マイペースな四男坊。
彼を主軸に据えるのはほぼ初のこと。
昼休憩。
教室で直ぐ上の兄お手製の弁当を食べながら、冬生はぼんやり過ごしていた。
彼に声を掛ける猛者はあまり居ない。大抵分厚い専門書を読みながらだったり、忙しなくノートパソコンのキーを叩きながらだったりするからだ。
だが今日は違う。美味しそうに表情を緩めながら、のんびりゆっくりランチタイムを楽しんでいる。
声を掛けようともじもじする連中が数名、寛いでいる邪魔は出来ないとかえって声を掛けづらく思う者がこれまた数名。けれど当の本人は全く気づかず、マイペースに食事を続けている。
「よっ、鮎沢。また兄ちゃんのお手製弁当か?」
高嶺の花に気軽に声を掛け、傍に居るのが(畏れ多くて)耐えられないと昼休み早々に教室を抜け出している前の席の椅子に逆向きに腰掛けた少年に、周囲の鋭い視線が突き刺さる。
だが当の本人はそれらを綺麗に無視して、口の中の食べ物を飲み込んだ冬生が喋るのを待った。
「うん。秋兄の料理はいつも美味いよ。お蔭で母さんの味を思い出せなくなっちゃった」
「そっか」
少年――髙原瑞樹は冬生の家庭の事情を知っている。五月蠅い外野を全く気にせずに話しかけ、それなりに親しくなったからだ。
けれど特に慰めの言葉を云うでもなく、同情めいた表情を作るでもなく、ただ「そうなのか」と頷く。そんなシンプルな反応がいちばん楽なのだと、彼自身が身を以て識っているからだ。
「そうだ、今度家に遊びにおいでよ。秋兄達も会いたがってるしさ」
瞬間、教室の喧噪が消えた。
「マジで? 行く行く! そしたら父さんと義母さんにとっておきの菓子作って貰って持ってくわ」
「わー、楽しみ! いつなら予定空いてる? あ、僕のスケジュールも見ないとね」
俺はいつでも平気だぜ、と冬生のモバイルパソコンをふたりで覗き込む。瑞樹の背中に怨嗟の視線が幾つも降り注いだが、やはり瑞樹が気にすることはなかった。
ほんの数行、冬生と同級生の女の子の姿を書いたことがある気がします。
それ以外で彼をメインに描いたことは今までにありませんでした。
自サイトでは兄たちと一緒にちょびっと出演していますが、やはり出番はいちばん少ない。何故なのでしょうか。
それ故に、今回は新鮮でした。自分にとっても。
瑞樹の義母は裏設定持ちです。実は……(笑)