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暗きは、いつまでも広い。それは我のために。それは星のない宇宙。何もないから突き刺す視線も消える。
「闇夜の烏よりも広大で退屈しない。ここには情念がないために怖さや悲しみは無く、期待の眼差しを返されずにいることが楽しい。意識して無視されてるのとは違って、侮られているわけでもない。そして意思がないのではない。温かさを感じるのはただその場にいる自分がで、そいつはそのつもりじゃない。ただ寂しくて、恋焦がれさせてくる」
「黒体だっけ?」
......後ろの座席で会話しているらしい。それはそうと興行のドリンクはやはり高いな。1500バレーもするなんて。フアイラの入場料に1万バレー払ったんだから、飲み干すまで帰るわけには行かない。
赤色で詰め物がふかふかで、家のなかにあったらなと思う。見た目ほど冷たくない合成樹脂のひざ掛けに手を置いたら、体重を乗せてガタッと天を仰ぐ。「ふぅ〜」と思わず出る。
そこには何も映ってない黒い画面のプラネタリウム。だがそれがマニアには堪らない。巨大な球状に覆われ、動物をいれたら困惑するだろう空に包まれている。腰のつけ根がキュンと疼く。鼻に抜けるはポップコーンや薬品が混じったような、館内に染み入ったアミューズメントの匂い。非日常を飾る。
下の階層には豆粒大のおばはんのブロンド髪や太ったおっさんのハゲ頭。上映日ではないが、見学ついでのカップルもちらほらいる。長髪の女性の頭が揺れていて、談笑している。そうやって座席の海を目で撫でていた。
プラスチックのストローを通ってくる果肉入りのマスカットジュース。トイレを想起させる力を持つ。
洋上空域において地上レーダから発見の遅れた低空飛行の亡命識別旅客機の下には敵国のパラサイト・ファイター型の変形ロボがいて、そいつが海軍のスクランブル戦闘機と問答になるのだが、それすらもデコイで本丸は潜水艦を侵入させるため......ていう妄想をした。




