学校の七不思議を調べてみる件について 後編 その2
これで七不思議編終了!
じり、と幽霊少女を抱えたまま命ちゃんから僅かながら距離を取る。
つい神に救いを求めてしまったが命ちゃんが般若になってる理由は一応理解している。
そう、命ちゃんが俺に好意を寄せてくれているのにはとうの昔に気づいているのだ。というかどこぞの鈍感系主人公ではないのだからそれくらいフツーに気づく。
にもかかわらず俺が命ちゃんの好意に気づいていないふりをしているのにはちゃんと理由がある。
・・・だってそんな素振り見せると命ちゃんのご両親がすぐさま結納の準備始めるんだもの。この年で人生の墓場に入りたくない。そもそも年齢的に無理。
とにかくそれらのことから俺は命ちゃんのターゲットにはならないと判断。
なぜなら雌猫は浮気をした雄猫ではなく―――
「おい、クソ霊。 一瞬で消滅するか苦しんだ末に消滅するか選ばせてやるです」
雄を奪った雌に襲いかかるものだからだ。
だからといって幽霊少女を犠牲にするという選択肢はない。
幽霊とはいえ見た目10歳前後の女の子を囮にして逃げるなんて人としてやっちゃいけないランキング上位五位に入る行いだ。
それにホラー映画では子供を犠牲にしてでも逃げようとする大人は必ずといっていいほど死ぬ。それを避けるためにもこの子を見捨てる訳にはいかない。
覚悟はした。なんで肝試しに来ただけのはずなのにこんな目にと思わないでもないが今はこの場を切り抜けることが最優先事項。余計な思考は放棄する。
命ちゃんが手に持った符を振り上げる。
その瞬間、床を蹴りトイレの外に向かって駆け出す。
「待つです!」と怒気の影響かいつもより数割低く聞こえる命ちゃんの声を背にして走る。
トイレの外に出るとそこにいた啓にすれ違いざまに声を掛けた。
「足止めお願い!」
「任せろ」
そう言うと啓はいつの間に用意していたのか、手に持ったロープをグイ、と引っ張った。
するとトイレのドア、丁度膝の辺りに仕掛けられていたロープがピンと張られる。
ってちょっと待て!マジでいつの間に用意した!?
驚愕をしながらも廊下を走る足は止めない。
走りながらも途中で後ろを振り返るとちょうどロープに足を引っ掻けた命ちゃんが顔面から廊下にダイブするところだった。
正直後が怖いです。
幽霊少女と未来への不安を抱えながら廊下を走り続け階段までたどり着いた。
一瞬、登るべきか降りるべきか迷う。
その一瞬の逡巡の間にも命ちゃんのものと思われる足音が近づいてくる。正直そんじょそこらの幽霊よりも今の命ちゃんのほうが怖い。
「し、下! 下へ行って!」
幽霊少女の声に弾かれるように階段を駆け降りる。
駆け降りた先は一階だった。どうやらまた空間が歪んだらしい。だがこの時ばかりは空間を歪める階段に感謝した。
「こっち!」
幽霊少女が指差す方向へと向かう。その先には一階南側のトイレ。そこは七不思議の一つであるトイレ花子さんが出ると言われている場所だ。
だが躊躇っている暇はない。
そこが女子トイレであることも構わず飛び込む。そして一番奥の個室に入るとようやく一息つけた。
「ふぅ、ここまで来れば安心かな・・・?」
「わ、わかんない」
『・・・ぜい・・・ぜい・・・ゆ、油断は・・・禁物・・・ごほっ』
いやなんで杏は瀕死なの?お前微塵も走ってないじゃん。
『・・・い、言ったはず・・・ぜい・・・ぜい・・・今の私と光は一心同体だって・・・』
「あれってそういう意味だったの!?」
『・・・そう・・・だから光が走れば・・・私の体力もガリガリ削れ・・・ごふっ』
あ、力尽きた。
ええい、普段から引き込もっているからこうなるのだ!
「あ、あの・・・ありがと・・・」
杏にこれから運動させるべきか、だけど幽霊って体力付くの?とか考えていたら幽霊少女にお礼を言われた。
「あー、お礼はいいよ。 見捨てるのは後味悪いって思っただけだし」
「えへへ・・・それでもありがと。 ねぇ、お兄ちゃんの名前は?」
とりあえずお兄ちゃんと呼ぶのは世のロリコンどもが騒ぐからやめてください。
「光。 尾崎光だよ。 君は、ええと、トイレの花子さんでいいのかな?」
「一応そうだよ!」
「一応?」
一応ってなに?花子さんって一応とか付くものなの?
「お兄ちゃん知らないの? 花子さんっていうのはお仕事なんだよ?」
「そうなの!?」
「なんでも最初のトイレの花子さんが大成功したからそれにあやかって花子さんを名乗る人たちが出てきたのがこのお仕事の始まりなんだって!」
だから地方によって話の細部が違うのか・・・。出来れば知りたくなかった事実だ。
「ちなみに最初の花子さんは名前の使用料とかもらってるから働かないでもうはうはなんだってお仕事紹介してくれる人から聞いた!」
それも出来れば知りたくなかったな。いやマジで。
「えへへ・・・」
幽霊少女の顔が嬉しそうに緩んでいる。どうしたのだろうか。
「どうしたの? 突然笑ったりして」
「んー、こうやって誰かと喋ったのって久しぶりだなーって!」
割とヘヴィな答えが返ってきた。
その時である。
―――ギィィ。
「ひいっ!?」
突然、トイレの入口の扉の開く音がした。
そういえば忘れてたけど俺達は追われる身だった。だが焦るにはまだ早い。
もしかしたら啓かニートかもしれない。ここは落ち着いて確認を・・・
「どこに行ったです・・・」
命ちゃんだった。
―――ギィィ・・・バタン
―――ギィィ・・・バタン
―――ギィィ・・・バタン
なにこれめっちゃ怖い。じわじわ近づいてきてるよこれ。
命ちゃんが近づいてくる音に割と本気でビビっていると幽霊少女が立ち上がった。
「(ちょっと! 何する気!?)」
「(戦うの! ここは言わばあたしのホームグラウンド! 負ける要素なんてないっ!)」
「(いやいや相手見習いとはいえ巫女だからね!? むしろ勝てる要素がないよ!?)」
―――ギィィ・・・バタン
ついに隣の個室まで来た。凄まじい緊張感に襲われる。あれ?おかしいな。なんでターゲットにはされてないとわかっているのに震えが止まらないんだろう。
「(勝てるか勝てないかじゃない・・・大事なのはやるかやらないか!)」
やたらかっこいいことを言って幽霊少女は個室から飛び出していった。
おそらく並大抵の相手なら今の幽霊少女の敵ではなかっただろう。
だが―――
「に゛ゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
嫉妬によってステータスが上がっている命ちゃんには敵わなかったようでトイレに断末魔(?)が響いた。
命ちゃんが落ち着き、啓やニートと合流したあとは玄関まで戻ってきた。そこにある長椅子に腰を下ろし休憩する。
額を赤く腫らし、えぐえぐと泣いている幽霊少女を膝に乗せ額をさすってあげていると命ちゃんがおずおずと幽霊少女に話しかけた。
「その、悪かったですね。 つい頭に血が上ってしまったです」
話しかけられた幽霊少女はビクッと体を震わせた。あーあ、怯えられちゃってるよ。
よほど怖かったんだな。
「べ、別にいい・・・気にしてないから・・・」
と言いつつ俺の影に隠れようとするなよ。明らかに気にしてるじゃないか。
「ううう・・・その反応は傷つくです」
「仕方ないだろ。 なにせ光も逃げ出すほど怖かったんだからな。
・・・にしても見事になつかれてるな」
啓の視線の先には幽霊少女。幽霊少女はしっかりと俺の服を握りしめ離そうとしない。
「好かれやすいってこういうことなんだ・・・」
「というか今、光には三人の霊が取り憑いてるですけど・・・大丈夫です?」
そういえばそうなんだよな。
ニートはあくまで俺の負担にならないように取り憑いてるけど未だに回復しない杏は例えるなら全体重を俺にかけてるような状態。さらにそこに幽霊少女がプラスされている。
だが思ったよりは負担は少ない・・・というか今までと変わらない。
そのことを命ちゃんに言うと呆れたような目で見られた。何でだ。
「あたりまえです。 普通の人なら一人憑いただけで体の不調を訴えるというのに光は三人に取り憑かれているというのに平然としているのですから」
「うーん、それって俺が異常ってこと?」
「そういうわけではないですが・・・」
「規格外なのは確かだぜ」
ニートにまで言われた。
「つまりお前は変態ということだ」
「命が惜しくないらしいな」
啓はもう放置するとしてずっと服を握り続けている幽霊少女に視線を移す。
ようやく泣き止んだ幽霊少女はじっ、とこちらを見つめてきた。
「んー、うちに来る?」
「え? いいの!?」
ポカンとした顔をしたと思ったら目を輝かせて顔を近づけてきた。近い近い。
「だってお仕事っていっても高校に肝試しに来る人なんて滅多にいないでしょ?」
「うん。 ていうか今回が初仕事・・・」
世知辛れえ・・・。
「そんなの寂しいでしょ。 君は幽霊だからうちに来ても大丈夫だし、俺も家族が増えるのは嬉しいしね」
本当なら人体模型もなんとかしたかったのだが流石に動く人体模型を家にというのは色々無理がある。
「止めないのか?」
「止まらないですよ。 こうなった光は」
外野がなにか言ってるがとりあえず聞き流す。
「どう?」
「行く! こんなところにずっといるなんて嫌だもん!」
となれば名前を付けなければ。
三人のときは啓に付けてもらったが今回は俺の意思で家族に迎えるのだ。俺が名前を付けるべきだろう。
少し考えて―――決めた。
「精華。 今日から君の名前は尾崎精華だ」
「精華・・・。 あたしの名前・・・」
幽霊少女―――精華は嬉しそうに目を細める。
うむ、これにて一件落着・・・ってあれ?
そこで一つ忘れていることに気づいた。
「ねぇ啓。 俺達七不思議を見に来た訳だけど六個しか見てなくない?」
「案ずるな。 外に出ればわかる」
啓に促され来たときよりも一人増えた人数で校庭に出る。(内一人はダウン中)
そして校舎を振り向くと―――。
「うわぁ・・・」
「あ、ある意味壮観と言えば壮観ですが・・・」
「てかこんなにいたんだな」
校舎の窓という窓から突き出す手、手、手!
ぶっちゃけキモい。
「うう、今度から学校に来るのが躊躇われるです」
「正直俺もここまでキモいとは思わなかった」
まあ、とりあえず当初の七不思議を見るという目標は達成できたので帰るとする。
帰ろうと一歩踏み出したところでもう一つ思い出したことがあったので俺の手を握っている精華に尋ねることにした。
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「そういえば学校に入る前にここで一人分多く声が聞こえたんだけど精華がやったの?」
「え? 知らないけど・・・」
「・・・え?」
正直ここまで長引くとは思っていなかった。




