第42話:大家と母と松竹梅
「んー……朝か。」
おはよー、大家だ。ってまだ4時か、まだ後8時間は寝れるじゃねぇか。早起きは三文の得と言うけど、損した気分だな、これは。
「二度寝しよ………んっ?」
二階から物音がするな、まさか泥棒? 雫の部屋なら大丈夫だろうけど、物音は玲の部屋からだ。あそこには魔界の姫様と無防備な世界の宝がいるからな、放って置けない。
「武器は要らないな。一瞬で意識を刈り取ってやるか。」
ふふふっ、私の玲に手を出す悪い子は一日中引きずり回してから宇宙へ飛ばしてやる。
「アラナを起こさないように、そーっと出て行くか。」
「おーい、誰だー。こんな朝早くから台所で物音立ててるのはー。」
「お、大家さん……早いですね、どうしたんですか?」
「なんだ、やっぱり玲だったのか。玲の下着を盗みに来た泥棒かと思った。」
「そんなのいるんですか?」
いるよ、隣りの部屋とかに。
「でも今日は一段と早いな。最近は5時に起床して、着替えて、歯を磨いて、軽くシャワーを浴びてからだから5時半くらいからになる筈だろう。」
「……なんでそんなに細かく知ってるんですか?」
「……それはほら、玲の事だから。」
「それはどんなエスパーですか。」
玲は細かい事を気にし過ぎだ。雫のせいだな、ここらへんは。
「久し振りに戻って来たから早く眼が覚めただけですよ。」
「病み上がりなんだから無理はするなよ。雫が泣くぞ? あいつは玲にベッタリだからな。」
「最近思ったんですけど、雫さんに教えてもらった事ってかなり色々と危ない事が多いみたいですよね。」
「そんな事はない、フツーだ、気にするな。」
気にしちゃ駄目な事ってのがあるんだよ、玲。
「でも、こうして二人で話をするのも凄く久し振りな気がしますね。ミュウ達が来たからでしょうけど。」
「そうだな、正確には雫が来てからもあんまりだ。一日触れ合い15時間のノルマが果たせなくなってきた。」
「なんですかそれは。確かに色んな所に連れ回されたりしましたけどね。」
玲を誘拐しようとしてた時もあったからな。独占禁止協定が出てからはそんな事も無くなったけど。
「賑やかになるのは嫌じゃないですけどね。」
「……私はそれなりに寂しかったりするんだけど……これが親心ってやつか。」
このまま玲に親離れされたら…………うん、やっぱりまだ玲に恋人は早いな。後70年は家族っ子でいて貰わないと。
「それはそうと、ミュウとは上手くいってるのか? まぁ、玲は私なんかよりも余程お母さんが出来るから大丈夫だとは思うけど。」
「どうなんでしょうかね。好き嫌いは多いし、下着姿でうろうろするし、家事の途中で戯れつくし。」
「小さいころの玲とは正反対だな。」
小さい時の玲はなんでも言う事を聞いてくれた良い子だったからなぁ。懐かしい。でも家事の途中で戯れつくのは私にもやって欲しかったりするけど。
「あ、でも最近一緒に寝るようになりましたよ。なんだか昔の大家さんの立場になったみたいです。」
「玲、それについて詳しく聞かせるんだ。」
「…………? 詳しくも何も昔の俺達みたいな感じですけど……。」
「なんだって!? じゃあ抱き付いたりしたのか!? そうなのかっ!?」
くそーっ、昔の玲と言えば寝る時に上目使いをしながら私にされるがままになってた感じだったからなぁ。ミュウめ、後で苛めてやる。……だがまぁ、
「上手くやれてるようなら良かったよ。」
「そうですね、順調です。俺が家事をして、雫さんがお金を稼いで、大家さんが楽しい事を考える。」
「ミュウとアラナはもいるだろう。」
「そうですね……。大家さんが母親、雫さんが姉、それならあの子達は俺の何なんでしょうかね。」
「それはこれから次第だろう、あの子達次第だ。」
アラナは私達と同じように玲教信者になりそうだなぁ、あの忠誠心が異常に思えたりもするけど。最近は玲の言う事に従順なだけじゃなくて、行動が過激になって来たしな。ミュウの方は……
「妹か。正直ハディムの方が気になってるんだけどな……。」
「…………? 何か言いました?」
「いいや、なんでもない。」
まっ、とにかく玲に恋人は早い。……今はそれよりも、
「玲ー。お腹すいたー。」
「はいはい、今作ってますよ。」
流石は以心伝心だな。