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オレは舞う。たとえこの身が朽ち果てようとも  作者: 沙φ亜竜
第6章 オレは孤高のファイターだ!
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-3-

 翌日の日曜日、様子見のために電話をかけてみると、紅有さんは自ら語っていたとおり、体調を崩して寝込んでいた。

 電話に出ることができて、声の調子も悪くはなさそうに思えたが、オレは眠人を伴ってお見舞いに行くことにした。

 ビタミンCを摂取できるよう、フルーツ類を持参。台所を借りて、おかゆも作って食べさせてあげた。


「ありがとうございます」


 素直すぎるほど素直なのは、少し熱もあるからだろうか。


「実は先ほどまで、両親と妹が来ていたんですよ。飛鳥さんたちが来られるので、帰ってもらいましたけれど」

「えっ? そうなのか。それは悪かったような……」

「そんなことありませんわ。とくにお父様なんて、心配しすぎで鬱陶しいくらいでしたもの」


 そう言いながらも、微かに染められた頬の赤味は、熱によるものだけではなかったのだろう。


「ボクは妹さんに会ってみたかったなぁ~!」

「ふふっ、まだ小学校三年生ですわよ?」

「大丈夫、全然守備範囲だからぁ~」


 ガゴッ!


「ぷぎぃ~」


 いつもどおりの眠人には、いつもどおりにパンチを食らわす。

 口を狙ったため、歯にぶつかって少々痛かったが。


「ふふっ。おふたりは相変わらずですわね」

「眠人の奴は、少しは変わってもらいたいものだが」

「むぅ~」


 オレたちの様子を見て、紅有さんも笑みをこぼす。

 この分なら、すぐに全快することだろう。


「そういえば……」


 紅有さんが話題を変えてきた。

 ともあれその内容は、オレたちを別の意味でも安堵させるものだった。


「怪しげな視線を感じたり物音がしたり、といったことがありましたけれど、あれはどうやらお父様が手配した探偵だったみたいですわ」

「探偵?」


 紅有さんは、鳳凰院のお屋敷を出て、このアパートでお姉さんとふたりで暮らしている。

 それを了承したものの、心配で心配で仕方がなかった。

 それで娘の様子を逐一確認できるように手配したのが、その探偵だったのだという。


 もっとも以前から、探偵に頼んで紅有さんやお姉さんの様子をうかがってはいたらしいのだが。

 お姉さんが海外旅行に出かけ、紅有さんがアパートにひとり残されることになったため、探偵の数を増やした。

 探偵は、お姉さんの旅行先にまで手配されているというのだから、紅有さんの父親は相当な心配性なのだろう。


「黒いスーツにサングラスという格好で仕事をする探偵さんもいるみたいでしたので、眠人さんがそんな人影を見たと言っていたのも事実だったということですわね」

「ほら~、だから言ったじゃん~」


 得意満面になっている眠人は、ウザいのでもちろん無視。


「まぁ、原因がわかってよかった。危険がないどころか、安全を保障してもらえるようなものだしな」

「ですが、行動を監視されていると思うと、あまりいい気分ではないですわ。部屋の中をのぞいたりまでは、しないようですけれど」

「……一度、のぞいていたことがあった気もするが……」

「そうですわね……。飛鳥さんたちも一緒でしたし、寝室で家捜ししているような感じでしたから、念のため確認しただけではないでしょうか。どちらにしても、しっかりカーテンを閉めていれば問題ないですわ。戸締りは常に気をつけておりますし」

「ふむ、そうだな」


 それにしても、探偵まで雇って娘たちを見守るとは。さすがお金持ちといったところか。


「毎日メールや電話で報告しておりますのに、ほんと、心配性なんですから……」


 ため息をこぼす紅有さん。その気持ちもわかるが。


「でも、それだけ大切に思ってくれてるんだよぉ~」

「そうだな」


 眠人の言葉に答えながら、オレはほのぼのした雰囲気に包まれていた。


「わかっておりますけれど、少々行きすぎですわ。わたくしはもう、子供じゃありませんのに」

「親にとっては、子供はいつまで経っても子供なんだろうな」


 それはオレの両親も変わらない。

 探偵を雇うなどという金銭的余裕は、うちにはないわけだが。


 ある程度会話を楽しんだのち、オレたちは遅くならないうちにおいとました。

 すっかり元気そうではあったが、ゆっくり寝て体力を回復させるべきだと考えたからだ。


 帰り道で、眠人がつぶやいた。


「コロネさんの妹さんだったら、絶対可愛いはずだよね~。会いたかったなぁ~」

「まだそんなことを考えてやがったか! このエロエロ大魔王め!」


 ゲシッ!

 太ももに蹴りを入れてやる。


「どうして蹴るの~? ボク、子供だからわかんなぁ~い!」


 ゲシゲシゲシッ!

 同じ場所に三連発。


「ぷぎぃ~!」


 そろそろ汗ばむような暑さも含み始めてきている日差しのもと、いつもと変わらぬ眠人のうめき声がこだました。



 ☆☆☆☆☆


 その日の夜。夕飯を食べながら、お母さんと話をした。

 オレから提供した話題は、紅有さんのお見舞いのこと。

 探偵を雇って娘の様子を調べさせていた父親のことも話すと、親ならみんな、子供が心配なものよ、と優しく微笑んでいた。


 それはべつにいいのだが。

 お母さんから語られた話に、オレは頭を悩ませることになってしまった。


「そういえば今日、私のお母さん……覚えてるかしら、新潟のお祖母ちゃん、以前遊びに行ったことがあったと思うけど……」

「ああ、覚えてるぞ」

「そのお祖母ちゃんに話を聞いてみたんだけどね」


 お祖母さんというと、お母さんの前にアストラルシャドーと戦う力を持っていた人だ。

 そのあたりの力に関する知識は、忘れっぽいお母さんと比べたらずっと上だろう。

 お母さんもそう思い至って、電話してみたとのことだった。


 アストラルシャドーに触れることができなくなっていた件について、力が戻ったというのは、昨日の夕飯時の会話ですでに報告済みだ。

 眠人とキスしたら戻った、という部分は端折ったが。

 ただ、どうやら気になっていたようで、お母さんは電話で訊いてみることにしたらしい。


 お祖母さんから聞いたという話を要約すると、こんな感じだった。


 成長期にある人間は、精神的にも不安定な部分が多い。

 そういった影響で、一番近くにいる人にアストラルシャドーと戦う力の一部が移ってしまう、といった現象は、実は昔から確認されていた。

 そして、一時的に移った力は、時間が経てば自然ともとに戻るのだという。


 お母さんにはそういうことがなかったため、知らなかったのだろう。


 だがそうすると、眠人とキスする必要なんて、まったくなかったことになる。

 あいつ、まさかいつもの癖で……。

 怒りが沸き上がり、オレは夜もなかなか寝つけなかった。



 ☆☆☆☆☆



 翌日は月曜日だったが、祝日の振り替え休日で学校は休みだった。

 休みの日は遅くまで寝ていることの多い眠人だが、当然のごとく叩き起こした。

 とはいっても、オレは玄関のチャイムを押しただけで、実際に叩き起こしたのは眠人の母親なのだが。

 眠人の部屋にまで上がって起こしたことも小さい頃にはよくあったが、さすがに今ではしていない。


「幼馴染みの女の子が起こしてくれるシチュって、最高だよねぇ~!」


 などとバカげたことを言われそうだし。

 眠人は目をこすりながら、トボトボと玄関を出てくる。

 寝ぼけてはいるが、パジャマのままではなく、ちゃんと着替えてきたようだ。


 ともかく、オレはすかさず問い詰めた。

 昨日お母さんから聞いた話をまとめて突きつけ、アスレチックでのキスについて言及すると、眠人は慌てる様子もなく口を開いた。


「うん、そうだよね~。ボクも、力を取り戻す効果があるとは思ってなかったし~」

「な……っ! だったらあのとき、なぜお前はオレにキスなんてしたんだ!」


 鬼のような形相になっていただろう、オレからの詰問にも、眠人は悪びれる様子もなく、


「だってボク、飛鳥ちゃんのこと、好きだから~。騙してでもキスしたいと思ったんだよぉ~」


 あっさりと言ってのけた。

 一瞬戸惑ってしまったが、どうせいつもの軽口に違いない。


「す……好きだなどと、またそんな冗談をだな――」

「いえいえ、どう考えても本気ですわよね? おふたりの様子を見ていれば、誰でも気づきますわ!」


 オレの言葉を遮って、不意に別の声が割り込んできた。

 コロネ型の縦ロールが揺れている。それは言うまでもなく、紅有さんだった。

 体調はもうすっかりよくなったようだな。安心した。


 と、そんなことよりも、今の発言……!


 ふと見れば、眠人のほうも、うんうんと笑顔で頷いている。

 まだ眠たそうな目をしながらではあったが。


 眠人が、オレのことを、本当に、好き……だと……?

 恐竜なみの鈍さではあったものの、ふたりの言葉の意味するところがどうにか脳にまで到達する。


「えええええっ!? い……いや、しかしだな、こいつはエロゲ好きだから、そんな嘘など、女相手であれば誰にでも――」

「ボクがこんなことを言うのは、飛鳥ちゃんに対してだけだよぉ~」(にこぉ~)


 背景にぱぁ~っと花が咲く。そう見えるほどの明るい笑顔。

 女の子みたいな顔だからか、百合の花が咲いたように思えてしまったが。


「とにかくさ、これからもよろしくね、飛鳥ちゃん~」


 一切の陰りもない満面の笑みで手を伸ばしてくる眠人に、オレは焦りと戸惑いと恥ずかしさが隠せない。

 それでも、


「あ……ああ、まぁ、そうだな。幼馴染みだしな」


 とだけ言って、ぎゅっとその手を握り返すのだった。


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