表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/40

第十五章 差し込む光

 炎と硝煙が夜空を赤く染め、瓦礫と血が辺りを覆っている。オルランドは剣を握り、無数の兵士を前に立つ。一振りごとに命が散り、倒れる数は五十を超える。悲鳴が戦場に木霊し、それでも彼らは逃げなかった。今やかなり減ってしまった軍勢はまだ彼を包囲し、逃げ場はない。

 だが、そんなことを気にせず、狂気に満ちた足取りで、彼は前に進む。周囲の兵士の悲鳴も、爆発も、瓦礫も、すべて彼の感覚の中で消え、ただ刃先に届くものだけが現実だった。そのとき、視界の片隅に、鮮烈な光が走る。アストルフォ───かつての友であり、唯一信じられた相棒が、数千の兵士の先頭に立ち、槍を構えていた。オルランドの目が光を帯びる。狂気の中で、冷たく笑う。

「来たか……。」

彼の声は、炎と爆煙に溶け込み、誰にも届かない。

「諸君!今からオルランドは俺が担当する!人員の被害を出すな!一対一で決着をつける!俺が敗北した場合、即刻退避し救援を呼べ!」

 アストルフォは、他の部隊を全て下がらせ、オルランドとの一騎打ちに出た。それは戦場にこれ以上の被害を出さないためでもあり………私情を持ち込んではいけないはずの戦場に、初めて持ち込んでしまった為でもあった。二人の間に、静寂が訪れる。数千の兵士の声も、銃声も、遠くに消えた。世界は、二人だけの戦場に変わった。

 最初の衝突。剣と槍、刃と鋒。火花が散り、瓦礫が跳ねる。アストルフォの槍が迫る。オルランドは回避し、間合いを詰めて斬り返す。衝突のたびに地面が震え、空気が引き裂かれる。

「オルランド、止めろ!」

 アストルフォの声は、怒りでも嘆きでもなく、必死の呼びかけ。剣がぶつかり、押し合い、互いに踏み込み、砂塵と血が舞う。瓦礫の壁が崩れ、火花が夜空に散り、二人の姿が一瞬消えた。オルランドの剣がアストルフォの肩を裂く。血が滴り落ち、呼吸を荒くする。

あと一歩、振り下ろせば───命は終わる。だがその時、アストルフォが言った。

「オルランド!お前の目的は一体どこにある!お前の愛する人は、お前にそんなことをして欲しかったのか!だから頼む……今からでも遅くない……命を投げ打ってしまうことなんてもう辞めてくれ……!俺はもうこれ以上友を失いたくないんだ…!」

 その声に、狂気の中のオルランドの意識が揺れる。剣先を握りしめる手に微かな震えが走り、目の奥に封じ込められた記憶が蘇る───アンジェリカの声。微笑み。優しい手。守るべき理由。

「……アンジェリカ……」

 彼の声は、夜空に溶け、血と硝煙の匂いに混ざった。剣が、止まる。あと少しで命を奪うはずだった刃が、空を斬るだけになる。その瞬間、狂気はわずかに影を薄くし、心の奥に、愛する人の記憶が戻った。アストルフォは踏み込む。剣先がわずかに触れる距離で、互いの呼吸が交わる。

「お前と交わした約束!覚えてるか……?俺はお前を忘れない、そう誓ったあの時の約束を!」

 オルランドは、ただ頷く。涙が血に混じり、頬を伝う。世界は依然として戦場だ。数千の兵士、爆煙、瓦礫の山。だが、今、オルランドの心には一瞬の光が差し込み、破壊の中で、確かな温もりを感じる───狂気の頂点にいた男が、ほんの一瞬、人として立ち返る瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ