シンプルにして最強の「アポ」の教科書を読んでみた
教科書シリーズ第二弾。
「会話が苦手なら、インタビューすればいいじゃない」
そんな発想を、私は最近手に入れた。
きっかけは、エンゲブラさんのエッセイ『会話が苦手なひとの特徴。』だった。
その中で、エンゲブラさんは「会話の基本は、インタビューである」と書いていた。
私は人間そのものには興味がある。人が何を考えているのか、どうしてそんな行動をするのか、どういう経験をして今のその人になったのか。そういうことを考えるのは、むしろ好きだ。
なのに、実際に人間と対面すると、
「何を聞けばいい?」
となる。
聞きたい気持ちはある。でも、その場で質問を組み立てるのが難しい。
なんとなく、対話するシーンで手元にカンペがあればいいのかな?というイメージがあったので、それを感想欄で聞いてみたら「自分の中でのカンペ、テンプレ。これはやはり先に持っておきたいものです」という金言をいただけた。
ビビッときた。
これ、今まで私に足りなかったものではなかろうか?
インターネットで「インタビュー、テンプレ」と検索、早川洋平さんの『会う力:シンプルにして最強の「アポ」の教科書』がヒットしたため、爆速で注文した。
本が届いたのは、結婚式の前日だった。
そう。ちょうどいいタイミングで、遠い親戚の結婚式があったのだ。旦那側の姻族、しかも初対面の親族と同じテーブルである。
新郎とは一度も会ったことがなく、当然、親族の皆様とも面識がない。スーパー気まずいタイムが訪れるはずだった。楽しくない。絶対お腹痛くなる。
しかし今回は違う。私はインタビューをするのだ。
新幹線で横浜まで向かう間、届いたばかりの教科書を読み込んだ。
書籍にはこうあった。『インタビューの軸は、現在・過去・未来の三つで作れ』と。
現在なら、
「新郎とはどういうご関係なんですか?」
「今日はどちらから来られたんですか?」
過去なら、
「小さい頃の新郎って、どんな子だったんですか?」
「何か印象に残っているエピソードってありますか?」
未来なら、
「お二人はどんな家庭を築いていきそうですか?」
……など。
もちろん、いきなり未来の話をするわけではない。まずは現在、そこから過去へ。話が広がったら、その話を掘る。そして、相手が話してくれた内容から、次の質問を作る。
つまり、
「何を話そう?」
ではなく、
「今この人が話していることの中で、私は何を知らない?」
と考える。これだけで、ずいぶん違う。
そしてもう一つ、書籍にはこうも書いてあった。
『インタビューはその人の事前調査を可能な限りしておくこと』
ちょうどいい。まだ横浜までは時間がある。旦那に親族関係のことを根掘り葉掘り聞いた。
「この人は誰?」
「新郎とどういう関係?」
「どんな人?」
「この辺の親族関係、どうなってるの?」
ほうほう。本日の戦場のマッピングが出来てきたぞ。おかげで、アイスブレイクのひとことに悩まずに済んだ。
気まずさを感じないから、「お料理美味しいですね!」も、苦し紛れの一言ではない。ただの取っ掛かりだ、という心持ちでいられる。
結婚式が始まった。準備万端である。
さあ、実戦だ。
実際に同じテーブルになったのは、新郎の祖父母であった。
うむ。事前調査によれば、新郎のお父さんの実家のご両親だ。
「オマール海老の前菜、プリプリで美味しいですね!」
自己紹介とアイスブレイク後、さっそく小さい頃の新郎の話を聞いてみた。
「あの子は良い子だよぉ〜。家に遊びに来た時に子供たちが『兄ちゃん!』ってわらわら集まってきてね〜」
「素敵な笑顔ですものね!じゃあ、昔から皆のお兄さんな感じだったんですね!さっきのオープニングムービーで、テニスをしてる写真がありましたけど、前からしてるのですか?」
「そうそう、高校からしてるみたい」
「テニスをされてたんですか!」
気がつけば、普通に会話が続いていた。
未来の話?そこまでは行かなかった。そもそも、そこまで話題を広げる必要もなかった。相手が話してくれたことを聞いて、気になったことを尋ねる。それだけで、十分に会話は成り立った。
そして何より、めちゃくちゃ話しやすかった。
初対面の人と話しているのに、変に気負わない。「何か話さなきゃ」と焦ることもない。「次は何を言えばいいんだ」と頭を抱えることもない。ただ、相手の話を聞いている。そして、気になったことを聞いている。
……え?これ、会話ってこんなに楽なものだったの?
いや、待ってほしい。私は今まで、初対面の人と話すときに、いったい何と戦っていたのだ。
会話の内容か? 沈黙か? それとも、脳内で勝手に開催されていた「完璧な受け答え選手権」か?
そんなこんなで。
結婚式の二時間、私は、お腹が痛くならなかった。
会話が苦痛なくできる。これは奇跡である。
まじか。ここまで変わるのか。
今回のことで、私は「会話が苦手」という認識を、少しだけ修正することになった。
私は人間に興味がないわけではない。ただ、何の準備もない状態で初対面の人を前にすると、「何を話せばいい?」という部分で処理が止まってしまう。
だから、事前に情報を集める。質問の軸を作る。そして、相手の話を聞く。たったそれだけで、ずいぶん違った。
もちろん、今回うまくいったからといって、これからすべての会話が突然スラスラできるようになるわけではない。でも、「こうすれば私は話しやすい」という方法を一つ見つけられた。これは大きい。
苦手なことというのは、「できない」と思っている間は、ものすごく巨大な壁に見える。ところが、ちょっと角度を変えてみると、
「あれ?壁じゃなくて、ただ入口が分からなかっただけでは?」
となることがある。今回がまさに、それだった。
エンゲブラさんのエッセイを読んで、インタビューという発想を知って、教科書を買って、実際に結婚式で試してみた。そして私は、初対面の親族の方々と、気負わずに二時間話すことができた。お腹も痛くならなかった。
……革命では?
こういう瞬間が、私はたまらなく好きだ。「知らなかったことを知った」だけではない。今まで自分の中にあった認識そのものが、ガコン、と一段階広がる。世界の見え方が、ほんの少し変わる。
そして、その瞬間にはものすごい快感がある。
フフッ、フフフフ!
フハハハハハハハハハーッ!
最高に『ハイ!』ってやつだアアアアアアハハハハハハハハハハーッ!!
うん!これがあるから新しいことを知るのは止められない!最高!ふっふぅー!!
だから私は、また教科書を読む。次は何ができるようになるのか。何が「実はこういうことだったのか」に変わるのか。
そう考えると、勉強というのはなかなか面白い。
出典
『会う力:シンプルにして最強の「アポ」の教科書』
著者:早川洋平
出版社:新潮社
刊行日:2025年3月17日
ISBN:978-4-10-356191-0
『会話が苦手なひとの特徴。』
作者:エンゲブラ




