お茶しましょ。
ある休日の午後。
四兄弟が揃ってリビングで寛いでいると、ドアチャイムが鳴った。
「来たかな」
「らしいね」
「俺が出ようか」
「ううん、僕が行く」
発言者は上から兄弟順である。冬生がドアを開けると、立っていたのは予想通りの人物だった。
「こんにちは、鮎沢。今日は誘ってくれてありがとな」
「いらっしゃい。どうぞ上がって」
「お邪魔します。あ、これ父さんと義母さんから」
「気を遣わせてごめんね。いただきます」
客用のスリッパを出し、興味深そうに周囲を見回す瑞樹を連れて、冬生はリビングへ戻った。
「う……ッ」
眩しい。冬生ひとりでも充分輝いて見えるのに、それが4人となると目が眩みそうだ。
「僕の兄さんたち。孝春兄さんに、千夏兄さん、秋人兄さん」
「髙原瑞樹です」
うわホンモノの孝春だ、と男性ファッション誌の表紙でお馴染みのモデルに大興奮なのは綺麗に笑顔の下に隠して、瑞樹はぺこりと頭を下げた。
「お持たせで悪いけどどうぞ」
「いえお構いなく……うわ、義母さんマジで気合い入れたな」
フレッシュフルーツをふんだんに使ったケーキは見た目も美しく、目を楽しませてくれる。(味がよいことを息子である瑞樹は疑いもしない)
「差し入れに持ってきてくれる子がいるが、パティスリー・ミズキのケーキは売り切れるのが早くてなかなか買えないくらい評判だそうだな」
千夏は無言でフォークを動かし続け、秋人と冬生はうっとりしながらひとくちひとくち噛み締めて食べている。
一口含んで目を細めた孝春の言葉に、親父お袋グッジョブと本人達には絶対に使わない褒め方を内心でしていた瑞樹は照れ笑いで頭を掻いた。両親を褒められるのは勿論嬉しいのだが、やはり店の名を他人に呼ばわれると恥ずかしいものがある。幾ら大事だからって息子の名前をつけなくても良いだろうに。
「やっぱ本職が作ると全然違うな。なんか凄ェわ」
鮎沢家の台所を切り盛りする秋人がしみじみ呟く。いえ貴方の作る弁当も絶品ですとは、まさか昼食時にときどき冬生に強請っておかずを分けて貰っているなんて口が裂けても云えない瑞樹だった。
冬生の部屋でゲームに興じたあと、秋人たっての願いで夕食にもお呼ばれし、ケーキのお礼にもならないけれどと秋人お手製のブランデーケーキを持たされ、瑞樹は帰っていった。
「冬生の友達っていうからインドアの似たタイプの子を連れてくるかと思っていたのに、正反対のタイプだったな」
「ああ」
「ま、ああいうタイプじゃないと冬生に声なんて掛けられないのかもな」
「?」
兄たちの感想に首を傾げる冬生だった。(ちなみに発言者は以下略)
瑞樹のイメージが漸く固まってきた。
インドアではなくアウトドア派。多分空気は読めない振りをしているだけ。