表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/12

決意

「はーい。それじゃあ、席につけー。時間が無いから出席だけ取るぞー」


ぼくの頭上でパンパン、と手を叩くいそ先生。身長の低いぼくに対しての嫌がらせか!眉を吊りあげ、顔を上げると先生にキョトンとされた。


「どうした?ほら…(はぎ)も席につけ」


席に向かいながら、壁に貼ってある時間割表を見た。——1限目は、英語。あぁー、(みなみ)のオバさんか…。さらに視線を下げ、それ以降も見てみる。


「げっ、体育がある…」


しまった…体操着を忘れた。














一限目を終え、誠斗(まさと)の席の方へ向かう。


「誠斗、聞きたい事があるんだけど…。花って詳しい?」


首を(ひね)る。


「いや、詳しくないが…。どうしてだ?」


何故か、少しめずらしそうな表情をしながら、メガネを上げる誠斗。なんて言えばいいのか…。思わず(だま)るぼく。そこに龍二(りゅうじ)が現れ、ぼくの肩に腕を回してきた。


「お、純恋(じゅんれん)チェリー!女の話か?映画の話か?デカ(ちち)の話か?」


龍二は…まったく。オー・ヘンリーでも読んで、汚れた思考更正(こうせい)されろ!そして、時計でもDVDでもなんでも売ってこい!


飛鳥(あすか)が花の事を知りたいらしい」


その絡み方が鬱陶(うっとう)しかったのか、ため息まじりに龍二に教える誠斗。あ、でも考えてみたら女の扱いが慣れている龍二のほうが詳しいのか?でも誠斗は、幅広(はばひろ)知識(ちしき)を持っていそうだからなぁ。というか"広く浅く"、というイメージがある。

すると、龍二が誠斗の机を軽く指でたたく。


「アレでやったらどうだ?最新モデルとかっいっていたアレ」


「検索サイトの種類は変わらないよ」


ため息混じりに、カバンを開ける誠斗。中から出てきたのは、なんと最近CMが多いエルフォン!しかも新作の9α(ナインアルファ)だ!すごい!

驚いていると龍二教えてくれた。それより、はやく肩から腕をどかしてほしい。


「たしか…誠斗はオヤジさんが買ってくれるんだろう?新しい商品が出たらすぐに」


コクリ、と頷く誠斗。


「新商品の調子もそうなんだけど、ニーズの声も知りたいらしい。とくに機能やネット関連で」


誠斗のオヤジさん、どこでどんな事をして働いているんだよ!というか、大手企業(おおてきぎょう)のにおいがするんだが…。しかもエルフォンのだよな?

混乱(こんらん)もしつつ目を丸くしていると、誠斗が1つ咳払(せきばら)いをした。


「それで…花っていうのはどんな花なんだ?今の時期(じき)は咲いているのか?」


はっ、と(われ)に返り、昨日の帰りの事を思い出す。


「黄色い…花だった」


誠斗がうなりながら、エルフォンを触り始める。あまり、ぼく自身スマホが好きじゃあ無いからなぁ。というより機械音痴(きかいおんち)。以前使っていた物も、落として画面割れちゃったし…。

龍二の腕を退かしながら待っていると、誠斗が画面を見せてきた。


「この中にあるか?」


腰を(かが)めて見てみる。龍二がオレも見る、と顔をグイグイ横から押しつけてくる。

どうやら、今月に咲く花のすべてが()っているサイトのようだ。便利なことに、クリックすると花言葉なども出てくるらしい。

誠斗からエルフォンを借り、龍二の顔を退かし腰を上げる。龍二は飽きたのか、そのままトイレへと向かってしまった。

エルフォンの画面に集中する。アジサイなどもあるが…違う。次のページを開くとちょうど同じような花の画像が出てきた。名前は——。


「マリーゴールド?」


名前は聞いた事あったが、どんなものなのかは知らなかった。合点がいった感じだ。

聞いていた誠斗もそれか、と声をあげる。


「以外と身近なものだな」


意味がわからず頭をかしげる。


「まぁ、道ばたには生えていないが、家の庭とかではよく見かけるってことだ」


ふぅん、と納得しながらついでに花言葉も見てみる。その内容に思わず口が開く。


「悲しみ……嫉妬(しっと)……」


顔をあげ、腹いせにジッと誠斗の顔をみる。すると、気まずそうに顔を背けられてしまった。おい、新作エルフォン。これはどういうことだ?

ため息を吐き、メガネをあげながらゆっくりとコチラに顔を向けてきた。そして、エルフォンを取り上げる。


「まぁ…キクの一種みたいだから仕方無いだろ」


眉を(ひそ)め、エルフォンは関係ないとつぶやく。スクロールしたかと思いきや、誠斗の顔つきが変わる。


「ん?花言葉…ほかにもあるみたいだぞ?」


本当か?エルフォンのぞき込もうとした瞬間——。


「わっ!」


「ふおっ?!」


突然、龍二が後ろから驚かしてきた。思わず、ぼくも声を上げる。振り返ると、笑っている龍二の姿。


「ふおっ?!…だってさ!今のサイコー!」


こ、コイツ…ちくしょう!勢いよく右ストレートをむける。しかし、左手で払われ、ヒラリとかわされてしまった。おかげで、(あや)うく(ゆか)に倒れこむところだった。

それを見かねた誠斗がため息を吐く。


「おい、龍二…よせよ」


ふふん、と鼻をならす龍二。


「コッチは別になんもしてねぇもーん」


と言うと、誠斗のエルフォンをのぞきこんだ。ぼくも、降参(こうさん)し、ため息を吐く。それを聞いたのか、顔をコチラに向け、龍二がエッヘン、と胸を張る。


「オレにはだれも勝てねぇよ」


その言葉に胸がズキリ、と痛む。そうだよな…、龍二には勝てないよ。なんだろう、この虚空感(きょくうかん)は…。

ボンヤリと、うつむいていると誠斗に名前を呼ばれた。


「大丈夫か?」


しまった!顔に出ていたか!あわててうなずいたその時だった——。

チャイムと同時に、リーマン先生がメガネを上げながら教室に入ってきた。


「授業を始めます。皆さん、着席するように」


あいかわらず、(すき)のないキビキビとした人だ。絶対に廊下で待っていそうだ。扉のまえで腕時計をみながら、何分かまえから待機(たいき)していそうなイメージである。こわい!

身震(みぶる)いしながら、ぼくは席にもどった。龍二も後ろからついてくる。

すると、龍二が背中越しにヒソヒソと話かけてきた。


「昼休み…あの幽霊列車の話しようぜ」











数学も(とどこお)りなく進んだ。

体育は渋々(しぶしぶ)ジャージで出た。それもこんなジメジメと暑い時期に長袖(ながそで)でだ!あぁ、忘れるんじゃあなかった…。そもそも、見学にしてくれてもいいのに…。

青い空とは裏腹(うらはら)に、ひび割れた足元のコンクリートを見つめる。ため息を吐き、クリームパンを(ひと)かじりする。右手側にいる誠斗が、弁当を食べながら声をかけてきた。どうやら、そんなぼくを見かねたらしい。


「飛鳥、今日はどうしたんだ?疲れているのか?」


首をふる。昨夜の睡眠時間は、むしろ取りすぎだってくらい取ってしまったかもしれない。18時頃には眠りついたからなぁ。起きたのも5時過ぎで——。だから、疲れてはいないはずなんだけど…。

悩んでいると、ふと目の前にいた龍二の視線を感じた。顔をあげると視線がぶつかる。どうやら3つ目のホットドックを食べているようだ。すると、なぜかうなった龍二。


「飛鳥…なんかかわった?」


どういう意味だ?

食べていたクリームパンの手が止まる。龍二が頭をかく。


「いや、なんつーか…上手くは言えないけど…。いままでは、へんに距離感(きょりかん)があってこれ以上踏みこむな、オーラがあったけど…。今はいくらか話やすいっていうか…」


隣で聞いていた誠斗もコクリとうなずく。


「そうだな…。以前までは、他人事のように見ていたところがあった。抜けきれているかどうかはわからないが、懇親的(こんしんてき)になってきてはいる気がする。あと、人を頼るようになったな」


なんだか、そう言われると照れる。すると、2人が突然(たが)いに顔を見合わせ。龍二が真顔でポツリとつぶやく。


「こりゃあ、恋だな」


「そうだな、恋だな」


続くように、メガネを上げながら真顔でつぶやく誠斗。しかし、なぜか誠斗からは禍々(まがまが)しいオーラがただよっている。——誠斗だったら、ぼくの拳でも当たるだろうか?

赤くなった顔を誤魔化(ごまか)すため一息を吐く。そして、上手く話をかえた。


「そういえば…例の噂話(うわさばなし)をするんじゃあないの?」


龍二が思い出したかのように、そうだ、と声をあげる。そして、食べかけのホットドックを一気に口へとつめこむ。


「誠斗は朝...テレビをみたか?」


首を降り目を細める誠斗。


「いや、ニュースとしてあがる前に家を出たからな…。観てはいない」


その言い方は、どこか悲しみを帯びていた。

龍二がモグモグいわせながら、ぼくにも聞いてきたので首をふる。

口の中のホットドックをゴクリと飲みこみ、ペットボトルの残りの水を飲みほす。


「ニュースによると…男2人が行方不明(ゆくえふめい)で、のぞみは病院にへ搬送はんそうされたらしい。今、現場の廃駅(はいえき)にはマスコミと警察が()ぎまわっているみたいだ」


その言葉に、ぼくたちは思わず黙った。

うーん、死人が出たわけではないから、現場検証(げんばけんしょう)はさほどなさそうだけど…。あ、いや、逆か?(なぞ)つつまれているから細かくやっているのか?まぁ、どちらにしても、ベテラン刑事も細かく見ていそうだ。雨でも降ればみんな撤退するだろうか?

誠斗がタンブラーにはいった日本茶を飲む。


「行くとしたら、裏道しかないだろう」


また、3人とも黙る。

龍二が(しび)れを切らしたのか叫ぶ。


「なぁー!行こうぜぇー!廃駅ぃー!」


そんな危険(きけん)な場所へわざわざ行くというのか!というか、夜中、絶対にマスコミがいるだろう!

誠斗を見ると、迷っているのかうつむいている。

すると、龍二がニヤニヤとした顔でコチラを見てきた。


「お!やっぱり、チェリーだから…怖いのかなぁ?」


キッと、ぼくは(にら)んだ。

怖くはない!ただ、危険(きけん)ではないかと警戒しているだけだ。行くのであれば、石橋を叩いて渡るほど、用心をしたほうがいい!

ふん、とそっぽ向こうとしたら、誠斗がゆっくりと口を開いた。


「飛鳥は…行きたいか?」


ぼくは空になった牛乳パックをにぎりつぶす。


「正直言うと迷っている」


答えると、誠斗は黙ってしまった。すると、龍二が4つ目のホットドックに取り掛かりはじめた。


「朝、クラスの女子も言ってたんだけどよ…。あの綾部さんって子本当に廃駅へ行っていたらしいぜ」


その言葉に思わず、また(にら)んでしまった。


「なにが言いたいんだよ?」


気にせずニヤリと笑う龍二。


「あの子のために無実の証拠(しょうこ)を手に入れたらどうだ?まっ、本当に何かしたのかもしれないけれどもな」


「いいよ。行くよそれじゃあ」


むっ、としながら答えた。そんなに言うんだったら、行ってやろうじゃあないか!

そして、龍二とぼくは誠斗を見た。誠斗は、食べかけの弁当を見つめている。さっきから、(はし)が進んでいない気がする。しかも、半分以上残っている。

2人して見ていると、誠斗が意を決したのか顔を上げた。


「どのみち、麗華(れいか)からも様子を見てくるよう頼まれていたからな…。行く気はなかったが…ついでだ。ついて行く」


そして、ぼくたちはお互いにうなずきあった。

すると、誠斗がメガネを上げながらポツリとつぶやく。


「まぁ、運動バカと根暗バカだけじゃあ相手も可哀想だからな」




この時、黄色のライトが静かに点灯した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ