第四話
「(なんなんやアレ!?)」
就寝中であったため、ランプなどの照明器具の火はすでに落ちており、辺りを照らすのは窓から差し込む月明かりのみ。そんな部屋の視界は、当然のことながら非常に悪い。
そんな薄明かりの中でも、一目でソレが尋常ならざる者であることが分かった。
服装はメイド姿であったものの、肌はどす黒く、顔面の一部は爛れている。ソレを和己は元の世界で見たことがあった。テレビや映画の中だけで見たソレは一般的に――ゾンビと呼ばれていた。
和己はそんな人外を、服装だけでリリーアフトだと判断したことに内心で謝罪する。
そして、部屋の中にもうひとつ別の気配があることに気付き、咄嗟にベッドから飛び出し、それらとある程度距離をとったところで、改めて周囲の状況を確認した。
そこには計2体のゾンビがいた。1体はメイド服。そしてもう1体はタキシード。奇しくも、その組み合わせを和己は昼間目撃していた。
「(単なる偶然とはちゃうんやろうな……)」
懐に忍ばせていたナイフを握りしめ、望まぬ予想がほぼ確信に変わってしまったことに嘆息する和己。
『イブツ……ハ……ハイジョ……スル』
執事ゾンビが擦れた声で呟きながら、和己の方に向き直る。
その背後ではメイドゾンビが正義の首に手を掛け、ゆっくりと締めているところであった。
「(あかん! このままやと正義が!)」
そう思い、メイドゾンビの方に駆け出そうとした和己であったが、直後、首を絞められ苦しそうに呻く正義は、不意に手を広げメイドゾンビに抱きついた。そして、足も同様に相手の腰に絡みつかせ、メイドゾンビを抱き枕のようにして、再び幸せそうな顔で寝始めた。30歳そこそこのデブのおっさんによる大しゅきホールドの完成である。
思いの外、強い力なのかメイドゾンビは『ア゜ーア゜ー』と呻きながら手足をジタバタ動かすだけで抜け出せずにいる。心なしか顔も嫌そうであった。
「(向こうはなんとか時間稼げそうやな。あとは執事を……)」
そう思って執事ゾンビに注視すると、突然、執事ゾンビの顔がドロドロと溶け始め、代わりにそこから十数本の触手が生えてきた。1本の触手はフランクフルトくらいの太さがあり、更には先端部分が鈍く光っており、刃物を彷彿とさせた。
「(うおおおお! 気持ちわるぅ! なんやねんあれ!)」
極力冷静でいるように努めていた和己であったが、執事ゾンビの異形の姿に否応なく心拍数が上がる。それでも、なんとか平静を保っていられたのは、先日の熊の件で恐怖に対する耐性が少しだけ付いていたからなのであろう。思いもよらない皮肉な結果に心の中で自嘲しながら、和己は打開策を練り始めた。
「(後ろは壁。出口の扉は触手とメイドを越えた向こう側。近くに窓はあるが確かここは二階や。飛び降りたらきっとたたでは済まん。何より正義がおる。ここはこの場でなんとかせんと……とはいえ、相手は触手まみれのよう分からん生物……)」
触手執事を警戒しながら何かないかと部屋に視線を走らせると、チェストの上に液体の入ったガラス容器を発見した。置いてある場所がベッドの横ではなく部屋の隅であること。ガラス容器の隣にテーブルランプが置いてあること。そして、入っている液体に若干色が付いているような気がすることなどから、おそらく、ランプ補充用のオイルであろうと当たりをつけ、それに向けて走り出した。
「(水差しやないことを祈る!)」
触手執事は背を向けて走り出した和己に向けて触手を振るうが空を切る。それほど射程のある攻撃ではなかったようだ。
「(予想的中! あとはこれを……ってうお!)」
ガラス容器を手に取り振り返ると、すぐそこまで触手執事が迫ってきていた。そして、振り上げられる触手。
「(やばい!)」
慌てて和己はガラス容器を触手執事に向けて投げつける。それを難なく叩き割る触手執事であったが、中身のオイルは触手執事に降りかかった。ここまでは和己の思惑通りである。
「(あとはあいつに火をつけるだけなんやが……)」
どうにかして火をつけられないかと触手執事の隙を窺うが、触手執事も自身に振りかかったオイルから和己が何をやろうとしているのかを察したようで、触手を常に頭の上で振り回し警戒しながら近づいて行く。そして、射程範囲に入ったのか数本の触手を和己に向けて振り下ろす。
「ガハッ!」
和己はそれを横っ跳びでかわすが、さすがに全てを避けきることはできず、攻撃を受けた衝撃で壁際まで吹き飛ばされる。すぐに立ち上がろうとする和己であったが、太ももから伝わる焼けつくような痛みにそれを阻止され、片膝をついた状態で相手を睨みつけた。視線の先では、頭上で触手をゆらゆらと波立たせながら、こちらにゆっくりと近づいてくる触手執事が見てとれた。
「(まずいまずいまずいまずい! さっきの仕草からも薄々気付いとったけど、こいつ頭が触手になっても知能あるやんけ! 脳みそどないなっとんねん!)」
和己はここにきてかなり焦っていた。必死に打開策を模索するが、触手執事の慎重な行動によって隙がない。なんとか一瞬でも気を逸らせられればと考えていたまさにその時。
パーン!!
乾いた音が部屋に鳴り響く。思わず何事かと振り返る触手執事。
「(マサようやった!)」
和己は音の正体を瞬時に理解できたため、音の発生源に意識を向けることなく、素早く次の行動にでることができた。触手執事は一瞬注意を後ろに向けてしまう。結果、そこが勝敗の分かれ目となった。
「終わりや!」
懐から出したジッポライターに火をつけるとそれを触手執事に投げつける。放物線を描き飛んでいくジッポライター。それが触手執事に着弾するや否や、着火。あっという間に炎が身を包む。
『ガァァアアア!!』
触手執事は断末魔の声をあげて、その場に倒れこんだ。
「口あったんかい」
そんなどうでもいいことを呟きながら触手執事が息絶えるのを見守ったのだった。
「おまえは呑気でよろしい……のうっ!」
「げふぁっ!」
依然満面の笑みで、すやすや眠っている正義にイラっとした和己は、思いっきり飛び上がり、その勢いのままエルボードロップをぶちかます。
結局、メイドゾンビは正義の膝爆弾によって下半身が吹き飛び、動けずにいたようなので、そのまま触手執事がいたところまで引きずり同様の方法で燃やした。
「俺が! あれだけ! 触手に! 苦戦! しとったのに! お前は! 膝爆弾で! 一発か! ……まともにやんのがあほらしなってくるわ!」
正義の上にまたがり、その豊満な腹をイラ立ちにまかせて殴り続ける。
「げふっ! ごふっ! ちょっ! カズっ! 急に! なん! やねっ! ぼふぁ!」
少しは腹の虫が収まったのか和己が正義から降りると、今度は正義が口撃に転じる。
「カズひどい! 他人の感触や体のぬくもりを実感できる夢を見ることができたのに! 生まれて初めての体験だったのに!」
「じゃかあしい! 他人どころか死人やったやろうが! そこにぬくもりなんてもんあるかい!」
「え? カズ何言うてんの? とうとう人の夢にまでケチつける……よう……に……なにこれ?」
そこで、正義は初めて周囲を確認し、絶句する。
足元にはなんかもう言葉で表現できないグロい物体が散乱。部屋の中央付近では、何かが燃えた跡。そして部屋中に漂う肉の焼け焦げた匂い。
「……深夜のバーベキュー大会? 部屋の中でしたらリリーアフトさんに怒られるで?」
「おそらくやけど、マサの足元に転がっとるんが、そのリリーアフトの一部や」
「いやいやいやいや! さすがにそれは冗談きっついわぁ! あの綺麗で美人で可憐で俺に惚れてるあのリリーアフトさんをこんな単なるたんぱく質の塊と一緒にしたらあかんで!」
「おい! なにサラッと自分の願望言うてんねん! まぁええから聞け!」
そこで和己は正義に、これまでの経緯を説明した。
「……嘘やん。そんな、あのリリーアフトさんが……」
「まぁそういうこっちゃ。2体とも昼間見た服装と全くおんなじやった。おそらく間違いないやろう。必死に泊まるように言うてきたんも、今晩ここで殺して食う気やったんやろな。あの時は微塵もそんな姿見せんだけど。……割と人を見る目はある方やと思ってたんやけどなぁ。見破れんかった自分にもショックやわ」
「……」
「とりあえず、行くで! 屋敷の探索や! 下手すりゃ他にも同じようなんおるかもしれんけど……昨日聞いた魔除けの香だけでもここで手に入れときたいし、当分の食糧や武器の確保もせんと」
おそらくゾンビには効かないであろう魔除けの香ではあるが、少なくとも森の魔物には絶大な効果があるのは既に実証済みである。執事が嘘をついていた可能性もなくはないが、その夜に取って食おうとしていた執事達にとって、魔除けの香の効果について嘘をつく理由は特にない。なにより、香が焚かれていたタイミングが自分達と出会う前であったことが、和己の中で魔除けの香の効果を実証する決定打となっていた。
そして和己は、屋敷を探索する場合と、このまますぐに出発する場合の、リスクとリターンを天秤に掛けた結果、魔除けの香以外も色々発見できそうな屋敷の探索をとったのである。
チェストの中からオイルが入ったガラス容器を数本取りだし、正義を急かす。ちなみにジッポはすでに回収済みである。
「リリーアフトさん……言うてくれたら腹の肉くらいなら齧ってもよかったのに……」
「さすがのゾンビもそのアブラ食うたら胸やけおこすと思うで」
正義は自分の腹をさすりそう呟くのであった。
しばらく二人は屋敷内を探索した。
和己が脚を怪我している、他のゾンビとの遭遇を避ける、などの理由から慎重に行動していたこともあって予想以上に時間はかかったが、それに見合った収穫はあった。
まず一階から探索しはじめ、キッチンから干し肉などの保存食、結局使わずじまいであったフォークとナイフを包丁に換装した。ほんとは使い慣れない刃物よりも取り回しが簡単な鈍器の方がいいのだが、贅沢は言っていられない。次に別の部屋にて着替え、鞄、予備のオイル、マッチなどを発見し、旅の準備を整える。金目の物もいくつかあったのだが、一番欲しかった魔除けの香がまだ見つかっていないので、それを入手するまでは、旅に必要な最低限の荷物以外は持たずに探索を続けることにした。
そして、二階にやってきた。
魔除けの香があるとすれば一番奥の部屋かとも思ったが、奥を探索したタイミングで手前にゾンビが現れると逃げ場所がなくなるため、慎重に手前の部屋から探索を開始する。
といっても、二階はそれほど時間がかからずに順調に探索が進んだ。ほとんどが空き部屋で、部屋の構成もほぼ同じであったというのが主な理由ではあるが、和己の脚の傷がなぜか塞がったというのも大きな要因であった。このこととに関して、和己は思い当たる節があったのだが、今は深く考えず、単純に治った事実に感謝し探索を続けた。ちなみにゾンビはいなかった。結局、結果論ではあるがゾンビはあの2体が全てであったようである。そのことに安堵する二人ではあるが、同様に、魔除けの香も見当たらなかったため、若干げんなりしていた。
「ここが最後の部屋やな……結局一番奥の部屋かいな」
「ゾンビもおらんだし、最初言うてたとおり、一番奥から探したらよかったなー」
「まぁ今更やけどな。そろそろ外も白んできたし、ちゃっちゃと終わらすで」
「あいよー」
その部屋は今までで一番広い部屋になっていた。おそらくこの屋敷の主人が使っていたのであろう。
中を見回すと大きな天蓋付きのベッドがあった。そして、その中に人らしき影が確認できた。
「どうやらここの主さんの登場みたいやで」
「ラスボスか……どうする? 引き返す?」
「……とりあえず声掛けて、話通じへんようなら即逃走や。惜しいけど香は諦めるで」
「そやな。平成のガンジー言われた俺も戦いは望まんしな」
「……知ってるか? ガンジーの最期は暗殺されてるんやで?」
「フラグ立てるんやめてくれへん? 泣きそうなんやけど」
「自業自得や。ほないくで」
和己は意を決して、ベッドの人影に話しかける。
「あのぉ~すんません。ちょっとだけ魔除けの香を分けてほしいんやけど」
しばらく反応を窺うが、人影に反応はない。同じセリフを再度、今度は少し声を張って言ってみるがやはり無反応であった。
怪訝に思った和己は警戒しながらも近づいていく、少しでも反応があれば逃げ出せるように心の準備をして。そして最終的にはベッド付近まで近付き、天蓋を捲りベッドにいる人物の様子を確認した。そこには……
「そら、反応ないわ……」
「……」
生前この屋敷の主であったであろう白骨化した人物がそこに静かに眠っているのであった。
「「……」」
「アスカ様は大変、お美しい方でいらっしゃいました」
「うおっ!」
「ひぃ!! ……あっ」
二人が黙って屋敷の主を見ながら、少しばかり感傷にひたっていると、急に聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきた。驚愕する二人。正義の股間からは熱いパトスがほとばしっていた。
急いで振り返るとそこには、倒したはずの執事とメイドが……なぜか土下座姿でいるのであった。
「お、お前ら倒したはz……」
「先ほどは大変申し訳ございませんでした!」
「申し訳ございませんでした!」
和己の疑問を途中で遮り、土下座のまま顔だけ上げ、大声で謝罪するテイルセント。テイルセントの後ろで同様に控えているリリーアフトは声は聞こえるものの、土下座姿勢で下を向いたまま微動だにしない。
「なんやねんこれ……」
「事情を説明する許可をいただきとうございます! 新たなる主様!」
「はぁ!?」
テイルセントからのいきなりの主襲名宣言に目を見開いて驚く和己。ちなみに正義は股間のパトスが気になってそれどころではないようである。
「順を追って説明させていただきとうございます!」
「お、おう……」
テイルセントからされた説明は和己達の常識の枠を遥かに超えるものであった。
二人が生きている理由。そもそも二人は元から死んでおり、屋敷内にいればどれだけ体が損傷していようとも、時間さえ経てば元の姿に戻ってしまうらしい。ある意味呪われた体ともいえよう。そして、その呪いを掛けた張本人たる屋敷の主は既に事切れており、二人もそのことに関しては半ば諦めているようであった。そんな体にした屋敷の主を恨んでいるかと二人に聞いたところ、全く恨んでおらず、逆に恩のある屋敷にずっと仕えられると感謝し、ご神託通り和己達がくるのを待っていたのだという。
とはいえ、和己達を待っていた期間があまりにも長すぎたため、次第にゾンビ化してしまう夜に自我を保つのが難しくなっていき、長年、テイルセントとリリーアフトだけで暮らしていたということも相まって、久しぶりに屋敷内に入ってきた和己達を本能が異物、つまりは屋敷への侵入者だとみなし、つい襲ってしまったのだということだった。
「つい、で襲われたらかなわんわ……」
「……返す言葉もございません」
「じゃぁ逆になんで昨日の明るいうちに、そのことを俺らに言わへんだんや? 夜自我がなくなるかもしれへんでーって。そしたらこっちも長居することもなかったのに」
「それは……」
テイルセントは言い淀むが、意を決して語りだした。
「それは……大変申し上げにくいことなのですが……失念しておりました」
「……は?」
「この生活を長年続けすぎてしまったせいで、夜に自我が保てなくなること自体、失念していたのです。なにせ、最近では夜間の記憶がほとんどなく、それで特に不自由を感じることもなくなっておりましたもので……」
「申し訳ございません!」
「おいおいおいおい……」
呆れる和己。恐縮ここに極まれりなテイルセントと、後ろでとにかく謝罪するリリーアフト。土下座姿勢はもちろん崩していない。
「あと、主が死んどったのを黙っとった理由はなんやねん」
「それも大変お恥ずかしい理由なのですが……認めたくなかったのでございます」
「……どういう意味や?」
「はい、私共、主様には大変お世話になりました。それはそれは素晴らしい主様でございました。私共をこのような体にするときにも、無理矢理するようなことは一切ございませんでした。もちろんそれが嫌でこの屋敷を出て行った者も多く、結果、承諾したのは私と後ろにいる、リリーアフトのみとなったのでございます」
テイルセントは感情が昂ってきたのか、時々、言葉を詰まらせながら語り続けた。
「もちろんそんなことを、私共だけに強制するような人ではございませんでしたので、自身にも同様の処置を施したのでございますが……うまくいかなかったのか、それが原因で衰弱しはじめてしまい……」
「亡くなったいうんか?」
「ええ。しかし、いつか私共と同じように生き返るのでは……ましてやご神託通り、お二方が現れたのでございます。もしかすると、このタイミングで主様も……と期待してしまうと口に出すことができず……また、口に出してしまうと亡くなった主様が……今後一切生き返らなくなるのではと思ってしまい……ずるずるとお二方には言えずじまいとなってしまいました」
「なるほどのぅ……」
一応の納得を得た和己。
「それで、俺らを新しい主認定するっていうのはどういうことや? 主さんに忠誠誓っとったんとちゃうんか?」
「それはそうなのですが……お二方が現れても生き返らないということは、今後、主様が生き返ることは決してないでしょう。完全に体に施した処置が失敗していたとも言えます。そんな主様をこの屋敷にいつまでも置いておくのは、私共の単なるわがままに過ぎません。それでしたら、いっそのこと私共で埋葬させていただき、新しい主様を見つけ新たに仕えた方が、この屋敷の、ひいては主様のためになるとも思うのでございます」
「なるほどのぅ……リリーアフトもそれでええんか?」
「はい! もちろんでございます!」
和己はしばらく黙って熟考した。正義もパトスを早く乾かす方法を熟考した。
「そっか……分かった。主さんの代わりに俺らが新しい主になってもええよ」
「本当でございますか?!」
「あ、ありがとうございます!」
「ただし! ……ただしやで? 俺らは今日この屋敷を旅立つ。それでもええんやったらが条件や。この条件は絶対に譲れん」
「左様でございますか……なんでしたらもう一晩だけでも泊まっていただいて! おそらく主認定させていただきましたので、夜も襲うことはないかと思うのですが……」
「やめとくわ。それでまた襲われたらかなわんし。なによりそうなったら、あんたらも辛いやろ?」
「確かにそうですね……まともに主人に仕えることもできないとは、慙愧の至りでございます」
「え? ザンギエフ?」
「あほ、慙愧やざんき。ものすごく残念やー言うてんねん」
「なるほどー」
そこからの行動は早かった。ベッドに眠っていた前主を屋敷から少し離れた景色にいい丘の上に埋葬した後に、改めて旅の準備をする和己達。今度はテイルセントとリリーアフトの協力もあり、特に問題もなく準備が整っていくのであった。
「私共、いつまでも主様であるお二方をお待ち申し上げております。次回までには必ず24時間いつでも自我を保てるようにしておきますので」
「また、いつでも戻ってきてくださいね」
「お、おう……」
「はーい! リリーアフトさんまったねー!」
正式に和己達の執事とメイドとなった二人の言葉に、和己は若干微妙な顔をしながら、正義は満面のキモい笑みで返答し屋敷を旅立つのであった。ちなみに、次の町まで一緒についていくという二人の提案を和己は当然断った。和己曰く「色々ややこしくなりそうな予感がした」とのこと。賢明である。
「まぁなんにせよ。これでよかったんかなぁ」
「ええんちゃう? 二人が納得しとるんがええ証拠や」
「そっか……そやな! 今度戻ったらリリーアフトさんに……ふふふ……」
「きもっ! おいその顔、次の町に着いたら絶対すんなよ! すぐ衛兵に捕まるで!」
「カズはあほやな~そんなことで捕まるわけないやん。俺のスマイルはプライスレスなんやで?」
「どう考えても価値ゼロの方やろ! ……それにあの屋敷に戻ることはもうたぶんないで」
「なんでや!?」
「そらそうやろう。俺らの最終目的言うてみ」
「……あ」
「そういうこっちゃ。俺らは基本一度行った町には二度と戻らん。そういう運命や思て諦めるこっちゃな」
「うう……せっかくの美人メイドが……」
「……マサは夜のリリーアフト知らんかったな」
「どやった!?」
「そりゃ~もうスゴかったで~もう色んなとこから色んなもん見えてたしなー」
「まじかー! 夜のリリーアフトさんやべーな!」
「主に骨とか」
「そっち!?」
二人はどうでもいい内容のない会話を繰り広げ街道を北へ。次の町シーボルへの向かうのであった。