怖い話をしてみる件について
あるところに一人の少年がいた。
少年はまだ幼かったが少年の両親は共働きということもあり少年はよく一人で留守番をしていた。
そんなある日のことである。
その日、少年はいつものように留守番をしていた。
少年は留守番のときはいつも玄関近くの畳の部屋にいた。
そこなら広いしお父さんやお母さんが帰ってきたらすぐわかるからだ。
それに少年はその部屋に飾られていた市松人形をとても気に入っていた。
できれば手にとって遊びたかったがガラスケースに入れられているしなによりおじいちゃんにガラスケースが倒れたら危ないから触れてはいけないと言われていた。
なのでいつものように部屋でおもちゃで遊んだり、人形を眺めていると突然ドンドン、という音がした。
最初、少年は誰かが来たのだろうかと思った。
だがすぐにおかしなことに気づいた。
いつもは誰かが訪ねてきたとき、必ずインターホンが聞こえる。
わざわざ扉を叩くよりもインターホンを鳴らしたほうがずっと楽だということは少年にもわかることだ。大人が知らないわけがない。
次に少年はおじいちゃんとおばあちゃんが遊びに来たのだろうかと思った。
おじいちゃんとおばあちゃんは田舎の暮らしの癖でインターホンを鳴らさず扉を叩くのだ。
だけどそれも違う。おじいちゃんとおばあちゃんは扉を叩きながら大きな声で少年の名前を呼ぶのだ。
だけど今訪ねてきている誰かは一切声を出さずにひたすらに扉を叩いている。
なので少年のおじいちゃんとおばあちいゃんというわけでもない。
『開けて』
突然声がした。男の人のような低い声だ。
ドンドン
『開けて』
ドンドン
『開けて』
ドンドン
『開けて』
何度も繰り返される。
人間はわけのわからない現象に遭うとよせばいいのにその原因を探ろうとする。
少年もその例に漏れずに扉を叩くのは誰なのか確認しようと立ち上がった。
するとその時。
「開けたら駄目だよ」
すぐそばで声が聞こえた。女の子の声のようだった。
これも知らない声だったが不思議と怖くはなかった。
『開けて』
また声が聞こえた。
「扉を開けたら駄目だよ」
もう一度女の子の声も聞こえた。
ドンドンという音はだんだん大きくなってくる。
少年はとても怖くなった。
少年は押入れから布団を取り出しそれに包まった。
布団に包まってもドンドンという音はまだ聞こえてくる。
『開けて』
「開けたら駄目だよ」
『開けて』
「開けたら駄目だよ」
少年はぎゅっと目をつぶって音と声が聞こえなくなるのを待った。
しばらくして少年は目を覚ました。
どうやら眠ってしまっていたようだ。
音は鳴り止んでいた。
男の人の声も女の子の声も聞こえない。
少年はほっ、と息を吐いた。
それにしてもあの女の子の声はなんだったんだろう?
少年がキョロキョロと部屋の中を見渡すとガラスケースの中の市松人形が目に入った。
きっとあの人形が危険を伝えてくれたんだ。
少年はそう思った。
それならお礼をしなければならない。
少年はガラスケースに近づき手をかける。そしてガラスケースを倒さないように気をつけながら扉を開けた。
『やっと開けてくれた』
――――そう、ドンドンという音は玄関から聞こえていたのではなかった。
人形がガラスケースの扉を叩く音だったのだ。
少年はその後、ケースの前で倒れていたのを帰宅した家族に発見された。
幸いにも少年は気を失っていただけでほかに外傷もなかった。
だが。
ガラスケースの中に入っていたはずの市松人形はなくなっていた。
その市松人形がどこに行ってしまったのか。その行方を知るものはいない。
「という話だったとさ」
話が終わるとロウソクの火をまたひとつ吹き消す。
すでに時刻は0時を過ぎた頃、俺たちはずらりと並べたロウソクを囲んで怪談話をしていた。
そう、今やっているのは百物語だ。
怖い話を話していき百話目で恐ろしいことが起こるという噂のアレである。
「やはり身近で起こりそうなことのほうが怖いですね」
「そりゃな。 自分と絶対に関わらないようなとこで何が起こったってたいして怖くないぜ」
「・・・・・・でも夢に出そう」
何故こんなことをしてるのかといえばゴールデンウィークなのにやることがないのが原因だ。
外に出かけるにしても外でこいつらと話せば俺はたちまち痛い人。社会的に抹殺されてしまう。
こんなとき頼りになる親友の啓はちびっこ達のお守りでこちらには来れない。ガッテム。
せめて幽霊たちと触れ合えればいいのだが啓曰く俺はまだレベルが足りないらしい。
つかレベルって何?どうすりゃ上がるの?
「にしてもなぁ・・・」
「どうしたニート。 俺の話におかしなところあった?
これ実際にあった話らしいんだけど」
「いやなんか引っかかるんだよなぁ。 なんだったっけか?
・・・ああ、そうだ思い出した! その話、俺の知り合いの話だぜ!」
衝撃の事実。
世間は狭いと言うがここまで狭いとは予想だにしなかった。
「あれ? でも生前の記憶って無いんじゃなかったの?」
「違う違う。 死んでから知り合ったんだ。
あー、元気にしてっかなぁ、市松人形のいっちー」
「知り合いってそっち!?」
いやまあ、霊同士そっちと知り合うのが自然ってのはわかるけどさ。
果てしない違和感が・・・。
「あいつも不幸だぜ。 根っからのアウトドア派なのにあんなケースに詰められてたんだからな」
「人形なのにアウトドア派なの!?」
「ちなみに若干閉所恐怖症でもあるな」
「不憫っ!!!」
涙が出てきた。
そう考えると人間はなんという仕打ちを彼|(?)にしてしまったんだ・・・。
「でも今じゃすごく生き生きしてるんだ。 最後に会った時に今度パリに行くって言ってたぜ」
「だ、大丈夫なんですか? 飛行機とかは・・・」
「気合でカバーしてんだとさ」
「根性論でなんとかなるのかよ! 閉所恐怖症ナメんな!」
久しぶりの連続ツッコミに息が切れてきた。
クールダウンクールダウン。
深呼吸して息を整える。
「それにしてもさ、4人で百話語るのって辛いね。 一人につき25話じゃん。
まだ四分の一もいってないのにそろそろネタ切れなんだけど」
「・・・まだロウソク・・・3分の2以上・・・残ってるよ・・・」
「絶望的ですね」
ちなみにわざわざロウソクを揃えたのは雰囲気出すためだ。
無駄遣いと言うなかれ。お金は必要以上に溜め込んだら経済に悪影響を及ぼすのだ。
なので決して無駄遣いというわけではないのだ。
「ていうか、百個話しなくてもすでに怪奇現象起こってんじゃん。 客観的に見れば凄まじく恐ろしいことになってんぞ」
具体的に言うと幽霊に囲まれる的な意味で。
「・・・いつのまに。 ・・・怪奇現象なんて・・・いつ起こったの・・・?」
「本当に起こってんのか? みっちゃんの勘違いじゃないか?」
「お前らのことだよ!!!」
「まぁそうですよね」
リーマンはいつも冷静で基本的に|(食事事情以外は)まともでツッコミしなくてもいいから唯一の清涼剤だわー。
「よく考えたらお前らいるんだから『百物語検証!百話目を語り終えた時、本当に怪奇現象が起こるのか?』が正確にできないな」
「今更だな」
「・・・いまさら」
「ていうかなんでやろうと思ったんですか?」
「いや暇だったから」
いざやってみたら暇が恋しくなるほどの苦行になったがな!
「それはともかく次の話いこう」
「・・・まだ続けるの?」
「できるとこまでいこーぜ。 こうなりゃ耐久レースだ」
「じゃあ次は私ですね。
これは私の友達の友達だった人から聞いた話なんですが――――」
こうして暇を持て余した者たちの夜は更けていくのだった。
最近のDVDレンタルショップは昔の作品置いてなくて困る。
昔の作品のほうが面白いの多いのに。