由をそう告げて、彼が私をまっすぐに見返した。懐かしいと思った。
弟君とは違う、彼は自分の考えをあまり言葉にしない。
それこそ、誰にも本心をみせないのではと心配になるぐらい、慎重で思慮深い。
でもそんな彼が、私・・シルヴィアにだけは、たまに本心を見せ、聞かせてくれた。
「そんな事、ありません。」
「いや、あるよ。・・君が僕のために動いてくれたのに、僕はそれに応える力がない」
「・・・それは、違います」
そう、きっとシルヴィアにとってあなたは、とても大切な人。
恋愛感情というには、あまりに淡い。
家族愛というには、強すぎる・・色を持つ気持ち。
「・・違うわ・・ルクス様」
久方振りにそう彼を呼んだ。
幼い頃の私は、彼を本当の兄のように思ってた。
でもそれが真実になった時、気づいた本当の想い。
「あなたが、居るから頑張れる」
こんな風に言うつもりはなかった、だが、今しかないとも思った。
残り少ないこの国に居られる限られた時の中で、彼に伝えたい。
「まだ、私に出来る事があるなら、どうか、私を役立てて下さい」
あなたが王となる日を楽しみにしていた。
きっとどんな国のどんな王よりもあなたは、偉大な王となるとそう知っている。
「私の力をこの国の為に使ってください」
この言葉をもう、この人に告げる事はないだろう。
「・・・・シルヴィア・・」
「もう、無茶はしません・・でも私は、全力でこの国も、そしてアカリ様も・・・全てを守って見せます。」
そうだ、幼い事を無知を言い訳に、守れなかったものもある。
父上も、そして婚約者も。
私は諦めてしまった。
「・・敵わないな」
そう彼が私に告げた時、私は僅かな安堵と寂しさを覚えた。
この言葉をもう二度と、聞く事はないだろうと知っているから。
「・・ルクス様、いつぞやの約束を覚えていらっしゃいます?」
「・・あぁ、」
たった7歳の子供が彼に告げた約束。
「「国の華ではなく国の礎になることを誓います」っていってたね」
父を敬愛し、憧れていた私。
「はい・・・今セレネスに居ることがこの国の為になるとは思えません。」
「・・・・・なら、もう一つ、約束してくれ」
真剣にそ言って彼は立ち上がった。
「国を思うように、君を、君自身を大切にしてくれ」
そう言ってくれる彼。
国にという檻に囚われた人。
遠い昔、父は言っていた。
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『王様はね、シルヴィ・・とても孤独なんだよ。』
『こどく?』
『国という大きな檻に閉じ込められたかわいそうな人だ。』
『かわいそう・・・?でも一番えらいんでしょ?』
『そうだよ・・・偉いからこそ、あの方は孤独だ』
『だからね、だから、お父様は彼を一人にしないんだ・・・国という檻の中、彼の耳となり目となり、足と手・・・全てになってあげようと思う。』
『目?耳?』
『そう、国の礎になるんだよ』
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遠い過去の記憶。ただただ、父のようになりたかった。
幼かった自身。
「はい・・・ルクス様」
「・・わかった。バーミリオン伯・・君にもう一度頼もう。国の礎になってくれ・・」
「はい」
いつの間にか、直談判が上手くいっていた。
この服の意味も、そして視線の送り方もマリーの言った通りにしたけど、なにがよかったのかはまだわからない。
「でも、今日はもうおしまい。・・・明日からだ。」
「・・・はい」
「今は僕のヒーリングで楽だろうけど、後で酷い目に合うよ。だから今日は大人しくね」
「わかってます。」
先に釘を刺されてしまったがしょうがない。
そう返せば、疑いの目が三つも私を見つめていた。
「本当かい?」「本当ですか?」「後で確認しますから」
なんて信用がないのかしら。
その全てに全力で首肯する私は、明日からの戦いの日々を思い、ため息を吐いた。




