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幽霊に質問をしてみる件について


三人の幽霊と暮らし始めて早一週間が経とうとしていた。


「今帰りました」


「あ、リーマンおかえりー」


リーマンは仕事を頑張っている。

もともとワーカーホリック気味だったらしいが家族ができてさらにやる気が出てきたらしい。

彼の表情はとても生き生きしていてたまにこいつ本当に死んでんのかと疑いたくなる。


「みっちゃん、今日の夕飯はなんだい?」


「ニート、なんで食えないのに聞くの?」


「こういうのはつい聞いちまうもんなんだ」


「そういうものなんだ……。 んーと、今日はしょうが焼きにしようかな」


ニートは相変わらずニートをしている。

一日中家でゴロゴロしているが幽霊であるがゆえに食費もかからないし昼間は学校があり気にならないので黙認している。

むしろ異常があれば可能な限り対応してくれたりもするので非常に助かっている。

これが本当の自宅警備員というやつなのだろう。


「暗いのこわい……」


「お前は……もういいや」


こいつに関してはなんと言えばいいのかわからない。

わりとガチで暗闇を怖がっているらしいのだが何故か頑なに暗闇から出てこようとしない。

何かしらのアイデンティティーがあるのかそれとも尋常じゃないドMなのか判断に困る。



こんな感じでもうだいぶ馴染んだと言っていいだろう。

ほかに例がないからよくわからないけど。

まあそんな感じで俺は幽霊達との生活を送っていた。


彼らとの暮らしはそこまで悪いものではない。

ぱっと見生きている人と変わらないというのもある。違うのは彼らに触れることが出来ないことぐらいか。

それでも家に帰って会話する相手がいるのはとても嬉しいし寂しさが紛れる。

幽霊が視えない人から見ればただの痛い人この上ないのだがそれは全力で気にしないことにした。


だが一見順風満帆に見える……見えるのか? まあとりあえず特に問題はないこの生活の中で俺は一つの疑問を抱いていた。

それは――――




夕飯を食べ終わりと食器を置いた。カチャリと食器が音をたてる。

ちなみに夕飯は宣言通りしょうが焼きだった。

だからなんだって話だが。


食後のまったりとした時間、俺はずっと抱いていた疑問を幽霊たちに尋ねることにした。


「今更なんだが一つ質問があるんだけど」


「なんですか? あ、口の端汚れてますよ。」


そう言いながらリーマンがティッシュを手渡してきた。


「ごめんたった今二個に増えた。 みんなは幽霊だよね? なんで物を持てるの?」


この一週間で何度も幽霊達がリモコンでテレビのチャンネルを変えるのを見ていたのだからすごい今更な質問だ。

だが気になったのだからしょうがない。


「ポルターガイストですよ」


即答だった。


「いやでもポルターガイストって……」


「ポルターガイストですよ」


二回言われた。

続いてニートの方を向く。


「ね、ねぇニート……」


「ポルターガイストだぜ」


「え、いや」


「ポルターガイストだぜ」


「ポルターガイストですよ」


「ポルター……ガイスト……」


有無を言わさぬ勢いで主張された。ポルターガイストという言葉がゲシュタルト崩壊しそうなほど言ってくるなんて。

まさか闇に潜んでいる人まで主張してくるとは思わなかった。どうあっても譲れないことなのだろう。

そこまで言ってきたということは彼らの言う通りポルターガイストなのだろう。そうしとこう。

俺はポルターガイストと言うと部屋全体を揺らしたりして家主を驚かせたり恐怖させたりするものだと思っていたのだが予想以上に平和利用が可能らしい。

ポルターガイストが平和利用できるなら世界にはもっと平和利用できるようなことが溢れているのだろう。話が反れた。

というかポルターガイストが起こっているとき幽霊達が必死に家具を揺すっているのを想像してしまい微妙に微笑ましい気持ちになってしまった。

これではホラー映画のそういうシーンで怖がることができない。どうしてくれる。


「それに関してはもういいや。

それで次の質問なんだけどね……」


だいぶ寄り道をしてしまったがこっちが本命の質問だ。


「みんなの名前って何?」


ほんと今更だった。



「名前……ですか」


「うん。 今までリーマンとかニートって呼んできたけどちゃんと名前があるんだったらそっち呼びたいなって思って」


正直言うとリーマンやニートはともかく闇に潜んでいる人が呼びにくくてしょうがない。

できればわかりやすく呼びやすい固有名詞がほしい。


「名前ねぇ……」


「えっと、それはですね……」


「………………」


予想以上に霊たちの反応が芳しくない。

そんなに聞かれたくないことなのだろうか?まさか物凄いDQNネームだったりするのだろうか。

少し前に「聖騎士」という名前の人を見たことがあるがそれ以上なのか。ちなみに読みは「パラディン」である。

正直目を疑った。騎士(ないと)という名前も真っ青になるネーミングセンス。

聖騎士(パラディン)君には是非強く生きていただきたい。そして大きくなったら改名相談所に駆け込むことをおすすめする。



それはともかく何故言い淀んだのだろうか。なにか言えない事情があるのかそれともやはりDQNネームか。


「あ、あのさ何か言えない事情があるなら言わなくても」


「……実は覚えてないんです」


「え?」


覚えてない?名前を?


「な、なんで!?」


「それは俺が説明するぜ」


そう言ってニートが立ち上がった。


「俺たちみてえな幽霊はな、死んで幽霊になるときに自分の生前の事をほとんど忘れちまうのさ。

怖い話なんかで何故幽霊が生きてる人を襲うのか疑問に思ったことはないかい? それはそいつが生前のことを忘れちまってるからなんだぜ。

自分を構成していることのほとんどを忘れちまって生者への恨みや妬みだけが残るから人を襲うのさ」


「あとは覚えているとしても生前余程執着してたことぐらいでしょうね」


「そうなんだ……」


あれ?でもそれだと……。


「じゃあなんでみんなは普通に会話できるの?」


「それは啓さんのおかげですよ」


「啓の?」


あいつにそんな力があったとは。

最近のあいつの秘めたるパワーが留まることを知らない。

ほかにどんな力があるのかと考えるとワクワクが止まらなくなる。


「霊と会話できる霊能力者がいることは知ってますよね? 彼らは霊の意識を正気に戻してその上で会話しているんですよ」


「え? あの人たちって本当に霊と会話してるの!?」


「ええ。 何人かはちゃんと会話してますよ。 私たちは啓さんに会話できるようにしてもらいましたし」


マジか。啓パネェ。

だがよくよく考えれば俺だって視えるし喋ることもできるんだ。啓以外にも視える人はたくさんいるだろう。

そういう人がその力を商売に使っていても不思議ではない。


「でも……ちゃんと話できる人でも……問答無用でお祓いしようと……してくる人も……いる……」


「なるほど……って、ん?」


今喋ったのは誰だ?

リーマンではない。彼は基本的に礼儀正しく喋る。

ニートでもない。彼はリーマンとは逆に少し荒い喋り方をする。

もちろん俺でもない。俺の口が自我を持ち勝手に喋りだすとかいう気色悪い事態にならない限りありえないだろう。

これらの事柄から導き出される結論はつまり――――


視線を横に滑らせる。そのまま視線を部屋の隅に向けた。

視線の先には闇。正確にはその闇の中に潜んでいる者がいる。


俺たちは顔を見合わせ、そして同時に口を開いた。


「「「しゃ、しゃべったーーーーー!?!?!?!?」」」


「ひぃっ」


俺たち三人の心がひとつになった瞬間である。

もしかしたらこのとき初めて俺たちは『家族』になれたのかもしれない。(一人除く)


ちなみにこのあと怯えてしまったのかその日、闇に潜んでいる人の声を聞くことは無かった。


そして元々の話題であった幽霊たちの名前についてだがその話題のことを思い出したのは実に三日後のことになるのだった。

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