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事故死したので異世界に転移しますが、管理者のミスなのでアメリカの店ごと持っていくことにしました  作者: だい


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最終話:マツシタ・ブンペイの異世界生存記と家族の肖像

ガンディアの屋敷は、未だかつてないほどのパニックに包まれていた。


 アリスとミケの同時陣痛。

 急遽、広めの客室を二つ繋げて即席の分娩室が作られ、白衣を着たフィリアと、助手としてエマとニナが飛び込んでいった。

 屈強な男たち(といっても俺と護衛の数名だが)は、廊下でただオロオロと祈ることしかできない。


「……落ち着け、俺。大丈夫だ。フィリアの医療チートがあれば、母子ともに絶対に安全だ」


 廊下をウロウロと歩き回りながら、俺はブツブツと呟いていた。

 そんな俺の足元を、小さな影が駆け抜けていく。


「ひゃっはー! パパ、落ち着かないっすね!」


 サンの口癖を完璧にコピーした元気な男の子、ソル(二歳)。手には木製のガトリングガン(手回し式)を抱えている。


「パパは小心者だからな。……我は己の素振りに集中するのみだ」


 その横で、小さな木剣を真剣な顔で振っているのは、レオナの息子、アーサー(二歳)。すでに騎士の風格が漂っている。


「……すぅ……パパ、うるさい……」


 廊下の隅で、丸まった毛布に包まれて器用に寝ているのは、ゴロネの娘、ネム(一歳半)。どんな騒音の中でも絶対に起きない図太さは、完全に母親譲りだ。


「心拍数上昇、発汗作用、瞳孔の散大……。お父様、完全にパニック状態ね。非合理的だわ」


 俺の顔をタブレット型魔道具でスキャンしながら冷静に分析してくるのは、フィリアとの間に生まれたハーフエルフの娘、フィオ(一歳)。この歳で眼鏡をクイッと押し上げる仕草まで母親そっくりだ。


 ……どいつもこいつもしっかり育ちやがって。

 エマの息子アルや、ニナの娘ルナも加わり、廊下はまるで保育園のようだった。

 俺は25歳にして、すでにこれだけの子供たちを抱える大家族の親父だ。

 そりゃあ、肝も据わる……と言いたいところだが、やっぱり扉の向こうから聞こえるアリスとミケの苦しそうな声には、心臓が握り潰されそうになる。


「……がんばれ、アリス、ミケ……!」


 俺は扉に額を押し当てて、祈った。

 ボブ爺、あんたの遺産で俺は生き延びた。そして、こんなにも守るべきものが増えた。

 どうか、あいつらを護ってやってくれ。


 それから、どれくらいの時間が経っただろうか。

 永遠にも思える時間の後。


 ――オギャアアアアッ!


 ――にゃぁぁぁぁぁぁっ!


 元気な、二つの産声が、同時に廊下へと響き渡った。

 一つは人間の赤ん坊の泣き声。もう一つは、猫の鳴き声にも似た、生命力にあふれる産声だった。


「……っ!!」


 ガチャリと扉が開き、汗だくのフィリアがマスクを外して、ふっと微笑んだ。


「終わったわ。二人とも、元気な女の子よ。母子ともに健康。……入りなさい、パパ」


 俺は弾かれたように分娩室へと飛び込んだ。


 清潔なシーツの上。

 二つのベッドが並べられ、アリスとミケが、それぞれ小さな命を胸に抱いていた。

 二人とも汗ぐっしょりで、息を弾ませているが、その顔はこれ以上ないほど輝いていた。


「……ブンペイ様」


 アリスが、涙で潤んだ瞳をこちらに向けた。

 その腕の中には、アリスと同じ、美しい金糸の髪を持った人間の赤ん坊が眠っている。


「ブンペイ……アタシ、がんばったにゃ……」


 ミケが、弱々しくも誇らしげな声で笑った。

 彼女の腕の中には、ミケと同じ三毛猫の耳と尻尾を持った、小さな小さな獣人の赤ん坊が丸まっていた。


「アリス、ミケ……!」


 俺は二人の間に膝をつき、二人の頭を、そして小さな二つの命を、順番に撫でた。

 言葉にならなかった。

 ただただ、涙がボロボロとこぼれ落ちた。


「ありがとう……本当に、ありがとう。よくがんばったな」


「ふふっ。ブンペイ様が泣いてどうするんですか」


「パパは泣き虫だにゃ」


 二人が笑う。俺も、涙を拭いながら笑った。


 そこに、廊下で待機していたニナやエマ、そしてシキたちも、子供たちを連れてどやどやと入ってきた。

 ベッドの周りは、あっという間に人だかりになる。


「アリス様、ミケちゃん、本当にお疲れ様!」

「可愛いっすねー! アタシが戦い方を教えるっすよ!」

「剣の握り方からだな」


 それぞれが祝福の言葉をかける。

 俺は立ち上がり、ぐるりと部屋を見渡した。


 元・奴隷。元・暗殺者。元・没落貴族。

 世界から弾き出され、傷ついていた奴らが、一つの家に集まって、そして新しい命を繋いだ。

 もう誰一人、欠けさせない。

 ここが、俺たちの「本当の家族」だ。


「……よし。今日は宴会だ! 俺が最高のご馳走を作ってやる!」


 俺が宣言すると、部屋中から「わぁっ!」と歓声が上がった。

 最高のハッピーエンド。これで俺の異世界での戦いは、ひとまずの終を……。


「……マスター」


 背後から、ツンと袖を引かれた。

 振り返ると、シキが静かに、だが熱を持った瞳で俺を見上げていた。

 彼女の腕の中には、クロウが眠っている。


「アリス様とミケちゃんの赤ん坊、とても可愛いですね」

「クロウも、お兄ちゃんになりました」


「あ、ああ。そうだな」


 なぜだろう。嫌な予感がする。


「ところで、マスター。最近、クロウが『妹が欲しい』と泣くのですよ」


 クロウはまだ喋れないはずだが。


「ねえ、パパ。アタシんとこのソルにも、弟か妹が必要っすよ!」

「我のアーサーにも、競い合う兄弟がいなければ、騎士として大成せぬ」

「遺伝子の多様性を確保するためにも、私ともう一度配合実験を……」

「お、オーナー。アルが最近、少し寂しそうで……」


 サン、レオナ、フィリア、そしてエマまでもが、なぜかじりじりと俺との距離を詰めてくる。

 その目には、アリスたちの出産を見て完全に火が点いた「母性」という名の「狩猟本能」がギラギラと輝いていた。


「えっ? いや、お前ら、今はアリスとミケのお祝いで……」


「それはそれです」


 シキが、にっこりと微笑んだ。

 その手には、いつの間にか寝室の鍵が握られている。


「マスターには、私たち全員に、平等に愛を注ぐ『責任』がありますから」


「そ、そうっすよ! マツシタ家を、もっともっとデカくするっす!」

「さあ、まずは誰の部屋から行くのだ、夫よ」


 壁際まで追い詰められた俺は、最後に助けを求めてニナを見た。

 うちの正妻格なら、この暴走を止めてくれるはず……!


 しかし、ニナはルナを抱きかかえながら、頬を赤らめて小さく首を傾げた。


「ふふっ。私も……ルナに妹か弟を作ってあげたいと、思っていたところです」


「ニナまで!?」


 終わった。

 帝国軍よりも、魔物よりも恐ろしい、俺の嫁たちの猛攻。


「お、俺の腰がもたないぃぃぃぃっ!!」


 俺の悲鳴が、ガンディアの空に高らかに響き渡った。

 ボブ爺。どうやら俺の異世界生存記録サバイバルは、まだまだ別の意味で過酷な戦いが続きそうです。


 それでも。

 この賑やかで、騒がしくて、愛おしい日常を、俺はこれからも全力で生き抜いていく。


 ――マツシタ・ブンペイの異世界生存記録 (完)

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