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終わりから始めましょう ー女伯爵は事後処理中ー  作者: 月のしずく
第2章 フォース国編
19/43

事件はリネン室で起きる。

「今すぐ、各省庁に伝令を・・・私が居なかった間に起きた、変化した全ての事項をまとめて報告するように伝えてっ!期限は今日の夜8時」


「無理ですよ、伯爵」「そうですよ・・・」「うん」


「うるさいっ!泣き言はやってから。書類の整理は侍女にお願いしてる。あの紙の山を整理する仕事をわざわざお願いしてるの、しかも通常業務と並行してよ?あなた達もそれに加わってくれるのかしら?」


「いやっす」「あれって捨てたらダメなんすか?」「まだあったんだ」


私の前にはつい3か月前と同じ面子が揃っていた。

まぁ、主に私の部下だった事務官たちだ。そして私が毒を飲まされたと聞いて勝手の仕事をボイコットしたアホっ子たちでもある。


「サム、カイン、レイモンド・・・・明日にはクィルス、ゼルもここに戻ってくる。いい?こんな状況になったのに国が無事なのは何故だと思うの?」


「・・・・モーデル様のおかげですかね」「奇跡とか?」「・・・わかりません」


三者三様の応えを返してくる彼等に私は厭きれながらも応えた。


「確かにモーデル様のおかげもあるけど、この国の元々持つ力が王子達の無茶をどうにか出来たのよ。とにかく一度神官庁とはいろいろとお話をしなければならないだろうから・・・その準備のためにもあなた達にはしっかりしてもらわないと・・・」


がっくりと肩を落とした彼等に私はそう告げて、目の前の書類に目を通す。

ほとんどが、王子への苦情だ。

読み進めて行くうちに、逆にこちらが涙したくなる内容が多い。


「・・・報告書の書式をもう一度勉強してこい」


知ってるから、大変なのも理解できないのも・・・それをわざわざ丁寧な言葉で書きつづらないで。

紙がもったいないのよ。


「あの・・・伯爵ー」


「なに?」


「いや、その、・・なんか・・・伯爵ーーー」



書類から一切目を離さずにサムの言葉を待っていれば、その歯切れの悪さにしびれを切らした私が顔を上げれば・・・目の前にはルクス王子がそれは美しい笑顔があった。


「サムちゃんと・・・・・・っ!!」


アレ?幻かしら、そう思いたいが・・・出来なかった。

叫ばなかった自分に拍手を送りながら、まず立ち上がって王子に挨拶をと椅子を引いた瞬間。


笑顔の圧力に怯むことになった。


「そのままでいいよ・・・君たちも自分の仕事を続けてくれ」


王子スマイル完璧っですね。そして相変わらず素敵ボイスだ。


「ルクス王子・・・ご自分の御立場を」


「そうだね、僕もまさかここまでとは思わなかったよ」


あぁ、この惨状をみればねぇ。

既に3日はこの(仮)執務室で過ごしている私にとって、惨状を日常に感じて来てしまっているのが哀しい。


未だに第二執務室には入る事もできないのでリネン室での作業となり狭い場所で大人4人が書類の山を処理している所に王子様って。非日常過ぎる。


「申し訳ございません。もう少しだけでお時間を」


「違うよ・・・」


「なにか、お気に障ることが?」


現在、溜りに溜まった公務をハークライト様から引き継いでお一人で担っていらっしゃるのがルクス様だ。

何か問題が起きたのか、それとも・・・。


「あの・・・まさかまた、ハークライト様が?」


数ヶ月前の悪夢を思い出し、ハークライト様の事をつい上げてしまった。

仮にも王族の彼に不敬だというのに。


「・・・あのバカは謹慎中だ。知ってるだろう?」


「はい、いえその・・・」


おっと間違ってバカも一緒に肯定しそうになっちゃったよ。そりゃあ、ここ3日程ほぼ不眠不休ですから許してください。

一応体はバラ水で拭いてあるけど髪まではどうしようもなくて・・・うん、乙女としてどうなのだろうか。

そんな姿でこの国の王子様の前に居る事も十分問題だとも思うけど。


「ハークライト様ではないとすると・・・アカリ様ですか?」


ハークライト様ではないらしい。確かに現在彼には監視付きでの謹慎が目の前の人から言い渡されていた。

ただ、私が心配だったのでアカリ様にお願いして日に一度彼の様子を見に行ってもらっている。


「いいや、君だ」


「・・・・きみ?」


「シ・ル・ヴィ・ア」


そんな素敵ボイスで名を呼ばないでください、ちょっと危なかった。

私?・・おい、なにか間違ったことをしたのだろうか。ここ最近の自分の仕事を思い出す。

いや、書類作業しかしてないけど。


「なにか不備がありましたか?」


自分の知らない内に何かのミスがあったのかもしれない。最終確認を怠ったつもりはなかったが、もしやとんでもない見落としがあったとか。

冷や汗が背中をつたう。


「・・・君が休まない」


「・・・やすむ?」


迫力満点の笑みが緩み、憂いを帯びる瞳に私が映し出された。なにも脈絡もなく彼の手が私に伸ばされた。

まるで大切なモノを包むように彼が私の頬に手をそえて、目の下を撫でた。


「っ!!」


「クマ・・・」


「っ王子!?」


周りの3人も固まっている。 

私も、一瞬なにがなんだかわからなかった。


「・・マリーや他の侍女からも報告があがったんだ」


「なんのですか?」


「君が休息の時間を取ってないって・・・おいで。これは命令だ」


なんだろう・・・急に。

今までこんな風にされた記憶がない、彼がシルヴィアに親しげに話す時、必ず第三者が居た。

決して二人っきりならないそして必要以上に近くには居なかったのだ、まるで一枚のガラスがそこにあるように。

それが私に、第二王子の婚約者である私への距離なのだと・・幼心に寂しさを覚えた事も記憶している。


「どう・・したの・・ですか?」


そう口にしてしまう。


「どうも?・・悪いがもう時間切れだ」


コツリと音がした。茫然としているうちに引いたままの椅子から腕を引かれてその場に立たされた。


「えっ・・ルクス様?」


なにが起きているのかわからなかった、狭い部屋だから私たちの周りにはあまり空間はない。

ルクス王子がすぐ横に立ったと思ったら、世界がぐるりと回った。


視界にあるのはリネン室の天井。


「ふぃえあっ!」


驚きに声があがった、とても淑女らしくない声だがしょうがない。


「っ!!」


不安定な体勢につい体が硬直して目の前の肩に腕が伸びてしまった。


「いい子だ」


「っ!!」


すっごい声が耳をっ!誰かっ助けて!!

誰だ、こんな危険物を自由にさせてるのわっ!!現在私は王子様に正真正銘のお姫様だっこをされていた。

シルヴィアの体型がほっそりだから出来る芸当だ。初めての体勢にどうしたらいいのか迷いながら、とにかく落ち着けと数度深呼吸をする。

落ち着いて・・・・。


「君たちはこのまま作業を続けてくれ、バーミリオン伯を医務室へ運ぶから」


「王子っ!」


「いい子にしててね」


美形は罪です、美声は・・・神です。間違った。

反論しようとする度にその素敵ボイスに邪魔されて、出来ない。


「・・・君は十分頑張ったよ、今度は僕の番だ」


決意表明はありがたい。


でもなんでこんな事になってるんですかっ!




















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