後日談Ⅰ
事件から、三年。
あの都市は、何事もなかったかのように再建されていた。崩れた建物は新しくなり、血の跡は舗装で覆われ、人々は“暴走者事件”を過去の災害の一つとして語る。だが、忘れていない者もいる。
「依頼、受けるよ。危険区域だろ? 問題ない」
軽い声でそう言う青年───アストルフォ。今も彼は便利屋を続けている。変わったことがあるとすれば、彼の事務所の奥に、一本の剣が保管されていること。布に包まれ、封印符で幾重にも固定されたそれ。ドゥリンダーナ。回収者は彼自身。
「責任、だからね。」
誰に言うでもなく、そう呟く。
昔の彼は、戦いを楽しむところがあった。強敵に胸を躍らせ、危険を笑い飛ばしていた。今は違う。戦闘中も冷静で、無駄な殺しはしない。依頼人が復讐を望んでも、可能な限り止める。
「壊れると、戻れないからさ───」
それは経験から出た言葉だった。
裏社会では囁かれている。
“狂剣の回収者”
“暴走者を討った男”
だが彼は訂正しない。肯定もしない。ただ笑う。
「そういうことにしといてよ。」
彼は真実を語らない。オルランドが最後に何を選んだのか。自ら剣を置いたこと。兵士たちの中へ歩いたこと。それは記録には残らない。残すつもりもない。
時折、屋上に立つ。三年前と同じ月。風が吹く。
「ちゃんとやってるよ───ね、二人とも。」
独り言。誰に向けたものかは明白だった。事務所の奥には、あの剣。彼は一度も抜いていない。抜くつもりもない。
「次に振るわれるなら、僕が壊す。あの思い出は上書きしたくないし───。」
それが、彼なりの誓い。
実は、ドゥリンダーナは完全には沈黙していない。時折、微かに脈打つ。まるで───まだ“何か”を待っているかのように。アストルフォは気づいている。だが、今は触れない。彼は便利屋だ。今日も依頼が来る。壊れかけた人間を、狂気の一歩手前で止める仕事。それが、残された者の役目だから。




