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第十五話 『任されたから。頼まれたから』

お久しぶりです!

書き溜めしていたandroidが死んだせいでやる気なくなってました!

ですが、読者様の暖かい感想をいただき、また『うきあい』に戻って参りました!

久しぶりではありますが、どうぞよろしくです!




 今でも覚えている。




 あの暗い闇の世界での光景を。




 私の頬に触れた、弱々しい父の手の温もりを。




 私の髪を撫でてくれた祖父の震えた手の感触を。




 涙を押し殺しながら向けてくれた母の笑顔のことを。




 何も理解していない。お葬式の時に首を傾げて笑った妹の無邪気さを。




 それを見た時、私は決めたのだ。



 ──もう間違えない。



 もう、誰かの涙を、大切な人が消え去っていくところを見たくはないから。



 私は、もう間違えない。何も失わない。



 そう決めた、はずだったのに──




◇ ◇ ◇




 その言葉を理解するのに、数秒ほどの時間を要した。

 耳に入った言葉を咀嚼して飲み込んで、ようやく俺はその意味を理解した。


「百合ちゃんが……いない?」


「そうじゃ。ワシが目を離した隙に、いつの間にかいなくなっておった……!」


 ジジイは苦虫を噛み潰したような顔でそう呟いた。

 嘘だと思っていた自分がいた。

 でも、ジジイの様子からはそんな事は有り得ない。

 百合ちゃんは、確実にこの場にはいない。


「ま、まだ見つかっていないんですか!?」


「うむ……今、村の皆が搜索してくれてはいるが、まだ見つかっておらぬ。もう三時間は捜索したじゃろうな……」


 千秋ちゃんの不安げな声を、更にどん底に突き落とすような言葉をジジイは口にした。


「なっ!? 嘘だろ!?」


 三時間も姿が見えない。

 この村はそれほど広くはないが、子供たちが遊ぶだけなら広すぎるだろう。

 だが、村中の人たちが捜索していて三時間かかっていて見つからないのは流石に異常だ。


まだ見つかっていないだけならまだいいが、最悪な場合は……。


「なんで百合ちゃんが失踪したのか、なにか心当たりはないのか?」


「判らぬ……今、色んな人の目撃情報を集めておる。もしかしたら判るかもしれんが……」


「そうか……」


 焦っては駄目だ。落ち着け。

 なにかあったか? 彼女が家を飛び出してしまう理由が。

 誰かに連れ去られた可能性も否定しきれない。でも、この村の中で少女一人の姿を隠すには、他の人間に見られるリスクは高い。

 やっぱり、目撃者の情報を手に入れるまでは不確定要素が多すぎる。


 ふと、隣を見る。

 落ち着きのない、泣きそうな顔をしている千秋ちゃんが自分の腕を抱き締めていた。


「千秋ちゃん……」


「どう、しよう……! また……また! 誰かがいなくなってしまう……! どうすれば、いいの……」


 顔を真っ青にした千秋ちゃんがそんな悲痛な声を上げた。

 徐々に瞳に涙が溜まっていく。

 そんな千秋ちゃんの肩を、俺は強く掴んだ。


「きゃっ! 神谷くん……?」


「大丈夫だ……大丈夫! 百合ちゃんはきっと無事だ。皆探してくれている。直ぐに見つかるに決まっている。だから……姉である千秋ちゃんが信じなくてどうする!」


 動揺していたとしても、状況が変わる訳では無い。

 落ち着いて、状況を理解して、冷静な判断をする。

 そうしなければいけない。皆の為にも……百合ちゃんの為にもだ。


「そう、ですよね……私がしっかりしないといけませんよね。……もう、間違えないって決めたんですから」


「間違えないってのはよく判んないけど、その調子だ。百合ちゃんが帰ってくるのをちゃんと待ってやろうぜ」


「……はいっ」


 千秋ちゃんの声から少し覇気が出てきたように感じる。

 よかった。これで千秋ちゃんは今は大丈夫だろう。

 あとは……。

 

「ジジイ。真白さんは大丈夫なのか? 当然、百合ちゃんが居なくなった事は知っているんだろ?」


「うむ。真白くんも捜索しようとしていたが、今の体調では無理じゃ。無理やり布団に横になってもらっておる。まぁ、しっかりと眠っている訳では無いと思うが」


「そうか……。これ、千秋ちゃんと買ってきた薬だ。真白さんに飲ませておいてくれ」


 俺は手に持っていた薬の入った袋をジジイに渡した。


「おお、悪いのぉ。買ってきたばかりでこんな事になってしまったが」


「おぉ、珍しいこと言うなよ……。真白さんの為なんだし、別に良いに決まってるだろ? ジジイの為ということなら判らんが」


「おいこら。そこはワシにも同じことをせんか」


 ジジイがジト目を向けてくる。

 通常の時の状態とは程遠いが、さっきまでと比べると元気を取り戻しているだろう。


 大丈夫。しっかりしろ。

 そう胸の中で呟いて、俺は息を大きく吐いた。

 まだ付き合いの短い俺は、みんなと違ってショックは小さい。

 だからこそ、少しでも皆を元気づけないといけない。

 ()の俺なら、こうした筈だから。


 そう思い、今度は大きく息を吸った瞬間、


「──葵さん!」


 戸が強く音を立てながら開かれ、直ぐに男の人が入ってきた。

 この人は、確か三つ隣のお爺さんの息子さんだった気がする。


「山口くん? どうしたんじゃ……ま、まさか百合の居場所が判ったのか!?」


「本当ですか!? 教えてください山口さん!」


 必死の形相をしたジジイと千秋ちゃんが男の人──山口さんに詰め寄った。

 ジジイなんか山口さんの襟を思いっきり掴んでいる。


「お、落ち着いてください! 百合ちゃんは見つかっていませんが、目撃情報で百合ちゃんの向かったであろう場所は判りました」


「ほ、本当ですか?」


「そ、それで、それはいったいどこじゃ!?」


百合ちゃんの居場所に繋がる糸口が見つかったと安堵したのも束の間、山口さんの口にした言葉がそれを全て台無しにした。



「百合ちゃんが向かったのは──林です!」



 その言葉に、俺は「何故林に?」という疑問しか湧かなかった。

 百合ちゃんは元気いっぱいで活発な少女だが、基本遊ぶとしたら友達の家や近所の散歩くらいだろう。


 俺は百合ちゃんの行動の意味が判らず、心当たりがないかと千秋ちゃんの方に顔を向けた。



 ──千秋ちゃんは真っ青を通り越して白い顔をしていて震えていた。



「ち、千秋ちゃん……?」


「わ、わわ私が……私が私のせい……?」


 明らかに様子のおかしい千秋ちゃん。

 俺は震えるその肩に手を置くと、彼女はビクッと身体を跳ねさせた。


「もう、間違えないって、決めたのに……ゆ、り……」


「千秋ちゃん……あっ?」


 ふと、頭に過ぎった言葉。

 それは、百合ちゃんの行動を裏付ける言葉だった。



『薬……お薬とか薬草とかあったら、お母さん元気になるのかな……?』


『薬草って……まぁ、この村の林に解熱剤の原料になる薬草はあるかもしれないけど』


『そう、なんだ』



 村を出る前に、千秋ちゃんと百合ちゃんが交わしていた会話を思い出す。


 まさか。

 百合ちゃんがいなくなったのは。

 林に向かっていた姿があったというのは。

 全て、薬草が林の中にあると思っていたから?


「落ち着け! 千秋ちゃん、大丈夫だ! きっと、百合ちゃんは──」


 「──あ、ぁああああぁぁあああああ゛あ゛!!!」


「千秋ちゃん!!」


 千秋ちゃんは髪を掻き毟り、声を荒らげながら山口さんを突き飛ばして家を出て行ってしまった。


 直ぐに追いかけようとしたが、咄嗟の事で動くことが出来ず、外に出ても後ろ姿を確認することは出来なかった。


「くそっ!」


 吐き捨てるように呟き、俺は拳を強く握りしめた。

 いったい何をしているんだ俺は……なんで千秋ちゃんを追いかけなかったんだよバカ野郎……!


「……小僧」


「なんだよっ!」


 ジジイに声を掛けられ、俺は苛立ちを隠そうとせず顔を向けた。


「頼む……千秋を救ってはくれぬか?」


「じ、ジジイ?」


 そこには、頭を下げる老人の姿があった。

 孫を思いやる、一人の祖父の姿が。


「ワシはこの身体じゃ。当然千秋を追いかけることは出来ぬし、林の中を捜索するには応援と用意が必要じゃ。残念なことじゃが、ワシでは千秋を見つけることなど出来ぬ」


「────」


「あの娘は過去に囚われている……多分、あの姿こそ千秋が身に秘めていた感情じゃ。あの娘がおかしな事を行う前に、お主に止めてもらいたい」


 そのおかしな事がなにか……ジジイは口に出さなかった。


「俺なんかで……いいのかよ」


「『あの事件』を知っている人間では、同情の感情が混じってしまう。あの娘はとても人の感情に敏感で繊細な娘じゃ。寧ろお主以外には務まらんじゃろうな」


 繊細だからこそ、崩れると脆い。

 今の彼女の状態は危うい。


「じゃから頼む……あの娘を、千秋を救ってやってくれ……!」


「お、俺は……」


「──私からもお願いします」


 玄関に響く声。

 目を向けると、そこには毛布を巻いて現れた真白さんの姿があった。


「真白さん、動いて大丈夫なんですか!?」


「私の事は今はどうでもいいです。貴方には娘を救って欲しい。私では、きっと無理だから。あの娘の心の傷には、きっと私の存在も関係しているでしょうし」


 そう、寂しそうな顔で真白さんは呟いた。


「ですから神谷さん……」


「は、はい」


「……お願い、します」


 再び頭を下げる真白さん。

 同じく頭を下げ続けているジジイ。


そこには一人の母親と祖父しかいなくて、真白さんと爺さんは本当に娘の無事を祈っていた。

 千秋ちゃんも百合ちゃんも居ない。

 不安で仕様がないというのに。


「──任せてください。千秋ちゃんも百合ちゃんも、とっとと連れ戻してきますよ」


 拒否権なんて、あるわけがない。

 選択肢だって一つしかない。


 爺さんは自分の出来ることを理解して任せた。

 真白さんは出来ないことを理解しているから願った。



 なら、俺は俺にしか出来ないことをやるだけなのだ。







そういえば私、社会人になりました。社畜になっております。まぁ、それは置いておきますか。


私の処女作、『空中迷宮』がなろうコンの一次選考を通過していました!

ありがとうございます!!

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