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第十四話

 和己達の足元から放たれていたまばゆい光は徐々に収束していき、二人がその光からかばうように閉じていた目を開けると、そこには以前見たことがある景色が広がっていた。


「エコナ様が最後に言うてたけど、ここってやっぱり……」

「言わんでもええ」


 周辺を取り囲むジャングルよろしく深い森、そして耳を澄ませば聞こえてくるよく分からない魔物達の鳴き声。間違いなく、和己達が初日に落ちたあの森そのものであった。


「マサ……これもテンプレなんか……」

「え、えっと……ほ、ほらあれやん! いわゆる『つよくてニューゲーム』やと思えば!」

『ガァルルルル』


 和己の質問にはあえて答えず、自身の意見を強く主張する正義。そして……


『ガフッ!』

「はぁ……まぁそう思わなやってられへんか」


 足元に転がっているケッコウツヨイクマーを見ながら、ため息交じりにそう呟く和己。以前は死に物狂いで逃げ回っていた魔物を瞬殺できていることから、正義の言い分もあながち間違いではないようであった。


「そうやで! 気持ち切り替えてこの森を抜けようやないか!」

「そやな。ここでうだうだ言うててもしゃーないし。とりあえず、周囲の魔力探りながら進むことにしよか」


 二人は折れかけていた決意を無理矢理立て直し、アブリアス樹海を突き進んでいくのであった。




「ん? なんか魔力が集団で固まっとる場所があるな。今までの感じからして魔物とはちょっと違うみたいやし……村やろか?」

「完全に飯フラグやな!」

「それはお前が単に食いたいだけやろが」

「否定はせん! とにかくはよ行こー!」


 魔力を感知した場所に向かって元気よく駆けていく正義。一見、はしゃいでいるように見えてその実、おそらく無意識なのであろうがちゃっかり気配を消している正義に、「これが食欲の成せる業か」と呆れながらその後を追いかける和己であった。

 そして、いよいよ魔力の集団とご対面となったところで、一旦その場所を見通せる近くの茂みに隠れ、様子を伺う二人。


「思てた通り村やったな。さて、問題は友好的かどうかやねんけど……マサどう思う?」

「テンプレ的にあの見た目の種族は、割りと他の種族を毛嫌いする場合が多いんやけど……そこは物語によって違うからなんとも言えんなぁ」

「とりあえず、行くだけ行ってみるか。あかんだら即逃走でたぶん大丈夫やろ」

「あいよー!」


 和己達が発見した村人達は、もれなく耳が長く、端正な顔立ちをしていた。その姿の種族が出てくる物語は元の世界でも数多く、その者達は総じて――エルフと呼ばれていた。二人は街角で急に芸能人に会えたような不思議な高揚感を味わいながら、入り口でたたずんでいる第一村人に声を掛ける。


「あの~すんません」

「だ、誰だ?!」


 急に茂みから出てきたおっさん二人にびっくりし、身構える第一村人。


「ちょっと森で迷ってるもんなんですけど……」

「この森にわざわざ入りこんで迷っているだと?! どういうことだ!」

「え? いや、あのそのまんまの意味なんやけど……」

「冗談も休み休み言え! この森に入ってちょっと迷うだけで済むわけがないだろう! そんじょそこらの森とはわけが違うんだぞ!」

「そうか……確かにそうやな……」


 第一村人の言葉に、この森が別名、死の森と言われ恐れられていたことを思い出す和己。確かにこの世界に来た当初の二人にとっては死の森と言うにふさわしい森であったが、今の二人にとっては見晴らしのいい平和な平原となんら変わりが無かったため、ついそのことを忘れていたのであった。そして、それらの事実を第一村人に指摘され、いかに自分の発言が世間の常識とずれたものであったかを改めて噛みしめる和己。


「納得していないでちゃんと説明しろ! 貴様達は一体ここに何をしにきたのだ!?」

「いや、俺らは単純にこの森を抜けたいだけなんやけど……」

「目的も無しにこんな奥地まで来るやつがいるか! 貴様、まさか俺をただのエルフだと思って馬鹿にしているのか?!」

「あ、やっぱりエルフやったんや」

「貴様ぁあああ!」


 終始冷静な和己の態度に、第一村人は舐められていると勘違いし、腰に帯びた剣に手を掛ける。


「ちょ、ちょちょちょい待ち! 俺らも別にここに来たくて来たわけやなくてやな。エコナ……いや、フォレストマスターにここに飛ばされたんやって!」


 臨戦態勢の第一村人に焦りながらも和己は現状を必死に説明する。


「フォレストマスター? 誰だそいつは!」

「え? 知らんの? 本人はわりかし有名や言うててんけど……」

「そんな怪しいやつは知らん! さては貴様ら……この村を襲いにきたやからだな!」

「違うねん! そうやないねん!」

「であえであえー!」


 男は和己の言葉に聞く耳をもたず、村に向かって大声で呼び掛ける。ほどなくして、和己達は第一村人から呼び出された第二村人以降に周囲を取り囲まれるのであった。


「女やったらハーレムやねんけどなぁ」

「いやどう考えてもそんなこと言うとる場合やないやろ!」


 ぼそっと呟いた正義の言葉にすかさずツッコむ和己。確かに周囲には女性と思われるエルフの姿は無く、遠くに数人見られる程度であった。


「お前達! この村を襲おうとするとは一体何が目的なんだ!」


 このような状況であっても、あまり取り乱すことのない和己達に、若干うろたえるエルフ達であったが、勇気ある者が和己達に詰め寄る。


「いや、だからさっきからずっと否定してるやん。俺らフォレストマスターにここまで……」

「だからそんな者は知らんと……」

「なんと?! フォレストマスター様ですと!?」


 依然続く押し問答に割って入ってきたのは年配のエルフであった。おそらく和己達にとっては第二十八村人くらいであろう。


「おたくは知ってるんか?」

「もちろん存じ上げておりますとも! ここにいる者達も、知ってはいるのでございます。ただ、若干呼び名が違いまして」

「あーそしたらエコナって言うた方がやっぱりよかったんか?」

「いえ、そうではございません。もっと有名な別名がありましてな。それは……」


 年配のエルフは和己達を見詰めると、真剣な眼差しで答えるのであった。


「森店長様でございます」

「……へ?」

「なんと! フォレストマスターとは森店長様のことであったのですか長老!」

「うむ、昔は森店長様とは呼ばずフォレストマスター様と呼んでおったんじゃが、いつしか語呂がよく、短くて言いやすい森店長様の方が我々の間で浸透してしまっての。お前達が知らぬのも無理はない」

「そうでありましたか! ではこの者達の言うことは……」

「おそらく本当のことであろう」

「こ、これは失礼いたしました!」


 第一村人は和己達に向かって大きく謝罪するのであった。


「いや、俺らも分かってくれたらええんやけどな。別にどうこう言うつもりもないし……」

「ちなみに森店長様……いえ、フォレストマスター様は元気でありましたか? 最近こちらには全く顔を出してくれなくなっておりまして……」

「あぁ……心配せんでも元気にしとったで」

「そうでしたか! それはよぅございました」


 和己はこっちに来なくなった理由を、以前のエコナの態度から、「森店長って呼ばれるのが嫌やから来ぇへんようになったんちゃうか?」と推察していたが、言うと色々ややこしい話になりそうだったので、口をつぐむのであった。


「それで、森の出口を教えてもらいたいんやけど……」

「その前に少し私共の村に寄っていってはもらえませぬか? 先ほど村の者が失礼したお詫びも含めて歓待させていただきますぞ」


 長老の口から飛び出した歓待というキーワードに身構える和己達。そして、歓待にほぼ付いて回るあの単語を嫌々ながら口にする。


「あのぉ……長老さん、もしかしてやけど、最近ご神託を授かったとかいう話、聞いたことあらへん?」

「ご神託ですかな? ん~この村では聞いたことはございませんなぁ。それが何か?」

「あ、いや。別に無かったらそれでええんや」


 トラウマレベルの単語に全く無反応な長老の態度を見て、内心ほっと胸を撫で下ろす二人であった。




 その後、村の中を案内される和己達。住んでいる人種以外は特に他の村と変わった様子は無かったため、案内自体はすぐに終わったのであるが、ただ一つ、肉屋では比較的長時間滞在する和己達であった。なぜなら、エコナのところを出発する前に食料の補充を行ってはいたものの、あの森の食料は基本的に果物か野菜しかなく、現状、肉成分が圧倒的に不足している状況であったからである。特に正義のがっつきぶりはひどく、荷物の大半を干し肉や塩漬け肉に差し替えているほどであった。さすが魔物を生で食そうとした男である。

 村の案内も終え、今度は森の出口まで案内してもらおうとする二人であったが、どうやら案内の間に長老の家にてご馳走の準備をしていたらしく、それに招かれる和己達。いきなりのお誘いに恐縮する和己であったが、わざわざ用意してくれた物を断るのも悪いかと思い直し、結局およばれにあずかることにするのであった。もちろん、正義は全身全霊でご馳走の提案を享受していたのは言うまでもない。

 ご馳走をいただく間の主な会話はやはりというか、最近とんと見なくなったエコナの話題であった。長老が和己達に言ったお詫びという意味合いもこのご馳走にはもちろん含まれているのであろうが、引き止めてでもエコナのことを聞きたかったというのが大方おおかたの本音なのであろう。和己達にとってもそれでご馳走がいただけるのであれば、それはwinwinの関係と言えたため、結果、エコナの近況を生贄に、ご馳走を召還する形になる二人であった。




「あの……そしたら俺らここら辺でおいとま……」

「貴様! まだそんなことを言っているのか!」

「そのセリフそっくりそのままお前に返してやるわ!」


 一通りのことを話し終え、今度こそ森の出口まで案内してもらおうと、和己が長老に提案しようとした時、外から叫び声が聞こえてくるのであった。


「また始まったのか……すみません。少し待っていただけますか」


 その声を聞き、さっきまで笑顔であった長老が途端に険しい表情になり、外に出ていくのであった。和己達も何事かと気になっていたので、長老の後を付いていく。


「お前らやめぬか!」

「ですが長老! こいつが一向に大地の神ガーピン様をあがめようとしないのが悪いのです! 我々エルフ達にとって大いなる自然の恵みを与えてくださる大地こそ最も崇めるべきものなのは自明ではありませぬか!」

「何を言う! 火の神ムクー様が唯一神であるに決まっておろう! 肉を焼き、暖を取る。火が我らエルフ達に多大なる恩恵を与えてくれるからこそ、生きていけるのであろうが!」

「客人で前であるぞ! 静かにせぬか!」

「「ですが長老!」」


 エルフ同士のいざこざを目の前にし、早期の解決を望むのであれば、客人として招かれている立場を利用して、無理矢理この場を収めるという方法を取るべきなのであろう。しかし、二人は今それどころではないようであった。


「カ、カズ! アレはやっぱりアレのことなんやろうか?!」

「そ、そんなわけないやろ! 色と名前は確かに若干似とるかもしれんが、完全に似て非なるものに決まっとるやないか!」

「そ、そうやんな!」


 しばらく動揺していた和己達であったが、やっとのことで正気に戻り現状を確認すると、依然収まる気配の無い若者二人に長老がとうとう最終決断を下すところのようであった。


「それならば、いつものアレで決めるがよかろう」

「で、ですがアレは!」

「よい。今回は特例だ。客人の前で長々と言い争うこともあるまい。アニモ、MCを頼む」

「承知いたしました」

「ん? MC?」


 アニモと呼ばれたエルフはおそらく長老が信頼を置く側近的なポジションなのであろう。うやうやしく長老に向けて一礼をすると、言い争いをしていた男達に向かって言い放った。


「激闘を制するのはどちらか! 第三百四十二回! 超絶ダンスバトルの開幕だ!」

「「「わぁあああ!!」」」

「「……へ?」」


 男達を取り囲んでいた野次馬エルフ達は、アニモの宣言を受けた途端、熱い歓声と共にオーディエンスへと早変わりする。それと同時に、どこからともなく持ってきた楽器でアップテンポなメロディーを奏でだすエルフや、周囲に色鮮やかな光の魔法を解き放つエルフすらも現れて、鬱蒼としていた森は一瞬にしてダンス会場へと変貌するのであった。そんな周囲の状況に全く付いていけず、ただひたすら呆然とその様子を見詰めるしかない和己達。


「先攻は大地の神ガーピンサイドから! 今、波に乗ってる新進気鋭のバトルダンサー! ローレンスからスタートだっ!」


 アニモの紹介が終わるや否や、ローレンスと呼ばれたエルフは、アクロバティックなダンスを披露する。


「見て! いきなり十八番のブレイクダンスよ!」

「な、なんて凄まじいキレなんだ!」

「キャー! ローレンス素敵ぃ~!」

「「……」」


 ローレンスがダンスを終えると、腕を組みどや顔で相手に向き直る。


「続いては、火の神ムクーサイドから! 今まで数々のライバルを倒してきたその技は既に円熟の境地! ベルモントだー!」


 対戦相手のベルモントと呼ばれたエルフは、ゆっくりとした動作でダンス会場の中央までくると中腰になり両手を掲げ、その場にて音楽に合わせてステップを踏み出し、手をひらひらと花びらが散る時のように揺らしながら踊りだした。


「見て! こっちは伝家の宝刀アワダンスよー!」

「す、凄い! 中腰の姿勢のまま全く上半身が上下にぶれていない!」

「なんて強い足腰なんだー!」

「「……」」


 額に汗をかきながら、ひとしきり踊り終えたベルモントは所定の位置に戻り、こちらもどや顔でローレンスを睨み返すのであった。


「な、なんなんやこれは……」

「驚きましたかな?」


 やっと呆然の呪縛から開放された和己に、隣の長老が声を掛ける。


「我々エルフ族の間には、昔から信仰の違いにより度々争いが起こっておりました。そして、目の前の光景を見ていただければ、その争いが今も続いていることが分かるかと思います。もちろん、以前はこのようなダンス対決ではなく、ケンカや、時には殺し合いにまで発展することもしばしばありましてな。ただでさえ少ないエルフ族をこれ以上減らすのはいかがなものかと、双方で話し合いが行われ、その結果、このような対戦形式が生み出されたというわけですじゃ」

「な、なるほど……割りとちゃんとした理由があったんやな……」

「よかった……ふざけるのは俺だけで十分なんやで」

「まぁ今では半分お祭り感覚の者もいるみたいですがな」


 長老の説明を聞き、納得する和己達。


「それではどっちのダンスがよかったかの判定タイムだ! まずはローレンスから! オーディエンス! メイクサムノーイズ!」

「「「わぁああああ!!」」」


 どうやらオーディエンスの歓声の大きさによって勝敗が決まるようであった。


「すげー歓声だ! 続いては……」


 もう一方の評価をオーディエンスに問おうとしたその時、ダンス会場の中央に突如として黒い影が飛び込んできた。そして……


「あ、あれは……最近新しいジャンルを確立しつつあるパントマイムよ!」

「何あれ! あそこに壁なんてあったかしら!」

「あれはそういう風に見せているダンスなのさ!」

「す、すごい! ダンスの可能性はまさに無限大ね!」

「きゃー! すてきー!」


 黒い人影はその後もダンスを続け、オーディエンスはさらにヒートアップしていく。


「ふぉぅ!」


 最後に黒い人影は、両足のかかとを上げて、つま先だけで立ち、右手を頭に添え、左手を天高く掲げた決めポーズと共に甲高い声を放ち、ダンスを終えるのであった。


「「「わぁあああああー!!」」」


 オーディエンスの割れんばかりの歓声はとどまることを知らず、先の二人の敗北は明らかであった。膝を突きうなだれるローレンスとベルモント。黒い人影は満足気な顔をし、辺りを見回した。そして、和己達を視界に捕らえ目を見開いた。


「あれ、お前達」

「あ……」

「……え?」


 それは、いつか見た黒装束の男であった。




「ここは私の故郷。里帰りしてた」

「そ、そうやったんですか。その節はどうもです……」

「ご、ご機嫌うるわしゅうございます!」


 黒装束の男――ギーモスは、どうやらエルフ族であったらしく、一時的に帰省していたとのことであった。そして、それらの事情をなぜか、長老の家戻って聞くはめになっている和己達。正直、一秒でも早くこの空間……いや、村から脱出したい二人であったが、残念ながらその願いは当分かなえられそうになかった。


「お二人がギーモスのことをご存知だとは、世間は狭いとはよく言ったものですな。ギーモスは王都で人のためになる仕事を王様直々に受けているとかで、我が一族の出世頭なのですじゃ」

「そ、そうなんですねー! それは結構なお手前で!」

「人のためになる仕事ねぇ……」

「おや? お二人はギーモスの仕事に関してはあまりご存知なかったのですかな?」

「いえいえ、ただ人ごr……ひぃ!」

「あほっ! そ、そやねん! 町でちょろっと意気投合しただけやったから、そこまでは知らんかってん!」


 うっかり口を滑らしかけた正義を和己が制止した直後、ギーモスから正義に向けて殺気の奔流が放たれ、それをまともに受けた正義はあまりの衝撃に意識を押し流されかけた。その後、慌ててごまかし事無きを得る和己達であったが、もし正義が全部言っていたらと考えるだけで、肝が釘を打てそうなほど冷える和己であった。

 そんな窮地からしばらくは、たわいもない話を繰り広げていたのであるが、いきなり長老がトイレで席をはずすと言い出した。それだけは勘弁してくれとの和己達の願いは当然、長老の生理現象に届くことは無く、部屋には一時、和己達とギーモスだけとなるのであった。途端に張り詰める空気。そんな空気の中ぼそっとギーモスが呟いた。


「例の件は……」

「もちろん誰にも言ってへんで!?」

「ですです!」

「ならよし……ん? お前達ちょっと強くなった?」

「ええ、ちょっとだけですけど……」

「ですです!」

「そうか……」


 ギーモスの問いかけにコンマ何秒の反応速度を見せる和己達。そして再度沈黙が部屋中を我が物顔で支配する。長老が戻るまでの数分間。二人にとってそれはそれは無限に感じる時間であったとさ。




 結局、その日は夜も遅いということで、エルフの村に泊まることになる二人。一刻も早くこの村をというより、ギーモスから距離をおきたい和己達であったが、ギーモスが明日、王都に帰るということでついでの道案内役を長老から頼まれてしまい、なんとギーモスもそれを承諾するのであった。考えうる限り最悪の人選となったことに内心長老を恨む和己達であったが、ギーモスの案内を無下に断るわけにもいかず、ずるずると流されるがまま泊まることにまでなってしまい、この村に寄ったことを今さらながらに大きく後悔する二人であった。

 その夜、久しぶりに帰省したギーモスがまた村を出るということで、宴が開催された。どうやらギーモスは踊りだけでなく弦楽器も引けるようで、こちらもかなりの上手さであった。しかし、それ以上に和己達を驚かせたのは、普段の寡黙な姿からは想像もできないほど、叫ぶように歌うギーモス自身の変貌振りである。その姿は見る者の胸を熱くさせ、幼い頃には確かにあった……そして、大人になった今ではとうに忘れてしまった何かを思い出させる、魂からの歌声がそこにはあった。

 そんな歌声に釣られたのか、周囲にいたエルフ達も各々楽器を持ち寄り、ギーモスのセッションに参加していく。さらにその周りを囲むように曲にノッて踊り出すパーティーピーポー達。俺達の青春はまだまだこれからだ――そんな思いがこもった宴は夜通し続くのであった。

 ちなみに和己達はとっくに昔に長老の家で寝ていたことをここに記しておく。




「さぁ、やっと王都やで!」

「れっつらごー!」

「お前達、元気。何かずるい」


 翌朝、そこには目の下にクマを作ったギーモスと、快眠を果たし体調万全の和己達の姿がそこにあった。




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