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第十八話 『もう戻れない。過ちの重さ』

遅れてしまい申し訳ない!

取りあえず活動報告に書いてはいたんですが、読んでない人はずっと騙されたと思っていると思うので、謝罪を……!

今回は千秋視点になります。

グダグダ感はありますが、気にせず読んでいただきたいです。



 私の家族は神谷くんも知っている通り、とても仲がいいです。


 お祖父ちゃんはあんな性格ですけど、とても私たちのことを思っていてくれて。

 お母さんはたまに厳しいですけど、優しくて、綺麗で憧れます。

 百合は幼いですけど、あの無垢な笑顔は私たちや村の人すら笑顔にしてくれます。


 ですけど、そこにはもう一人いました。


 欠落した家族が、あと一人だけいたんです。


 それが……私の父親。


 お父さんに、私は罪を犯しました。

 償っても償いきれないような罪を。


 そう……アレは百合が産まれた頃の話でした──




◇ ◇ ◇




「ち、千秋ちゃーん? 僕の背中の上からどいてくれませんか?」


「いやっ! お馬さんゴッコ!」


「待って! 暴れないで!? 腰がぁぁぁ!?」


 当時の私は……なんというか、我が儘な子だったんですよね。

 今ではそう見えない? 

 そうでしょうね……私はその事件が起こってから変わったんですから。


 まぁ、取りあえず。

 私は百合とはかなり歳が離れているんですよ。

 私が小学六年生の頃、百合が産まれました。


「あぶぅー?」


「か、可愛いぃ!」


 あの頃の百合は本当に可愛くて……まぁ、今も可愛いんですけど、小動物みたいなクリクリとした瞳がずっと私を見つめてくるんです。

 本当に可愛かったんですよ。


 それは父たちも例外じゃなくて。

 私が産まれてから子供を授かれなかった父と母は本当に喜んでいて……。


「千秋ちゃんはお姉ちゃんになるんだから、お願いね?」


「お姉……ちゃん?」


「そうだよ。世界で一番優しいお姉ちゃんになるんだ。僕たちや百合が誇れるようなお姉ちゃんに……な?」


「……っ! 優しいお姉ちゃんになるよ!」


 そんなこと言われて、ずっと一人っ子だった私も本当に嬉しくて嬉しくて。

 いつも膨らんだお母さんのお腹をさすったり、産まれた小さな百合に向かって声をかけていたりしていたんです。


 ──ですけど、


 一人っ子でずっと両親に構って貰っていた私は、私を放っておいて妹につきっきりの両親と、両親の愛情を一身に受けていた百合に不満を抱いていました。

 いえ、ただの不満ではありません。

 百合に向かっては憎しみすら抱いていたんです。


 その頃は中学校に進学という不安感があったのが問題でしょうね。


 不安だから構って。

 私を落ち着かせて。

 ──私を見て。


 そんな風な身勝手な思いがどんどん溜まっていて、私はある過ちを犯したんです。

 そう。

 それが神谷くんも聞いたでしょう『事件』の事なんです。



 百合が一歳になり、私は中学校に進学。

 この霞村は田舎です。それもかなり。

 ですので中学校に通学するのも一苦労で、しかも勉強も難しいし、部活も強制だったので料理部なんて入ったりして。

 私はだんだん心労が溜まって来ていました。


 そして一番辛かった事は、家に帰った時──


「マァマっ!」


「はいはい、ママはコッチですよー」


「パパは……?」


「パパは畑仕事でもどうぞ」


「酷いよね!?」



『…………』




 ──私を除いた、幸せな空間があることでした。




 自分が居ないのに、百合を中心に幸せそうに笑っている家族が。

 私の悩みもなにもかも知らないで、楽しい時間を過ごす皆の姿が。


 私には……どうしても許せなかった。


 だから、私は過ちを犯しました。

 私はあの日、書き置きをして家出をしたんです。


『もうお父さんもお母さんも、百合だって大ッ嫌い!! 林の中で暮らす!』


 なんて文を書いて、私は家を飛び出しました。

 と言っても、本気で家を出ようとしたのではなく、両親に構ってほしかったんです。

 だから、私はその書き置きを見つけやすいように玄関に置いて、早く追いかけてほしかったんです。


「お父さんの馬鹿……お母さんの馬鹿……百合の馬鹿……!」


 そんな言葉を呟きながら、私は林の近くまで歩きました。

 ですけど、


「く、暗い……怖いよぉ……」


 その時は既に夜も暮れていて、林の先は闇に包まれていました。

 まだ中学生になったばかりの私は、それが怖くて、恐ろしくて、踵を返したんです。


 そう。

 結局私は林の中には足を踏み入れ無かった。

 度胸がなく、恐怖に負けたからです。


 その代わりですが、私は家の裏に置いてある軽トラックの中に逃げ込みました。

 神谷くんも知っての通り、ここは田舎。

 盗む人なんて居なく、無用心ですが車の鍵はいつも開けっ放しになっていました。


 だから私はそこで身体を丸めながら、ゆっくりと意識を遠ざけていきました──




◇ ◇ ◇




『────』


 ──外の騒がしさに、私は目を覚ましました。


「……んっ……なに……?」


 夜で冷えた身体を(さす)り、車の窓から顔を覗かせます。

 その時の時刻は長針が一番上の数字を回ったくらい。

 その時間帯にはおかしいほど、あらゆる家の窓から電気が灯っていました。


「……っ! そういえばお家……!」


 寝起きで回っていない頭が徐々に冷めてきて、私は今の現状を思い出した。

 今の村の異変。この時間の騒がしさは、もしかしたら私を探して皆が大騒ぎしているのかもしれない。

 私の軽い気持ちで行なった事が、村全体を巻き込んだ大事になるなんて……皆に怒られてしまう。

 そんなこの先の未来を想像し、私は手が震えました。


 ──そんな簡単な事じゃ、なかったというのに。


 近付くにつれ、皆の表情がよく見えました。

 誰しも表情が焦燥に満ちています。

 騒ぎの中心部に向かうほど、その声は大きく、ハッキリと聞こえてきました。


 ──取りあえず医者を……!

 ──おい! 救急車はまだなのか!?

 ──駄目よ! ここは圏外だから電話が使えないわ!


 何の話なのだろうか。

 医者や救急車。誰かが怪我をしたような言葉。

 私はその時、何故か悪寒が走っていました。


 怖い。怖い。怖い。

 その騒ぎの元に近付けば近付くほど酷くなる悪寒に、私は悪い予感をしていました。

 そして、それは的中していました。


「──千秋!」


 私の名前を呼んだのは母でした。

 その腕の中には百合が眠っています。

 母は私を見つけるやいなや、駆け寄ってきて百合ごと私を抱き締めました。


「良かった……! 千秋ちゃんが無事で本当に良かった……!」


「お母、さん……?」


 怒っていないのだろうか。

 私は叱られることを覚悟していましたが、お母さんはただただ私を強く抱き締めるだけ。

 苦しいくらいに抱き締められる痛みと、その温もりに私はとても安心してきました。


「ごめんなさい……家出なんてして……」


「いいのよ……良かったわ、無事で……!」


 瞳から涙が零れ、私が罪悪感に苛まれいると、ふと気付きました。


「お母さん。お父さんは?」


「……っ!」


 父の姿が見当たらず、私は母に問いかけました。

 その時の母の顔は、一生忘れられないでしょう。


 ──泣き笑いの表情で、私を優しく見つめました。


「……こっちよ」


 母に連れられ、私はどんどん騒ぎの中心部に向かいました。

 密集した人の壁をすり抜けて、私は騒ぎの元となっているだろう横たわった『人』を見つけました。


 毛布の上に横たわった男性。

 身体中は泥まみれで枯れ草まみれ。

 頭に巻き付けられている包帯には、『血が滲んで』いました。

 そしてその人の顔は、私にとってはとても馴染み深い──


「──お父さん!?」


 私はお父さんを診ている周りの人を掻き分けてお父さんに駆け寄りました。

 お父さんは身体が動かないのか、ゆっくりと顔を傾けて私の方を見ました。


「ゆり……? 良かった……無事、だったんだね……」


「こらっ! 話すでない! 傷に触るぞ!」


 私に声をかけたお父さんを叱責したのは祖父でした。

 その言葉を聞いた時、お父さんは重傷なのだと改めて思いました。

 ただ無事でいて欲しい。元気になって欲しい。

 私はお父さんの手をギュッと握り締めました。


「ち、あき……」


「話さないで! お願い、もう無理をしないでっ!」


 謝りたいこと、沢山あるんです。

 家出しちゃったけど、私はお父さんもお母さんも好きだから。

 もちろん、百合も。

 ちゃんと自分の思いを伝えるから、その時は、きっと──



「──僕もお母さんも……君を愛していたよ」



「────」


 そうやって告げる父を見て。

 手で顔を押さえた母を見て。

 歯を噛み締めた祖父を見て。

 なにも分からない妹を見て。

 そして、握り締めた父の手の力が弱まっていくことを感じながら、私は思いました。




 ──私は、もう取り返しのつかないことをしてしまったんだ。





次回、作者が一番書きたかったお話。

1週間以内には更新する予定です。

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