学校の七不思議を調べてみる件について 前編
キャラ多くなると地味に大変だけどなんか楽しい。
「七不思議?」
それを聞かされたのは最近恒例となっている俺の家でのぐだぐだタイムでのことだった。
「そう。 どうやら俺たちの高校には七不思議が存在するらしい」
「いや小学校や中学校ではないんですよ? そんなもの作ったのはどこの暇人です?」
命ちゃんの言うことはもっともだ。わざわざ高校生にもなって七不思議なんぞを考えるのは余程暇を持て余した奴くらいだろう。
「そういうわけでもないんだ。 もともと小学校だろうが中学校だろうが高校だろうがはたまた大学だろうが学校に纏わる怖い話は存在する。
ただ高校生以上になるとみんな気に留めなくなるだけなんだ」
なるほど。たしかに生徒の年齢は違えど同じ学校なんだからそういう話があってもおかしくはない。
むしろよくよく考えれば学校モノのホラー映画の登場人物たちはむしろ高校生ぐらいが多かった気がする。
そしてそういう作品には元ネタとなる怪談があるものだ。
「なるほどね。 そう考えると高校の七不思議ってのもバカにできないね」
「・・・幽霊はどこにでもいるよ?」
「いきなり話に入ってきて恐ろしいこと言わないでほしいです」
「杏の言ったことはほんとのことだぜ? 俺の知り合いには学校住まいの奴もいるんだぜ」
ニートって妙に人脈・・・っていうか霊脈?いやなんか違うような・・・ええい、とにかくそういうのが広いよなー。どこでそんな繋がり持ったんだか・・・。
まあ現役幽霊が言うならそうなんだろうけどね。
「話を戻すぞ。 それで俺はこの前兄のひとりが施設に来たときにこの話を聞いた。 その兄は日本でオカルトブームが起こった頃に高校生やってたからそういうのには詳しい」
啓の兄とは施設から巣立っていった人たちのことである。その年齢は幅広く非常に年配の方もいる。
そして彼らは自分の家庭を持った後も施設にちょくちょく顔を出すし一家揃って遊びにくる人も珍しくないのである意味一つの大家族みたいなものなのだ。
「そういうことならその情報は正しいということです。 城島の家族はみんないい人ですから嘘をつくとは思えないです」
「何故俺自身を信用しない?」
「場を引っ掻き回すのが好きな人が何言ってるです」
あっはっは、ごめん啓。 フォローできない。
「とにかくその話が本当だってことはわかった。 で、何をするつもりなの?」
「簡潔に言おう。 確かめないか?」
「「はい?」」
思わず命ちゃんとフルシンクロしてしまった。
「だから夜の学校に忍び込んで七不思議の正体を確かめないかって言ってるんだ」
「お前なぁ・・・。 それはいけないことだってわかってるよね?」
「当然だ。 だけどお前も面白そうだと思ってるだろ?」
「ああ、その通りだよこんちくしょーめ」
まったく付き合いが長いと考えてることが見透かされるから困る。
「あの盛り上がってるとこ悪いけど私は一応優等生として通ってるです。 問題行動は控えたいです」
「強制はしない。 参加するもしないも南雲の自由。 光は参加するみたいだけど」
「私の心を見透かしながらその問いかけはするのは少々意地が悪いです、この快楽主義者」
「ありがとう、褒め言葉だ」
啓が命ちゃんをからかいそれに命ちゃんが言い返す。命ちゃんが修行でいなかった間見れなかった光景なのでついつい頬が緩んだ。
そうしてると玄関から気配を感じた。
「ただいま帰りました。 なんの話をしてるのですか?」
おっと、リーマンが帰ってきた。
「おかえり、えーと夜中に学校に忍び込んで七不思議の検証しようって話」
「随分とやんちゃなことを考えてますね。 危険に巻き込まれないよう気をつけてくださいね」
リーマンは社会人故にお堅そうに見えるがこう見えて彼曰く『若い頃のやんちゃ』についてはとても寛大だ。
なのでこういうことを計画しても怒らず―――もちろんやんちゃが過ぎれば話は別だが―――温かく見守るのが常だ。
それはまるで子供を見守る親のようなのだがなんでリーマン独身なのにそんな気分になっているのだろう。明らかにステップをいくつか無視してる。
「・・・私も行く」
「え?」
思わぬところからまさかの名乗り。今の俺は馬岱に斬られた魏延の気持ちがよくわかる。
「暇つぶしにはちょうどいいな。 俺も行くぜ!」
さらに伏兵だと!?えっとじゃあリーマンは?
「私は留守番をしてますよ。 最近それなりに重要な企画を任されまして忙しくなると思いますから」
「わかった。 お仕事頑張ってね」
「えっと、ところであなたたち家から出れるです?」
「大丈夫だぜ。 俺たちはこの家に憑いているが外に出る方法はある」
「その方法って?」
「一つはリーマンみたく思い入れのある場所を造ることだ」
今更だけどリーマンが出社できていたのにはこんな理由が!
「もう一つは何です?」
「家に関わりの深い人間。 つまりみっちゃんに取り憑くことさ」
なるほどね。わかりやすい。
「巫女である私の前でそういうことを言うとはいい度胸です」
「お前は巫女見習いだろ?」
「城島、私に喧嘩売ってるのです?」
啓にガン飛ばしてる命ちゃんは置いといて今のうちにニートから話聞いとくか。
「それってなんか悪影響あるの?」
「悪い霊だったらともかく俺や杏がみっちゃんに害を与えると思うのかい?」
「まさか」
ニートは誠実な男だ。そして俺たち家族を心底大事に思っている。それは一緒に暮らしている俺が一番よくわかってることだ。
ホントなんでニートなんだろうこいつ。
「じゃあ実際にやってみて」
「気が早いが慣れといて損はないな。 杏も来いよ」
「・・・うん」
杏も体育座りをやめ俺の目の前まで来た。ちなみに視界の隅では啓と命ちゃんが冷戦状態に突入している。(命ちゃんがひたすらガン飛ばしてそれを啓がスルーしてる図とも言う)
「じゃあ取り憑くぜ。 それっ!」
「・・・えーい」
さも俺の体の中に飛び込むような勢いだが別に二人が目の前から消えるわけでもない。だが体が心なしか重く感じる。これが取り憑かれるということか。
「みっちゃん、体のほうはどうだい?」
「うん。 ちょっと体が重く感じるけど動く分には問題ないよ」
思ったよりも楽だったことに安堵感を感じていると冷戦が終了したのか命ちゃんと啓がこっちに来た。
「二人も取り憑いて・・・光、大丈夫です?」
「このくらいなら平気かな」
「とりあえず二人とも試し終わったのなら光の体から離れるです」
「・・・えー」
「えー、じゃないです! いいから出てくです!」
命ちゃんは懐から符を取り出した。
ちょ、何をするつもり―――って痛いっ!
「・・・うわー」
「まったく強引だぜ」
命ちゃんの符って強いのか弱いのかよくわからんな。
「そういえば七不思議の内容をまだ伝えてなかった」
「それを忘れるってどんだけです」
「まあまあ、とりあえず話してよ」
「確かうちの高校の七不思議は
一階南側のトイレに出る花子さん
人体模型が夜中に校庭を走っている
夜中に音楽室のピアノが鳴る
三階北側のトイレの4番目のドアが開かなくなる
誰も居ない廊下で出る足だけの霊
夜中に階段の段数が増える
真夜中に学校の窓から突き出る無数の手。
この七つだな」
なんか定番のもあればあんまり聞いたことないのもあるな。
「やっぱり花子さんはメジャーです」
「階段の話も結構有名じゃない? さてこの中のいくつが本当なのやら」
「それを確かめに行くんだ」
ま、そうなんだけどね。
「決行は今週末の夜。 持ってくのは懐中電灯ぐらいで十分だろ」
「・・・楽しみ」
「これが童心に返るってやつだな!」
「こういうバカなことする時って異様にワクワクするよね」
「まあ否定はしないです」
「怪我するようなことはしないでくださいよ?」
なんだかんだでこういう風に啓や命ちゃんと遊ぶのは久しぶりなので非常に楽しみだ。
「名づけて『七不思議調査隊』だな」
「ぶっちゃけただの肝試しな気もするけどね」