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第一話

初投稿です。

現状ストックは全くありません。ですので、もし気に入ったという奇特な方がいらっしゃった場合は、ゆっくりお待ち頂ければ幸いです。

「もうあんな思いは2度としとうないわ……」


 そう語るのは35歳無職の香坂正義こうさかまさよしだ。


「それでホンマに聞く気あるんか? 自分で言うのもあれやけど、こんな話信じる方が頭おかしいんちゃうかと思うんやけど。え? なんて? 小説投稿サイトに投稿するネタが欲しいから聞きにきただけ? つまりは信じてないってこっちゃな。まぁええわ。俺的には金さえ貰えれば信じる信じへんは関係あらへんしな」


 そう言いながら正義は語った。


「そうやな。あれはある晴れた日のことやったと思う……あ、雨やったかな? ごめん、基本家に引き篭もっとったからそのへんよう分からんわ。え? 別に天気はどうでもいい? さよか。まぁなんにせよ、いつも通り家で引き篭もってゲームしてたんやと思う。そしたら……」




「なぁ。何かおもろいことないん?」


 正義はテレビ画面からは目線を逸らさず隣にいる男に問うた。


「あったら今ここでお前とはゲームしとらんやろうな」

「そらそうやな」


 そう答えるのは正義にとって親族以外で今現在唯一接点のある人物、小野寺和己おのでらかずみであった。

 和己は大学時代に知り合った友人の一人で正義が前の会社を辞めて無職になってからも、こうしてたまに会っては適当に遊ぶという関係を続けている。因みに和己自身は無職ではなく自営業の整体師である。


「そういや最近膝の調子が悪うなってきてな。ちょっと診てもらえへん? あ、そこの壁修復しといて。じゃないとゾンビ家の中に入ってくる」

「診んでも分かる。膝に負担かかっとるだけや。まず痩せろ。あと自分が壊した壁くらい自分で直せ」


 正義は自他共に認めるデブであった。無職なのに。本人曰く「空気で太る体質」らしい。

 そのせいで正義の膝はそろそろ限界に達しつつあり、いつ膝の爆弾が爆発してもおかしくない状態であった。

 和己は以前から正義に散々忠告しているのだが当の本人は食生活などの生活習慣を改める様子は全くなく、和己自身もそのことに関して諦めながらも半ば口癖のような感じで忠告していた。


「あ、そや。あと最近肘にも違和感あんねん。これなんやと思う? あ、そこの壁終わったら隣の部屋の天井もよろしく」

「知らん。そんな往年のプロ野球選手みたいなこと言っとらんとまず痩せろ。話はそれからや。あと自分でやりかけた部屋くらい最後まで自分でやれや」


 だらだらゲームをやりながら適当に内容の無い会話を交わす。

 こんな掛け合いを二人は大学時代から変わらず続けている。

 ちなみに二人が今やっているゲームは日が高いうちに家などを構築し、夜になればゾンビなどの敵が周囲を徘徊するので、家に引き篭もるか地下を掘り進んでいき、集めた材料で建物の増改築や装備やアイテムを充実させて楽しむサンドボックス型のゲームである。

 これ系統のゲームは特定の場所にボスなどが配置されていたりはするが、特にこれといって目的が決まっているわけではなく自由に何をしても良いといった仕様なので、基本正義が大まかな流れを作りそれに和己が乗っかるというのがいつもの流れであった。

 そしてこの日も家の改築が大体終わったので、残りを和己に任せてそろそろ地下に潜って足らなくなった素材を集めようかと思い、地下に向かうための準備をしているところであった。

 その時……


 ヴィーイヴィーイヴィーイ! ヴィーイヴィーイヴィーイ! ヴィーイ……


 二人の携帯電話からけたたましい音が鳴り響いた。


「え? 何これ二人とも同じ着信音やん! やだキモい!」

「あほ! そうちゃうやろ! これ緊急地震速報の音や! これは一旦外出たほうがええで!」


 正義は急な大音量よりも別の意味でうろたえていたが、和己は冷静にツッコんだ後、状況を察し判断した。そして行動に移そうと腰を上げた時に……


 ゴゴゴゴゴゴ……


 二人が今居た所の地面が真っ二つに割れ重力に従い二人はその底の見えない深い亀裂に吸い込まれるように落ちていった。


「あぁあ! 嘘ぉおおお! まだセーブしてないのにぃいいい!!」

「そんなこと言っとる場合やないやろぉおおおおお!!」


 正義も意外と冷静なのかも知れなかった。




「こ、ここは……っていうか生きとったんか……」


 和己が目を覚まし頭を抑えながら呟いた。


「なんやそうみたいやね。しかしこれって……もしかして……」


 正義はすでに目を覚ましていたらしく辺りをキョロキョロと見回しながらそう返答した。


「ん? なんか気のせいかウキウキしてへん?」

「そ、そんなことないで。いい○もも終わってだいぶ経つのに、い、いまどきウ……ウキウキなんてするわけないやろ」


 そう言う正義の声は明らかに上擦っており、そして辺りを調べるために歩いている仕草もスキップ一歩手前であった。その様子はまるで新婚ほやほやで長期出張を言い渡された夫が3ヶ月振りに帰ってくると聞き、今か今かと待つ新妻のソレであった。本人は否定していたが完全に香坂正義アワーであった。


「お前状況分かってる? 谷底に落ちたのによう分からん森の中におんねんで? なんでそんなウキウキしてんねん? 意味分からん!」


 そうなのだ。二人の周辺はジャングルよろしく深い森が取り囲んでおり、耳を澄ませばよく分からない動物の鳴き声が聞こえてくる。

 和己は悟った。ここは明らかに日本ではない。思わず亀裂に落ちた勢いでブラジルまで来たのかと思ったが常識的に考えてそんなこと起こるはずがないと頭を振って否定する。

 そんな訳の分からないこの状況においてなぜか正義は未だ香坂正義アワーを絶賛放映中であり、そんな様子も合わさって和己は更に苛立ち語気を荒げてそう叫んだ。


「いやだって……ねぇ。これってやっぱり……アレやろ?」

「アレってなんやねん! はよ言え! ニヤけるなキモい!」


 30歳そこそこの中年の男がニヤニヤしている姿は場所が場所なら完全に職質対象であろう。

 正義もそれは重々承知しているのだが、ことがことだけに興奮を抑えることが出来ずにいるようであった。


「完全に……異世界ってやつやろ? あー言ってもうた! 異世界って言ってしもうた!」


 キャッキャウフフとはしゃぎながら正義はそう言い放ち、自身の口から出た【異世界】という単語に更に興奮する。その様は見るに耐えないという言葉がぴったりであった。


「ウザッ! って異世界? なんやそれ! そしたらあれかい! ここは日本どころか地球ですらない言うんかい!」

「だってそう考える方がまだ納得できるやろ? 周り見てみ? 明らかに谷底ちゃうし。まさか落ちて地球の反対側まできたなんて言わんよな?」

「あ、あほ! 誰がそんなこと思うかい!」


 正義が投げかけた言葉に和己はさっき脳裏にちょっとかすめた思いを見透かされたのかと一瞬ドキっとする。


「しかし、お前はなんでそんな冷静やねん。異世界やと決まったわけやないけど、仮に異世界やと仮定したら下手したら元の世界に戻られへんかもしれへんねんで! ……せっかくリピータが付いてきてようやく店も安定しだしたのに」

「あーカズはそうやな。まぁテンプレやと元の世界に戻ったら、実は亀裂に落ちてからそんなに時間経ってなかったってパターンもあるからそれに賭けるしかないな。ドンマイ!」


 嗚呼と、頭を抱えてその場に座り込む和己に、正義は某元読売監督のように両手を胸の前に出しグッと握り締め笑顔で励ます。


「……あークソ無職死んだらええのに」

「ハッハッハ! 褒めんなよ照れるやん!」

「褒めてへんわ! あかん! もう我慢でけへん! お前を殺す! 今この場でお前を殺す!」

「ちょっ! まて! 早まるな! 俺はまだ生きる! 生きて異世界を楽しむんやから今殺すな! 後悔するで! 異世界という大海原を航海する前に後悔することになるでー!」

「うるさい死ね! 戻ったらお前の家族に遺言はしょーもないダジャレでしたって報告したるから黙って俺に殺されろぉおおお!」


 イラだちが頂点に達した和己は割りと本気で正義の首を絞め三途の川まであと一歩というところまで追い込んだのであった。




「で、そのテンプレってなんやねん」


 生死を賭けた一方的な戦いが一段落したところで乱れた身だしなみを整えながら和己は質問した。


「ふふふ……カズはそのへん全く知らんねんな。いいか? 最近のネット小説界隈ではな、わりと異世界物の小説が流行しててやな、異世界に召還されたり転生したりと色んなパターンがあるんやな。谷底に落ちるのは……まぁあんま聞いたことないけど想定の範囲内や」


 正義は無職である。金は無いが時間は有り余るほどあった。そんな正義と無料で読めるネット小説との相性は抜群であった。正義はハマりにハマり読みふけった。そんな正義は特に異世界転生・召還物の小説を好んで読んでいたため、いわゆるテンプレと呼ばれる知識が増えていくのは水が上流から下流に流れるかの如く至極当然のことであると言えよう。


「ほう? で? お前のその脳内にあるテンプレ的にこの状況はどうやねん。個人的にはすこぶるよろしくない状況やと思うんやけど?」


 森にいい歳したおっさんが二人。しかも道具も武器も何も無い状況。更に言うなら家からそのまま落下したために靴すら履いていない。和己はほぼ最悪な状況であると判断していた。


「ふふふ……まぁ何も知らんだら普通はそう思うわな。まぁ見とれ……まずはこれや! ステータスオープン!」


 正義はドヤ顔で叫んだ。


「……で?」


 しばらく待ったが何も起こらないことに痺れを切らした和己が正義にひらがな一文字で問うた。


「あれ? おかしいな……こっちかなメニューオープン!」

「…………で?」


 怪訝という文字で構成された顔の和己が正義に再度ひらがな一文字で問うた。


「あ、あれかな? こう人差し指で上から下に……スワイプ!」

「一応聞くけど、さっきからそれ何してんねん」


 正義の意味不明な行動に和己はとうとうひらがな一文字を文章に昇華させ質問する。


「えっと……こういう場合はやな、大体異世界にはステータスいうものがあってな。それを確認する方法があるのがテンプレなんやけど……これかな! あれかな! それかな! ……どれかな?」

「いや聞かれても分からんわ。つまり散々ドヤ顔晒してやってるけど何の成果も無いってことやな?」


 正義は他にも思いつく限りのステータスを表示する方法であるテンプレを試してみるがなにもそれらしい変化は起こらない。

 そして、おもむろにうつむきながらその場に座り込んで両手で顔を覆うと


「……うん」


 と、小さく呟くのであった。耳まで真っ赤だったのは言うまでもない。


「……はぁ。もうそのステータスなんたらはええわ。次なんかテンプレないんかい」

「……あとはアイテムボックスとか? チートスキルとか? でもそれって結局ステータス見れんと分からんし……」

「つまり、現状分かることは何の能力もないおっさん二人が異世界であろう森に迷い込んだ。ということだけなんやな?」

「そういうことになるな……あ、でも別のテンプレもあるで!」

「なんやねん」


 ハッとした顔で見上げる正義と、うんざりした顔で見下ろす和己。


「大体こういう時って主人公はわけ分からん動物に襲われるな! テンプレ的には」

「……まぁさっきから変な鳴き声聞こえてくるし一番ありえるテンプレではあるな。絶対あってほしくない……け……ど……」

『ガァルルルル……』


 そんな話をしていると、そのフラグ待ってましたとばかりに正義の後ろの森から身の丈2~3mはあろうかという大きな熊のような姿の、しかし虎のような縞模様の動物が口からこれでもかと涎を垂らしながらゆっくりと四足歩行で迫ってくるのであった。


「……Oh」

「ん? どしたん? 急に外国人チックになって? まさか異世界デビューしたからって帰国子女振ろうとしてるわけやないよな! あかんてそんなんめっちゃはず……い……や……」


 いつもの感じで話そうとする正義に必死に正義の後方を指さし危険を知らせようとする顔面蒼白の和己。

 さすがの正義もただならぬ和己の様子に声のトーンを下げながらゆっくりと後ろを振り返る。

 そして確認する異世界産の熊。


「……Oh」


 二人揃って異世界帰国子女デビューを果たした瞬間であった。




「ど、どねんかならんのかい!」

「んなこと言われても!」


 必死の形相で熊から逃げる二人。幸い追いかけている熊の足は遅かった。いや本来は早いのかもしれないが、幸か不幸か熊はそれほど腹が減っていなかったため、獲物がじわりじわりと弱るのを楽しみ遊んでいるようであった。


「お前が持ってるテンプレはその程度かい!」

「なんの能力もない異世界人が熊を処理できるテンプレなんてありませんでした! って、ああ!!」


 しばらく逃げていた二人であったが30歳そこそこのおっさんの、しかもデブであり膝に爆弾を抱え肘に違和感を覚えている正義が靴も履かずに森の中を長時間移動できるわけもなく。痛くなってきた膝を庇いながら走っていた正義はついに木の根に引っかかり転んでしまう。


「お、俺に構わず早く逃げろ! お前だけでも逃げ切るんだ!」

「分かった! お前の死は無駄にしない!」

「え? ちょっと薄情すぎない!? もう2~3回言葉のラリーしてもよくない!?」

「そんな暇はない! 黙って餌になれ! 骨は拾えないが遺族にはすばらしい最期だったって伝えておくから!」

「ちょと待って! 嘘やっぱり助けて! 今のは死ぬまでに言ってみたいセリフランキング第7位の……」

『グラァアアア!』

「ぎゃぁあああ!! カズお前絶対7代祟るからなぁ!!」


 追いかけることに少々飽きてきた熊は転んだ方を餌と見定め、涎まみれの大きな口を開け襲いかかる。

 正義は咄嗟に仰向けの状態になり、顔を食われるよりはと足でガード、あわよくば熊の攻撃を横に流せるのではと両足を上げ抵抗しようとしたが、膝の痛みに絶えかねて膝から下の足が上がらず、結局両膝を突き出す格好になってしまった。


「あかーん!!」


 正義の絶叫と同時に脳内を走馬灯が駆け巡る。


「(人生には3回モテ期がくると言われているけど、幼稚園児時代に結婚を約束しためぐみちゃんは元気でやっているのかな? 結局その後、他の子のスカート捲りしているのがばれて破局になり先生には廊下に立たされたりと散々だったけど、今考えるとあれが人生のピークだったと思う。あれをモテ期一回目と数えるとして、あと2回はあったのかな? ああそうだ。中学生時代に遠足とかの校内行事のあとに同行したカメラマンが撮った写真が廊下に張り出されて好きなの選んで購入できるっていう制度があったな。あの時、好きな男子の写真が欲しいけど恥ずかしいという女子から、その子の代わりに希望の写真を代行で購入していた時は、数人の女子にお願いって囲まれて頼まれたな。一応女子に囲まれてたって意味ではあれはモテ期に入るのかな? 個人的には誰が誰を好きかというクラス内相関図が分かって楽しかったな。結局その相関図に自分は最後まで入ることは無かったけど。仮にそれをモテ期の2回目としても、まだあと1回はモテ期があるということだな。でも目の前に熊いるしな。熊から猛烈な熱視線を受けているけど、もしかしたらこれもモテ期になるのかな。ああ、そうしたら丁度3回だ。終わった。まさか最後のモテ期は人外だなんてとても心外だな。なんてな。モテ期も人生もダジャレも今終わ……)」


 パーン!!


 辺りに鳴り響く乾いた音。

 熊に襲われる衝撃に備え目をぎゅっとつぶっていた正義がゆっくりと目をあけるとそこには……


「……え?」


 頭が吹き飛んだ熊がゆらりとこちら側に倒れてくるところだった。




「重い重い重い! 早くどけて! 死ぬぅ! 圧死するぅ! あっし圧死するでごわす!」

「案外余裕あるやないか! お前もちょっとは抜ける努力せえよ!」

「それが足に力が入りませんねん! 今上半身だけでどうにか抜けようとがんばってますねん!」


 熊の下敷きになっている正義の両手を必死に引っ張りどうにか引き抜こうとする和己と、なぜか下半身に力が入らず元からない背筋や腹筋を総動員してどうにか抜け出そうとする正義。

 しかしながら、熊はざっと見積もっても200~300kgはありそうで、プラス正義自体がデブで重い。その身体を熊の下敷きから救出するにはなかなか容易なことではなかった。

 一向に進まない救出作業。時間が無駄に過ぎていってそうな気がして焦る和己。現在時刻はよくわからないが木々の間から差し込む日の光が若干赤みを帯びていることからも、夜までそう長くないと判断できた。


「そや! マサちょっと待っとれよ!」

「諦めんのか! そこで諦めたら試合終了ですよ! ほらもっと熱くなれよ! それもっと俺の腕を引っ張r……あれ? カズどこいくの? おーいカズくーん! どーこいーくのー? ……まさかほっとかないよね? このまま放置するとかそんな悪魔でも思いつかないような酷い所業普通はせえへんもんね! 気のせいやんね! 俺の気のせいだと言ってよカズくぅーーーーーん!!」


 しばらく周辺を探索し目的の物を探し出した和己は正義のもとまで戻ってきた。


「裏切り者ぉお! 俺は一生お前を恨むぞ! お前は最後はなんだかんだ言うてやってくれると思とった俺のこの純でピュアな熱い思いを返せぇえ! ……って俺は帰ってきてくれると信じとったでぇ! おかえり!」

「うるさいわ! ホンマにほっといたろか!」


 和己が探していたのは細い丸太もしくは太い枝であった。テコの原理で熊をひっくり返そうとしたのである。周辺を探すと丁度よい長さ・太さの木の枝を見つけたのでそれを近くにあった黒っぽい石を岩で割り刃物代わりにして少しづつ木を削り、切り離してその木の枝を持って戻ってきたのであった。

 それを熊の下に突き刺しテコの原理で熊をどかそうとするが、さすがにひっくり返すまでには至らず正義と熊との間にわずかな隙間を作るだけとなっていた。それでも木の枝はミシミシと限界を告げている。


「マサ今や! はよ抜けだせ! 木がもたん!」

「わ、わかった!」


 正義は仰向けの状態のため、肩甲骨と両手を使ってゆっくりとではあるが確実に移動する。

 数十秒後ようやく熊の下から抜け出すと和己は力を緩めた。直後、重低音を響かせる熊の死体。


「助けてもらっていきなりこんなこと言うものあれやけど、俺はお前が見捨てようとしたことはたぶん一生忘れへんからな」


 正義は熊の下から抜け出した直後にジト目で和己を睨みながらそう愚痴った。


「ハ、ハハハ……冗談やがな。あのあと周辺に投げられる物がないかどうか確認して熊に投げつけるところやってんで?」


 和己は額から汗を垂らし苦笑いを浮かべながらそう弁解する。


「それ間に合ってないやん! 確実に食われた後の行動ですやん!! ……てあれ?」


 和己に詰め寄ろうと立ち上がろうとしたところで下半身に力が入らなかったことを思い出し、自身の下半身の状態を確認する正義は……


「え? なにこれ……」


 自分の両膝が血で真っ赤に染まっている状況を見て言葉を失うのであった。



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