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近衛ジェインの役目。

バーミリオン伯の見舞いを終えたルクス様の様子がおかしい。


久方ぶりに私室へと戻った彼を出迎えたのだが、ルクス様は黙ったまま、長椅子に腰かけ俯いた。

既に治療師の手配も終わっているし、彼女自身も何かを考えているようだったから俺は、席を外したのに・・・何があったのだろう。


「・・・治療師の手配は?」


「もう、終わってますが神官庁のおかげで」


「それ以上はいい。手配が終わってるなら構わない・・・」


苛立ってる事だけは、確かだ。


「何かありましたか?」


「・・・・」


あぁ、ダメだと思った。このままにはしてはいけないと経験上わかっていたので普段は侍女に用意して貰う紅茶を俺自身の手で淹れる事にした。

久しぶりだが、体が覚えているよう紅茶の香りが部屋に広がる頃、やっと下を向いたままの顔が俺を見た。


「ハークライトがあそこまで・・バカだとは」


「・・・」


「シルヴィアから、いくつかの提案をされた」


「提案?」


「ハークライトが自分を見舞いに来るなら、用意して欲しいと」


「何をですか?」


「あれの身の振り先だ」


「本当にお人好しですね」


自分を無実の罪で投獄し、生死を彷徨う事になった原因の一端でもある相手の為になぜそこまでとも思う。

でも、それが彼女なのだ、そう知っている。

彼女を守るようにそう言われてから、倒れる直前まで必死になって国を守ろうと奮闘するその華奢な背を1年の間ずっと見てきた。

紅茶が大好きで、アフタヌーンティーだけは何が何でも時間をとって、それなのに電池が切れたようにどこでも寝てしまう淑女とは思えない癖を持っていて・・・その度に俺は、ブランケットを手にして彼女を探した、1年。


「10日後にジキル子爵をこちらに送ってくれるらしい・・・そこであのバカがどう動くかで決めると」


フォース国のジキル子爵、その名から思い起こす事がある。


「ジキル子爵ですか・・・あの?」


「そうだ、・・本当に恐ろしく切れるよあの子は」


隣国フォースにて、ジキル子爵というのは神事を司る家だ。


「フォースでは、神事を(まつりごと)に利用する時、彼の言葉が信者を操るとまで言われる人だよ」


「そんな方とハークライト様を引き合わせてどうするのですか?」


「察しが悪いな、ジェイン」


「えっ・・」


「ハークライトに学ばせるんだろう。ジキル子爵の手腕をな」


そこまで言われれば俺にも予測はついた。


「・・・それはまた、」


随分と大きな賭けだ、失敗すれば、新たな火種となる。

それこそ国を二分する勢力を生むかもしれないのに、それでも彼女は、第二王子を見捨てないようだ。


「あれが国を救った英雄である事は確かだ。光の巫女であるアカリ様もハークライトに心をひらかれているし」


本当に嫌そうにそう言って、ルクス様は俺の入れた紅茶を飲んだ。


「・・・本当にすごいですね、バーミリオン伯は」


「あぁ、・・・後ハークライトとあの子の婚約については僕が処理する」


「わかりました。」


ずっと幸せを願い続けた、たった一人の女の子が一番信用していた弟によって傷つけられた。

傍に居る事が出来ない立場だったとはいえ、本当なら一番に傍にいて守ってあげたいと思っていた、たった一人をだ。


「・・・シルヴィからこの国を出ると言われたよ」


「は?」


「・・・フォースへ亡命したいと」


怒りが抜け落ちた後、ポツリとそう口にしたルクスがとても寂しげに笑った。


「今度は弟の後見を頼みたいと」


エメラルドと喩えられる瞳から溢れる雫が彼の頬を濡らす。

こいつがこんな風に泣くのだと俺は初めて知った。・・・15年一緒にいたのに。


「ルクス・・」


「・・・こんな事になるなら・・・言えばよかった・・・」


ボロボロと零れた涙が雫となってズボンを濡らしていた。


「っ!それでっ・・お前はなんて言ったんだ」


「・・・フォースへの連絡を」


「ふざけんなっ!」


咄嗟の事で、不敬なんて考えなかった。だけど後悔はなかった。

今この時に俺は言わなきゃならなかったから。

友として、男として・・・そしてなにより1年の間、騎士として守った少女の為に。

ガチャッン!と大きな音を立てたティーセット・・・テーブルに叩きつけた拳がビリビリと痺れたが、そんな事を気にしては居られなかった。


「いい加減にしろっ!お前が・・・お前がそんなだからっ!」


「えっ・・・ジェ・・・イン?」


「・・・なにもしないでっ!・・・・ただ見守る事があの子のためだとっ!自分でさえ偽って・・」


そうやって家族のフリをした顔が嫌いだった。

弟の婚約者だからと諦めようと必死になって・・・兄としての自分をなんとか繕おうとするところが。

だからこそ、今目の前の襟首を掴みあげて、長椅子から立たせる。


「シルヴィア様の事っ本気で好きなんだろうっ・・・」


「あっ・・」


「彼女のために王位さえ捨てようとしてたくせにっ、かっこつけてる場合か!!」


久方ぶりに荒げた声。怒鳴りつけた相手が茫然と俺を見つめた。

お綺麗な顔が苦しげに歪んだので一応手を放す、驚きで涙も止まったらしい。


「諦めるなっ・・なんでもいい・・引き留める手をその出来のいい頭で考え出せ」


「は?」


「本気で・・お前が本気で彼女を望むなら。俺が叶えてやる」


きっと、ずっとこれが言いたかった。

弟の婚約者への恋に悩むこいつを、俺は十年以上見て来た。


だけど今、もう彼女は、ハークライト様の婚約者ではなくなる。

そして自身が無為な争いの種とならないように国を出るとまで言っている。


悩んでる暇はない。


「叶える・・って」


「ジュヴェールを、お前を選ばせろ・・・フォースなんていかせんなっ!」


そうだ、やっとなんだ。

なにも迷う必要はない。・・それに俺は知ってるんだ。


「・・・だが」


「お前が心から望むなら、俺は決して違えはしない・・・手に入れろっ!」


「っ・・・あぁ、行かせない」


「よし・・・やっと目が覚めたか」


はっきりと俺を見つめる瞳には、確かに男の覚悟が宿っている。

そうだ、お前なら出来る。

知ってんだよ、お前がどんなに彼女を思っているか。


「・・本当、敵わないな」


「お前のその背を守り、時に支え、押すのが役目なんでな」


「・・・守られるより押された記憶が多いよ」


「当たり前だろう、このへタレ」


「っ・・・否定できない」


「さて、じゃあどうする?」


「あぁ、まずは、陛下たちだな・・で次はフォースだ。力を貸せ」


「承りました。陛下はまず問題はないでしょうが、フォースは強敵ですよ」


「あぁ、だが、負けるわけにはいかない」


やっとだ、・・・・手に入れてこい。

ジュヴェールのラピスを。














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