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事故死したので異世界に転移しますが、管理者のミスなのでアメリカの店ごと持っていくことにしました  作者: だい


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第56話:軍靴の響きと、鉛色の空

マツシタ塾の卒業式から、

 数週間が過ぎた。

 

 子供たちがそれぞれの場所で

 奮闘している報告を聞き、

 屋敷には穏やかな風が

 吹いているはずだった。


 だが、ガンディアの空気は、

 急速に冷え込み始めていた。


「……ブンペイ。

 市場の様子が変だにゃ」


 朝の偵察から戻ったミケが、

 いつになく険しい顔で

 報告に来た。

 彼女の黄金の瞳には、

 警戒の色が濃く滲んでいる。


「隣の領地……

 バルトロ領がきな臭いって、

 商人の間で噂になってるにゃ。

 なんでも、

 国境を接する『帝国』と

 裏で手を組んだらしいって」


 俺は持っていた

 コーヒーカップを置いた。

 

「……侵攻の準備、か?」


「論理的に推測すれば、

 港町であるこのガンディアは

 真っ先に狙われる拠点よ」


 シキが広げた地図の上で、

 赤い駒を動かす。

 

「王都もそれを察知したみたい。

 ……街を見てごらんなさい」


 俺たちはテラスに出た。

 

 普段なら活気に満ちた

 メインストリートを、

 我が物顔で歩く集団がいた。

 

 この街の警備隊じゃない。

 鈍く光る鎧に、

 統一された軍旗。

 王都から派遣された「国軍」と、

 近隣の領主たちからなる

 「混成駐留軍」だ。


   ◇


 午後、俺はミケを連れて

 街へ降りた。

 

 雰囲気は一変していた。

 露店商たちは

 客を呼び込む声を潜め、

 道行く市民は

 軍人たちの姿を見ると

 怯えたように道を空ける。


「おい、そこどけ!」

「邪魔だ、平民どもが」


 馬に乗った騎士が、

 荷車を引く老婆を

 鞭で威嚇する。

 

 俺は思わず駆け寄ろうとしたが、

 ミケに袖を掴まれた。


「……ダメだにゃ。

 今、目をつけられたら

 屋敷のみんなが危険だにゃ」


 俺は奥歯を噛み締め、

 その場を耐えた。

 

 彼らは「守る」ために来たはずだ。

 だがその態度は、

 まるで「占領軍」のようだった。


「……マツシタさん」


 声をかけてきたのは、

 マツシタ塾の卒業生で、

 果物屋に見習いに入った

 獣人の少女、リリだった。

 

 彼女は不安そうに、

 怯えた耳を伏せている。


「お店の親方さんが言ってた。

 軍の人たちが、

 商品を勝手に持っていくって。

 『徴発』だとか言って、

 お金も払ってくれないの……」


 リリの言葉に、

 俺の中で冷たい怒りが湧いた。

 

 商売のルールも、

 人の尊厳も無視する連中。

 それが、今のこの街の

 「正義」になりつつある。


「……リリ。無理はするなよ。

 何かあったら、

 すぐに屋敷に逃げてこい」


「うん……ありがとう、オーナー」


 リリは少しだけ笑って、

 店へと戻っていった。

 その小さな背中が、

 人混みの中に消えていく。


   ◇


 その夜、屋敷のリビングは

 重苦しい空気に包まれていた。


「……フィリア。

 屋敷の防衛システム、

 レベルを上げられるか?」


「ええ。

 ボブ爺の遺産を使えば、

 この屋敷を要塞化することは可能よ。

 ……でも、ブンペイ。

 街全体を守ることはできないわ」


 分かっている。

 俺たちは「国家」じゃない。

 ただの、金持ちの一般市民だ。

 軍隊相手に喧嘩を売れば、

 ただでは済まない。


「……今は、静観するしかない。

 だが、マツシタ家の人間と、

 関わりのある人たちに

 手を出したら……」


 俺は言葉を飲み込んだ。

 

 窓の外では、

 駐留軍のかがり火が

 不気味に赤く揺れている。

 

 平和な日常が、

 音を立てて崩れていく予感。

 それが、ただの杞憂で

 終わってくれればよかった。


 だが、運命は

 残酷なほどに冷徹だった。

 

 俺たちが守りたかった

 小さな「希望」が、

 軍靴の下で踏みにじられる瞬間が、

 刻一刻と迫っていたのだ。

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