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事故死したので異世界に転移しますが、管理者のミスなのでアメリカの店ごと持っていくことにしました  作者: だい


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第60話:丸投げ伯爵と、温泉への逃避行

戦後処理の話し合いは、

 俺の胃袋をキリキリと

 締め上げるような緊張感の中で

 行われていた。


 ガンディア領主館の応接室。

 フカフカすぎるソファの座り心地が、

 逆に落ち着かない。


 目の前のマホガニーの卓上には、

 綺麗に洗われ、

 丁寧に死化粧を施された

 バルトロ伯爵の生首と、

 帝国の将軍の首が鎮座している。


 その横では、

 猿ぐつわを外された

 帝国の第三皇子ルーカスが、

 借りてきた猫のように

 小さく縮こまって震えていた。


「……約束の品です」


 俺が告げると、

 ガンディア領主は

 ハンカチで額の脂汗を拭いながら、

 何度も深く頷いた。


「み、見事だ……。

 これほどの戦果、

 国軍一個師団を動員しても

 不可能だったでしょうな」


 領主の視線が、

 俺の後ろに控えている

 シキやミケ、

 そして窓の外に見える

 M16対空自走砲の影に

 怯えたように向く。


 無理もない。

 彼らにとって俺たちは、

 毒にも薬にもなる「劇薬」だ。

 扱いを間違えれば、

 次は自分がこのテーブルに

 並ぶことになると思っているんだろう。


「して、マツシタ殿。

 この多大なる功績に対し、

 国王陛下より

 勅命が届いております」


 領主が一枚の羊皮紙を広げた。

 そこには、

 仰々しい王家の紋章と署名がある。


「隣のバルトロ伯爵領。

 これを貴殿に譲渡する、と。

 ……つまり、

 貴殿に『伯爵』として

 あの土地を治めていただきたい」


「は……はいぃ!?」


 俺は思わず、

 素っ頓狂な声を上げてしまった。


 は、伯爵?

 俺が?

 ただの大学生崩れで、

 今はしがない行商人の俺が?


「いやいやいや!

 無理ですって!

 俺、政治とか全然分からないし、

 税金の計算とかもっと無理だし!」


 俺が慌てて手を振ると、

 領主の表情がスッと冷たくなった。


「……マツシタ殿。

 これは『提案』ではありません。

 『勅命』です」


 領主の声色が一段低くなる。


「国としては、

 君たちのような強力な武力を

 野放しにはできないのです。

 体制側に付いて

 その力を国の為に使っていただくか、

 それとも……

 『反逆者』として

 国軍総出で排除されるか。

 ……二つに一つです」


 脅しだ。

 完全に脅迫じゃないか。


 俺は頭を抱えた。

 ここで断れば、

 せっかく守ったこの街とも敵対し、

 一生追われる身になる。

 せっかく手に入れた

 「平穏な旅」が台無しだ。


 でも、領主なんてやったら、

 それこそ書類仕事と

 面倒な付き合いで

 一生縛られることになる。

 そんなの、

 ブラック企業よりタチが悪い!


 俺が脂汗をかいて悩んでいると、

 隣のニナが小声で囁いた。


「……ねえ、ブンペイ。

 受けちゃえば?」


「えっ?

 ニナ、正気かよ?」


「名前だけでいいのよ。

 『伯爵』の身分があれば、

 どの国へ行っても

 通行手形はフリーパスになるわ。

 怪しまれずに商売もできるし、

 検問で止められることもない。

 ……旅をするには、

 最強のパスポートじゃない?」


 あ。

 なるほど。

 その発想はなかった。


 確かに、

 「怪しい武装集団」として旅するより、

 「マツシタ伯爵ご一行様」の方が、

 圧倒的に楽だ。

 温泉宿だって、

 VIP待遇で泊まれるかもしれない。


 問題は「実務」だ。

 誰がやるんだ、その面倒な仕事を。


 俺はチラリと後ろを見た。

 そこには、

 元貴族令嬢のアリスがいる。


 彼女なら、

 領地経営のノウハウもあるし、

 適任なんじゃないか?

 よし、ここは土下座してでも頼もう。


「……分かりました。

 受けます。

 伯爵でも何でもやってやりますよ」


 俺はヤケクソ気味に

 書類にサインをした。

 これで今日から俺は

 「マツシタ伯爵」だ。

 実感なんてこれっぽっちもないけど。


「賢明なご判断です」


 領主が安堵の息を漏らす。


「で、相談なんですが……

 俺たちは旅を続けたいんです。

 一箇所に留まるのは、

 性に合わないというか……

 ぶっちゃけ、

 温泉に行きたいんです」


「はぁ……温泉、ですか?」


「ええ。

 なので、領地の実務は

 代理の者に任せてもいいですよね?」


 俺は振り返り、

 アリスに両手を合わせた。


「アリス!頼む!

 お前、元貴族だし詳しいだろ?

 ここを拠点にして、

 留守番お願いできないか?

 給料は弾むから!」


 するとアリスは、

 心底嫌そうな顔で、

 即座に言い放った。


「嫌ですわよ?」


「……はい?」


「なんで私が、

 カビ臭い屋敷に籠もって

 書類仕事しなきゃいけないの?

 私だって疲れてるの!。

 温泉に行くの!。

 絶対に行くの!」


 アリスが腕を組み、

 プイッと横を向く。

 

 ……だよなぁ。

 こいつ、こういう奴だったわ。

 ドローン操作で爪が割れただけで

 不機嫌になるお嬢様だもんな。

 泥臭い仕事なんてするわけない。


 終わった。

 俺の温泉計画、

 これにて終了のお知らせ……。


 俺が項垂れていると、

 アリスの影から

 老執事セバスが音もなく進み出た。


「……旦那様。

 僭越ながら、

 このセバスにお任せ願えませんか?」


「えっ、セバスが?」


 眼鏡の奥の瞳が、

 穏やかに、しかし力強く光る。


「お嬢様には、

 広い世界を見ていただきたいのです。

 それに、

 荒れ果てた領地を立て直すのは、

 執事としての腕が鳴ります。

 ……私の余生の、

 良い暇つぶしになりましょう」


 おお、神よ!

 ここに有能すぎる

 スーパー執事がいた!


「助かります!

 もう全権委任します!

 好きにやってください!」


「畏まりました。

 ……では、助手として

 そちらの若造をお借りします」


 セバスの視線が、

 縮こまっている

 第三皇子ルーカスに向く。


「ひぇっ!?」


「ルーカス殿下。

 腐っても皇族、

 帝王学の基礎はおありでしょう?

 それを無駄にするのは惜しい。

 私がみっちりと、

 実戦形式で

 叩き込んで差し上げましょう」


 セバスがニッコリと微笑む。

 だが、その目は笑っていない。

 完全に「鬼教官」の目だ。


「あ、あの……

 僕の意見は……

 僕も帰りたいんですが……」


「却下します」


 セバスの一言で、

 ルーカスが泡を吹いて倒れた。

 ……合掌。


   ◇


 出発の朝。


 ガンディアの空は、

 抜けるような青空だった。


 「マツシタ伯爵領・代官」となった

 セバスと、

 その下僕……もとい、補佐官の

 ルーカスが見送りに立っていた。


 ルーカスの目の下には、

 一晩でできたとは思えないほど

 濃いクマがある。


「旦那様、お嬢様。

 どうぞ良い旅を。

 こちらのことはご心配なく。

 ……半年後には、

 黒字化してみせますので」


「頼もしいなぁ。

 お土産、期待しててよ」


「た、助けてぇ……

 連れて行ってぇ……

 この爺さん、悪魔だよぉ……」


 ルーカスの悲痛な叫びは、

 高機動車のエンジン音にかき消された。

 

 後部には、

 ニナ、サン、シキ、ミケ、ゴロネ、

 レオナ、ニナ、そしてアリス。

 全員揃っての旅立ちだ。


「さぁーて!

 行くわよー!

 目指せ、美肌の湯!」


 アリスが一番はしゃいでいる。

 昨日までのクールな態度はどこへやら、

 完全に観光気分だ。


「次は西ね。

 火山と温泉の国まで、

 およそ三日の道のりよ」


 フィリアが淡々と

 ナビゲートする。


 俺はハンドルを握り直し、

 アクセルを踏み込んだ。


 面倒ごとは全部、

 有能な執事に丸投げした。

 手元にあるのは、

 「伯爵」という便利な肩書きと、

 莫大な活動資金。

 そして、頼れる素敵な家族たち。


 これからの旅は、

 もっと騒がしくなりそうだ。


「……ま、悪くないか」


 俺の呟きは、

 風に流れて消えた。

 

 マツシタ伯爵(名ばかり)と

 その愉快なハーレム軍団は、

 砂塵を上げて西へと走り出した。


 俺たちの旅は、

 まだまだ終わらない。


 (ガンディア編・完)

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