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事故死したので異世界に転移しますが、管理者のミスなのでアメリカの店ごと持っていくことにしました  作者: だい


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第68話:湯けむりの死角、そして掃除の時間

温泉街の散策は、順調そのものだった。

 ……最初の30分間だけは。


「ブンペイ様、あーん!」


 アリスが黒たまごを差し出してくる。俺がそれをパクリと食べると、彼女は花が咲いたように笑った。

 平和だ。絵に描いたような観光客だ。


 だが、路地裏に入った瞬間、空気が変わった。


「――そこまでだ」


 前方の影から、フードを被った男たちが現れる。

 後ろを振り返ると、退路も塞がれていた。総勢10名。

 全員、薄汚れた武器を手にしている。


「へへっ、運がいいぜ」

「死んだはずのウィレム家の令嬢が、こんな所で男と旅行とはな」


 リーダー格の男が、下卑た笑みを浮かべてアリスを指差した。


「おい嬢ちゃん、こっちに来な」

「お前の首には、生きてても死んでても高値がついてるんだ」


 アリスの体が強張る。

 過去のトラウマ。追われる恐怖。彼女の顔から血の気が引いていく。


 ……生きてても死んでても、か。

 その言葉を聞いた瞬間、俺の中で「スイッチ」が入った。


 単なる誘拐なら、撃退して終わりでいい。

 だが、「死体でもいい」というのは、明確な殺意だ。

 そして、死んだことにして逃したはずのアリスを、まだ執拗に狙っている黒幕がいるという証拠だ。


(……ここで、終わらせる)


 俺は、静かに一歩前に出た。


「人違いじゃないか?」

「この子は俺の妻、マツシタ・アリスだ」


「はぁ? 寝ぼけてんのか?」

「その顔、その髪、間違いねえよ!」

「とっとと渡せ! 怪我したくなきゃ……」


 男が俺の胸倉を掴もうと手を伸ばした。


 ――その瞬間。


 ヒュンッ!


 風を切る音と共に、男の手首が「あらぬ方向」に曲がった。


「ぎゃああああッ!?」


「……汚い手で、ブンペイに触るなにゃ」


 いつの間にか、ミケが男の腕を極めていた。

 小柄な体からは想像もつかない万力のような力で、男を地面にねじ伏せる。


「なっ!? なんだこのガキ!」

「やっちまえ!」


 残りの男たちが一斉に襲いかかってくる。

 だが、そんな鈍い動きが、うちの「掃除屋」たちに通じるわけがない。


「……邪魔です」


 シキが冷徹に呟き、AA-12を構える。

 

 ズドンッ! ズドンッ!


 威嚇ではない。

 正確に、男たちの「膝」と「肘」を撃ち抜いた。


「ぎゃあああッ!?」

「あ、足がぁぁ!!」


 さらにサンが、満面の笑みで飛び込んでくる。


「ひゃっはー! 遊んでくれるのー!?」


 ブンッ!

 サンが素手で男を殴り飛ばす。

 男はピンボールのように壁に激突し、動かなくなった。


 1分も経たずに、路地裏には10人の男たちが転がっていた。

 全員、手足を潰され、逃げることも反撃することもできない。


「……アリス」


 俺は、震えているアリスの方を向いた。


「大丈夫だ」

「お前はもう、追われる身じゃない」

「俺が守るし、この『名前マツシタ』が守る」


 俺は彼女の左手を持ち上げ、薬指の指輪を男たちに見せつけた。


「見ろ」

「この指輪がある限り、こいつは俺の家族だ」


 そして俺は、リーダーの胸倉を掴み上げた。


「さて、ここからが本題だ」

「誰に雇われた?」

「手配書の発行元はどこだ?」


「い、言えねえ……!

 言ったら俺たちが殺され……」


 俺はシキに目配せをした。

 シキは無表情でナイフを取り出し、男の指先に当てた。


「……言わないなら、指を一本ずつ落とします」

「全部なくなったら、次は耳、その次は鼻です」

「安心してください。止血くらいならしてあげますから」


 シキの瞳には、慈悲の欠片もない。ただの作業だ。


「ひっ、ひぃぃッ!」


 男は失禁し、泣き叫びながら全てを吐いた。


「き、北だ! ノルデンの王家だ!」

「第三騎士団長が、直々に……!」

「ウィレム領を王家直轄にするために、生き残りは邪魔なんだ!」


 ……やっぱりな。

 叔父さんが必死に守ろうとした領地を、王家がまだ狙ってやがるのか。

 しかも、アリスが生きていたら邪魔だから殺す、だと?


「……クソだな」


 俺は吐き捨てた。

 もう、我慢の限界だ。


「ニナ、シキ」

「処理、頼むわ」


「はい、オーナー」


 ニナが冷たい声で応える。

 彼女は懐からサイレンサー付きの拳銃を取り出した。


「証人は一人で十分です」

「案内役以外は……必要ありませんね」


 シュッ、シュッ。


 乾いた音が路地裏に響く。

 命乞いをする間もなく、9人の男たちが動かなくなった。

 残されたリーダーだけが、ガタガタと震え、泡を吹いている。


「……あ、悪魔……」


「人聞きが悪いな」

「家族を守るための正当防衛だよ」


 俺はリーダーの髪を掴んで引き立たせた。


「案内してもらうぞ」

「お前の雇い主のところへな」


「え……?」


「北へ行く」

「売られた喧嘩だ。元締めごと買い取ってやるよ」


 俺はインカムでフィリアを呼び出した。


『フィリア、聞こえる?』

『観光は中止になったよ』

『今すぐガレージ(揺らぎ)からM113を出して』

『北のノルデンへ、ちょっとOHANASIしにいこうか』


『……了解したわ』

『以前アリスを救出した地点の近くに「出口」を開けるわね』


 俺たちは何事もなかったかのように、血なまぐさい路地裏を後にした。

 アリスが、決意を秘めた目で俺を見上げる。


「ブンペイ様……」

「私も、行きます」

「もう逃げません。叔父様のためにも、私の手で決着をつけます」


「ああ、行こう」

「マツシタ家の力、王家の連中に骨の髄まで教えてやろうぜ」


 俺たちの新婚旅行は、急遽、王城への「お話し合い」ツアーに変更された。

 温泉まんじゅうの代わりに、熱い鉛玉を手土産にな。

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