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第十章 空白

 アストルフォは、何も言わなかった。夜が明ける前。街の残骸から少し離れた場所で、ただ一度だけ───オルランドを見た。声をかけることはできた。肩に手を置くこともできた。隣に立ち続けることも、きっとできた。だが。それは違うと、分かっていた。今の彼のそばにいることは、救いではない。ただ───苦痛を、引き延ばすだけだ。

「……またな。」

 届くはずのない声量で、それだけを残して。アストルフォは去った。振り返らなかった。振り返れば、戻ってしまうと知っていたから。もしかしたら、友のことが怖くなってしまったのかもしれない。

 オルランドは、立ったままだった。夜が終わっても。朝日が昇っても。何も変わらない。やがて。彼は歩き出した。どこへ向かうのか、自分でも分かっていない。気づけば、形だけ残った家の前に立っていた。中には入らない。入る意味がない。もう───帰る場所ではない。それでも。しばらく、そこにいた。理由はない。感情もない。ただ、動かなかった。日が沈む。また昇る。

 時間だけが、均等に過ぎていく。腹は減らない。眠くもならない。体は生きているのに、それ以外のすべてが止まっていた。ドゥリンダーナは、壁に立てかけられている。手に取ることもない。磨くこともない。ただ、そこにある。それだけ。


誰かが声をかけた気がした日もあった。風の音だった。

足音を聞いた気がした夜もあった。瓦礫が崩れただけだった。


 何も起きない。本当に、何も。怒りも来ない。悲しみも来ない。涙も出ない。空っぽだった。内側が、完全に。それでも。時間だけは、止まらなかった。何日が過ぎたのか。もう分からない頃。オルランドは、ようやく剣を手に取った。理由はない。ただ───手に収まったから。そして。初めて、口が動いた。

「……そうか」

 それだけだった。

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