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オレは舞う。たとえこの身が朽ち果てようとも  作者: 沙φ亜竜
第4章 オレの力の変性期
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-1-

 青愛さんの存在によって、若干かき回された感じではあったものの。

 紅有さんという強力な助っ人を得ることができたオレは、ルンルン気分で宵闇に包まれた道を歩いていた。

 スキップしたりといった、見た目からしてわかりやすいはしゃぎ方はしなかったが、心の中はいつになく温かかった。


 横には眠人もいる。

 こいつがいるのは以前からだし、いても大して役には立たないが、それでもいないよりはマシだ。


「なんか、ちょっと不愉快な思念を感じたようなぁ~?」

「気のせいだろう」


 思いっきり、すっとぼける。

 ともかく、心強い味方の存在が、オレの気分を盛り上げてくれていた。


 その高揚感は、家に帰り着いてからも変わらなかった。


 お母さんに珍しく笑顔でただいまと挨拶すると、なにかいいことでもあったの? 話して話して~♪ と、夕食の時間は矢継ぎ早の質問攻めを受ける羽目になった。

 それでも気分が冷めてしまうことはなく、むしろ自ら進んで、紅有さんがオレと同じようにアストラルシャドーと戦うファイターで、直接的な支援は無理なものの、手助けしてもらえることになったのだと、喜びを包み隠さず振りまきながら語って聞かせた。


 考えてみたら、今まで自分以外に同じようなファイターがいるとは聞いたことがなかった。

 特殊な存在であることは間違いないはずだし、そんな力が一ヶ所に集まるというのは、なにか周囲に悪い影響を及ぼさないとも限らない。

 もしかしたら、同じような力を持った相手との接触はタブーだという可能性もあった。

 もしそうであったならば、先代であるお母さんに話す行為は、こっぴどく叱られてしまう結果につながるだけだっただろう。


 そういった可能性になんて、まったく思い至りもしなかったわけだが。

 結論から言えば、そんなことはなかった。

 だいたい、第一子が受け継ぐことになっているのだから、誰か他にも力を持つ人がいなければ、もし子供ができなかったり、第一子が不慮の事故で死んでしまうという事態に陥ったら、そこで完全に途絶えてしまうだけだ。


 そう考えれば、力を持つのが自分ひとりだけでないことは、自明の理。

 しかも、それだけでは数が減る一方で、増える可能性がない。おそらくは、第一子に受け継がれる以外の存続方法もあるに違いない。

 なんにしても、接触するのがタブーだなんてことが、あるはずもなかったのだ。


 オレの話を聞いて、お母さんは手放しで喜んでくれた。


「あら、そうなの~? お母さんのときはひとりだけだったから、すっごく心細かったのよね~。ほんと、心強いお友達ができて、よかったわね~! おめでとう~!」


 お母さんの笑顔に、嘘偽りはひとかけらたりとも見受けられなかった。

 心からの歓喜。それがよくわかった。

 ここまで喜んでもらえると、逆にこっちのほうが冷静になってしまうが。

 それでも、嫌な気分になるはずがなかった。


 オレはとても温かく、心地よい気持ちに包まれていた。

 だが――。


「そんなことより~……」


 お母さんが唐突に、話題を変えてくる。


「眠人くんとの仲はどこまで進んでるの~?」


 ごふっ!

 思わずご飯を吹き出してしまった。


「もう、汚いわね~、この子は」

「お母さんのせいだろうが! げほっ、げほっ!」

「そんなだから、男の子に間違えられたりするのよ? 少しは眠人くんを見習って女らしくしなさい!」

「眠人は男だ!」

「うふふ、そうね~。それじゃあ改めて、しっかり男だと意識している眠人くんとの仲を、ほらほら白状しなさいな!」

「………………」


 そのあとも執拗にオレと眠人の中とやらを聞き出そうとしてくるお母さん。

 オレはすっぱりきっぱり一切完璧に無視して、夕飯をのどへと流し込むことに専念した。

 お母さんの料理の腕は格別なのだが、今日に限ってはそれを味わう余裕なんてこれっぽっちもなかった。


「ちょっと、よく噛まないと、のどに詰まっちゃうわよ~? だからゆっくり、お話しながら食べなさいよ~」

「お断りだっ!」


 オレは箸を叩きつけるように置き、


「ごちそう様でした!」


 とだけ言い残し、食卓をあとにした。



 ☆☆☆☆☆



 まったく、お母さんは……。

 ぶくぶくぶく。


 肩を通り越し、口の辺りまで湯船に浸かりながら、オレは考え込んでいた。

 無意識に言葉にしそうになり、泡だけが吐き出される。


 眠人との仲だなんて……。


 ちゃぷん。

 湯船のお湯を両手ですくって、顔を洗う。

 実際のところ、お風呂のお湯には雑菌がいっぱいだというし、洗うことにはならないのかもしれないが。

 今現在の目的としては、頭をはっきりとさせて考えをまとめることにあるのだから、べつに構わないだろう。


 ふと、視線を胸の辺りに落とす。

 紅有さんのようなバカみたいにでかい胸ではないが、それなりに膨らんでいる。

 いくらなんでも、眠人に負けることはありえない。……相手は男なのだから、当然すぎる結果ではあるが。


 こうして胸だってそれなりにあるのだから、オレが男に間違えられるなど、どう考えても失礼だと思う。

 おそらくは、普段からの言動と奇行(と取られても仕方がないアストラルシャドーとの戦い)が災いしているだけなのだ。

 もっとも顔立ちに関しては、どうしようもないとしか言えないのだが。


 自分で言うのもなんだが、オレは美少年顔。

 美少女顔と表現できないのは悔しいが、少なくともブサイクと言われることはないはずだ。

 それでも、眠人の可愛らしい顔にはとうてい敵いようがない。


 くそぉ~。なにもケアなどしていないだろうに、あいつはどうしてあんなに可愛い顔をしてやがるんだ!

 怒りが込み上げてくる。


 ……おや?

 どうやら途中から思考がおかしな方向へと路線変更してしまったようだ。

 考え始めた段階では、オレは眠人に対して怒りの感情なんて持ってはいなかったはずなのに。


 だったらどんな感情を心に宿していたのか。

 …………。


 眠人はオレの幼馴染みだ。

 アストラルシャドーを見ることはできないが、オレの危険を察知して助けてくれたりもする。

 その点だけで見れば、かけがえのないパートナーだとも言える。


 アストラルシャドーとの戦いは、オレにとって宿命。賃金こそ発生しないが、仕事のようなものだ。

 とすると、仕事上のつき合いでしかないパートナー、ということになるだろうか。


 しかし……。


 幼馴染みであり、まだ自我が確立しているとは言えない小さな頃とはいえ、昔オレが好きだった、初恋の相手……。


「は……初恋っ!?」


 自らの発した言葉に自分で驚き、思わず立ち上がっていた。


「しししししかしあいつは、ただの幼馴染みなわけだし、べつに今ではなんとも思っていないわけだし……!」


 ひとりで勝手に焦りまくり、わけもわからず、お湯をバシャバシャとまき散らす。


「ちょっと飛鳥ちゃん、お風呂で暴れちゃダメよ~?」


 脱衣所を越えて台所のほうまで音が漏れていたのだろう、お母さんから叱責の声がぶつけられる。

 それで一旦はどうにか冷静になれたオレだったのだが。

 湯船に浸かり直すと、思考は最初にループ。


 まったく、お母さんは……。

 ぶくぶくぶく。

 と、取り留めのない思考の永久機関状態に陥り、最終的にはのぼせて倒れてしまう結末となるのだった。


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