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学生時代の長兄。

若かりし日の長兄。自サイトからの転載です。

 冷房がそこそこに効いていたバスから飛び降りた途端、孝春の躰中を湿気た空気が取り巻いた。

 飛び降りた勢いでシャツの胸ポケットから飛び出したマイルドセブンの箱を空中で上手くキャッチすると、唇で一本銜えて引き抜く。

 右手で箱をポケットに戻しつつ、左手をチノパンのポケットに突っ込んで、中に入っていたものを無造作に掴み出した。

 広げた掌には、小銭が数枚と鍵束、そして鈍色のライター。

 歩くのと同じリズムで金属が触れ合う音が続いているから、ポケットの中にはまだ何かしら入っているようだ。

 右手にライターを移し、余計なものをポケットに戻すのと同時進行で、煙草に火をつける。

 深く吸い込んだ煙を満足そうに吐き出すと、孝春はライターを胸ポケットに放り込んだ。


 まだ梅雨明けすらしていないのに、この蒸し暑さ。

 もう7月、夏といってもいい頃合いといえども、風が吹くとかもう少し何とかして欲しい、と溜息混じりに煙を吐き出した。

 孝春は、大学へ続く緩やかな坂道をゆっくりと上っていく。

 頭上に枝を伸ばす木々に遮られて、強い日差しが幾分和らいでいる。

 まだ蝉は羽化していないが、その時期になると物凄く五月蠅いのだ。

 よお、と追い越しざま声を掛けていく知人達に、軽く片手を挙げて口元だけでシニカルに笑う。

 途端にきゃっ、という小さな悲鳴が上がるのに、口元を苦笑の形に歪める。

 ちらちらと窺うような視線にももう慣れっこだ。

 こればかりは仕方ない、と歩くペースを速めようとした時、背後からいきなり腰に腕を回され抱き締められた。

「わっ!」

 叫んだ拍子に煙草が足下に落下した。

「あー、危ない危ない。駄目だよ、煙草落としちゃ」

 暢気に言いながら、声の主、抱きついてきた男は孝春の足の間に自らの片足を割り込ませる、という、見方によってはなかなかに妖しい体勢で、足元で燻る煙草の火を踏み消した。

「――お前がいきなり抱きつくからだろーが……ッ!」

 仰向くと、肩までの茶髪を後ろで一つに束ねた、軽そうだがなかなかにハンサムな男が見下ろしている。

 190cmを優に超える長身。

 これでも長身の部類に入るのに、こんなに簡単に腕の中にすっぽり抱き込まれてしまったり、上から見下ろされたりと、この男が絡むと不快な思いばかりしている気がする。

「ったく、いっぱしのゲーノージンがサングラスもなしにふらふら歩いてんじゃねーっつーの!」

「俺はただのモデルだ。芸能人なんかじゃない」

 抗議を聞く様子もなく、

「バイトで始めたってのに、今じゃ有名ブランドの専属モデルの話まで来てるんだろ? もうちっと自覚持てよ。でないと、そのうちヒドイ目に遭うぜ」

「酷い目?」

「そう。例えば、こんな目……」

 囁いた男の顔がアップになって迫ってくる。

 え? と思ったときには時既に遅し。

 たっぷりしっかり、ディープなキスをされていた。

「ば、馬鹿! 何してんだぁっ!」

 みっともなく声が上擦り、裏返る。

 こんな、公衆の面前で、ヤローがヤローにキスされるなんて。

「だから無防備過ぎなんだよお前は。これくらいで済めば良い方だけど、下手すりゃお前、襲われちまうぜ」

「お、襲……っ?」

 そもそも、こんなデカい図体をどうこうしようと思う奴がいるってのか?

「襲うっつったってな、別にお前がヤラレ役になるとは限らないだろ?」

「え?」

 訳が判らないのが伝わったのか、男はがしがしと髪を掻きむしった。

「だからさ、跨られちまうことだって、あるだろ」

「……そ、っか」

 男にすとん、と体重を預けて呆けること、数十秒。

「あ……っ!」

 周囲の視線に気づき、バッと男から離れた。

「なーんだ、もう離れちまうのか。つまんねぇの」

「あのなあっ!」

 馬鹿言ってんじゃねぇっ!

「うおっ!」

 孝春は男に一発蹴りをかまして、ドスドスと鼻息荒く坂を上がっていった。

自サイト(http://www.neko-i.com/)で公開中の、まだ両親が存命時の孝春です。

モデルのバイトを始めてから、私服は敏腕マネさんが揃えてくれるようになったので、本人は趣味じゃないと不満たらたらですが中身と外見が漸く釣り合うようになりました。(爆笑)

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