幽霊と家族になった件について
俺、尾崎光はどこにでもいるような平凡な学生だった。
だがそれも過去の話・・・。
友人である城島啓から自分の家が幽霊屋敷であることを知らされ、その上幽霊が視えるようにされてしまった。
しかも霊たちは半分自縛霊のようになっているらしくある程度の距離は移動できても遠くに行くには家の主である俺の近くにいないといけないらしい。
これではもう平凡を名乗れない。よしんば名乗ったとしても「俺の知ってる平凡と違う」と言われるのは目に見えている。なんてこったい。
まぁ別に平凡に固執していたわけではないのでそこまで問題があるわけではないのだが。
それよりももっと大きな問題が俺の前に立ちふさがっているのだった。
グイ、とコップの中の水を一気に飲み干した。そして溜め息をひとつ。
「はぁ・・・まさか幽霊たちと暮らさなきゃならないなんて・・・」
あまりの急展開に意義を申し立てたのだが彼らがこの家に憑いてしまって動けない上、唯一この問題で頼りにできるはずの啓も幽霊を無理やり成仏させるなんてことはできないらしいので幽霊たちと共同生活は避けられないらしい。
どうしたもんかと頭を悩ませる。誰かに相談するにしてもこんな相談を誰にすればいいのか?話したとしてもやさしげな瞳で精神病院への通院を勧められるだけだろう。俺だってそうする。
5分ほど悩んでいたがいい考えは思いつかなかった。だがいつまでもここで悩んでるわけにはいかない。
気が乗らないが一旦居間に戻ることにしたのだった。
「ではこれより第一回尾崎家家族会議を始める。 司会は赤の他人であるこの俺。 城島啓が務めさせてもらおう」
居間に戻るとに啓がこの家の主を放置して会議をを始めようとしていた。
彼の周りにはリーマンとニートが座って拍手をしている。尾崎家の家族会議と言っているのに尾崎家の人間が一人もいないのはどういうことなのだろうか。というか何故赤の他人と言い切った啓が仕切っているのか。
ちなみにそこにいないもう一人は相変わらず暗闇の中から出てこようとしない。というか今は昼間なのに何故奴の周りだけが真っ暗なのだろうか。そこが地味に気になった。
「なにやってんのさ」
「おお、最後のメンバーもようやく来たか。 早く座れ。 もう会議は始まってるんだ」
いつの間にやら俺もメンバーに加えられていた。いや俺は尾崎家の人間だから間違ってはいないのだが。
「勝手に始めておいて何を言ってんだ。 つか尾崎家家族会議って尾崎家の人間って俺しかいないじゃないか」
「何を言っている。 目の前に二人。 部屋の隅っこに一人いるだろうが」
「おい待て! なんで奴らが家族にカウントされてんだ」
「それについては俺がたった今発令した尾崎家家族計画、通称「ファミリープラン」について説明しなければならないな」
「勝手に変な計画立てんなぁぁぁぁぁぁ!!!」
何故こいつは俺の知らないところでどんどん話を進めるのだろうか。
というかそれは通称ではなくただの直訳だ。
「この計画はお前の現状を憂いた俺が考え、俺が思いつき、俺が計画したものなんだが」
「発案、計画、実行全部お前じゃねぇか!!!」
当事者である俺が一切関与していないのは何故だ。
というか家族計画の参加者の75%が死者という恐ろしいことになっている。そんな家庭に明るい未来など見出せそうに無い。
「そもそもなんで家族になんかならなきゃいけないんだ! ただ同じ家にいるだけだろう!」
「家族ってのはさ、すごく曖昧なものだと思うんだ」
突然なんだろうか?
「家族っていうけど父親と母親は元は赤の他人だったわけだろう? 子供っていう繋がりはあるけど世の中にはその子供を捨てる親だっている」
その言葉を聞いてはっ、とした。
啓は捨て子だ。まだ赤ん坊のころに親に捨てられ、施設で育てられた。そんな啓にとっては同じ施設で共に暮らす同じ境遇の人たちこそが家族なのだ。
「だからってわけじゃないけど、家族になるにはさ・・・一緒に暮らすだけでも理由としては十分だと思うんだ。 少なくとも俺はそう思ってる」
「啓・・・」
「俺はみんな、いい人たちだと思うぞ。 現に今だってお前に配慮して喋らないでいてくれるんだし」
さっきから何故啓だけが喋っているのかと思ったらそんな理由があったとは。
そう考えると少し申し訳なくなってきた。
「だからさ、みんなを受け入れて家族になってやってくれないかな? どうせこれから一つ屋根の下で暮らすんだから遠慮しない関係のほうがいいと思うんだ」
「そう・・・だな」
同じ家にいる以上ずっと無視するのは不可能だろう。それならいっそのこと受け入れてしまったほうがいいのかもしれない。
黙ったまま座っている霊たちのほうを向く。
「あーえっとその・・・。 まぁなんだ、不本意だけどこれからは一緒に暮らすんだよな。 だからその・・・よろしく頼む」
幽霊たち(闇に潜んでる人除外)の顔が輝いた。
「う、受け入れてくださるんですか!?」
「あ、あくまでそっちのほうが気苦労が少ないかなって思っただけだからな! 勘違いすんなよ!」
「いやぁ、兄ちゃん懐が深いねぇ。 ありがたいぜ!」
「だ、だから違う!」
「ツンデレ乙」
「黙れ!」
こうして話をしてみると生きてる人間とほとんど変わらなく感じる。
これならなんとか家族として・・・って、あれ?
「なあ、啓」
「ん? なんだ?」
「彼らを受け入れなきゃいけないってのはわかったんだけどさ・・・わざわざ家族になる必要ってあるの?」
「無いけど?」
・・・・・・・・・。
「てめぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
啓に向かって右手を振りかぶる。
だが俺の渾身の右ストレートはあっさり受けとめられ、お返しとばかりに啓の左手が俺の腹部に突き刺さった。いわゆるボディブローである。
「おぐっ」
「だ、大丈夫ですか!?」
リーマンが心配そうに覗き込んでくるがボディブローがクリティカルヒットしたせいで返事ができない。手で大丈夫だとジェスチャーすることしかできなかった。
「旦那、やりすぎじゃないかい?」
「大丈夫さ」
「どう見ても駄目っぽいですよ!?」
「手加減はしたから」
「えっ?」
啓ってニートに旦那って呼ばれてるのか。そういえばニートって江戸っ子みたいな口調だなぁなんて現実逃避をしながら痛みに耐える。
ついでに闇に潜んでいる奴の声を久しぶりに聞いた気がする。えっ?しか言ってないけど。
「光。 俺は言ったぞ。 これから先、一緒に暮らすなら遠慮しない関係のほうがいいとな」
「そ、それは・・・そうだけど・・・ごふっ」
だからってボディブローはないだろう。
とはいえ啓が言っている通り手加減はされている。とはいえ利き腕でないほうの左手での全力攻撃を手加減と呼ぶかは謎だが。
「で、どうするんだ? みんなを家族にするのか? しないのか? ちなみに拒否権は無い」
「わ、わかったよ! するよ! どうせ家族にならなくたって何も変わんないだろうしそもそも選択肢無いし!」
「ならば良し」
もはやごり押しである。
そういうことで俺は三人の幽霊と家族になった。
いまいち啓に押し切られた感じが抜けない、っていうか事実押し切られたんだけど。
幽霊との共同生活という前途多難なこれからの生活に不安を覚えるのだった。
それでもにぎやかになった家を見て少しだけうれしく思ったのは・・・なんだか悔しいので秘密にしておこう。